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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
415/462

歓迎【大阪道頓堀】/ 福音再び

 この作品はフィクションです。

*作中に登場する大阪都は火星転移前の地方自治法改正により、特別行政区制度が創設された事に伴い、府から都へ名称変更されています。


2027年(令和9年)5月6日午前11時【火星日本列島 大阪都中央区道頓堀 道頓堀橋】


 大勢の人々が道頓堀橋周辺に集まっていた。


 昨日日本国政府及びMCDA(火星通商防衛協定)加盟各国政府から発表された木星知的生命体の存在と唐突な来訪受け入れは人類史に残るであろう歴史的ニュースであったが、これから起こるであろう”ジュピタリアン食い倒れツアー”イベントこそが歴史的出来事として大阪都民に語り継がれるのかもしれなかった。


 本日道頓堀橋は通行止めとなり、橋の中央には大阪都の大型テントが設置され、関係者以外の立ち入りを大阪都警察が規制している。

 また水上バスもこのイベントの為運行休止となっている。


 それ以外の道頓堀川周辺はグリ下や遊歩道の通行止めはなく、多くの若者や宇宙人見たさに集まった観光客が警察に止まらず歩くよう促されていた。



――――――午前11時


 道頓堀橋下の川底がおぼろげな紫色に輝き出すと、集まった人々が騒めき出す。


「見てみ!川底がぼわっと光ったで!来るで!」「ウチが派手にお出迎えせなあかん!」


 グリ下で川面を見つめていた若者が叫ぶと、隣では徹夜で作った水素クラゲのコスチュームを着た水着の女性が川岸のフェンスを乗り越えようと足を掛ける。


『間もなくジュピタリアンが来訪します。冷静にお出迎えしましょう――――――そちらのお嬢さん!川に飛び込まないように!』


 ざわめく群集とけん制する大阪都警察DJポリス。


 紫色の光が薄れていくと、やがて道頓堀川の川面に水素クラゲ達が姿を現して水上に浮かび上がっていく。


「あれがジュピタリアンや!」「ようこそ大阪へ!」「待っとったでー!」


 集まった人々から盛大な拍手と歓声が沸き上がる。


 最初の水素クラゲは”いつも通り”水素塊を触手に持っていたが、後に続く水素クラゲ達はそれぞれ”お宝”を持参していた。


「おおっ!千成瓢箪や!」「千両箱が沢山積み上がっとるで!」「宝の山や!鑑定したらえらいことになるで!」


 歓迎する人々から驚きの声と歓声が沸き起こる。


 先日の”埋蔵物払い”が好評だったと先走り黄将訪問した水素クラゲから話を聞いた今回のツアー参加クラゲ達は、今回も川底に沢山埋もれていた千成瓢箪と千両箱を掲げて川面から浮かび上がったのだ。


「えらいサービス精神旺盛なクラゲやなぁ」「そうですね……ホホホ」「今回も偉い騒ぎになりますなぁ」「皆が儲かるならハッピーでええやろ」


 道頓堀橋で待ち受けていた大阪都知事と台湾国領事、黄将社長、角紅社長の仁志野清嗣がそれぞれ苦笑しながらも拍手で出迎えていく。


『木星の皆さん、まいど!儲かってまっか?。大阪へいらっしゃい!』

スピーカーで水素クラゲに呼びかける仁志野清嗣。


 仁志野に呼びかけられた水素クラゲ達は傘をフルフルと振るわせて『ボチボチですわ』と応える。


『まいどです。いらっしゃい!大阪都知事です。今日の食い倒れツアーは先払いなので、皆さんがお持ちになった品々は彼方あちらのテントで見さしてもらいます。川底からええ物を持って来はった方は、どうぞ此方へ来てください』


 仁志野の隣で大阪都知事自ら水素クラゲに案内する。

 

 案内を受けた水素クラゲ達は、それぞれ列を作ってテントへふわふわと向かっていく。


『水素塊やヘリウム塊をお持ちの皆様はこちらへ……。ニュー・グランシャトーでは唐揚げを沢山用意して皆様をお待ちしていますよホホホ』


 道頓堀川の川幅に合わせて準備された水素貯蔵タンクを搭載したはしけを指し示す台湾国領事。

 台湾国の”飛び地”であるグランシャトーのアピールも忘れていない。


 艀には十数体の水素塊を持った水素クラゲ達がむかっていく。


 道頓堀橋の往来を止めて設置した特設受付所テントには出入国管理局出張所のほか、先日来訪時に安土桃山時代、江戸時代の歴史的埋蔵物が多数持ち込まれたため、関西地区在住の鑑定士を多数招聘して特別鑑定所を設置、換金に備えていた。


