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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
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歓迎【英国連邦極東 長崎県五島列島】

2027年(令和9年)5月6日午前11時【火星日本列島 長崎県五島列島 上五島 国家石油備蓄基地 近海】


 5月特有の爽やかで蒼く穏やかな海に囲まれた五島列島北部の小島には、日本政府所有の世界初洋上石油タンクメガフロート群が存在している。


 2021年の日本列島火星転移時には外部から隔絶された日本列島を支えるべく、洋上メガフロートに備蓄されていた石油が2か月間、混乱する日本列島にエネルギー供給を行った。


 その石油タンクメガフロートから300m離れた海域に、英国連邦極東海軍艦隊が航空母艦『クイーン・エリザベス』他数隻のフリゲート艦と共に展開していた。


 艦隊の周辺上空は空母艦載機のAV8bハリアー戦闘機やリンクス対潜水艦ヘリコプターが旋回しながら警戒監視にあたっている。


「まもなくですね」

艦橋の司令官席に座るグリナート提督が艦長に声を掛ける。


「ゲートが開かれる。各オペレーターは警戒せよ」


 艦長が目の前の制御卓モニターを凝視するオペレーターに声をかける。


「1100。時間です」

艦橋の窓際から沖合を監視していた作戦参謀が告げる。


「4時方向にレーダー不可視区域発生!」「艦隊至近の海底で惑星磁力線ノイズ増大!」


 観測機器に目を凝らしていたレーダーオペレーターとソナー担当オペレーターが報告する。


 英国連邦極東海軍艦隊から200m程離れた洋上の一角が陽炎のように揺らめくと、紫色に光り輝くリングが海面に現れる。


 海面に現れたリング内側から、不意に水素クラゲの集団が次々と出現すると空中に漂っていく。


「マイゴット!本当に出てきやがった!」「ジーザス!あれは悪魔の使徒か!?」「俺たちは悪魔を召還しちまったんだ!」


 航空母艦の飛行甲板で艦載機を整備していた水兵が沖合を指差して騒ぎ出す。


 騒ぎ出した水兵達は最近地球から月面ユニオンシティへ避難し、英国連邦極東国籍を取得したばかりの新兵だった。


 激しい襲撃は無くなったとはいえ、未だ地球各地で繁殖した火星原住生物巨大ワームとの戦いは続いている。

 救出された水兵は月面ユニオンシティで心理的治療を受けた筈だが、心に巣食ったトラウマは克服に時間がかかるのだ。

 故に、木星原住生物ジュピタリアンを見るとトラウマを刺激する事になる。


「落ち着いてよく見るんだ。ちょっと空に浮いているだけの普通のクラゲだ、安心しろ」


 近くに居た将校が水兵の肩を叩き背中をさすって宥めると、所在なさげに浮かぶ水素クラゲを指差す。


「いや……まぁ。そうですが……確かにクラゲですね」


 将校に宥められ、目の焦点を取り戻していく水兵。


「安心しろ。奴らは我々と意思疎通が取れているのだ。いきなり吸い込んでくる巨大ワームとは違うのだ!」


 畏怖で固まる水兵に説明する将校。

 

 甲板の水兵は落ち着きを取り戻して水素クラゲの誘導準備に取り掛かる。


「提督。大月家『ディアナ号』から優先通信です」

通信オペレーターがグリナート提督に報告する。


「こちらのモニターへ繋いでくれ」


 グリナート提督の座席前のモニターにアルテミュア大陸ウラニクス湖に滞在している大月満の姿が映し出される。


「グリナートです。ミスター大月、こちらでは正常に異相空間形成されました。現在木星原住生物ジュピタリアンが出現中です」


『ありがとうございます提督。ゲートが日本列島洋上でも無事に形成されることが確認できました。これから6時間ごとに位相空間が形成、ジュピタリアン来訪が続きます。”おもてなし”よろしくお願いいたします』


 グリナート提督が報告すると、ほっとした表情で感謝する満。


「任せてくれたまえ。英国紳士の名に恥じない饗応をしようじゃないか」

「感謝します提督」


 大見得を切るグリナート提督に頭を下げて礼をする満だった。


 通信が終わると艦橋から飛行甲板で騒ぐ水兵を見下ろしてため息をつく。


「ミスター大月にああ言ったものの……腹を括るしかあるまい」


 艦内放送に繋がるマイクを手にしたグリナート提督が水兵に呼びかける。


『水兵諸君、静粛に!

