表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
426/462

緊急警告通信

【地球アラスカ上空の衛星軌道上 地球連合防衛軍 衛星軌道艦隊任務部隊】


 航空・宇宙自衛隊多目的護衛艦『そうりゅう』は、本来であればユニオンシティ防衛軍宇宙空母『サラトガ』と東アジア上空の未確認飛行物体の調査を行う筈だった。


 だが、理由不明の事情によりサラトガと随伴する巡洋艦が急遽先行した挙句、目標宙域において不審な飛行物体の攻撃で大破、撤退する事態となっていた。


 火星市ヶ谷の防衛省は『そうりゅう』単独の調査では危険が大きいと判断、ラグランジュポイントで補給中だった英国連邦極東軍多目的巡洋戦艦『ケルト』と統合任務部隊を結成して東アジア上空へ向かう命令を下したのだった。


 この任務部隊は東アジア上空の不審な飛行物体の調査のほか、先刻旧ロシア連邦ツングースカで起きた巨大爆発の調査を行う事になっている。


「間もなく東アジア上空に到達します。航行レーダー問題なし、進路オールグリーン。『ケルト』とのデータリンクは正常」

「本艦は既にサラトガが襲撃された位置に到達している。各員厳重警戒。零7式を出せ」

航海士の報告を受けた艦長が偵察機の発艦を指示する。


「アイ艦長。後部ハッチ開放、零7式発進許可する。コードネームはアストロホークだ」

『了解。アストロホーク1発進する』『アストロホーク2、発艦準備準備完了』


 そうりゅうの後部甲板が観音開きで解放されると、固定具を外された三菱零7式宇宙戦闘機が次々と水素エンジンの青白い噴射炎と共にそうりゅうから発艦していく。


 第3次世界大戦前まで英国連邦・イタリア・日本が共同開発していた第5世代戦闘機(心神)を宇宙仕様に発展改良(魔改造とも言う)したのが三菱零7式宇宙戦闘機である。改良者の一人に大月瑠奈が含まれているのは別の話である。


