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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
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書簡

2027年(令和9年)5月6日午後10時【イスラエル連邦軍陸上戦艦『ベングリオン』】


 第12都市防衛軍追撃部隊のM1A2エイブラムス戦車とブラッドレー歩兵戦闘車は、イスラエル連邦軍メルカバ戦車大隊が陸上戦艦ベングリオンの主砲射程圏内に到達すると追撃を止め、砲撃を繰り返しつつも第12都市へと戻っていく。


「メルカバ戦車大隊本艦3Km圏内に到達しました」「敵追撃部隊の進撃が停滞……引き返していきます!」


「ふむ……敵の継戦能力は落ちてきたかもしれん」


 ベングリオン艦橋の中央作戦スクリーンに表示された敵味方部隊の状況を見ながら呟くバーネット陸軍中将。


――――――【人類統合第12都市上空5,000m】


 順調に後退していたイスラエル連邦軍メルカバ戦車大隊のはるか上空では、僅かなイスラエル連邦空軍のパペット飛行中隊が、成層圏から飛来したミグ98宇宙戦闘機と交戦状態に突入していた。


 宇宙戦闘機の為大気圏内での機動や武器使用に制限が生じるが、燃料切れ目前で派手な機動が出来ないF15戦闘機とのドッグファイトは互角となっていた。


 10分に満たない短時間でパペット飛行中隊は燃料切れで全機が失速して遥か下方へと石の如く落下していく。


――――――【イスラエル連邦軍陸上戦艦『ベングリオン』】


「パペット中隊全機と連絡途絶」「人口日本列島タカマガハラから支援の飛行大隊到着まで15分!」

「僅かな時間だが制空権喪失は痛いですね……」


 眉を顰めるアシュリー中佐。


「敵編隊本艦直上から急速接近中!」

「アイアンドームシステムで撃ち落とせ!」


 ミグ宇宙戦闘機は最後の一仕事といわんばかりに、イスラエル連邦軍陸上戦艦の上空へ到達すると一斉にチャフミサイルの全弾を発射すると、陸上戦艦が慌てて発射したアイアンドーム短距離ミサイルの直撃を受けて撃墜された。


「本艦上空から電波障害が拡大中。E−2C(早期警戒管制機)とのデータリンク中断します!」「対空レーダー、地上レーダーに激しいジャミング。探知機能麻痺!」


「待機中のダメコン要員は目視にて戦場警戒せよ!赤外線センサー装備を忘れるな!」


 艦橋のオペレーターから機能障害の報告が相次ぎ、アシュリー中佐が人による目視索敵を指示する。


「本艦側面9時の方角から大隊規模の部隊が接近中!」


 ベングリオン側面500メートルに新たな軍勢がレーダー探知される。


「持ち場を離れたのは何処の部隊だ。にわか編成のアラブ義勇軍か?」

眉を顰めるアシュリー中佐。


「いいえ中佐殿。アラブ義勇軍などではありません。IFF無し!敵です!」

「……何ということだ。こんなところまで接近を許したのか」


 騒然とする艦橋と呆然とするアシュリー中佐。


「本艦警護の部隊は旧トルコ軍からなる旧型のM60戦車1個小隊のみ!」

「側面に防御陣形成急げ!」


「致し方無い。カウントダウン中断!全艦対戦車防御態勢」


「中佐!接近中の軍勢より通信。これは……成都人民防衛部隊羅大佐を名乗っております!」

「なんだと!」


 通信オペレーターの報告に驚くアシュリー中佐。


『こちら成都人民防衛部隊。敵都市中枢への進入に成功。敵都市から鹵獲した戦闘車両で本隊に復帰せり』


 ベングリオン艦橋に羅大佐の声が流れる。


「こちらアシュリー中佐。羅大佐殿の見事な戦果に感服します。では敵都市に我々はこのまま入れるのですね?」


 手放しで羅大佐を褒め称えながら訊くアシュリー中佐。


『我が部隊は人類統合第12都市氷城ハルピン防衛司令部より停戦を求める書簡を携えております』

「停戦……書簡だと?」


 羅大佐の言葉に怪訝な顔をするアシュリー中佐。


「中佐。直ぐに羅大佐とやらを此方へ出頭させるのだ。報告を聞こう」


 詳しい説明を聞く必要があると判断したバーネット中将は、羅大佐の出頭を指示するのだった。



――――――【陸上戦艦『ベングリオン』艦橋】


「羅大佐。麾下の部隊装備が悉く変わっているのは何故ですか?」


 陸上戦艦『ベングリオン』側面で向かい合うように停止して待機している成都人民防衛部隊の戦闘車両を指差して尋ねるアシュリー中佐。


 ベングリオン側面に接近していた部隊はM1A2エイブラムス戦車とブラッドレー歩兵戦闘車で構成されており、羅大佐が使用していた旧ソヴィエト製T72戦車やBMP装甲戦闘車とは兵器運用思想が異なっており、通常は直ぐに使用できるはずがない。


