ジェリコ
【旧中華人民共和国 瀋陽郊外 イスラエル連邦軍大陸派遣軍 水陸両用陸上戦艦『ベングリオン』】
「砲爆撃の効果が皆無!?」
戦場上空を旋回しながら戦闘管制と情報収集をしていた早期警戒管制機(E-2C)からの報告を聞いたマイケル・バーネット中将が思わず聞き返す。
『三度にわたる砲爆撃の後も、敵都市の防衛能力機能低下は確認されませんでした。
無人戦闘機中隊のレーザー誘導ミサイルや精密爆弾は、レーザーがシールドで偏光され無効化。目標補足出来ませんでした』
早期警戒管制機の機長が報告しながら戦闘録画を再生させる。
「誘導ミサイルが無効化されたため、無人戦闘機による至近距離での爆弾投下を試みていますが効果がありません」
録画では1機のF15無人戦闘機が第12都市上空に低空から侵入を試みるが都市外縁部に差し掛かった途端、何かの壁に激しく激突したように機体がひしゃげ、爆発炎上する。
爆発炎上した機体の破片は全て都市外部に飛び散っており、都市内部にダメージを与えた様に見えなかった。
『この後1時間毎に同様の示威行動を行っておりますが、全て同じ結果が続いております』
「ぐぬぅ」
機長の報告に顔を顰めるバーネット中将。
「まるで目に見えない壁に遮られているようです。電磁シールドが実用化されているのでしょうか」
アシュリー中佐が感想を口にする。
「電磁シールドを展開するとなると、強力な重力場を形成するために大量の発電能力が必要だ。
それこそシャドウ帝国本拠地のエリア51並の設備が。
クローン人間残党にその様な設備や能力が残っているといは思えんのだが……」
疑問を感じ首を捻るバーネット中将。
「おっしゃる通りです。我々が支配下に置いた第11都市にはその様な設備はありませんでした」
アシュリー中佐も首を捻る。
「……弾薬備蓄も減りつつある。次の攻撃を最終とする。あらゆる手段を使ってでもあのクローン人間都市を落とすのだ!
これより最終作戦”ジェリコ”を発動準備せよ。最終攻撃ではベングリオンの電磁砲を使用する。水素エンジン最大稼働で電力供給を確保せよ。
ユーラシア大陸で我々が本格的な入植活動を行うには抵抗勢力の完璧な殲滅が求められる、とニタニエフ首相閣下も言っておられるのだ」
腹を決めたバーネット中将は、司令部要員に最終作戦準備を命じるのだった。
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2026年(令和8年)5月3日午前4時、日本国防衛省は国内外の報道各社に以下のプレスリリースを一斉に発信した。
『防衛省統合幕僚監部4時発表。
日本国陸上自衛隊第7師団、航空・宇宙自衛隊からなる地球派遣群は旧中華人民共和国黒竜江省において人道支援及び平和維持活動に基づく新たな行動を開始いたしました』
軍事機密の流出を警戒した日本国防衛省のプレスリリースは具体的内容が殆どなかったため、国内マスコミの反応は鈍かった。
大半のマスコミは追加プレスリリース又は午前中に予定されている定例記者会見まで事態を静観するというものだった。
2026年(令和8年)5月3日午前4時15分【極東BBC TV・ラジオニュース】
『イスラエル連邦首相府は、日本国防衛省がプレスリリースを出す2時間前に旧中国黒竜江省ハルピンを拠点とするシャドウ帝国軍残存部隊を排除すべく日本国自衛隊と共同軍事行動を開始した、と発表しています』
『現地のソールズベリー記者によると、イスラエル連邦軍の大規模な機甲部隊および中隊規模の航空戦力が日本国陸上自衛隊の支援を受けてシャドウ帝国人類統合第12都市『氷城』に対して攻略作戦を展開中との事です』
――――――同日午前4時16分【ユーロピア共和国公共放送 チャンネル・2(ドゥ)】
『新大陸中央部ネオ・ウラニクスで復興滞在中のジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相は、旧中国国内における日本とイスラエルの軍事行動を確認していると述べた上で『大量破壊兵器の安易な使用による最終解決には同意しない』とコメントしました。
ユーロピア共和国外務省はニューガリア駐在のイスラエル連邦総領事と日本大使に電話で懸念を伝達したとの事です』
