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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
391/462

具材

2027年(令和9年)5月2日【同地域の空中 ソールズベリー商会 多目的船『大黒屋丸Ⅱ』】


 マルス・アカデミー・木星再生作業船団で”おねだり”する水素クラゲ達から始まったから揚げブームが惑星を超えて波及したのかは不明である。


 ただ、ソールズベリー商会の岬渚紗が火星ウラニクス湖に居る大月家一行から仕入れた情報(1/30ネッシーフィギュア)によると、木星原住生物ジュピタリアンとの中華料理実証実験が行われたらしい。


 何らかの影響が地球にまで生じるのではないかと胸騒ぎをしていた岬渚紗であった。


 故に自動航行する大黒屋丸Ⅱの甲板でソールズベリー商会一同が昼食のから揚げ定食を厨房で温めなおして食べている時に何処からともなく現れた水素クラゲが、ゆらゆらと空中を漂いながら岬渚紗に近寄ってきても冷静に対応できた。


「……つまり木星まで一緒に来て、から揚げ定食を食べられる様にして欲しいと言う事ですね?」


 一同が落ち着いた所でソールズベリー商会長が水素クラゲから事情を聴いた後に要件を纏める。


「マスター。これはとてもとてもビッグなチャンスでは?」


 スススとソールズベリーに擦り寄るマルス・アンドロイドのクリスが、このままでは赤字必須の財務状況が表示されたタブレット端末を顔前に持ってきて見せつける。

 

