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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
408/462

おもてなし【公表】

2027年(令和9年)5月5日午前10時【東京都千代田区永田町 首相官邸 会議室】


 テレビ会議を終えた直後の室内に内閣官房長官の春日洋一が入室すると、岩崎総理に近づく。


「失礼します。岩崎総理、先ほど角紅の仁志野社長から道頓堀に水素クラゲが出現したと連絡がありました」


 ユーロピア共和国ジャンヌ首相とテレビ会議を終えた直後の岩崎に春日官房長官が報告する。


「そうですか。ジャンヌ首相と今話しましたが、ネオ・ウラニクスでも大量の水素クラゲが工事現場に出現しているそうです」


 春日に応える岩崎。


「ウラニクスでもですか!

 仁志野社長は”今のところ優秀なドローン”とか”仮装系ユーチューバー”の仕業とかでマスコミは誤魔化せるが1日が限度、と話しています」


 驚きながらも状況を説明する春日。


「ここまで来ると多少の順序や演出の変更も致し方ありませんね。春日君、私は大阪へ行くよ。大阪都知事と一緒に道頓堀で木星原住生物ジュピタリアンとの交流を公表する。

 春日君は道頓堀での公表前に、文部科学大臣の鈴木君と共に木星探査船『おとひめ』の中間報告発表と知的原住生物の発見の可能性は高いとコメントしてください。急ぎでお願いします」


 春日官房長官に指示すると、急いで岩崎は大阪へ向かう準備を始めるのだった。


 大阪へ向かう途中の岩崎総理大臣にミツル商事大月満社長から、今後予想される木星原住生物ジュピタリアンの行動を”大脱出作戦と連動してはどうか”との提案が行われた。


 地球東アジア戦線での問題を解決すべく、新大阪へ向かう新幹線の中から列島各国首脳と連絡を取り合って協議に追われる岩崎総理大臣だった。


 事態は急展開を迎えようとしていた。


          ☨          ☨          ☨


 その日午後は重大発表が立て続けに行われ、火星日本列島住民にとって歴史的一日となった。


 午後1時、文部科学省とJAXA(宇宙航空研究開発機構)は首相官邸で共同会見を行い、木星探査隊が木星大気圏中層域で大量の植物性プランクトンを発見、木星に生物が存在したと発表した。


 共同会見に同席した春日官房長官は、火星衛星フォボス、ダイモスで規則的波長の電気信号が木星から定期的に観測されており、発信源の木星大赤斑最深部には何らかの知的生命体が存在する可能性は非常に高いと発言した。


 東京株式市場は宇宙関連銘柄に買い注文が殺到、宇宙シャトル便を運航するミツル商事と宇宙建設部門を持つ総合商社角紅の株価は25パーセント上昇、株式相場の混乱を避けるため取引停止となった。


 午後4時、MCDA(火星通商防衛協定)加盟国首脳は大阪都中央区道頓堀橋で共同会見を行い、日本国探査隊が木星大赤斑最深部に生息する木星原住生物(ジュピタリアン)と遭遇、地球人類の食に魅了されたジュピタリアンの要望によりMCDA加盟国は交流事業を明日から実施する事で合意したと発表した。


 共同会見では木星交流事業を統括する日本国国土交通大臣大塚蓮司から”モデルツアー”と称したジュピタリアン訪日予定が発表された。


「明日から各地で異星の方を沢山お出迎えするという事で戸惑う方も多いとは思いますが、おもてなしの心を持ってお出迎えいたしましょう」


 額に汗を滲ませながら日本列島各国住民に呼びかける大塚蓮司国土交通大臣も戸惑っているようだった。


 内閣府と厚生労働省は”木星原住生物ジュピタリアンとのお付き合い”と題して異星文明交流注意点についてホームページで告知を開始した。


 ”不用意に近づくと電撃を受ける可能性があります”