「千成瓢箪は豊臣秀吉が馬印として戦の時に使っていたものです。実に興味深い……」


「ふむふむ。こちらは慶長小判、此方は六文銭の印が入った鎧兜!これを作った職人さんはいい仕事してますねぇ……」


 テレビの鑑定番組でお馴染みの古物鑑定士達が水素クラゲの差し出した先払い品に感嘆の声を上げ、品物の出来栄えに唸る。


「……この慶長小判は安土桃山時代に大阪城下で流通していたものです。こちらの鎧は大阪夏の陣に参加した真田方の武士が使用した鎧です。兜の横に穴が開いていますが、おそらく徳川方の銃撃によるものでしょう……」


 顎に手を当てながらしげしげと小判と鎧を鑑定していくベテラン鑑定士。


「このお宝を評価するなら……少なくとも70億円!真田家の鎧というのも評価が高い一因です」

『マジデスカ……』


 自信をもって評価を宣言するベテラン鑑定士にプルプルと傘を震わせる水素クラゲ。


「いきなり凄いの出てきたで!」「まさにお宝やで!」


 鑑定を見守っていた大阪都職員から驚きの声が上がる。


「それで……換金しますか?」

『ヨロシュウ、タノンマス。唐揚ゲ、蟹食ベ放題ニ全部』


 受付職員に訊かれ応える水素クラゲ。家宝にする選択肢はない。全て唐揚げやかに道楽で全額使う心づもりなのだ。


「財産全額食い物に使い倒すって……」「まさに食い倒れや!」


 水素クラゲの心意気に感嘆する大阪都職員達だった。


 次々と水素クラゲ持参の”お宝”の支払いが進んでいく。

 大坂と呼ばれ古くから栄えたこの街の川底には色々な物が遺されていたのだった。



 だが、中には正体不明の物もあった。


「人形の手、足首?の欠片?眼鏡?」


 水素クラゲが差し出した物に首を傾げる鑑定士。


 ヒトの手や足首を象ったと思われるプラスチック製らしき物は長年ヘドロに埋もれていたのか、所々が黒ずんでいた。


「見たところ、プラスチック製ですしただの粗大ゴミとちゃいますか?」

ジト目に代わりつつある鑑定士。


「……お客さん。川底から何でも持ってくればええという考えはアカンで!」

説教モードに変わる大阪都職員。


『……ゴメンナサイ』

項垂れる水素クラゲ。


「残念ながらツアーは参加無理やで」

『……ウウウゥ』


 腕を組んだ大阪都職員に参加禁止を宣告されて嘆く水素クラゲ。


「まあまあ!せっかく木星から来はったんやから、ここは一つ何か働いて返してもらうっちゅーことで……」


 大阪都職員と水素クラゲの間に割って入る仁志野清嗣。


「全部がお宝なウマい話なんかありませんて!こんなゴミでも……んんん?」


 何とか大阪都職員を宥めようとした仁志野だったが、プラスチック製の手をしげしげと見つめる。


「……これは。まさか!」

息を吞む仁志野。


「おい!誰か火星KFCの関西支社に連絡や!カーネルサンダースの呪いが解かれるかもしれんで!」


 仁志野の叫びにテント中にいた人々の動きが止まった。


――――――その日夕方【関西民放テレビ ニュース】


『大阪道頓堀川から1985年に投げ込まれたカーネルサンダースの失われていた左手首と両足首、眼鏡が水素クラゲによって発見されました』


『大阪都知事はこの水素クラゲに名誉都民の称号と感謝状を授与いたしました』


『大手ファーストフードの火星KFCは、この水素クラゲにフライドチキン食べ放題50年分を保証する優待カードを贈ると発表しました』


『道頓堀川に投げ込まれたカーネルサンダース像の全てが発見されたことで、阪神ファンからは”呪いは解けた!今年も優勝間違いなし!”と歓迎する声が上がっています』


          ☨          ☨          ☨


2027年(令和9年)5月6日【地球ユーラシア大陸東アジア 人類統合第12都市『氷城ハルピン』防衛軍司令部】


 攻め寄せるイスラエル連邦軍と防衛する第12都市防衛軍の戦車が近接戦闘を繰り広げている場面を移す司令部中央のモニター画面から少し離れた場所では、十数枚のホログラフィックモニターを前に黄星輝美と黄少佐以下十数人の将兵がモニター画面を凝視しながらコントローラーを懸命に操作している。


