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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
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直接訪問ダメ!絶対!

2027年(令和9年)5月5日午前4時35分【第12都市西方20Km地点 イスラエル連邦軍大陸派遣軍 水陸両用戦艦『ベングリオン』 】


「敵都市北東及び東方から進撃していた日本自衛隊の戦域で大規模な通信障害を確認。

 強力なジャミングで統合通信システムのリンクが途絶しました。

 レーダーも効かない為、戦況の詳細は不明」


 管制スペースからオペレーターが報告する。


「此方はジャミングされていないのか?」

「はい。今のところは。多方面から連携して攻略する作戦が遂行不可能となっています」


 バーネット中将の問いに答える作戦参謀。


「よし!敵が日本自衛隊側に気を取られている今が攻撃のチャンスだ。作戦コード”ジェリコ”を発動する。戦術核ミサイル発射態勢!」


 バーネット中将の作戦発動命令は、ジャミングされていないイスラエル連邦軍と衛星軌道上の宇宙空母『サラトガ』に統合指揮通信システムで通達され、兵士達は核使用後に備えた装備の準備を急ぐのだった。


          ☨          ☨          ☨ 


2027年(令和9年)5月5日【木星衛星軌道上 マルス・アカデミー木星再生作業船団 基幹母艦『ケラエノⅠ』】


「大赤斑最深部に通常と異なる重力場と高周波電波を検知。重力場は木星重力の3000倍。まるで底なし沼が形成されたようだ」


 顔を蒼ざめさせた管制官が作業船団隊長のリアに報告する。


「大赤斑最深部はジュピタリアン生息域です。何が起きたというのかしら……『おとひめ』を至急呼び出して!」


 慌ててJAXA木星探査隊に連絡を取るように指示するリア隊長だった。



――――――【太陽系第5惑星『木星』大赤斑最深部】


 チューブワームの長を取り囲んでいた数億の水素クラゲは、琴乃羽美鶴が振る舞う試食メニューを次々と堪能していた。


「さあさあ!これからだよ!美鶴様の腕前はこんなものじゃあないっ!私は料理王になるっ!」


 中華鍋を左手で忙しなく動かして回鍋肉を作りながら右の拳を振り上げる琴乃羽美鶴。


「あちゃ~美鶴姉様完全にキマッているねぇ」「軽い興奮状態でしょうか?」


 狂騒状態にある試食会場で彼女を見つめる由美子と華子はドン引きしていた。


 何しろ傘の直径が3メートル近い水素クラゲが数億体も密集して周辺を傘を点滅させながら狂喜乱舞しているのだから。


この水素クラゲによる狂喜乱舞は結構な異常現象を巻き起こしてマルス・アカデミー基幹母艦で騒ぎになっているのだが、まだ誰も知らない。


 勿論その原因は琴乃羽美鶴が振る舞う木星地産地消をテーマとした”黄将メニュー”の数々である。


 食傷気味となったチューブワームの長に代わり、見守っていた水素クラゲ達を急遽味見役(毒見役かもしれないが)として琴乃羽が現地採用したのである。


 現時点で試食は順調に進行しており、残すメニューもあと数品となっていた。


 琴乃羽が食材を直ぐに取り出しやすいように食材コンテナを適宜キッチン後方に移動させ、からのコンテナを速やかに回収していく名取由美子と天草華子。


「データもしっかり収集出来たし、そろそろメニューは完全制覇っしょ」


 携帯端末のデータを解析しながら名取由美子が呟く。


「代替食材は上手く木星知的原住生物群ジュピタリアンにハマりましたわね」


 コンテナを回収しながら天草華子が応える。


 何とか修羅場を乗り越えられそうだと安堵しつつあった二人だった。

 しかし、修羅場が始まったばかりだと言うことに気付かない二人だった。



 未知のグルメに遭遇したジュピタリアンの地球人類料理への探究心はかつてなく高まっていた。


『オシエテオシエテ』『私達モ作レルノカ?』『ホカニオイシイモノハアルノカ?』


 ヒジキもどきの唐揚げ作りに勤しむ琴乃羽美鶴にとって邪魔なことこの上ない。


 だんだんとストレスが溜まる琴乃羽。


『チンジャオロースノセツメイタノム』

