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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
424/462

シュバリエ

【火星アルテミュア大陸中央部 ウラニクス湖畔】


 ジュピタリアン長と地球氷城ハルピンの珍味53号との意思疎通トラブルにより、意気揚々と木星大赤斑の異相空間ゲートを通過したジュピタリアンは前触れなく火星アルテミュア大陸中央部に出現した。


「ニューガリア司令部!こちらウラニクス守備隊。多数のジュピタリアンがウラニクス湖に出現した!応援を乞う!」


 ウラニクス湖畔に在るユーロピア共和国軍ウラニクス守備隊の基地から緊急通信が首都ニューガリアへ発信される。


『アラン大佐!司令部は何て言っているんです?』

「シャルル少佐、司令部が言うにはあのジュピタリアンは地球へ行く予定だったそうだ。想定外の事態が起きたらしい。ジャンヌ首相自ら駆け付けるそうだ」


 基地の傍に在るウラニクス山の尾根から湖を監視しているシャルル少佐からの問いに答える基地司令のアラン大佐。

 本来この基地は、先日発表された木星への流通拠点を建設する作業員と施設を火星原住生物から守る為に配置されていた。


 シャルル少佐が今現在も撮影している無数のジュピタリアンへの対応は想定していなかった。


「何という事だ……」

『こちらラ・セーヌ飛行中隊所属ジャンヌ・シモン少佐。アラン大佐、間もなく其方へ到着するわ。滑走路を空けておいてね!』


 茫然としていたアラン大佐に、目の前の通信機からジャンヌ首相の声が響く。


「っ!応援感謝します首相閣下。滑走路上に支障物無し、ランディングOKであります」

『そう。ありがと大佐。着いたら直ぐに湖畔に向かうから例のスーツと護衛をよろしく』


 我に返ったアラン大佐に指示を出していくジャンヌ首相。

 ジャンヌ首相との通信を終えた後、直ぐにシャルル少佐に新たな命令を下すアラン大佐。


「シャルル少佐。其方の監視は他の小隊に引き継いで戻ってくれ。君の小隊はジャンヌ首相の護衛だ」

『ヒュー!お嬢閣下の護衛とは光栄です』


「下手な口笛と首相閣下への無礼は止めたまえ。それより、例のスーツも準備しておくようにとの命令だ。初出陣だな」

『単なる護衛ですよ。戦闘は無いでしょう?』


「油断するな。火星ここに来る前も、来てからも我々は想定外の事ばかりだっただろうに……。少佐、今からウラニクス基地は臨戦態勢に移行する。装備できる武器モノは全て持っていけ!」

『ありがとうございます!シャルル少佐は特殊機動小隊を率いてジャンヌ首相警護任務につきます!』


「幸運を祈る」


 地球での第三次世界大戦と大変動、ヨーロッパ救出作戦を経て火星アルテミュア大陸裏人類都市での巨大ワニ攻防戦と死線を潜り抜けてきた外人部隊所属の二人は軽口を交わしながら状況への対処に臨むのであった。


 15分後、ジャンヌ・シモン首相操るラファール戦闘機が着陸すると、待機していたパワードスーツを装着した外人特殊機動部隊が戦闘機から飛び降りたジャンヌ首相をそのまま用意していたパワードスーツへ案内する。


 ひょんなことから友人となった大月瑠奈からパワードスーツ装備一式と技術仕様をお友達価格で譲り受けたジャンヌは、それらを極秘軍事情報に指定してウラニクス郊外の基地で開発及び実証試験を行っていた。


 実証試験を終えたばかりのユーロピア共和国軍パワードスーツ『シュバリエ』51機は、ジャンヌ首相とシャルル中尉率いる外人特殊機動小隊によって怪しい紫色に輝き続けるウラニクス湖へ急行するのだった。


「マドモアゼル瑠奈への恩返し第一弾ね!」


 背中に装着した小型水素エンジンの出力を上げて速度を上げたジャンヌ首相のパワードスーツ『シュバリエ』は、慌てて追随するシャルル少佐率いる外人部隊を引き連れるように湖畔へ向けて文字通り飛ぶように移動していくのだった。