 そうりゅうから発進した三菱零7式宇宙戦闘機は二手に分かれてユーラシア大陸中央と東シナ海上空から高感度センサーを作動させて周辺宙域を調査していく。


「宙域調査開始。予定宙域調査完了5パーセント」

「サラトガを攻撃した飛行体は既に此処を離れているんじゃないか?」

戦術士官の報告に呟く艦長。


「艦長、アストロホークから無線通信」

「このままスピーカーに繋げ」

通信士に応える艦長。


「こちらアストロホーク1。旧中国東北部上空に異常な電磁場を検知!何か居るぞ!」

「アストロホーク2。こちらも旧中国四川省上空に異常な電磁場を検知した!」


緊張したパイロットの声音が艦橋に響く。


「情報士官。レーダー探知は?」

「それぞれの宙域で衛星と思われる物体を探知。地球連合防衛軍データベースから照合します」

艦長に訊かれた情報士官が応えながら素早く機器を操作していく。


 やがて機器を操作した情報士官が画面を見ながら報告する。


「該当情報あり。ユニオンシティ防衛軍所属KHキーホール型偵察衛星No.22とNo.23です」「僚艦『ケルト』も広域レーダーにKH衛星の存在を確認」


「変ですね」

「どうした戦術士官?」


「2基の指定座標宙域はアフリカ西海岸と地中海東部です。管轄外宙域までどうして?」

艦長の問いに首を捻って答える戦術士官。


「至急、月面都市ユニオンシティの宇宙管制センターに問い合わせろ」


 情報士官に指示した直後、唐突に警報音が鳴り響く。


「電磁パルス攻撃を検知!」「発信位置は!?」「例の衛星です!」


「アストロホークから緊急通信!」「スピーカーに繋げ。しばらく常時接続」


『アストロホーク1からそうりゅうへ!ユニオンシティ衛星から強力な電磁波が地上へ放射されている!』


「……なん、だと」

「旧四川省成都の電波途絶。沈黙」「ハルピンで任務中の陸自第7師団とのデータ通信途絶!」


 愕然とする艦長に通信士と情報士官が報告する。


「地上ではイスラエル連邦軍が攻撃作戦を行っています。もしや陸自が攻撃を受けたのでは……」

「断定するな!ケルトと手分けして情報を集めるんだ。マルス通信システムを使って呼び掛けろ!」


 慌ただしさを増していく艦橋に偵察機からの通信が再び届く。


『アストロホーク1。シベリア中央部で異常磁場を探知。位置は――――――ツングースカ』


「中国上空で忙しいのに手に余るな……。情報士官、ユニオンシティの回答は?」

「まだです。至急扱いでやっていますが、返答ありません」


「情報士官。ここまでの情報を火星市ヶ谷へ至急電で伝えろ。アストロホークに伝達、盗聴防止のため以後はマルス通信システムを使え。ユニオンシティ管制のバックアップは使うな。

 ……月面都市ユニオンシティがグルだとは思えんが、イスラエル連邦の関連は注意した方がいいかもしれん。僚艦ケルトにデータ通信回線の変更を伝えてくれ」


 矢継ぎ早に指示していく艦長。


「情報士官はハルピンに居る陸自との通信確立を急げ。戦術士官はKH衛星の行動を逐一報告せよ。CICは宙域警戒を怠るな」


  騒然としていく艦橋の中で、冷汗の滲む額を拭いもせずに状況把握に集中するそうりゅう艦長だった。


          ☨          ☨          ☨


【旧ロシア連邦クラスノヤルスク地方 多目的船『ディアナ号』】


 衛星軌道上で任務部隊が異常事態に混乱する中、ディアナ号のセンサーも異変を察知していた。


「……不味い。地球磁場の急激変動。衛星軌道上で急激な臨界反応を検知!」

満に答えずに制御卓のデータを調べる美衣子。


「上から来るっ!長っ!シールドっ!」


 マルス通信システムと船外スピーカーを最大出力にして降り注ぐ危険を周囲に知らせようと叫ぶ美衣子。


『姉様!惑星磁力線シールド最大出力展開中よ』

研究室にいる結が操舵室から報告する。


『攻撃するっスか?』

格納庫で何故か自作パワードスーツに搭乗している美衣子が問う。


「……攻撃は不要よ瑠奈。じきに電磁波攻撃は止むわ――――――こんな出力で臨界すると宇宙放射線に晒されている機体が持たないわ。特大の核爆発が起こるわ」

「あら大変!皆に報せないと!。緊急警告通信『電磁波攻撃あり。特大核爆発発生間近』、宛先メーリングリスト全員オール。よしっ!」


 引き攣った顔で答える美衣子に慌てたひかりが、今まで登録していた関係者全員宛に緊急警告通信を送信する。



――――――【第12都市『氷城』中心部 航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』】


 大脱出作戦エグゾダスで多忙を極めていた作戦指令室を兼ねた艦橋に美衣子の警告を告げる声が響いたあと、ひかりからの緊急警告通信がホワイトピースにも届く。


「艦長!惑星磁力線シールドが自動展開しました」「電磁波攻撃だって!?それに特大核爆発!?」「……今の声は鬼軍曹閣下!?」


 困惑する艦橋の隊員達だが、数年前の就役時の習熟訓練で鬼軍曹閣下を自称するトカゲ娘に扱かれた記憶を忘れていない者もいる。


「こちら艦長。総員落ち着け。状況把握せよ。逐次報告!」

ピンマイクで艦内放送する名取艦長。


「通信センサー異常、衛星軌道艦隊とのデータ通信途絶。火星市ヶ谷への衛星通信出来ません!」「第12都市内に展開している陸自との通信は可能」『CIC。戦域索敵レーダー、射撃管制レーダーはブラックアウト。誘導ミサイル、オートでの近接防空システム(CIWS)使えません』『格納庫、パワードスーツ異常なし』『此方旗艦播磨。センサー類にダメージ。何があった!?』

