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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
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ランチタイムの訪問者

水素クラゲ、チューブワーム、水素クジラなど木星原住生物を”ジュピタリアン”と呼称を変えていく予定ですm(__)m

 2027年4月30日に始まったイスラエル連邦大陸派遣軍による人類統合第12都市『氷城ハルピン』攻略は、強力な氷城防衛軍の抵抗により、先鋒部隊の第11都市成都人民防衛部隊が大損害を受けて前進できず、都市外縁部を臨む場所に塹壕陣地を構築して立て籠もる膠着状況に陥っていた。


 第11都市人民防衛部隊を支援する筈だったイスラエル連邦空軍パペット無人戦闘機中隊も水陸両用機動戦闘艇カゲロウの奇襲により空爆部隊の多くが撃墜された為、マイケル・バーネット陸軍中将は攻略部隊の再編成と戦術見直しに取り組まざるを得なかった。


 羅大佐率いる成都人民防衛部隊が構築した即席塹壕陣地は司令部本隊から工兵部隊が進出し、即席陣地だった塹壕をコンクリートで固め、各地点に有線電話と簡易指揮所を開設、本格的軍事拠点として機能するよう強化されている。


 更に、エイブラムス戦車との交戦で大損害を出した旧ソヴィエト製T72主力戦車部隊に代わり、後方本隊の機甲師団から派出されてイスラエル連邦軍主力戦車メルカバMK-3戦車中隊が陣地左右に展開、陣地後背には多連装ミサイルランチャーMLRSマーズと近距離拠点防空システム”アイアンドーム”が配置されている。


 昼食に支給されたコ―シャーフーズを食べながら先程救援に駆け付けた日本国自衛隊のパワードスーツと第12都市防衛部隊との戦いを思い出す羅大佐。


「我々の想像が及ばない兵器がこの戦いに投入されているのか……」


 作戦開始前にアシュリー中佐が言っていた”最後の戦い”向けて敵味方が出し惜しみしていないのだと思い呟く羅大佐だった。


 成都人民防衛部隊が摂った昼食のコーシャーフーズには、アナハイム社製薬部門が開発したクローン細胞生体維持薬剤が各種含まれている事まで羅大佐の想像は及んでいなかった。


          ☨          ☨          ☨


2027年(令和9年)5月2日【地球極東地区 人類統合第12都市『氷城ハルピン』(旧中華人民共和国 黒竜江省 哈爾濱市) 周辺地域】


 この日、日本国自衛隊、ソールズベリー商会、人類統合第2都市『バンデンバーグ』が昼に摂った食事は偶然にも”から揚げ定食”だった。


 決して木星で起きつつあるビックウエーブに乗った訳では無い。


 この地域に結集した各軍事勢力にとって自らの運命を左右する状況が進行中であり、他惑星のグルメ情報など誰も気にかけていなかった。


『……と後にソールズベリー卿はBBCの単独インタビューで語るのであった』

「……レディ。社長就任祝いで大月家に贈った1/30ネッシーフィギュアに装着した盗聴器で収集したから揚げ定食プロジェクトを誤魔化すためとは言え、私の自叙伝でそれらしく美化するのは如何なものかと思うのだがね」


 甲板に用意したテーブル脇でボイスレコーダーにセリフを吹き込むマルス・メイドアンドロイドのクリスにソールズベリー商会長が突っ込みを入れる。


「まぁ、事実は小説より奇なり、となればいいのだよ」


 にんにく醤油唐揚げの口直しで紅茶を一口飲むソールズベリーがクリスにうそぶく。


『そのセリフ頂きました。マスター』


 しっかりと録音するクリス。


 牡丹江から西へと進むソールズベリー商会の多目的千石船『大黒屋丸Ⅱ』の甲板でダージリン紅茶を嗜みつつ、から揚げ定食に舌鼓を打つソールズベリーだった。



【人類統合第12都市『氷城ハルピン』東部郊外50Km】


 日本国航空・宇宙自衛隊の空中艦隊は、マンスフィールド級空中戦艦『播磨』が空中から周辺地域の索敵監視を行う中、陸上自衛隊第7師団を載せたシェフィールド級空中輸送艦が続々と哈爾濱市につながる高速道路跡に着陸して戦車や装甲戦闘車、自走砲等の車輌を降ろしている。


