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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
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機会【後編】

2027年(令和9年)4月30日【木星衛星軌道上 マルス・アカデミー・木星再生作業船団 基幹母艦『ケラエノⅠ』】


「何ですって!今までよりも作業船に水素クラゲが集結しておねだりですって!?」


 当直指揮官モウゼの報告を受けたリア隊長が驚きの声をあげる。


「多数の水素クラゲが自発的に凝縮した水素雲を持参して”から揚げ弁当ください”と押し掛けているようです」


 かつて富山県尖山基地の送別会で食べたから揚げを思い出しながら水素クラゲに共感するモウゼ。


「こちらが『おとひめ』から調達出来るのは5,000個だけよ。それ以上は食料生産コロニーが完成しないと無理ね」


 首を横に振るリア隊長。

 リア達再生作業船団隊員達が苦渋の選択で自らの弁当分を全て水素クラゲに提供しているのだった。


「そうは言ってもこのままでは押し掛けた水素クラゲ達が暴動を起こしかねません。誰かが水素クラゲ達に事情を話して納得してもらうしかないでしょう」


 事態を憂慮するモウゼ。


「それもそうね。誰を説得にあたらせるべきかしら……」


 しばらく思案したリア隊長は、大赤斑上空に滞在するJAXA木星探査船『おとひめ』に連絡を入れて相談をするのだった。



――――――1時間後 【木星衛星軌道上 マルス・アカデミー・木星再生作業船団】


「……おぅ。それで私にどうしろと?」

 

 目の前に広がる光景に軽く引いた後、困惑気味に呟く琴乃羽美鶴。


 大赤斑最深部から実証実験を中断して『おとひめ』に呼び戻された琴乃羽美鶴は、休む間もなくマルス・アカデミー・木星再生作業船団に連れていかれ、宇宙服を着て作業船の外に出されると、期待に傘を膨らませて待ち構える水素クラゲ達に向け説得を試みるのだった。


          ☨          ☨          ☨


――――――【地球 ユーラシア大陸 人類統合第12都市『氷城ハルピン』(旧中華人民共和国 黒竜江省 哈爾濱市)郊外20Km】


 迫りくるM1エイブラムス戦車に立ち竦んで動けない羅大佐の眼前を2機のパワードスーツがエイブラムス戦車の前に割り込んで羅大佐への接近を阻む。


「何だ!?」


 驚く羅大佐を副官が引きずる様にして塹壕へ引きずり込む。


「大佐!部隊にご命令を!」

副官が促す。


『こちら地球連合防衛軍 日本国航空·宇宙自衛隊です。

 我々が攻撃を引き付けるのでこの機会を使って態勢を立て直して下さい!』


 パワードスーツから機械音声の中国語で高瀬中佐が呼び掛ける。


 目の前で呆気にとられている羅大佐に頭部のスピーカーで呼び掛ける高瀬中佐。

 高瀬の声は搭載AI『ケン』によって中国語に変換されて機械音声として羅大佐に呼び掛けられている。


「よいしょ!ソフィー大尉、しっかり地上部隊を引きつけるのだぞ!」


 掛け声を出しながらエイブラムス戦車の履帯を片手でつまみながらソフィー大尉に指示を出す高瀬中佐。


『ラジャ。意外と簡単にひっくり返るものなのね!』

『やるときはヤルですの』


 サキモリの右脚でエイブラムス戦車の片方の履帯をひっかけ、50ミリバルカン砲の銃身を梃にして車体を裏返すソフィーが声をあげ、パナ子がどや顔で応える。


 エイブラムス戦車をひっくり返した後、後続のM113装甲戦闘車の至近にロケットランチャーを放って地上部隊の周囲に土煙を上げると、ホバー走行でジグザグに進路を変えながら成都人民防衛部隊の塹壕陣地から引き離す様に誘うサキモリと21型パワードスーツ。


『よしよし、ちゃんとついて来ていますね。予定通りですね中佐殿!』


 操縦桿を左右に傾けて機体を操りながら高瀬中佐に呼び掛けるソフィー大尉。


「こら!誤解を招く様な発言は慎むのだ!これだけイスラエル連邦軍に近いと誰が聴いているか分からんのだぞ!」


 ソフィー大尉に注意する高瀬中佐。


『失礼しました中佐殿。ですが、第12都市の地上部隊はこちらの”誘導”に乗ったみたいですね』


「そうだな。地上部隊をこのまま北西のホワイトピースまで誘いこむぞ……この機会を活かせば少しは正面衝突までの時間が稼げるし、彼我の犠牲を抑える事が出来るかもしれない」