「この装備は全て第12都市内で生産されたものです。不思議な事に、操作方法は我々が使用していたT72戦車やBMP装甲戦闘車と同じ原理であったため、きわめて短時間で我が部隊の将兵が操作を習得することができたのです」


 アシュリー中佐に答える羅大佐。


 アシュリー中佐の後ろにはバーネット中将が羅大佐から渡された第12都市防衛軍司令部からの書簡を読んでいた。


「戦闘行為の停止、住民15万人の安全と引き換えに生産施設の譲渡か……」


 腕を組み顎に手を当てて考え込むバーネット中将。


「羅大佐。別に戦闘を止めずにこのまま進撃して都市を制圧する事も可能なのだぞ」

バーネット中将の表情を読み取ったアシュリー中佐が渋い顔で脅す。


「はい。小官もそのご意見に同意します。同時に第12都市にはまだ多くの兵器群が待機しており、生産設備では弾薬生産が続けられていました。進撃を続ければ大きな損害を被るのは目に見えております。

 此処は停戦の申し出を受け入れ、第12都市の生産能力を手に入れた方が得策かと愚考いたします」


 表情を変えずに応え、意見具申する羅大佐。


「申し出は理解した。至急、本国に書簡について報告の上指示を仰ぐ。

 それまで大佐の部隊は補給を受けたまえ。”色々と体の負荷”が掛かってつらいのだろう?」


「お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫です。小官は部隊に戻って本国の返答を待たせていただきます」


 バーネット中将の申し出を断ると敬礼して艦橋を後にする羅大佐だった。


 羅大佐が艦橋から完全に退室したのを確認すると、バーネット中将がアシュリー中佐に声を掛ける。


「意外と元気そうだったな、植民都市クローンのくせに」

「はい。艦橋入室時から監視カメラと連動させている脳波モニターも正常値を観測しておりました」


 中将の問いに答えるアシュリー中佐。


「……中佐。急ぎアナハイム社と連絡を取れ。奴らは”元気すぎる”」

「かしこまりました。何か敵に処置されたのかも知れません」


「急げよ。我らに危険となれば福音システムで植民都市(成都)住民諸共一掃する。この局面でこれ以上の厄介事はご免こうむる」


 バーネット中将の指示を受けたアシュリー中佐は、パペット飛行中隊を管制していた区画へ行くと植民都市『成都』に駐在するアナハイム社製薬部門の研究チームに連絡を取るのだった。


         ☨          ☨          ☨


2027年(令和9年)5月7日午前2時【地球極東 人口日本列島『タカマガハラ』エリア・フジ イスラエル連邦首相府】

 