 地上偵察部隊と共に最初に下船した工兵部隊が高速道路跡に積もった火山灰と積雪を除去して輸送艦の着陸場所と機甲師団車両の待機・展開スペースを整備していく。


 第7師団の半分程が降りた所で補給班が昼の糧食としてトレーにから揚げ定食を盛りつけて各部隊に配膳していく。


「どうやら瀋陽から北上したイスラエル連邦軍は前衛部隊に損害が出て攻勢を一旦止めたらしい」


 90式戦車の砲塔内で通信機器を調整していた車長が頭上で外を監視している砲手に話しかける。


「マジでありますか。小官もいよいよ腹をくくらにゃいかんのであります」


 砲塔に身を乗り出してから揚げ定食をパクつきながら片手で双眼鏡を握って第12都市からの部隊が接近していないか荒野を監視していた砲手が応える。


「そうしてくれ。イスラエル連邦軍の要請で我々は三方向攻略に参加したんだ。既にパワードスーツ部隊が敵さんと一当たりして敵にM1エイブラムス戦車やM113装甲戦闘車がいるのを確認したらしい」


「ええっ!エイブラムス戦車と戦うのでありますか!?マジで生き残れるのか危うくなってきたであります」


 車長の情報に驚く砲手。


 北米大陸攻略作戦でロッキー山脈越えの最中に敵長距離レールガン砲撃を受け、所属する90式戦車大隊が壊滅的損害を受けた記憶も新しい砲手。


「このから揚げ定食が最後の晩餐かもしれん」


 車長の言葉を聞きながら、最後のひと口として残しておいたから揚げに箸を伸ばそうとした所で上空から視線を感じた砲手が空を見上げると、頭上に1.5m程の傘を赤と黄色に明滅させた巨大なクラゲが自分を見下ろしているのに気付く。


「ひっ!空中に越前クラゲが何故!?」


 思わずから揚げ定食のトレーを放り出して机代わりにしていた12.7mm重機関銃を向けようとする砲手。


『ムムッ!勿体無イ』


 放り出されたトレイから空中に放たれた最後のから揚げをパシッと触手を伸ばしてつまみ取る水素クラゲ珍味53号。


 危なげなくキャッチしたから揚げを触手で大切そうにしながら砲塔で重機関銃を操る隊員に差し出す水素クラゲ珍味53号。


『落チマシタヨ』

「あ、どうもすいません」


 さりげなくから揚げを砲手に渡そうとする珍味53号に、隊員も思わずつられて受け取ってしまう。


『……』

「……」


 しばしお互いを見つめたまま会話が途切れる珍味53号と砲手。


「……あの、お昼まだなんですか?」

『サッキ着イタバカリデ何モ食ベテナイ』


 おずおずと尋ねる砲手に素直に答える珍味53号だった。


「どうした?何が起こった!」


 砲手の様子がおかしい事に気付いた車長が砲塔の中から呼び掛ける。


「小官は今、未知との遭遇をしているのであります」

「はぁ!?」


 意味不明な答えを返す砲手を砲塔内に引きずり込んで代わりに顔を出した車長が砲手と同じ様な反応をしつつ、互いの自己紹介の後、水素クラゲの来訪目的を聴き出すのは少し後の事だった


          ☨          ☨          ☨ 


【人類統合第12都市『氷城ハルピン』 北西50Km地点の上空 航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』】


