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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
411/462

真偽

2027年(令和9年)5月6日【地球東アジア 人類統合第12都市『氷城』防衛軍司令部内 病院】


 第12都市に到着後直ぐに無人防衛部隊を指揮していた黄少佐は、方向音痴の水素クラゲ”珍味53号”が成都人民防衛部隊に接触したとソールズベリー商会から聞き、「都市は違うものの人類統合政府防衛軍の同胞として役に充てることがないか」と思い、成都人民防衛部隊保護作戦に志願していた。


「この方は軍服の徽章から人民防衛部隊大佐と判明しています。もう直ぐ目を覚まされるでしょう」


指揮官らしき兵士の病室に入った黄少佐に部下の衛生兵が報告する。 


 都市内部十字路で人民防衛部隊ごと紫電に包んで昏倒させた黄星輝美は、黄少佐率いる第2都市精鋭部隊に失神している兵士達を病院まで搬送させた後、兵士達の体内組成を調べている。


 人民防衛部隊のランチプレートから身体組成維持と依存を深める化学薬品を多数検出した大月美衣子が懸念したとおり、成都人民防衛部隊兵士の体内組成は36時間で崩壊するように仕組まれていた。

 黄星輝美が調べた内容は火星の大月家へ伝えられ、現在は治療対処法が模索されている。


 この事はおそらく大佐自身も知らないし気付いていないだろう。

 これから現実を告げなければならない黄少佐の気分は、志願したとはいえ憂鬱なものだった。


「わかった。他の病室も診ておいてくれ」

「了解いたしました」


 黄少佐の指示を受けた衛生兵が病室を出ていく。


「まるでナスカで救助された時の私を見ているようだ……」


 思わず呟く黄少佐だった。



 失神した羅大佐がベッドの上で目を覚ますと見慣れない病室の天井が視界に入り、傍らには自分達と似た軍服を着用している兵士達が居た。


「お目覚めですか?大佐殿」


 ベッド脇に立っていた兵士達の中で少佐の徽章を付けた男性が進み出て敬礼した後、羅大佐に声を掛けていきた。


「……此処は何処だ?」

ベットに横たわったまま尋ねる羅大佐。


「同志大佐殿。私は人類統合第2都市防衛軍所属のコウ 浩宇ハオユー少佐であります。

 此処は人類統合第12都市『氷城ハルピン』防衛軍司令部内の病院です。

 大佐殿が率いた部隊は都市大通り広場前の十字路で、防衛装置によって意識を失い武装解除されたのです。

 生き残った700名の兵士達はもう直ぐ目を覚まされる頃でしょう」

真摯に答える黄少佐。




「……そうか。私と部隊の皆は貴官が率いる軍の捕虜となるのだな」


 ベッドに横たわる体に拘束具は無いが、武装解除されたと聞いて虜囚になると思う羅大佐。


「いいえ大佐殿。大佐殿は此処で”新しい情報”を得た後、イスラエル連邦軍に引き渡されるか、地球連合防衛軍(UNEDF)に所属するか選択する事ができるでしょう」


 思い詰めた様子の羅大佐に今後を説明する黄少佐。


「本当か?わざわざ捕まえた捕虜を解放するとは信じ難い。此方にとっては有難いが、我々を逃した貴官は粛清されるのではないか?」

黄少佐の答えを疑いつつも相手の立場を心配する羅大佐。


「ご心配頂き恐縮です。そもそも我々はあなた方を”保護”しているイスラエル連邦軍の攻撃から逃れるために、都市ごと北米大陸から同胞が生き残っていると思われる「氷城」まで逃れてきたのです。第12都市が生存の危機にあると知ったのはつい最近ですが」

事情を説明する黄少佐。


「都市ごと移動!?イスラエル連邦軍が貴官らを攻撃?そんな馬鹿な……」

予想外の事情を聞かされて困惑する羅大佐。


「失神から回復したばかりですが、部下の皆さんが皆目を覚ますまで此方の端末で今の状況を可能な限り把握なさって下さい。

 信じ難い内容かもしれませんが、これからの大佐殿や部下の皆さん、成都住民の皆さんの為にも今は”知る”事がなにより重要だと思いますから」


 タブレット端末を羅大佐に手渡す黄少佐。


「この端末で得られる情報は、我々が西側諸国と最終戦争後も戦っているという”偽りの歴史”を根本から否定するものです。

 私も最初は混乱しましたが、他の人類統合都市が軒並み壊滅しているのをこの目で見てからは認識を変えざるを得ませんでした」


「そうかもしれんが、プロパガンダかもしれんぞ」


 黄少佐に短く応える羅大佐の声音は相手を訝しむものだった。


「はい。ですが私達はもっと知る必要があると思います。真偽の判断はその後でも遅くないと愚考いたします」


 そう言うと黄少佐は敬礼し部下を引き連れて病室を出ていくのだった。


――――――2時間後


 病室のベットから起き上がって窓際の小さなテーブルと椅子へ移動した羅大佐は、黄少佐から手渡されたタブレット端末を食い入るように視ていた。

          

