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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
423/462

邪道と真理

【地球東アジア 旧中華人民共和国黒龍江省『人類統合第12都市氷城ハルピン』】


 航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』は、第12都市住民を救出する作戦名”大脱出エグゾダス”の司令部として第12都市中心部のピラミッド前の広場に着陸していた。


「輸送艦『おおすみ128』住民収容完了。離陸を求める」

『此方ホワイトピース。離陸を許可する。貴艦の待機位置はデータ送信した』


「おおすみ128了解。離陸する」


 甲高い轟音と共に水素エンジンを逆噴射すると、青白い噴射炎を地面に向けてシェフィールド級空中輸送艦が垂直上昇していく。 


 ホワイトピースの周辺にはシェフィールド級空中輸送艦が着陸しており、第12都市住民を積載量一杯まで収容次第、離陸して上空で都市を警護している空中艦隊に合流して待機している。


 離陸したシェフィールド級空中輸送艦のすぐ後には、別の新たな輸送艦が着陸して舷側ハッチを開放して輸送トラックが運んできた都市住民の冷凍睡眠カプセルを次々と収容していく。


 都市内の各避難施設で冷凍睡眠カプセルに収まった住民を、陸上自衛隊第7師団の隊員が慎重に輸送トラックまで運搬している。

 輸送トラックは避難施設とシェフィールド級空中輸送艦の間をピストン輸送で冷凍睡眠状態の都市住民を収容し続けている。


 先程からは後続していた移動都市人類統合第2都市『バンデンバーグ』が到着、応援要員として第2都市防衛軍の兵士が自衛隊員と共に収容作業を行っていた。


 

「収容作業の進捗はどうなっている?」

ホワイトピースの艦橋から上昇していくシェフィールド級空中輸送艦を眺めながら名取艦長が作戦参謀に尋ねる。


「今の『おおすみ128』で丁度15%といったところです。概ね予定通りですが、バンデンバーグ防衛軍の応援で作業進捗は加速していくと思われます」

タブレット端末で作業状況を確認した作戦参謀が答える。


「ありがたい。だが、イスラエル連邦軍の一時停戦が何時終わるか予断を許さない状況だ。最悪の場合は我々自衛隊が住民を護衛しなければならん。作業進捗を着実にするのだ。各員一層奮励努力せよ!」