 ”政府の許可を受けた飲食店だけが食事を提供するのでむやみに食べ物を与えないでください”

 ”お礼の品物を”現物”で受け取った飲食店は最寄りの教育委員会か警察・消防署まで連絡を”


 この三点について日本国政府と各国は注意するよう告知した。

 特に三点目は文化財や水素・ヘリウムで対価を支払おうとするケースが想定され、思わぬ騒動や火災、爆発事故の発生が懸念されたためである。


 ジュピタリアンの”強い要望”によりモデルツアーには以下の場所が発表され、ツアー第一陣の到着予定は明朝午前11時と設定された。


 総務省と国土交通省からは、関係自治体と大手旅行代理店に受け入れ態勢準備が直ちに通達された。


(木星交流事業予定地と木星からの参加人員)

・大阪都 道頓堀“食い倒れ“地区 50名

・ユーロピア共和国 ネオ・ウラニクス”黄将中華定食・弁当工場見学ツアー”550名

・東京都中央区築地”すしばんざい”築地市場店 50名

・東京都港区お台場”B級グルメフェスティバル”(急遽開催) 150名

・台湾国”横浜中華街食べ放題ツアー”50名

・英国連邦極東 長崎県 五島列島”イワシパイ堪能ツアー”30名


 MCDA加盟各国は上記のツアーを第一陣到着以降、6時間毎に現地で受け入れる事となる。


 モデルツアー開催地となった各国自治体や警察、ツアー添乗員を派遣する旅行代理店は、国土交通省やミツル商事からの情報を頼りに手探りで受け入れ態勢に狂奔することとなった。


 午後5時、総合商社角紅、ミツル商事、ソールズベリー商会はユーロピア共和国と共に火星ウラニクス湖畔に木星と直接物流送還を行う施設の建設及び木星衛星軌道上に木星知的生物(ジュピタリアン)向け食料生産衛星サテライトを建設する事で合意したと発表した。


 MCDA加盟国共同会見により月面ユニオンシティ市場では、円、極東ポンドと極東ユーロ建て債券に買いが殺到し金利が急低下した。


 これを嫌気したイスラエル連邦の個人投資家がユニオンシティ・ドルやイスラエル・ドルを売って円を買う動きが強まり、前日比20円上昇という劇的な独歩高となり人類生存圏の経済的混乱を懸念した日本国財務省が緊急措置として東京とユニオンシティの為替取引を当面の期間停止すると発表した。


 市場の短絡的反応は未だ為替差益を狙う地球の古い投資家だけであり、大多数の地球人類の見方は好意的異星人との遭遇に期待を抱かせるものだった。


 火星人=マルス·アカデミーに続く2例目となる木星原住生物ジュピタリアンの交流実現に、日本国民の多くは興奮していた。


 夕方に発表された列島各国企業による火星·木星開発は新たな開拓時代の始まりだと多くの地球人類、特に日本国民は前向きに受け止めたのだった。



 火星圏地球人類を興奮させた発表について地球イスラエル連邦政府の反応は非常に薄く、東京の大使館や南半球ヘラス大陸ガリラヤ州総領事館の反応は『関心を持って状況を注視している』とのコメントだけであり、地球極東タカマガハラのイスラエル連邦政府に至っては何の反応も示さなかった。


 地球東アジア戦線でのイスラエル連邦軍による特別軍事作戦が重大な局面に差し掛かっており、自国に有利な状況を形成したいイスラエル連邦政府としては、”部外者”である火星圏地球人類の目が木星に向く事は非常に都合が良い事だと判断したからであった。

ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・岩崎 政宗=日本国内閣総理大臣。

・春日 洋一=元ミツル商事社員。日本国救国暫定臨時政権の内閣官房長官となる。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・大塚 蓮司=立憲地球党国会対策委員。政治家として党派を超えた岩崎の盟友。我妻新政権では冷遇されていたが、救国暫定臨時政権では閣僚(国土交通大臣)となった。

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