突撃前進
2027年(令和9年)5月5日午前3時45分【第12都市『氷城』郊外 人民防衛部隊塹壕陣地】
『羅大佐。到着した補充機甲部隊と共に今すぐ塹壕陣地から出撃せよ』
通信兵が差し出した無線電話を羅大佐が取るなり、アシュリー中佐が命令する。
「敵機動戦闘艇の対策は?」
羅大佐が尋ねる。
『パペット中隊は全機出撃しました。制空権は我々にあります。さあ!攻略開始です!』
「畏まりました」
攻勢を命令するアシュリー中佐に応じるしかない羅大佐だった。
やがて戦場上空にパペット中隊が到着した証となるジェットエンジンの轟音が響き渡り、幾筋もの火箭がパペット中隊が居る空から第12都市へ伸びていき、爆発する。
「総員塹壕陣地から出るんだ!T90戦車を先頭に立てて全員突撃せよ!」
腰のホルダーから士官用の拳銃を取り出して高く掲げると全軍突撃命令を下す羅大佐だった。
T90戦車のディーゼルエンジンが黒煙を噴き上げて前進する戦車の後ろに続く人民防衛部隊は第12都市へ向かって突撃を開始するのだった。
――――――同日午前4時【イスラエル連邦軍大陸派遣軍 水陸両用戦艦『ベングリオン』】
航空母艦サイズの水陸両用戦艦前甲板にある3連装レールガン砲塔周囲は高熱のため陽炎が立ち上り、臨時設置された冷却器がフル稼働して水蒸気を生じさせながら辛うじて砲身の過熱変形を防いでいた。
「レールガン砲身エネルギー充填120%!」「冷却タービンフル稼働するも異常なし」
「発射準備完了!」
「目標第12都市中央。撃ち方始め!」
レールガン発射準備が整って直ぐにバーネット中将が射撃命令を下す。
ベングリオン前部甲板の3連装レールガンがドバン!と大音量でチタン合金弾頭を射出すると、冷却した砲身から立ち昇る水蒸気でベングリオン甲板が白煙に包まれていく。
砲身は直ぐに冷却器で冷やされると砲塔内では次弾の発射準備が始まる。
発射時点で音速を超えたレールガン砲弾は、水平方向に真っ直ぐ飛翔していく。
パペット戦闘機中隊が発射した空対地ミサイルを追いかけるように遥か西方から流れ星のような青白い光が水平方向で飛来して第12都市に命中する。
さらに高空から隕石かと見まごうような赤色に輝く光が第12都市に降り注いで都市上空の所々を緑色に変色させながら激しい爆発音が響き渡る。
衛星軌道上からユニオンシティ軍宇宙空母『サラトガ』がMOAB(大規模爆風爆弾)を連続投射してイスラエル連邦軍を支援していたのである。
総力を上げた空と宇宙からの攻撃で特に反撃がない事をチャンス到来と見たバーネット中将は、遂に陸上部隊を前進させる事を決断する。
本隊から断続的に射撃する155mm榴弾砲と多連装ロケット砲、ベングリオンの主砲レールガンによる支援を受け、メルカバ戦車大隊が第11都市人民防衛部隊を追いかけるように全速力で突撃を開始する。
「敵都市から敵装甲部隊出撃を確認!エイブラムス戦車、ブラッドレー装甲戦闘車を確認!」
T90戦車砲塔の後部にしがみついて戦場を監視していた観測班が報告する。
「T90戦車隊は速度を落としてメルカバ戦車大隊と突撃速度を合わせるんだ。総員武器を構えろ。突撃準備」
T90戦車砲塔後方に取りついた羅大佐は、メルカバ戦車大隊突撃のタイミングを見計らうべく目を凝らして戦場を見渡す。
羅大佐の乗るT90戦車のすぐ側を後方からメルカバ戦車大隊が追い付き、追い越して行く。
しばらくすると、至近距離でメルカバ戦車大隊とエイブラムス戦車、ブラッドレー装甲戦闘車の砲撃戦が始まるのだった。
第12都市から出てきた敵戦車部隊は、羅大佐の人民防衛部隊には見向きもせずにメルカバ戦車大隊にだけ突撃していく。
戦闘状況に違和感を感じつつ、ここが攻め時だと思う羅大佐が決断する。
「人民防衛部隊各員は戦車から下車!敵のエイブラムス戦車は友軍のメルカバ戦車に任せて突撃!」
走行中のT90戦車から飛び降りてピストル片手に前進突撃を部下に命令する羅大佐。
双方の戦車が至近距離で撃ち合う中、羅大佐率いる人民防衛部隊兵士たちは身体を屈めて小銃や対戦車ミサイルを抱えながら前進していくのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・羅=第11都市『成都』暫定代表。人民防衛部隊司令官も兼務する。大佐。
・アシュリー=イスラエル連邦軍特殊部隊隊長。成都人民防衛部隊軍事顧問。中佐。
・マイケル・バーネット=イスラエル連邦軍陸軍中将。ユーラシア大陸派遣軍司令官。