「分かった、分かったから!ちょっと待って!」


 グイグイとタブレット端末を顔に押し付けようとするクリスを抑えるソールズベリー。


「……コホン。手段の問題は置いておくとして、我々がこのまま木星に行っても現状は何も変わらない。ミス岬は理由が解るかね?」


 咳払いをして気を取り直したソールズベリーが岬に尋ねる。


「はい商会長。先ず食材の問題です。大量のから揚げの材料となる肉を何処から入手するのか?ですね」


 岬が答える。


「イエス!レディは大変商売人として仕入れの問題点に気が付きました。クリスもちょっとは見習って欲しい所です」


 ソールズベリーが岬を褒めながらジト目でクリスを見る。


「マスター。私はマルス・メイド・アンドロイドとしてマスターの覇道を支えるのみ。肉の入手先といった些事に惑わされないのであります」


 お淑やかにしれっと言い返すクリス。


「少し前まで老後の備えで退職金をあてにしていたマルス・メイド・アンドロイドが何を言っている……」


 呆れるソールズベリー。


「そんなことよりもマスター。話を元に戻して現実的に考えると、野生の鳥など地球上ではほぼ絶滅しているでしょう。

 マスターの祖国グレートブリテンが復興事業として始めたニューグラスゴー沖で育て上げた養殖モノの北海タラならフィッシュフライとして利用できるでしょう」


 会話での不利を察知したクリスが真面目モードに切り替えて答える。


「商会長。ネオ・ロサンゼルスのジョーンズ将軍にもご相談されては如何でしょうか?ドーム都市で畜産を試行されていたと思います」


 岬が提案する。


「ネオ・ロサンゼルスか。から揚げ分であれば多少は何とかなるか。

 肉が足りなくてもあそこは”大豆加工肉ソイ・ミート”も試していた筈だ」


 岬の提案を思案していたソールズベリーが手をポンと叩いて具材を思い浮かべていく。


「クリス。ジョーンズ将軍にビッグビジネスの話をしたいのでオンライン通信を頼む。

 ニューグラスゴーのロイド提督にも参加して頂こう。予定より早く本場英国産フィッシュ&チップスが復活するかも知れない。

 ミス岬は火星の大月家に連絡を。おそらくから揚げ定食の問題で一番の調整役は大月家以外にないでしょう」


 生き生きとしながらクリスと岬に指示するソールズベリー。


「マスターはやはり商売の時が生き生きとしている様に見えます」「そうですね。MI6の下請け時よりもいい顔をしていますね」


 オンライン商談に臨むべ操舵室へ戻るソールズベリーの後を追いながらクリスと岬は自らの主について話し合うのだった。



 3時間後、ネオ・ロサンゼルスのジョーンズ将軍、ニューグラスゴーのロイド提督との商談を終えたばかりのソールズベリーに陸上自衛隊の鷹匠准将から緊急通信が入る。


『ソールズベリー商会長!肉だ!から揚げの肉を大量にくれ!』


 通信が繋がると同時に捲し立てる鷹匠准将。

 ホワイトピース艦長の名取准将から、来訪した水素クラゲが脱出作戦に協力する可能性があると報告を受けたためである。


「かしこまりました。既に肉の手配は済んでいます。

 後は費用の問題ですが幾らまで自衛隊は、いや貴国は出せるのでしょうか?

 今回は北米大陸と欧州英国から軍設備を利用した調達ルートになるのです。非常に割高になりますよ?」


 冷静に答えるソールズベリーだった。


          ☨          ☨          ☨


【人類統合第2都市『バンデンバーグ』人民広場 防衛軍臨時司令部】


「予定を変更する!氷城ハルピン突入部隊は2時間後に出撃する!」


 都市の中央に在る人民広場に集まる将兵に向かって宣言する黄少佐。


 人類統合第12都市攻略戦が始まったとの知らせが届いた臨時司令部では、黄少佐が先行して第12都市防衛司令部に突入して防衛システムを掌握すべく、精鋭部隊が編成されて出撃準備で慌ただしく将兵が出入りしている。


 慌ただしく臨時司令部を出入りする将兵をよそに、広場に張られた天幕の片隅では黄星舞が1体の水素クラゲと情報交換を行っていた。


「ふむふむなるほどなのだぞっ。つまり貴方達はから揚げ定食が食べたい、私達は地球から脱出したい。つまり、WinWinってことなのだぞっ!」


 前方を進軍する陸上自衛隊第7師団から配達されたから揚げ定食のトレーからから揚げを1個水素クラゲに差し出して情報を収集する黄星舞。


 差し出されたから揚げを上機嫌で食べる水素クラゲの傘が幸せ色に明滅する。


「それじゃあ舞姉と守姉も全力でバンデンバーグ(ここ)を脱出させる事に集中出来るのだぞっ!」


 上機嫌でから揚げ定食を食べる黄星輝美。


「その前に私達は第12都市の皆さんを救出する事が重要になってきますね~。

18万人の眠っている住民を戦闘の最中に運び出す方法を考えないとですねぇ……」


 上品にから揚げを噛みしめながら思案する黄星守美。


「人海戦術でスリーピングカプセルを運び出すのはとてもムリなのだぞっと」


 腕を組んで思案する黄星舞。


「バンデンバーグみたいに第12都市も荷車に乗せちゃダメなのかだぞっ!」


 から揚げをフォークに突き刺したままうーむと唸って考え込む輝美。


「私達の誰か一人でもそれは可能だけど、攻撃から都市を守るシールド展開までは力が足りないかもですねぇ」


 守美が問題を指摘する。


「やはりアレを使う場面になるのだぞっと」


 ぼそりと舞が呟く。


「やっぱり使っちゃいますかぁ……」


 応じる守美。


「やっぱり使うしか道が無いのだぞっ!」


 頷く輝美。


 広場の端に並べている秘密軍事都市”ユジュニ375”から持ち帰った貨物コンテナを見つめた訪問者三姉妹は覚悟を決めると、防衛軍指揮官の黄少佐を呼ぶのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ソールズベリー=英国連邦極東企業『ソールズベリー・カンパニー』会長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・メイド・アンドロイド。

・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

・鷹匠=日本国陸上自衛隊第7師団師団長。准将。


・黄星 舞=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。元神聖女子学院小等部新任教師。守美の姉的ポジション。

・黄星 守美=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。元神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。

・黄星 輝美=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。神聖女子学院小等部6年生に転入していた。舞と守美の妹的存在。

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