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2026年(令和8年)5月3日5時10分【東京都千代田区永田町 首相官邸】
午前3時に始まったNSC(国家安全保障会議)は2時間後に全閣僚を集めた臨時閣議へと拡大されて続いていた。
「やはり地球での大規模軍事行動はネガティブな反応が多いですね」
「分かっていたこととはいえ、国外における大規模軍事行動は未だ国民にアレルギー反応があるのだという事を痛感させられますね」
嘆息する岩崎総理大臣に応える春日官房長官。
「現時点で自衛隊に損害は出ていません。今回の主役はイスラエル連邦です。”今のところは”」
桑田防衛大臣がタブレット端末をチェックしながら二人に報告する。
「”こちらの作戦”の首尾はどうですか?」
岩崎総理が訊く。
「こちら側が保護又は保護を予定している地球上の人類統合都市住民36万人の移送方法が詰めきれていません。技術的な問題が残っているのです」
渋い顔で答える桑田防衛大臣。
「この作戦でイスラエル連邦が核を使用する可能性は?」
「現時点で攻略作戦は3回失敗しています。タカマガハラから現地までの補給状況を考えると、イスラエル連邦軍の弾薬が不足するまでにそれ程の時間はかからないでしょう。
次の攻勢がとん挫すれば自衛隊に充分な警告をしないまま突発的に戦術核兵器を使用する可能性は高いでしょう」
岩崎の問いに答える桑田の顔が険しさを増していた。
「総理。現時点での核兵器使用は巨大ワーム襲撃で動揺している国民に想像以上の心理的負荷をかける事になります」
春日官房長官が指摘する。
「甘木経済産業大臣。例のAI掲示板からマルス・アカデミーがらみで報告があるそうですね。お願いします」
NSC開催前に岩崎の個人携帯に甘木から第一報が入っており、内容を理解している岩崎が甘木経済産業大臣に発言を促す。
「マルス・アカデミーが日本列島全域に施している生態環境保護育成システムの稼働状況が巨大ワーム襲撃時から急激に上昇したままです。
マルス・アカデミー駐在代表の大月美衣子氏によると日本国民の不安定さが増大して危険な状態に近づきつつあると警告を受けました」
甘木が報告すると、出席した閣僚達が息を吞む。
「桑田大臣によるとイスラエルの核使用は高いという。地球戦線の核使用が国民のパニックを招いてマルス・アカデミー・システムの稼働に繋がると……厄介ですな」
思わず腕組して顔をしかめる大塚蓮司国土交通大臣。
「核兵器使用というネガティブニュースよりもポジティブかつセンセーショナルなニュースを国民に提供……ですか。
木星調査隊からの報告は皆さんに上がっていると思いますが、知的生命体の存在を含めた木星調査内容の中間発表をすべきではないでしょうか?」
鈴木文部科学大臣が閣僚達に提案する。
「最近の報告では木星知的原住生物群の好物はから揚げらしいですよ?」
おどけた感じで情報を追加する鈴木。
鈴木文部科学大臣の提案と報告を受けた閣僚達は驚きつつも、センセーショナルかつポジティブな情報は他に見当たらないとして公表すべきとの意見が大勢を占めるのだった。
「地球での戦況は予断を許しません。公表の準備を急ぎましょう。
鈴木さん、JAXAを前面に出して”ハヤブサ以来の快挙”として現時点での木星探査報告と木星知的原住生物群とのファースト・コンタクトに成功したと公表するよう手配願います」
閣議でジュピタリアン公表を決めた岩崎総理大臣が鈴木文部科学大臣に提案を実行するよう命令するのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・岩崎 政宗=日本国内閣総理大臣。
・春日 洋一=元ミツル商事社員。日本国救国暫定臨時政権の内閣官房長官となる。
*イラストはイラストレーター 倖 様です。
・桑田=日本国防衛大臣。
・甘木=日本国経済産業大臣。
・鈴木=日本国文部科学大臣。
・大塚 蓮司=立憲地球党国会対策委員。政治家として党派を超えた岩崎の盟友。我妻新政権では冷遇されていたが、救国暫定臨時政権では閣僚(国土交通大臣)となった。
・マイケルバーネット=イスラエル連邦大陸派遣軍司令官。陸軍中将。
・アシュリー=イスラエル連邦軍特殊部隊隊長。バーネット中将の副官も兼務。中佐。第11都市成都人民防衛部隊は彼の指揮下になっている。