「……最終戦争は起きなかった!?8月に起きた戦闘は既に終わっている!?統合政府首都のエリア51が消滅?第2と第12以外の都市は壊滅!?」


 淡々と表示される情報は衝撃的で混乱する羅大佐だった。


「我々は偽りの史実を植え付けられ、言うがまま統合政府首脳に操られていたというのか……」


 羅大佐は混乱しつつも時間が経つにつれ思考が整理されていくと、彼の知る世界はガラガラと崩壊していくのだった。


 病室のドアがノックされトレーを持った黄少佐が入ってきたが、茫然自失の羅大佐は返事が出来なかった。


「……やはり大佐殿もですか」


 小さく呟いた黄少佐は、トレーをテーブルに置く。


「食欲はわかないと思いますが、食べて次の状況に備えるのは軍人の基本的な勤めではないかと愚考いたします。

 先程、部下の皆さんが全員目覚めました。皆、大佐殿の事を心配しておりました……」


「……そうか。そうだな」


 黄少佐の言葉に頷く羅大佐。


「部下の皆さんが居る病室のテレビにも先程お渡しした端末と同じ内容の情報を表示しております。皆さん動揺されていましたが、今は落ち着いて食事を採っています。

 大佐殿もお食事摂った後に皆さんと合流されますか?」


「そうするとしよう」


 黄少佐に答えると部下が収容されている病室の鍵を渡して黄少佐は退室する。


「捕えた相手に鍵を渡すだと?信じられん。だが今は部下と合流するのが先だ……。その前に……」


 黄少佐のお人よしに呆れつつ、食事を摂ろうとテーブルに置かれたトレーをよく見て驚く羅大佐。

 トレーの中身は少量ずつだが故郷である第11都市成都の誇る”四川料理”メニューづくしだった。


「麻婆豆腐に回鍋肉……サツマイモ麺まであるではないか!なんだこれは!……ふふふっ」


 不意に全てが馬鹿らしく感じて心の奥底から笑いが堪え切れない羅大佐。


「アッハッハッハ!これでは敵わんではないか!何が人類の敵だ!こんなに同じ人類の事を慮って満足させようと物資まで用意できる物量。こんな存在と我々は戦ってきたのか!?馬鹿馬鹿しくなってきたわ!」


 目尻に涙を浮かべて一人爆笑する羅大佐だった。


          ☨          ☨          ☨


――――――【人類統合第12都市『氷城』郊外】


 必死に制空権を確保しようと奮戦するパペット戦闘機中隊の努力をあざ笑うかの如く、太陽を背にした水陸両用戦闘艇カゲロウが死角からF15戦闘機に垂直に肉迫すると、十数メートルの至近距離でロケットランチャーを斉射する。


 回避する間もなく機体中央にロケット弾が直撃したF15戦闘機はエンジンが爆発四散して石のように落下していく。


 F15戦闘機を撃墜したカゲロウ戦闘艇はその勢いで眼下の陸上戦艦に肉薄するも、陸上戦艦甲板に配備されたアイアンドーム短距離迎撃システムから斉射された対空ミサイル19連発の爆発に機体を粉砕されて陸上戦艦近くの荒野に破片を散らしていく。


 肉迫したお返しとばかりに態勢を立て直したパペット戦闘機中隊が、地上で苦戦するメルカバ戦車大隊と対峙する第12都市防衛軍エイブラムス戦車に空対地ミサイルを次々と発射して撃破していく。


尚も迫るパペット中隊戦闘機に、第12都市防衛軍エイブラムス戦車に随伴していたブラッドレー歩兵戦闘車からスティンガー対空ミサイルが次々と発射されると、肉迫していたF16戦闘機に命中してコントロールを失った機体が空中分解しながら地面に叩きつけられる。


 成都人民防衛部隊が第12都市外縁部の突入に成功したものの、後続部隊は頑強な抵抗を続ける第12都市防衛軍と一進一退の戦闘を続けていた。



――――――【イスラエル連邦軍大陸派遣軍 陸上戦艦『ベングリオン』】


「成都人民防衛部隊との通信が途絶えています」


 未だ第12都市防衛軍と都市郊外で交戦を続けているイスラエル連邦軍司令部の通信オペレーターが参謀のアシュリー中佐に報告する。


「羅大佐の部隊は3時間前に都市内部に突入したと報告があったな?」

「はい。敵部隊側面をやり過ごして敵都市に突入していったとメルカバ戦車大隊長から報告がありました。

 成都人民防衛部隊が使用する無線通信機は旧ソ連製がベースで電波障害に脆弱です。

 上空の早期警戒機(E-2C)からは、敵都市中心部に近付くほどジャミングが酷く、データ通信及びレーダー解析不能との報告が入っています」


 アシュリー中佐に訊かれて答える通信オペレーター。


「敵都市北東から東部の大規模電波障害がこちら側まで拡大しているのかも知れないな……。

 パペット中隊管制官。クローン人間薬剤の制限時間はあとどれ位残っている?」


 通信区画の隣に居る無人戦闘機パペット中隊管制官に尋ねるアシュリー中佐。


「今回は食事後36時間です。制限時間2時間前には立っているのも難しい状態になるでしょう」


 クローン人間パイロットを管轄する管制官が答える。


「……まだ時間はあるな。羅大佐に連絡をつけて後続本隊の進入を成功させなければならん」


 どうにかして羅大佐との通信回復を模索するアシュリー中佐だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

コウ 浩宇ハオユー=人類統合第2都市『バンデンバーグ』住民代表。少佐。北米大陸西海岸の戦いで地球連合防衛軍ロイド提督と停戦を結んだ後、黄星三姉妹と行動を共にしている。

・羅=人類統合第11都市『成都』暫定代表。人民防衛部隊司令官も兼務。大佐。

・アシュリー=イスラエル連邦軍特殊部隊隊長。羅大佐率いる成都人民防衛部隊の軍事顧問も兼務。中佐。

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