オペレーターと艦内各所、僚艦から次々と艦橋に報告が上がっていく。


「情報参謀、こちらも攻撃を受けたという事だな」

「はい。鬼軍曹閣下が何故此方の状況を知っているのか気になります」


「旗艦播磨の鷹匠准将に繋げ。作戦を見直す必要がある。鬼ぐ―――美衣子嬢の事は後だ。……シールドの自動展開も彼女の仕込みだろう。今は作戦遂行に集中しよう」


 情報参謀に応えながら播磨との通信回線を開くように指示する名取艦長だった。


「『そうりゅう』から緊急。衛星軌道上で核爆発!爆発は2か所。氷城ここと旧四川省成都」


 鷹匠准将との作戦協議中に新たな事態が報告されるのだった。



――――――【第12都市『氷城ハルピン』東部地区 ソールズベリー商会 多目的船『大黒屋丸Ⅱ』】


 住民救出作戦を上空で見守っていたソールズベリー商会一同は、ひかりの緊急警告通信を受信したクリスを中心にすぐ反応した。


「マスター、緊急対処行動として船の操作を頂きます。惑星磁力線シールド展開。出力最大」


 マルス・アンドロイドメイドのクリスが素早く制御卓を操作すると、米俵から噴出した淡い緑色のシールドが大黒屋丸Ⅱを中心に第12都市東側まで展開されていく。


「レディ、そのまま操作よろしく。私は雇い主に緊急連絡を――――――ケビン首相ですか?ソールズベリーです。電磁波攻撃を受けました」

ソールズベリーが惑星間携帯電話でケビン首相に連絡を入れる。


「……ひかりさん。社長と来ていたのかしら?地球に」


 ミツル商事元社員として連絡先を登録していたので岬渚沙の携帯電話にもひかりからの緊急警告通信が届いていた。

 メールを一瞥すると、頭上に展開された大黒屋丸Ⅱの淡い緑のシールを見上げて呟く岬だった。



――――――【第12都市西部地区都市外縁部】


 都市外縁部で警戒監視にあたっていた90式戦車中隊は、接近していた地上部隊の異変に気付いた。


「こちら西部地区外縁。接近中だったイスラエル連邦軍地上部隊先鋒が突然停止した」

『こちら司令部。停止ですか?接近していた部隊が展開したのですか?』

戦車中隊指揮官自らの報告に。口調を改める司令部通信隊員。


「違う。突然停止して以降、一切の動きなし」

『周囲に他の部隊は見えますか?』


「こちらからは先鋒部隊の動きしか分からない。上空を支援する航空機も目視では見当たらない――――――いや、ちょっと待ってくれ。西の空から接近中の何かが……」

『どうしたのですか?何が来ているのですか?』

訝し気な口調で報告する戦車中隊指揮官の声がだんだんと途切れがちになっていく。司令部が聞き返す。


火星そちらのテレビでしか視た事が無いがアレは――――――ジュピタリアンと思われる」

『はい?ジュピタリアンですか?』


「そうだ。こちら西部地区外縁。多数のジュピタリアンが西の方角から急速接近――――――大小様々なジュピタリアンが空を埋め尽くしているぞ!高速で上空を通過して其方へ向かった!」


 今度こそはっきりと明瞭に報告する戦車中隊指揮官だった。



――――――【火星アルテミュア大陸中央部 ウラニクス湖畔】


 木星のジュピタリアン達に追随するディアナ号を下船した岩崎総理大臣は、ウラニクス湖畔のユーロピア共和国軍守備隊の基地でジュピタリアンの対応にあたっていたジャンヌ首相と情報交換を行っていた。


