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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
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消失

2027年(令和9年)5月7日午前2時【太陽系第5惑星『木星』 大赤斑最深部】


『岩崎首相の指示で異相空間ゲートそちら側で展開しているホログラフィックモニターの情報検索を無料で出来る様にしてもらったよ。グルメ情報を好きなだけ検索できるよ』

『ゴーグルマップで地図情報も付けたから、何処に美味しい食べ物があるかリアルに想像出来ますよ~。これで少しはジュピタリアンの皆さん我慢できるかしら?』


 満とひかりが大赤斑最深部でジュピタリアン行列の整理にあたる琴乃羽美鶴に火星日本列島側の状況を説明する。


「ありがとうございます社長。火星日本列島各地への新たな異相空間設置許可は何時ごろ承認されますか?」

『そっちは今日の受け入れ場所の結果報告で決まるらしい。あと2、3日かかるみたい。人手や治安の問題があるからね』


 琴乃羽に訊かれた満が答える。


「お話にならないスピードですね……」

『どういう事ですかぁ?』


 吐き捨てるように呟く琴乃羽美鶴にひかりが尋ねる。


 木星地平線まで続く火星日本列島詣でのジュピタリアン行列を懸命に制御しようと奮闘するユーロピア共和国外人部隊パワードスーツとアッテンボロー博士を惑星間携帯電話で撮影すると、琴乃羽美鶴は火星ウラニクス湖に居る大月満に危機的な状況を訴える。


「ですから社長!異相空間ゲートこちら側で展開しているホログラフィックモニターのネット検索開放程度ではジュピタリアンの欲求不満を抑えきれません!

 むしろ”もっと美味しいモノがある”と期待感MAXで痺れを切らせたジュピタリアンが何をしでかすのか想像するのが恐ろしいです。

 社長、いきなり日本列島各地に無数の水素クラゲや水素蟹、水素クジラが出現したら日本列島がパニック状態になりますよ!巨大ワーム首都圏襲撃の比ではありませんよ!」


 地平線の彼方まで続くジュピタリアン行列の所々で増えていく怪しげに発光する紫電を携帯端末で撮影しながら満に報告する。


『ええっ!?こんなに!?』『あらあら。これは制限しようとすること自体危険ですねぇ』


 ホログラフィックモニターに映る満とひかりの顔は青ざめて引き攣っているように琴乃羽には思えた。


「そういう事ですから!こちら側の制止は持って2、3時間です。それ以上は予測不可能です!」


 満達に報告すると、アダムスキー型連絡艇を再び行列近くにまで接近させて冷静な行動を呼び掛ける琴乃羽美鶴だった。


「そこの珍味君くらげ!闇異相空間は作っちゃダメ!絶対っ!て言ってるでしょーがっ!最後尾に並ばせるわよっ!」


 懸命に呼びかける琴乃羽美鶴の視界の外では、ネオンの様に煌めき始めた紫電の幾つかがひっそりと作動して周囲の水素クジラや水素クラゲを巻き込んで次々と消失していくのだった。


 琴乃羽や満、ひかりは、行列解消の方策に集中していたため、ジュピタリアンがホログラフィックモニターのネット検索をどの様に活用するかまで考え至る余裕がなかった。


          ☨          ☨          ☨


2027年(令和9年)5月6日午後11時【地球東アジア 人類統合第12都市氷城 東方3Kmの上空】


「カゲロウタイプ集団は引き続き本艦から500m離れたまま周囲を旋回飛行中」「左舷見張りから報告。9時の方向から接近中の大規模な機甲部隊と空中艦隊を発見。陸自第7師団と思われます。距離2Km」