          ☨          ☨          ☨


【火星日本列島 長崎県佐世保市ハウステンボス区ニュー・ダウニングタウン1番街 英国連邦極東首相官邸】


 英国連邦極東首相ケビンの執務室に在る液晶ディスプレイは、日本のNHKニュース速報を映していた。

 怪しい紫色に輝くウラニクス湖から大小様々なジュピタリアンが出現して周辺へと拡がっていく。


『私は現在、ウラニクス上空の旅客機の中から乗務員の了承を得てこの光景を撮影しています。私の携帯端末から撮影しているため、時々画面が乱れてしまうことをご了承ください』


 ジュピタリアンを映す画面がぎこちなくズームしていくと、湖の畔にある建設中と思われる工場に避難した住民が立て籠もっているのか、湖から溢れ出るジュピタリアンに幾重にも囲まれて孤立している様に見える。


『この飛行機がウラニクス空港への着陸態勢に入った直後、空港当局から空港閉鎖が告げられました。機長のアナウンスによると、この飛行機は800km離れたニューガリア空港へと行き先が変更になりました』


 執務机からディスプレイを眺めながら葉巻に火をつけて一服したケビン首相は、駆け付けたMI6長官の報告を受ける。


「此処へ来る直前にニューガリアのユーロピア共和国首相官邸から第一報がありました。ジュピタリアン側が異相空間の出口を間違えた模様、との事です」

「なんだそれは」


 MI6長官の報告に呆れた様に紫煙をぷっと吐き出すケビン首相。


「いや待て。出口を、間違えた?」

怪訝な顔のケビン。


「本来は日本へ行くつもりだったのでしょうか?」

「ジュピタリアンは海鮮丼がお好みらしい。その為に料理旅館ごと木星まで転移させたからな」


 MCDA(火星通商防衛協定)首脳間の火星軍事情報包括保護協定(MGSOMIA)」で得た情報を基に推測するケビン。


「あの数が日本列島に来てみろ。この前の巨大ワーム首都圏襲来以上の混乱が日本で起こりかねん」

「日本の総合商社角紅ルートによると、岩崎首相と大月満をはじめとする一家がウラニクス湖へ向かったとの情報があります」


「それだ!何らかの手段でミスター大月達は木星へ行ったのだろう。それでジュピタリアンが来た」

「では、ジュピタリアンが大挙して火星こちら側へ来たという事は木星むこうで何かが起こった事になります」


「情報が足りないな……こんな時にソールズベリーを地球へ向かわせたのは悪手だったか……」

天井を仰ぐケビン。


「いや違うな……。至急ソールズベリー商会に状況を問い合わせろ。大脱出エグゾダス作戦と関連があるかもしれん」


 思い直したケビン首相がMI6長官に指示する。


 MI6長官が首相執務室を出ていった直後、ディスプレイから驚きの声が上がる。


『今、ウラニクス湖畔に新たな動きがありました。ウラニクス湖畔から無造作に周辺地域へ溢れ出していたジュピタリアンが湖を周回する様に動いています。此方から見ると、まるで巨大な渦の様です』


 水素クラゲや水素クジラ等大小様々なジュピタリアンが何かに導かれるかの如く規則正しく湖を周る動きに同調していく。


『こちら東京渋谷のスタジオです。首相官邸から発表がありました。防衛省によると地球派遣群の航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』内にジュピタリアンが発見されました。このジュピタリアンは木星のジュピタリアンと連絡を取っていたようだ、との事です』


 ディスプレイに映るNHkの音声と画面が慌ただしく入れ替わり、今度は地上を高速走行している画面に切り替わる。画面に現れる色とりどりの水素クラゲや水素クジラが画面の右から左へ直ぐに流れて消えていく。

 やがて画面は後方カメラに切り替わったのか、水素クラゲや水素クジラがカメラを追いかけるように向かっている。 


『――――――大変失礼いたしました。この中継映像は、現地ウラニクスからユーロピア共和国首相官邸を経由して送られています。これからユーロピア共和国首相府の発表が始まります』


 中継映像の右側がニューガリアの首相府に切り替わって、報道官としてクロエ・シモン首相補佐官が登場する。


『現在ネオ・ウラニクス郊外のウラニクス湖で起きている状況について、首相のジャンヌ・シモンが現地で直接ジュピタリアンの代表と接触して確認いたしました。

 首相によると、ジュピタリアンのウラニクス湖出現は異相空間の設定不具合が原因との事でした。現在異相空間の再設定を行っており、再設定が終わり次第、ジュピタリアンは此処から移動するとの事です。発表は以上です。質問が有れば1社だけ受け付けます』