 艦橋で配置につく全員に聞こえるように訓示する名取艦長であった。



――――――【ホワイトピース格納庫】


 第7師団に先行して黄少佐と接触して作戦内容を得た高瀬中佐とソフィー大尉は、ホワイトピースに帰還していた。


 サキモリと21式のコックピットから降りた二人はパワードスーツの整備に駆け付けた整備隊員の邪魔をしない様に格納庫の片隅に移動する。


「ソフィー大尉。イスラエル連邦軍の一時停戦が何時終わるか分からない。今のうちに食事を摂っておこう」

「了解、中佐殿。……って貴方まだ居たの?」

高瀬中佐に応えたあと背後の気配にギョッとして振り返ると、ふよふよと淡いブルーの水素クラゲが空中を漂っていた。


「えっと貴方は確か……」『珍味53号ですの』

珍しい水素クラゲの名前をど忘れして言いよどんでいると、サキモリAIのパナ子がフォローする。


 名前を言い当てられて嬉しかったのか、淡いブルーのクラゲの傘にほんのりと赤みが差す。触手もうねうねと傘の辺りで先端がキュッと丸まっている。


「……で?何の用かしら?」


 首を傾げるソフィーに、珍味53号が触手をソフィーが手に持っていたランチBOXに向けてワキワキと動かす。


「ははーん。コレが欲しいのね?でも今回は駄目よ。なぜなら今日のお昼は大好物の唐揚げ定食だから」

ランチBOXを水素クラゲから守るように抱きしめるソフィー。


「仕方ないな。おい珍味53号、俺のケン〇ッキー・フライド・チキンなら分けてもいいぞ?」

見かねた高瀬中佐がケン〇ッキーの入ったパーティーバーレルを水素クラゲに差し出す。


『ケン〇ッキー要ラナイ。唐揚ゲガイイ』

差し出されたパーティーバーレルをツーンと言わんばかりに触手を反らして拒絶する水素クラゲ珍味53号。


「なっ!?失礼な!カー〇ル・サンダースに謝れっ!」

『ダッテ……骨ガ有ッテ食ベニクイシ、衣ヲ先二食ベタラオ肉ガ味気無イシ……』

激高する高瀬中佐にイヤイヤと理由を告げる珍味53号。


「何を言っている!?骨の周りに付いている肉が旨いのだ!偉い人にはそれがわからんのですよ!」

変なスイッチが入った高瀬中佐の口調が怪しくなっていく。


『ソレデモ、ケンタハ邪道。唐揚ゲコソ真理。異論ハ認メナイ』

「何ですと―!」

毅然と返す珍味53号に高瀬中佐はヒートマップしていく。


「へぇ~。中佐ってこんな一面があるのね。ちょっとだけお可愛いかも……」


 高瀬中佐と水素クラゲから離れたソフィー大尉は、機材の陰に隠れながらもそもそと唐揚げ定食を堪能しながら高瀬の知らなかった一面を垣間見て僅かに心をときめかせるのだった。


 高瀬中佐と珍味53号のケンタ〇ッキー・フライド・チキンをめぐる論戦はソフィー大尉が昼食を終えてカフェオレが飲み終わるまで続くのだった。


『はぁ、ただのケンタマニアですの。……それにしても、今この空間に何か起こった様な?』


 ソフィーのトキめきポイントが理解できずに嘆息するAIパナ子は、僅かな異変に首を傾げるのだった。


          ☨          ☨          ☨


【太陽系第5惑星『木星』大赤斑最深部】


 異相空間ゲートを通過する直前、チューブワームの長は氷城ハルピンに居る水素クラゲ”珍味53号”と思念共有を行い、異相空間出口の座標を固定しようとしていた。


『珍味53号。今カラ其方ヘ行ク。現在位置ノイメージヲ頼ム』

『シバシ待タレヨ。――――――ケンタハ邪道。唐揚ゲコソ真理。異論ハ認メナイ』

チューブワームの長の思念に応えた珍味53号の思念は不可解なものだった。


『???』


 ジュピタリアン達の先頭を切って異相空間に入ったチューブワームの長だったが、思わぬ返答に困惑して動きが止まってしまう。


 だが、チューブワームの長の背後には5億6千万のジュピタリアンが付き従っており、水素クジラや水素クラゲが次々とチューブワームの長に衝突して立往生してしまう。

 衝突の連鎖は異相空間外にも及び、長大な玉突き衝突が発生していた。


(コレハマズイ。取リ敢エズノ場所二行カナイト)


 異相空間内は時空の狭間であり、長時間滞在は過酷な木星環境で育ったジュピタリアンと言えども心身に異常をきたすであろう。


 焦った長は咄嗟の判断で大月家一行が到来した経路を辿ることを選択するのだった。

 

 紫色に輝く巨大な異相空間に詰めかけたジュピタリアンはチューブワームの長の後を追って続々と転移していく。


☨          ☨          ☨


――――――【地球東アジア 哈爾濱西方 イスラエル連邦軍陸上戦艦『ベングリオン』】


『こちらイスラエル連邦空軍エリア・フジ所属特別戦術大隊。間もなく其方へ到着する』

「こちらベングリオン。支援に感謝する。司令部の命令が下るまで上空で待機されたし」


 無人戦闘機パペット中隊が全滅した穴を埋めるため、人工日本列島タカマガハラから飛来した支援戦闘機部隊が到着する。攻略部隊の懸念事項であった制空権確保はこれでクリアーされた。


 イスラエル連邦軍大陸派遣軍は、第12都市の休戦を求める書簡を人工日本列島タカマガハラに送って司令部の回答を待つまで、戦闘を一時停止していた。


「中将閣下。レーザー通信を受信。エリア・フジ総司令部から司令官宛電文です」

通信オペレーターがバーネット中将に電文を渡す。


「……やはり、そうなったか」

電文を一目見て無表情に呟くバーネット中将。


 電文は簡潔だが「休戦は無意味。敵第12都市を殲滅せよ」とニタニエフ首相のサインが入った最終回答だった。


(我がユダヤ民族が地球人類の主導権を得るためには、クローン人間勢力の殲滅が不可欠ということだ)

最終回答の意図を理解するバーネット中将。


「アシュリー中佐、羅大佐を呼び出せ。例の件で回答があった」

「はっ!直ちに」

傍らに控えていたアシュリー中佐に命じると、予期していたとばかりに応えるアシュリー中佐。


(となると、羅大佐の部隊も何処かで――――――)