 ホワイトピース艦橋のメインモニターに周囲を包囲するかの如く飛び回るカゲロウタイプの群れと、遠方から接近する陸自第7師団の赤外線カメラが捉えた映像が表示される。


「作戦参謀。カゲロウタイプからの攻撃は?」

「ありません。本艦周囲を飛び回るだけです」


 名取艦長の質問に答える作戦参謀。


「情報参謀。センサー類の機能回復は?」

「依然としてジャミングが効いています。カゲロウタイプは自爆するだけでなく、飛び回りながらジャミング微粒子を散布しているかも知れません」


 名取に訊かれて応える情報参謀。


「こちら側の目と耳を塞ぎつつ、様子見か?」

「第12都市あちらさんとしては、ジャミング影響下で我々を都市に招き入れた方が都合がいいのでしょう」「我々の存在を西方で攻略中のイスラエル連邦軍から誤魔化す意図があるのかもしれません」


 名取の呟きに応える作戦参謀と情報参謀。


「とはいうものの、第12都市あちらさんが具体的に何をやろうとしているのかは先に知っておきたいところだ……」

思案する名取。


 名取は艦長席の液晶パネルを操作して格納庫で待機中のパワードスーツパイロットに通信回線を繋げる。


「こちら名取だ。高瀬中佐、本艦から出撃後の通信はマルス・アカデミーモードでいけるか?」

『いけます。惑星磁力線マルス・アカデミーモード通信回線を使えば、1分単位という制限はつきますが、通信は可能です』


 名取の問い合わせに応える高瀬中佐。


「よし。高瀬中佐はソフィー大尉とパワードスーツで出撃。我々に先駆けて第12都市へ進み、黄星輝美か黄少佐に接触せよ。大脱出エグゾダスについて彼らの準備状況を知っておきたい」


「了解いたしました。直ちに出撃します」


 名取艦長の命令を受領する高瀬中佐。


「先行隊としてパワードスーツを発進させる。CICは周囲警戒怠るな」

名取が艦橋から指示を出す。


「格納ハッチ開放。電磁カタパルト充電完了。パワードスーツ発進どうぞ!」

『ラジャ。サキガケ発進します!』


 艦橋の通信システムオペレーターが発進許可を出し、待機していたソフィー大尉がパワードスーツ『サキガケ』を電磁カタパルトに脚部をセットすると発進していく。


『PS-21高瀬中佐。発進する!』

サキガケの後ろで待機していた高瀬中佐操るPS-21パワードスーツが直ぐに電磁カタパルトに乗ると発進する。


 名取大佐の命令を受けて1分後にはホワイトピースを発進した2機のパワードスーツは、水素ジェットエンジンを巡行速度まで噴射し続けて第12都市へ飛行していく。


 ホワイトピースを発進して間もなく、ソフィー大尉はAIパナ子から報告を受ける。


『マスター。第12都市のシールドが解除されているですの』


「ええっ!?高瀬中佐殿!第12都市のシールドが消失していますよ!」


 パナ子から報告を受けたソフィー大尉が慌てて高瀬中佐に連絡する。


「シールド消失!?ケン、確認出来るか?」

『……うん。確かにシールドは無いね。防衛部隊は都市郊外で停止しているみたいだね』


 高瀬の確認に答えるAIケン。


「ホワイトピース!こちら高瀬。第12都市のシールドが消失している。急いで状況を確認する!ソフィー大尉、速度を上げるぞ!」

『ラジャ』


 ホワイトピースに報告するとソフィー大尉に急ぐ旨を告げて背面エンジンの出力を上げる高瀬中佐だった。


――――――【強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』】


「第7師団空中艦隊『播磨』から惑星磁力線通信マルス・アカデミーモードで入電。ホワイトピースを先頭に30ノット(約時速56Km)で第12都市へ進入せよとの事です」


 通信システムオペレーターが艦長の名取大佐に報告する。


「了解した。それと、第12都市のシールドが消失している、と伝えろ」


 先行するパワードスーツの後方に続く航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』と東方から進撃していた陸上自衛隊第7師団麾下の空中艦隊は合流して輪形陣を形成していく。


 輪形陣外周では第12都市から飛来したカゲロウタイプの群れが引き続いて周囲を包み込むように旋回飛行している。


 自衛隊空中艦隊直下の地上では、90式、10式戦車、203mm自走榴弾砲、自走電磁砲からなる機甲部隊が幾つもの縦列を形成して砂煙を上げて第12都市へ向かう空中艦隊に追随するのだった。