 水兵諸君の目の前に現れた存在は悪魔の使徒でも、邪悪な巨大ワームでもない。

 彼らは我々人類と共存を希望している木星原住生物ジュピタリアンなのだ。

 さあ!偉大なる英国連邦極東を担う兵士諸君!崇高な任務を果たそうではないか!』


 グリナート提督の呼び掛けで落ち着きを取り戻した水兵は粛々と異相空間から出現した水素クラゲ達を飛行甲板に誘導、傘にプリントされたQRコードを読み取って木星から事前送信されたデータと照合していく。


「ジュピタリアンの皆様、ようこそ英国連邦極東へ。

 これから英国伝統料理イワシパイ食べ放題ツアーが始まります。

 なお、支払いは地球通貨又は木星資源による先払いです。先払いして頂いた方から食べ放題ツアースタートとなります」


 ツアーコンダクター役に任命された英国連邦極東軍情報参謀がハンドスピーカーで飛行甲板に集結した水素クラゲ達にアナウンスする。


「木星資源払いの皆様は、向こうの福江港で発光信号を点滅させている沿岸コンビナートで水素の受け渡しをしてください。食べ放題会場ではイワシパイがそろそろ焼き上げるそうですよ!グットラック!」


 水素クラゲ達の殆どが凍結した液体水素を触手に絡ませて持参しており、情報参謀が航空母艦後方の上五島国家石油備蓄基地特設水素コンビナートで誘導灯を点滅させている発光信号を指し示す。


『……カシコマリ』『本場ノイワシパイ味ワウマデ、モウ少シ』『ゴクリ、アレガ労働ノ対価……イワシパイ』


 ツアーコンダクターの情報参謀にぺこりと傘を傾けてお辞儀した水素クラゲ達が次々と空中を連なって特設水素コンビナートへ向かっていく。 


「そういえば、クラゲは脳や心臓が無いんだったな。どうやって意思疎通しているのやら……」

「生物学博士のアッテンボロー卿によると、木星クラゲは地球種よりも神経組織が遥かに発達して感覚器官が存在しているようです」


 グリナート提督の呟きを聞いた作戦参謀が応える。


「なるほど。惑星ごとに種の発達も千差万別に異なるという事か」

作戦参謀に頷くグリナート提督。


「……大変動発生から信じ難い光景を沢山目にしてきたが、これはまた格別だな」


 逆噴射エンジンを稼働させて滞空する垂直離着陸戦闘機AV8Bハリアーに誘導されながら、喜びで傘を赤やオレンジに明滅させて水素コンビナートへ向かう水素クラゲ群の行列を見て感慨深げに呟くグリナート提督。


 数分後、コンビナート受付では熱烈歓迎で出迎えた英国連邦極東政府首脳、長崎県観光親善大使、五島列島市長や住民が水素クラゲと初めて手と触手でグータッチ、観光親善大使の女性タレントが歓迎の花輪をクラゲの傘に被せて拍手と歓迎の声が沸き起こった。


 グータッチを終えた水素クラゲ達は持参した液体水素塊をコンビナートに繋がるコンテナボックスに投入すると、住民に一体づつ案内されてイワシパイ食べ放題会場へ向かうのだった。


 英国連邦極東メディアである極東BBC放送は、正午のニュースで五島列島でジュピタリアン受け入れが始まったとトップニュースで報じるのだった。



――――――【長崎県佐世保市 英国連邦極東首都ハウステンボス ダウニング街5番地首相官邸】


火星こちらでこれだけ派手に動けばイスラエル連邦も動かずにはいられんだろう」


 正午の極東BBCニュースを執務室で見ながら食後の紅茶を嗜むケビン英国連邦極東首相。


 五島列島イワシパイ食べ放題ツアーの成功を確信するケビン首相。


(イワシパイはミツル商事の大月ひかりや”あの”マルス人美衣子の好物でもあるのだからなんとかなるだろう)


「此方に気を逸らせてソールズベリーの任務を楽に出来れば良いのだが……イスラエル連邦が逆に焦って過激な行動に出るかもしれんのが問題なのだ」


 五島列島イワシパイ食べ放題ツアーの成功を確信していたケビン首相は、人類統合第2都市『バンデンバーグ』脱出をめぐる地球極東の戦況に不安を抱くのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ケビン=英国連邦極東首相。

・グリナート=英国連邦極東軍提督。火星地域英国連邦極東軍司令官。

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