 音声だけだが直ぐにマスコミが一斉に声を上げる。


『では――――――月面ユニオンシティCNNの方どうぞ』

『月面ユニオンシティCNNのグレッグです。ジュピタリアンは何処へ行くのでしょうか?あの様な化け物が突然現れると何処でもパニックになるでしょう。我々地球人類は警戒しなければ――――――』


『馬鹿じゃない貴方?』


 グレッグ記者の言葉を遮るように声が割って入る。画面右側のクロエ首相補佐官の口は閉じたままである。


『貴方、ジュピタリアンは海鮮丼や中華料理が大好物なのよ?フランス料理が知られていないのが残念だけどね。私たち人類の食文化に興味と好意を持つ相手を化け物呼ばわりなんて、リスペクトもエレガントの欠片もないわね!』


 画面外の声は続いている。


『このジャンヌが直接確認したのよ!?ジュピタリアンの目的はあくまでもグルメよ。地球人類を害してまで食料を奪ったりしないわ。

 ジュピタリアンのグルメ欲求を叶えるために私たちはこれから行動しなければならないの。こんな所で足を引っ張らないで!』


 ぴしゃりとグレッグ記者を叱責すると現地の中継画像と画面外の音声が途切れる。


『……ジャンヌが失礼いたしました。MCDA加盟国の一員であるユーロピア共和国はジュピタリアンとの友好を望んでおります。会見は以上です』


 少しだけ気まずい顔をしたクロエが頭を下げると会見が終了する。

 NHKの中継画面も終わり、渋谷のスタジオに切り替わる。


『春日内閣官房長官からも、ジュピタリアンとの友好を望み、双方が満足できる結果を出すべく関係各国と緊密に連絡を取り合っている、とのコメントが入りました』

アナウンサーが首相官邸のコメントを読み上げる。



「……時間差は多少あるが、緊密ではあるな」


 たった今、携帯タブレット端末に日本国首相官邸と大月満からのメッセージが入り、内容を見て呟くケビン首相。


 メッセージの内容は、

 ”ジュピタリアンの協力により、間もなく大脱出エグゾダス作戦が発動する”


 だった。

 

          ☨          ☨          ☨


 億単位のジュピタリアンから放出された荷電粒子による”後押し”と太陽系最大の惑星である木星の遠心力スイングバイで更に加速された水と氷の塊の人工彗星は、光速に近い速度であっという間に地球に到達した。



2027年(令和9年)5月7日午前5時【地球ユーラシア大陸北部 旧ロシア連邦 クラスノヤルスク地方ツングースカ 上空】


 直径50m水と氷の核を持つ彗星は、秒速1200mの猛スピードで地球大気圏と接触、高速衝突による断熱圧縮効果で彗星は地上へ到達する前に巨大爆発を起こして四散した。


 この巨大爆発で半径50Kmの地上が炎に包まれ、東京首都圏に匹敵する地域に存在する樹木や構造物が猛烈な衝撃波で吹き飛ばされた。

 この地域に生存していた動物は大変動後に繫殖した火星原住生物に襲われて絶滅しており、人的被害がゼロと言えるのが不幸中の幸いとも言える。


 欧州英国ニューグラスゴー基地の気象観測センサーは、巨大爆発の衝撃波が地球を3周した事を観測した。


 118年ぶりとなる”ツングースカ巨大爆発”による爆炎は大気圏高層まで到達し、明るく輝く夜空が北米大陸アラスカからユーラシア大陸西端の欧州英国までの幅広い地域で観測された。


 極東の人工日本列島タカマガハラでも、遠雷の如く響く轟音と空震が人工富士頂上の気象観測装置に観測されている。



 そして、この巨大爆発で得た莫大なエネルギーを使い、珍味53号と今度こそ意思疎通を果たして異相空間を出現させたチューブワームの長は、火星ウラニクス湖畔で日本列島グルメツアー待ちをしていた5億6000万体のジュピタリアンを率いて地球に降臨するのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・クロエ・シモン=ユーロピア共和国首相補佐官。妹のジャンヌ・シモンはユーロピア共和国首相。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・ケビン=英国連邦極東首相。

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