――――――【自衛隊空中艦隊 後方5Km ソールズベリー商会多目的船『大黒屋丸Ⅱ』】


 カゲロウタイプの群れに囲まれている自衛隊空中艦隊の後方には、米俵を積み上げた船型が特徴的な千石船がゆっくりと空中を航行していた。


 ホワイトピースと陸上自衛隊第7師団が合流するまでは大黒屋丸Ⅱの周囲にもカゲロウタイプの群れが居たのだが、今は前方の自衛隊空中艦隊を取り囲む群れに合流している。


「……あれは、包囲されているというよりかは”護られている”感じがするね」


 赤外線モードに切り替えた船外モニターを見ながらソールズベリーが船長席に置かれた紅茶を一口飲みながら呟く。


「ソールズベリー商会長。陸上自衛隊第7師団から通信入りました。このまま直進30ノットだそうです」


 岬渚沙が船長席のソールズベリーに報告する。


「わかりました。此方も速度を合わせましょう。『バンデンバーグ』はちゃんと付いてきていますかね?」

「大丈夫よマスター。『大黒屋丸Ⅱ』後方300mから追随している。バンデンバーグ防衛司令部のシステムと連結しているから情報共有はバッチリ」


 ソールズベリーに訊かれたマルス・メイド・アンドロイドのクリスがVサインで答える。


「先行している自衛隊もですが、こんなに大掛かりに動いてしまうとイスラエル連邦軍にそろそろ気づかれるてしまいませんかね?」

岬が不安を口にする。


「大量のカゲロウタイプが自衛艦隊を取り囲んでいる限り、ジャミングが効いて殆どの地球製センサーでは探知計測不能でしょう」


 岬の不安にソールズベリーが答える。


「戦場の遥か上空には確か戦域管制機(E2C)?が飛んでいるのでは?」


 ソールズベリー商会に入社してから軍事方面の知識を学べ出した岬が首を傾げて尋ねる。


「そちらも手を打っている筈ですよ……。北米大陸攻略作戦で激戦の中に堂々と介入してきた黄星三姉妹です。我々の側に立って上手くやってくれるでしょう。

 我々は今はバンデンバーグと第12都市の安全な接触と脱出に専念する事にしましょう」


 楽観的に岬に答えると、船長席のモニターパネルを操作して戦場と周囲の状況把握に集中するソールズベリーだった。


 自衛隊空中艦隊と第7師団機甲部隊、ソールズベリー商会に追随する第2都市『バンデンバーグ』という一大勢力が第12都市『氷城』東側へと進出し始めていた。



ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m

次話は12月17日(日曜日)に投稿予定です。


【このお話の登場人物】

・大月 満=ミツル商事社長。

・大月 ひかり=満の妻。ミツル商事副社長。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・琴乃羽 美鶴 =ミツル商事サブカルチャー部門責任者。元JAXA種子島宇宙センター宇宙文字解析室長。木星原住生物と親しい為、木星探査隊に出向扱い。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・ソフィー・マクドネル=パワードスーツ『サキモリ』パイロット。ユニオンシティ防衛軍大尉。日本国自衛隊 第零特殊機動団に出向中。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・パナ子=パワードスーツ『サキモリ』機体制御システム担当人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。


・高瀬 翼=日本国自衛隊 統合幕僚監部所属 第零特殊機動団長。階級は中佐。乗機は菱友重工が開発した21型パワードスーツ(H21-PS)。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・ケン=21型パワードスーツに装備された機体制御AI。

 公益財団法人 理化学研究所(理研)が開発した人工知能で、美衣子達三姉妹がセッティングしたお見合いでパナ子とゴールインした。天体観測を生かした遠距離射撃が得意。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・ソールズベリー=英国連邦極東企業『ソールズベリー・カンパニー』商会長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・アンドロイド。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・名取=日本国航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』艦長。大佐。

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