脳内で最終作戦の微調整をするバーネット中将だった。


――――――【ベングリオン艦橋】


「羅大佐。残念だが司令部の回答は無条件降伏だ。休戦は有り得ないとの事だった」

「……そう、ですか。残念であります……」

バーネット中将の回答に言葉を詰まらせる羅大佐。


「これから残された全部隊で敵第12都市に総攻撃を行う。

 羅大佐の部隊は引き続きその先鋒として、存分に活躍してもらいたい」

「……」


 バーネット中将の命令に無言で敬礼する羅大佐は踵を返して艦橋から退出していく。その背を冷たい視線で見送るバーネット中将とアシュリー中佐。


 羅大佐が完全に艦橋から退出したのを確認したバーネット中将がアシュリー中佐に告げる。


「アシュリー中佐。

 成都人民防衛部隊、アラブ義勇軍を先鋒部隊に、再編成したメルカバ戦車大隊を主力とした攻略部隊を進撃させろ。本艦は現地点で待機。

 先鋒部隊が本艦から200m離れた段階で最終作戦ジェリコを発動する。電磁波照射衛星の照射範囲を微修正。敵都市から本艦東方200mまで範囲拡大」


「中将閣下。200mでは先鋒部隊がリリー波の照射範囲に含まれてしまいますが、よろしいですか?」

アシュリー中佐が確認する。


「中佐。成都人民防衛部隊とアラブ義勇軍は強力な敵都市防衛軍と交戦、奮闘虚しく全滅したのだ」

「了解いたしました」


 無表情に告げるバーネット中将に軽く頷くと、衛星軌道上で待機している電磁波照射衛星の操作をオペレーターに指示するアシュリー中佐だった。


          ☨          ☨          ☨


【火星アルテミュア大陸西海岸 ユーロピア共和国首都ニューガリア 首相官邸】


 総合商社角紅本社の打ち合わせを途中退席したジャンヌ・シモン首相とクロエ・シモン首相補佐官は、先程入手したばかりの情報である”ジュピタリアンの自炊プロジェクト”の検討に入っていた。


「木星の素材で自炊とは、ムッシュ大月も面白い事考えるわね!木星素材のフランス料理ってどうするのかしら?ワクワクするわね!」

「唐突なグルメツアー開放で混乱する日本国内の現状を鑑みると、妥当な策でしょう。

 フランス料理の自炊となると、首相官邸の独身職員に訊くしかないでしょうね」

ワクワクしながら話すジャンヌに肩を竦めて応えるクロエ。


「……無難なところとして、生ハムとフランスパンのバゲットサンドでしょうか?」

「カフェオレも忘れずに付けたいところね」

首を捻りながら思い付きを口にするクロエとジャンヌ。


 実のところ、官舎や官邸の食堂を常時利用している二人には自炊という行為は別次元の話であり、二人の検討は不毛なものかも知れなかった。

 二人を警護するSPは首相執務室の片隅で不動の姿勢で警護しているが、二人の会話を聴いて僅かに肩を震えさせている。


「そうだわ!エスカルゴはどうかしら?あれなら木星に似た種が存在するかも――――――」

ジャンヌが目を輝かして話し出した途中で執務室のモニターが警報ブザーの音と共に自動点灯する。


 自動点灯したモニターは、ウラニクス湖全体が紫色に光り輝く中、巨大なチューブワームや空中を泳ぐクジラと無数の水素クラゲの群れが出現して湖畔を埋め尽くす光景を映していた。


「何よこれ……」


 言葉が続かないジャンヌと呆然とするクロエにウラニクス湖畔を守備する外人部隊から緊急通信が届いたのはそのすぐ後の事だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ソフィー・マクドネル=パワードスーツ『サキモリ』パイロット。ユニオンシティ防衛軍大尉。日本国自衛隊 第零特殊機動団に出向中。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・パナ子=パワードスーツ『サキモリ』機体制御システム担当人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。


・高瀬 翼=日本国自衛隊 統合幕僚監部所属 第零特殊機動団長。階級は中佐。乗機は菱友重工が開発した21型パワードスーツ(H21-PS)。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・クロエ・シモン=ユーロピア共和国首相補佐官。妹のジャンヌ・シモンはユーロピア共和国首相。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・名取=航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』艦長。

・マイケル・バーネット=イスラエル連邦軍陸軍中将。大陸派遣軍司令官。

・アシュリー=イスラエル連邦軍特殊部隊隊長。

・羅=人類統合第11都市『成都』暫定代表。人民防衛部隊司令官も兼務する。大佐。

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