独自の転移方法
2027年(令和9年)5月4日午前10時【地球東アジア 人類統合第12都市『氷城』(旧中華人民共和国 黒龍江省哈爾濱)】
黄星輝美の誘導に従って氷城に先行到着出来た第2都市『バンデンバーグ』暫定代表の黄少佐は、選抜部隊隊員が再編された都市防衛機能を調整している合間に休憩がてら、司令部脇のテラスから氷城市街地を見下ろしていた。
「輝美様が都市防衛機能を把握してからさほど時間も経っていないのに、これ程大量のモノを生産できるとは……」
ピラミッド地下基地から出撃する大量のセラミック製ドローンを感嘆の眼差しで眺める黄少佐。
セラミック製ドローンは、黄少佐も見慣れた水陸両用戦闘機動艇”カゲロウ”に酷似しているが、機体は二回りほど小さく、ぷくりと膨らんだ胴体部分には大量のセラミック片が詰め込まれている。
カゲロウの如く大量のドローンが群集して蚊柱の様な編隊を幾つも形成して都市上空を旋回している。
「此方は掌握した。後は地球連合防衛軍次第だが……」
マルス・アカデミー通信システムを使った携帯電話を使って東方に居る協力者と連絡を取る黄少佐。
黄少佐が持つ携帯電話の上端部からグリーンの淡い光が30センチほど扇形に広がると、ホログラフィック画面が形成されて通話相手であるソールズベリー卿が映し出されていた。
「ソールズベリー卿。第12都市に先行した黄です。都市防衛システムの掌握は黄星輝美様によって掌握されました。イスラエル連邦軍の攻撃をこれまで3度撃退いたしました」
『ソールズベリーです。大健闘ですな黄少佐。とはいえ、防衛システムの稼働限界に問題はありませんか?』
黄少佐の報告を讃えながらも懸念を示すソールズベリー。
「おっしゃる通り問題があります。輝美様によると、惑星磁力線から抽出したエネルギーを都市原子炉のエネルギーに加えて防衛機能を強化してきましたが、惑星磁力線エネルギーの抽出能力が限界に近いとの事でした。次の攻勢を持ち堪えられるか自信が無いとおっしゃっておられます」
『不味いですね。此方の超長距離輸送システムは未だ調整中です。
さらに不味いことに、イスラエル連邦軍の次の攻撃は20時間後と日本国自衛隊に通達がありました』
黄少佐の報告に顔を顰めるソールズベリーが更なる情報を伝える。
「そうですか。次の攻撃は激しくなりそうですね……。
この状況を打開するために輝美様は、『バンデンバーグ』で待機している舞様、守美様と共同で”独自の転移方法”を実行する事をご決断されました」
『独自の転移方法ですか!?』
思ってもみなかった話に驚くソールズベリー。
「黄星様方はバンデンバーグを移動させている途中に、旧ロシア連邦秘密軍事都市(ユジュニ375)から核兵器を収集しています。
この核兵器を使って強力な疑似惑星磁力線による限定的異相空間を形成してバンデンバーグごと第12都市を新天地へ転移させるのです」
あらかじめ黄星輝美から説明を受けていた黄少佐が説明する。
『新天地とは何処になるのでしょうか?
カッパドキア地下都市か南米オルメカ地下施設?
それとも月面ですか?』
想像を超える状況に焦って思いつくままに尋ねるソールズベリー卿。
「出来ればもっと遠くへ……と考えています。今はまだお話出来ません」
マルス・アカデミー携帯端末と言えども、イスラエル連邦軍の情報収集能力を警戒して明確な答えは噤む黄少佐だった。
『新天地への転移は分かりましたが、核兵器を使用しての異相空間転移ですか······。新たな大変動の引き金にならなければいいのですが···』
地球環境への影響を懸念するソールズベリー。北米大陸西海岸や欧州英国には復興中の人類都市があるのだ。
「ソールズベリー卿のご懸念はごもっともです。ですが、このまま同胞を見殺しには出来ないのです」
決意の程が伺える強い光を宿した瞳を向ける黄少佐だった。