「んしょっ!んしょっ!」


 コントローラーを握りしめてモニター画面一杯に迫るユニオンシティ防衛軍宇宙巡洋艦の20mmバルカン砲や短距離ミサイルを間一髪で回避する黄星輝美。

 時折画面が二転三転回転している。


「おわっ!あっぶな~かったのだぞっ!」

思わず呟く輝美。


「黄星様っ!もう少しで対艦ミサイル発射ポイントです」


 黄星輝美の隣でも黄少佐がコントローラーを握りしめて画面に迫る宇宙空母のミサイルをサクッと躱す。

 輝美よりも余裕があるのは”前世でミグ戦闘機に乗り慣れた記憶”があるからかも知れない。


「もう少しだぞっ!仕込みを放つまで辛抱するのだぞっ!」


 額に汗を浮かべてミグ戦闘機を操作するコントローラーを握りしめて司令部内に居る黄少佐の部下達を激励する輝美だった。


 輝美達のモニター画面には、宇宙空母の飛行甲板がぐんぐんと近づいていた。


          ☨         ☨          ☨


――――――【地球衛星軌道上 東アジア上空】


 ユニオンシティ防衛軍宇宙空母『サラトガ』、巡洋艦『インディアナポリス』と人類統合第12都市防衛軍のミグ98宇宙戦闘機との戦闘は激しさを増していた。


「ミグ戦闘機尚も接近」「弾幕を絶やすな!」「なんて回避能力だ。アクロバットを極めてやがる!」


 前方の宇宙巡洋艦から目一杯の対空機関砲や対空ミサイル、レーザー兵器が放たれているのをことごとく躱したミグ戦闘機サラトガに突進してくる。


「F45発進まだか!?」「対空ミサイル搭載中。あと3分待ってください!」


 焦り声の艦長に応えるオペレーター。


 突進してきたミグ戦闘機に飛行甲板脇に設置していたR2D2に似た形状の20mmバルカン砲と短距離対空ミサイルが一斉に放たれる。


 だが、スッと交わしたミグ戦闘機は飛行甲板をすれ違いざまに30mm機関砲を発射してバルカン砲と対空ミサイルランチャーを破壊して後方へ飛び去って旋回する。


「ミグを近寄らせるな!このままではF45が出せんぞ!」

CIC(戦闘管制室)に命令する艦長。


「……奴らが好きに飛び回っている中で戦闘機を出した所で直ぐに撃ち落されてしまうかも知れん」

迎撃機の発進を躊躇いだす艦長。


「ミグ戦闘機ミサイル発射しました!」


 巡洋艦インディアナポリスの弾幕を突破したミグ戦闘機が対艦ミサイルを放つ。


「ミサイル直撃しますっ!」「総員対ショック姿勢!」


 悲鳴を上げるオペレーターと身を屈める艦長。


 サラトガの飛行甲板とステルス形状を意識した艦橋に命中する寸前、ミサイルは爆発して大量のセラミック片を周囲に拡散させる。


「自爆したのか!?」


 対艦ミサイルや対空ミサイルが爆発するオレンジ色とは違い淡い紫色の発光と共に、いぶし銀の如く輝く飛沫が宇宙空母を中心に拡がっていく。


 同時にサラトガ艦橋の機器には次々とダメージが計測されていく。


「対空レーダー、射撃管制レーダー共にブラックアウト!」「巡洋艦『インディアナポリス』からです。”我、炭素レーザー出力減衰。対空レーザー兵器使用不能”との事です!」