 深夜、首相府内にある自室のベッドで就寝していたベンジャミン・ニタニエフ首相の枕元に設置していた赤電話のベル音が鳴り響く。


 即座に目を覚ましたニタニエフが受話器を取る。


「私だ」

『首相閣下。お休みのところ失礼いたします。攻略中の敵都市から、停戦を求める書簡が届きました』


 ニタニエフが応答すると受話器の向こう側でマイケル・バーネット陸軍中将が要件を伝える。


「……停戦だと?」

『はい。戦闘停止や住民安全保証と引き換えに都市生産施設の譲渡を申し出ております』


 自室の窓から人口富士裾野に広がる集団農場キブツや建設中の都市を眺めてながらバーネット中将の報告を聞いていたニタニエフだが、停戦という言葉に眉を顰める。


「バーネット中将。イスラエル建国直後から国民は戦火の試練に晒され続けている。

 国民の願いはただ一つ”ユダヤ民族が世界を率いる”だ。

 そのための第一歩としてユーラシア大陸の支配権確立が急務なのだ」


『承知しております。首相閣下』


 ニタニエフ首相の言葉に同意するバーネット中将。


「ならば此方の答えは”無条件降伏”だ。

 都市支配権を我が方に譲渡した上で住民は我々の”管理”に従うことだ。”成都と同じ”と言えばわかりやすいだろう。

 対等な立場での停戦はありえない。

 多大な負担を国民に強いているから、戦況報告を求めて国会クネセトに詰めかけている議員達も受け入れないだろう」


 結論を下してバーネット中将に意図を説明するニタニエフ首相。


「大陸派遣軍司令官バーネット陸軍中将。次に私を起こす時は都市の完全占領か、敵勢力の完全殲滅完了の報告どちらかである事を期待しているよ。

 何のために私が”ジェリコ”起動コードを君に与えたのか良く考えて欲しい」


 そう言うとバーネット中将の返事も聞かずに受話器を戻すとベッドに潜り込むニタニエフだった。


          ☨          ☨          ☨


――――――【人類統合第12都市『氷城』防衛司令部】


「シールド解除!げほげほっ!」

「輝美様!?」


 防衛司令部内ではカゲロウ戦闘艇のコントローラーを床に投げ出した黄星輝美が、苦し気に息を荒げて床に膝をついていた。


 心配した黄少佐が寄り添う。


「輝美様!大丈夫ですか!?」

「……まだまだイケる!と言いたいところだけど、ちょっとヤバいのだぞっ!」


 気遣う黄少佐に応える黄星輝美の顔は青白く、額は汗ばんでいた。


「もともとの都市原子炉エネルギーと私が吸収できる惑星磁力線をエネルギー転換してきたけど、これ以上の維持は身体機能の限界だぞっ!」


 荒い息遣いで輝美が見つめる防衛司令部のメインモニターには、イスラエル連邦軍陸上戦艦『ベングリオン』に羅大佐率いる成都人民防衛部隊の機甲部隊が対峙する様子が映し出されている。


「もう少しで守姉さまや舞姉さまが合流するから……成都人民防衛部隊かれらがそれまで時間を稼いでくれれば……」


 メインモニターの脇のサブモニターに映る、接近するホワイトピースを始めとする日本国自衛隊空中艦隊と黄星守美や舞が大八車で曳く人類統合第2都市都市『バンデンバーグ』を祈るように見つめる黄星輝美だった。


          ☨          ☨          ☨


――――――【火星日本列島 茨城県大洗市上空】


 早朝にアルテミュア大陸東海岸の人類都市『ボレアリフ』を飛び立ったミツル商事航空301便は日本列島を南下して羽田国際・宇宙空港を目指していた。


 五月晴れの日本列島上空を南下して茨城県上空に差し掛かった空域で副操縦士が機長に声を掛ける。


「光った?……っ!機長。9時の方向に巨大飛行物体です」

「んん?どうせマルス・アカデミーのシャトルだろう?」


 副操縦士の声に答える機長。


 国際・宇宙空港である羽田から月面都市ユニオンシティ経由で地球へ向かう異星文明マルス・アカデミー大型シャトルはもはや見慣れたものだった。

 大型シャトルが戻って来る時には地球からの避難民を満載している。


「……いいえ機長。あれは……シャトルなのでしょうか?」


 途切れがちの声の副操縦士が指差す方向に視線を向ける機長。


「……なんだアレは――――――っ!衝突を避けるぞ!緊急回避行動!右へ!」


 絶句しかけたものの、300名近い乗客を乗せている旅客機機長として安全を優先させる機長。


『乗客の皆様。こちら機長です。緊急事態発生につき、当機は緊急回避行動に入ります。機内が激しく揺れる為、乗客の皆様はシートベルトをご着用願います』


 機長が突然の揺れに戸惑う乗客に機内放送でシートベルト着用を指示する。


 機長が右へ向けて大きく操縦桿を倒していくと、ジャンボ旅客機は翼を右に傾けて並行していた”水素クジラ”から離れていく。


「こちらミツル商事301便!本機は緊急回避行動を実施中!

 自衛隊百里基地、羽田、成田管制並びに付近の全航空機に警告する!

 茨城県上空で巨大生物に遭遇!本機はこれより緊急回避行動を取る!警戒されたし!こちらミツル商事301便――――――」


 地上へ警告を呼び掛けながら慌てて離れていくジャンボ旅客機を横目に悠々と空中を遊弋する水素クジラは、眼下の大洗市海岸付近を目指す。


 水素クジラが木星大赤斑最深部の異相空間ゲート上空に展開されたホログラフィックモニターのネット検索で得たグルメ情報によると、大洗市の料理旅館では看板メニューの絶品海鮮丼が人気らしい。


『海鮮丼……ワクワク』


 興奮して液体水素とヘリウムからなる”潮吹き”を繰り返しながらお目当ての料理旅館の位置を確かめるとゆっくりと降下していく水素クジラだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・黄星 輝美=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。神聖女子学院小等部6年生に転入していた。舞と守美の妹的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


コウ 浩宇ハオユー=人類統合第2都市『バンデンバーグ』住民代表。少佐。北米大陸西海岸の戦いで地球連合防衛軍ロイド提督と停戦を結んだ後、黄星三姉妹と行動を共にしている。第12都市出身。


・ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦首相。

・マイケル・バーネット=イスラエル連邦軍陸軍中将。大陸派遣軍司令官。

・アシュリー=イスラエル連邦軍特殊部隊隊長。

・羅=人類統合第11都市『成都』暫定代表。人民防衛部隊司令官も兼務する。大佐。

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