「木星へのお誘いは有り難いのですが、我々は今大変困難な状況にあるのです」


 艦長の名取准将が格納庫内で浮かぶ水素クラゲに向かって状況説明を行っていた。


 静かに名取准将の説明を聴く水素クラゲの触手にはから揚げ定食のトレーがしっかりと握られている。


 この水素クラゲは格納庫でから揚げ定食を堪能していたサキモリパイロットのソフィー大尉に近寄った所をサキモリAIのパナ子に通報されている。


『……ツマリ、皆同時ニココカラ脱出デキレバイイノダナ?』


 名取の説明を聴き終えた水素クラゲが訊く。


「はい。脱出するのは我々自衛隊の他、これから向かう第12都市『氷城』住民18万人及び我々とは別に行動する第2都市『バンデンバーグ』住民18万人です。

 ここまで単独で来れる木星原住生物ジュピタリアンでもこれだけの規模を一度に運ぶのは難しいのでは?」


 答える名取准将は問題が多いと指摘する。


『ノンノン。大丈夫。仲間ハ呼ベバ直グニ来ル』


 触手をフルフルと左右に揺らして楽勝だと言わんばかりに答える水素クラゲ。


「本当ですか!こちらも他の皆さんに連絡を取らねばなりません。このまま此処でお待ち頂けますか?」


 鷹匠准将に報告するため、水素クラゲとの対話を終えると艦橋へ急いで戻る名取准将だった。


「あの、私のから揚げ定食はどうなったのでしょうか?」


 から揚げ定食を食べ終えた整備隊員達がソフィーの視線から逃れるようにそそくさと持ち場へ戻っつていく中、おずおずと高瀬中佐に尋ねるソフィー大尉。


「そんなことよりも、大尉はまず水素クラゲに”おもてなし”をするのだ……」


 昼食を終えていた高瀬は気まずそうな表情を押し隠すと、所在無げに格納庫を漂う水素クラゲに視線を移してソフィー大尉に命令するのだった。


「ぶぅー……」『”ぶぶ漬け”を出してやるですの』


 頬を膨らませながら無言で高瀬中佐に敬礼すると、ホログラム投影で肩上に居るAIパナ子と共に水素クラゲに向かうソフィー大尉だった。


『働かざる者食うべからずですの』

『マジデスカ……』


 AIパナ子の言葉に衝撃を受ける水素クラゲ。


『サッキノカラアゲ分ハ働カナイトマズイノカナ?』

『モチのロンですの!働くですの!ハリーアップ!』


 水素クラゲの問いに主であるソフィーの無念を晴らそうと煽る様に答えるパナ子。


『ッ!!アワワワ。ドウシヨウ、長~』


 急かされた水素クラゲがパニックのあまりぶるぶると触手を震わせ、傘をオレンジ色に明滅させながら回転させる。


 水素クラゲに向かって電子信号で話し掛けるAIパナ子と水素クラゲの会話を知る者はまだ居なかった。


 ホワイトピースを訪問した水素クラゲが傘を明滅させながら送った生体電気信号は、ツングースカ上空のミニ異相空間を通じて木星大赤斑最深部に居る木星原住生物ジュピタリアンの長であるチューブワームまで届くのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ソールズベリー=英国連邦極東企業『ソールズベリー・カンパニー』会長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・メイド・アンドロイド。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・ソフィー・マクドネル=日本国自衛隊特殊機動団パワードスーツ『サキモリ』パイロット。大尉、ユニオンシティ防衛軍から在籍出向中。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・パナ子=パワードスーツ『サキモリ』機体制御システム担当人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。


・高瀬 翼=日本国自衛隊 統合幕僚監部所属 第零特殊機動団長。階級は中佐。乗機は菱友重工が開発した21型パワードスーツ(H21-PS)。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。



・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・鷹匠=日本国陸上自衛隊第7師団師団長。准将。

・名取=日本国航空・宇宙自衛隊 強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』艦長。准将。


・黄星 舞=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。元神聖女子学院小等部新任教師。守美の姉的ポジション。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・黄星 守美=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。元神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・黄星 輝美=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。神聖女子学院小等部6年生に転入していた。舞と守美の妹的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


コウ 浩宇ハオユー=人類統合第2都市『バンデンバーグ』住民代表。少佐。北米大陸西海岸の戦いで地球連合防衛軍ロイド提督と停戦を結んだ後、黄星三姉妹と行動を共にしている。

・羅=人類統合第11都市『成都』人民防衛部隊指揮官。大佐。

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