 CIC要員が報告する。


「くそっ!チャフを使ったのか!?」

毒づく艦長。


「敵第2波接近!突っ込んできます!」「ひるむな!全火器フルオートからマニュアルチェンジ!火力を全て前方に集中させろ!」


 手動で対空機関砲や対空ミサイルを撃ったところで超高速で飛び回るミグ戦闘機には敵わず、サラトガの対空弾幕を突破したミグ戦闘機は、飛行甲板すれすれのアクロバット飛行で30mm機関砲を連射して飛行甲板の艦載機発進エレベーターと後部エンジンを射撃して損傷させる。


「電磁カタパルト損傷!戦闘機ハッチ破損!戦闘機(F45)甲板に出せません!」「推進機損傷。第3から第6エンジン出力低下、速力減衰」


「くそっ!戦闘継続は困難だ。これ以上推力減衰すると引力で地球に落下する!月面都市に撤退する!インディアナポリスにも発光信号で伝達!」


 艦体各所が損傷した空母サラトガと巡洋艦インディアナポリスは、よろよろと衛星軌道上を離れると、月面都市ユニオンシティへ撤退するしかなかった。


 損傷した宇宙空母と宇宙巡洋艦が月へ向かったのを見届けると、ミグ宇宙戦闘機は東アジア東北部上空へと降下していくのだった。


          ☨          ☨          ☨


 ――――――【地球ユーラシア大陸東アジア 人類統合第12都市『氷城ハルピン』郊外 イスラエル連邦軍陸上戦艦『ベングリオン』】


「メルカバ戦車大隊損害甚大!40パーセントの損耗です」「敵防衛線尚も堅固」

「手ごわすぎるぞ!先行した成都人民防衛部隊との連絡は?」


 進展しない戦況に焦るマイケル・バーネット中将がアシュリー中佐に尋ねる。


「成都人民防衛部隊との通信は依然途絶えたままです。敵が展開しているジャミングもありますが、都市内部で待ち伏せに遭って全滅した可能性もあります」


 答えるアシュリー中佐。


「攻略部隊による都市制圧は不可能か。もはや核の使用しかあるまい……」


 腕を組んで司令官席で思案するバーネット中将に新たな報告が入る。


「タカマガハラ上空を警戒飛行中のE2Cより目視確認。衛星軌道上で戦闘中のユニオンシティ防衛軍宇宙空母『サラトガ』と巡洋艦『インディアナポリス』、衛星軌道上から撤退した模様」


 艦橋の指揮通信システムオペレーターが報告する。


「なんだと!通信はどうしたのだ!?」


 アシュリー中佐が驚いて訊く。


「東アジア上空の衛星軌道上では通信が不安定。複数の未確認飛行物体(UFO)を遠距離望遠システムで確認」


 指揮通信システムオペレーターが答える。


「サラトガの搭載核ミサイルが使えなくなりました」

「……こんな所で邪魔が入るとは」


 アシュリー中佐の報告を受けて考え込むバーネット中将。


「アシュリー中佐。”ジェリコ”の準備はどうなっている?」

「弾頭準備は完了。後はシステム起動コードを入力するだけです」


 バーネット中将に尋ねられて答えるアシュリー中佐。


「……では、タカマガハラ首相府に連絡を入れる」


 司令官席の卓上にある赤い受話器を取り上げると通話先に一言二言告げて報告を始めるバーネット中将。


「首相閣下。敵都市の抵抗は予想以上でわが軍の被害が拡大しております。戦略ミサイル及び『福音システム』の使用許可を」


 ニタニエフ首相に使用許可を求めるバーネット中将。


『戦況は承知している。クローン人間どもの最後の悪あがきには此方も最終兵器で応対してやろうじゃないか。

 ミサイルと衛星の使用を許可する……システム起動コード送信した。30秒後にシステムは君の管轄下となる。いい報告を期待しているよ』


 許可を出すニタニエフ首相。


 赤い受話器を戻すと、アシュリー中佐以下の司令部要員に向けて命令を出すバーネット中将。


「これより最終作戦”ジェリコ”に移行する。同時に『福音システム』を起動する。前線部隊は一時後退準備!」


「これで……終わらせる」


 固く決意するバーネット中将だった。

ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・仁志野清嗣=総合商社角紅社長。ひかりの祖父。

・マイケル・バーネット=イスラエル連邦軍大陸派遣軍司令官。陸軍中将。

・アシュリー=イスラエル連邦軍特殊部隊中佐。成都人民防衛部隊の軍事顧問も兼務する。

・ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦首相。

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