 ソフィー大尉の報告に応えながら、パワードスーツを何度も第12都市地上部隊に近接させては離れる動作を繰り返して地上部隊を誘いこむ事に専念する高瀬中佐だった。


「ソフィー大尉、あと10Km誘いこんだらホワイトピースとの合流地点だ。今から合流するとランチに間に合うぞ。今日はから揚げ弁当らしい」


『ムホー!頑張りますっ!』


 高瀬のから揚げ弁当という言葉に発奮するとさらに機体操作が向上するソフィー大尉とパワードスーツ『サキモリ』だった。


『から揚げ弁当で目の色を変えるなんて。色恋よりも食い気が勝るお子ちゃまですの』


 人知れず呆れて呟くサキモリAIのパナ子だった。


          ☨          ☨          ☨


――――――【木星衛星軌道上 マルス・アカデミー・木星再生作業船団】


「だから!ここにはから揚げ弁当を作る工場が無いの!沢山作るまで何週間もかかるのよ!」


 身振り手振りで水素クラゲ達に説明する琴乃羽美鶴。


『ソウナノカ?』『ウチラモ手伝ウゾ』『材料集メハ任セテ』


 触手をうねうねさせて琴乃羽に申し出る水素クラゲ達。


「お気持ちはありがたいけれど、そんな簡単に弁当工場が出来る訳ないでしょ!」


 額に手を当ててやれやれと呆れる琴乃羽。


「あのね?工場の部品もそうだし、お弁当の具材とかも貴方達は知っているの!?答えなさいっ珍味53号!」


 中華料理の前菜で出される”クラゲ=珍味”から連想した水素クラゲの中から見知った”水素クラゲ=舎弟”を見つけて指名する琴乃羽。


 再び美味しい体験をすべく集まった所を琴乃羽に見つかってしまった珍味53号。


『知リマセン……デス』


 触手をしおしおと項垂れさせて応える珍味53号。


「そうでしょうとも!此処にお弁当工場を丸ごと持って来ない事にはすぐにから揚げ弁当を作る事は無理ゲーなの!オーケー?珍味諸君?」


 水素クラゲ達に言いきかせる琴乃羽。

 

『ソウカ……丸ゴトカ』『モッテクル?』『ヤッチャウ?』『長ニ聞ケバイケルンジャネ?』『ミンナデヤレバデキルカモ』


 何やら呟き始める水素クラゲ達。


「くれぐれも火星から丸っと工場持ってくるとかダメだからね!迷惑かけたらお弁当は一切無しよ!」


 不穏な呟きを耳にした琴乃羽が水素クラゲ達に釘を刺す。


『『ギクッ!』』


 思い当たる節でもあるのか身体を竦ませる水素クラゲ達。


「くれぐれも火星の人達に迷惑をかけちゃダメ!絶対!いいわね!絶対にするなよ~」


 再度言い含めると作業船に戻っていく琴乃羽。


『火星ノ人ニ迷惑カケタラ駄目……』『火星……モッテキチャダメ』『丸ゴトハダメ』


 琴乃羽が去った後もその場に留まった水素クラゲ達は、何度も琴乃羽の言いつけを噛みしめる様に呟くと、その場から去っていくのだった。


          ☨          ☨          ☨


――――――【地球ユーラシア大陸 旧ロシア連邦 シベリア地方 ツングースカ上空】


 118年ぶりにこの地へゲートを開放した存在達は、ジェット気流と復活した偏西風にその身を委ねると地球各地へ漂っていくのだった。


『……何ダカアソコニ宝石箱ノ気配ガスル!』


 とある一体の存在が不意に空を漂う身体の向きを変えて真っ直ぐに南東へと向かうのだった。


 もしツングースカ地方の先住民族が生き残っていたならば、幾つもの巨大クラゲが曇り空を漂っていくのが見えた筈だった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・琴乃羽 美鶴 =ソールズベリー商会員。木星原住生物と親しくなった為、木星探査隊に出向扱い。

        元ミツル商事社員だが今も大月夫妻との繋がりは親密。

        JAXA種子島宇宙センター宇宙文字解析室長から大月満にヘッドハンティング

        された。少し腐っている。      

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・ソフィー・マクドネル=パワードスーツ『サキモリ』パイロット。ユニオンシティ防衛軍大尉。日本国自衛隊 第零特殊機動団に出向中。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・パナ子=パワードスーツ『サキモリ』機体制御システム担当人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。


・高瀬 翼=日本国自衛隊 統合幕僚監部所属 第零特殊機動団長。階級は中佐。乗機は菱友重工が開発した21型パワードスーツ(H21-PS)。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・ケン=21型パワードスーツに装備された機体制御AI。

 公益財団法人 理化学研究所(理研)が開発した人工知能で、美衣子達三姉妹がセッティングしたお見合いでパナ子とゴールインした。天体観測を生かした遠距離射撃が得意。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・リア=マルス・アカデミー・木星再生作業船団隊長。から揚げ好き。


・モウゼ=マルス・アカデミー・基幹母艦『ケラエノⅠ』当直指揮官。

 1万2000年前から地球調査隊長イワフネの部下としてマルス・アカデミー・尖山基地に所属していた。大月達と遭遇後、リア率いる新たな母星からの救助船でプレアデス星団に帰還した経歴を持つ。

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