「おかえりなさいムッシュ岩崎。日本の首相は慎重な人が多いと思っていたけれど、木星に乗り込むなんて貴方はアクティブね。私も見習いたいわ!」

「いえいえ!前任の澁澤に比べればまだまだですよ」


 目を輝かせて称賛するジャンヌ首相に謙遜する岩崎首相。ジャンヌの後ろに控えるクロエ・シモン首相補佐官が頭を抱えている。


「それで、地球へ行ったジュピタリアンが戻って来たら自炊?を教えるのね」

「その予定です。あの数を日本列島で受け入れる事は不可能ですから」


「自炊の件はマドモアゼルひかりから直接聞いたわ。我が国は国策として自炊に協力します。

ところで、ジュピタリアンが戻って来るのは木星よね?」

「その筈です。流石に自分の故郷を間違えることはないでしょうから」


「取り急ぎ、此方も木星むこうへ渡ったパワードスーツ部隊が居るから其方へフランス料理のレシピを送るわね。ムッシュ岩崎には木星原材料の分析結果をこちらにも教えて欲しいわ。じゃないとレシピも作れ


「分かりました。国立感染症研究所(NIID)のデータを送ります-------んん?失礼します首相」「あれれ?私も何か入ったみたい」


 ジャンヌと話し中だったが、岩崎とジャンヌの惑星間携帯電話が振動する。


「ひかり……。一体何をやらかしたのかしら?」

惑星間携帯電話が受信したメールを読んだジャンヌが呆れた様に嘆息する。


「地球には、やらかす人が沢山いると思いますが」

肩を竦める岩崎。


「兎に角、今は自炊推進の準備を急ぎますので東京へ戻ります。この状況だとジュピタリアンが戻るまでの時間は少ないでしょうから」

「そうね。基地うち戦闘機ラファール使う?」


 気持ちを引き締めて東京へ戻ろうとする岩崎に戦闘機を気軽に勧めるジャンヌの申し出は、丁重に断られるのだった。


「……速いのに。時は金なりとも言うのでしょ?」

「気軽に戦闘機を操る首脳は、映画の主人公を除けば貴女ぐらいでしょ」


 首を傾げるジャンヌに突っ込むクロエ首相補佐官だった。


          ☨          ☨          ☨


――――――【火星日本列島 東京都渋谷区 NHKスタジオパーク第1スタジオ】


「アルテミュア大陸縦断グルメ番組も一巡したし、新しいトレンドを見つけ出さないと……」


 収録を終えた番組の録画を見直しながら、超人気番組『ミーコ&ムスビ』(※第50話参照)を制作したディレクターが机に頬杖をついて呟く。

 異星人マルス・アカデミートーク番組という人類史上初めてとなる番組作りから4年が過ぎたが、未だにアレを超える番組はないと自負するディレクター。


「次は木星―――ジュピタリアンか。水素クラゲはトーク出来るかな?道頓堀の喰い倒れグルメには興味ありそうだったけど……」


 スタジオの天井を仰いで思案するディレクターの携帯電話が振動してメールの着信を告げる。


「んんっ?これって――――――っ!?」


 かつて美衣子の保護者役として出演した西野ひかり(当時)からの緊急警告通信メールを読んで仰天するディレクターは慌てて報道局長のデスクまで駆けていくのだった。


2027年(令和9年)5月7日正午【全国のNHKニュース】


『今入った情報によりますと、地球で大規模な電磁波攻撃と核爆発が起こった模様です。政府が情報の確認を急いでいます。詳細が入り次第お伝えしてまいります。

 繰り返します――――――地球で大規模な電磁波攻撃と核爆発が――――――』


 抑えた口調で冷静に原稿を読み上げて言うアナウンサーだったが、常日頃から視聴率の高い正午の全国ニュースで伝えられた衝撃的なニュースに日本国民の不安は急激に高まっていくのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m

次話は10月6日(日曜日)投稿予定です。


【このお話の登場人物】

・大月満=ミツル商事社長。

・大月ひかり=満の妻。ミツル商事副社長。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス・アカデミー・尖山基地管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・ソールズベリー=英国連邦極東企業『ソールズベリー・カンパニー』商会長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・アンドロイド。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・クロエ・シモン=ユーロピア共和国首相補佐官。妹のジャンヌ・シモンはユーロピア共和国首相。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・岩崎 政宗=日本国内閣総理大臣。

・名取=航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』艦長。太佐。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