「うがーっ!知るかッ!そんなの黃将に電話しなさいよっ!」


 水素クラゲのオシエテ攻勢にブチ切れてしまう琴乃羽。


『ジャア、黃将ノ住所ト電話番号アドレスヲオシエテ』


 食い下がる水素クラゲ。


「それぐらいググりなさいっ!」


 またしてもブチ切れる琴乃羽。


「あ、あのっ!ググり方くらいなら私が···」


 おずおずと手を挙げ勇気を振り絞った天草華子が水素クラゲに申し出る。


『オオオ···地獄ニ仏トハコノコトカ···』

感激する水素クラゲ。


「なんですってぇ〜」


 疲労著しいため何にでもブチ切れてしまう琴乃羽だった。


「···いいのかなぁ~簡単に住所と電話番号アドレス教えても」


 うーむと考え込む名取由美子だった。


「それでは黃将本店の住所はココですね~。それと最近出来たウラニクス定食工場はココですね~」


 携帯端末の画面を示して水素クラゲに伝える華子。

 水素クラゲが触手の一本を華子が手にする携帯端末画面に接続させて情報を入手している。


「ほぇ~コレはタッチパネルっしょ」


 水素クラゲが想像以上の能力を持っていることに関心する由美子。


 天草華子と名取由美子は、せいぜい電話やメール便が殺到する程度だろうなと想像しているのだった。


 華子達の会話を耳にしてちょっと不味いと感じた琴乃羽が水素クラゲ達に釘を刺す。


「ちょっと珍味達!まさか直接行くんじゃないでしょうね?」


『ギクリ』


 問われて素直に態度に出てしまう水素クラゲ達。


「あのねぇ~。手ぶらで大挙して押し掛けたら迷惑でしょうが!直接訪問ダメ!絶対!」


 水素クラゲ達に両手でバツマークを掲げる琴乃羽。


『ウゥゥ……』

 

 ダメ出しされてしおしおと引き下がる水素クラゲ達。


『手ブラデナケレバイイッテコトダナ』


 一体の水素クラゲがボソリと呟くと琴乃羽ヲ囲む輪から離れて雲海の遥か彼方へと飛び立って行く。


 2時間後、マルス·アカデミー作業船団の基幹母艦『ケラエノⅠ』に水素クラゲが押し寄せて巨大な船体に接触しては離れていくという現象が相次いで発生した。


 作業船団のリア隊長は大いに驚いたが、船体には損傷はなくセンサー類も正常に稼働していたため、日頃の定食供給への感謝を示した行為だろうと理解したのだった。


 唯一、ケラエノⅠの情報処理オペレーターが、水素クラゲ到来時にホストコンピュータへ無数のアクセスが有った痕跡を確認したが、データベースが書き換えられたりした痕跡は無かったためリア隊長への報告は行わなかった。


 またその日、火星日本列島大阪都中央区道頓堀川を震源とするマグニチュード1の直下型地震が発生した。


 直下型地震とはいうものの、何故か体感震度はゼロに近かった。


 日本国気象庁や大阪都担当者はマルス·アカデミーの生態環境保護育成プログラムによる不規則な地盤調整だろうと判断し、ホームページ上での公表のみに留め、首相官邸や他省庁、列島各国への連絡は特にしなかった。



※大阪都は第三次世界大戦直前に特別行政区として誕生しています。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・琴乃羽 美鶴 =ミツル商事サブカルチャー部門責任者。元JAXA種子島宇宙センター宇宙文字解析室長。木星原住生物と親しい為、木星探査隊に出向扱い。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。心的外傷療養目的で木星探査に同行中。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・天草 華子=木星探査船『おとひめ』船長。神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。木星探査船は大月家結婚披露宴のビンゴ大会で1位となった景品で取得していた。心的外傷療養目的で木星探査に同行中。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・リア=マルス・アカデミー・木星再生作業船団隊長。から揚げ大好き。

・マイケル・バーネット=イスラエル連邦軍陸軍中将。大陸派遣軍司令官。

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