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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
383/462

名誉

挿絵(By みてみん)

今年もよろしくお願いいたしますm(__)m


左側上から美衣子、瑠奈、結。右側はひかりです。

 2021年に勃発した第三次世界大戦における日本列島消滅直後に発生した地球規模の天変地異『大変動』は、地球最大の共産主義国家だった中華人民共和国を例外なく崩壊させた。


 北京の共産党政府崩壊で発生した十数億人の避難民は大陸中を彷徨い、少ない物資を抱え込む各地の人民解放軍と激しく衝突した。


 北京政府崩壊から然程時間を置かないうちに地方都市共産党組織も崩壊したが、一部の逃げ遅れ(開き直りともいう)た党書記や政治局員は治安を回復させるべく踏み留まった軍兵士・武装警察を動員して市街地でも戦車・自走砲等重火器を使用した結果、彼我に甚大な犠牲を出したものの都市機能維持に成功した。


 窮地を脱したかに見えた中国主要都市だったが、大変動で国内外の流通が完全にストップした数か月後には地方政府首脳、避難民、人民解放軍共に餓えと寒さや疫病で大半が死亡した。


 僅かに生き残った者の一部はアース・ガルディア政府に誘導されて衛星軌道上に急造された劣悪な宇宙ステーションに収容された。


 宇宙へ行けなかった者は、アフリカ西海岸・インド洋・東南アジア方面から徐々に生息域を拡げた火星原住生物巨大ワームに喰われる運命を辿っていくのだった。



2027年(令和9年)4月28日午前8時【地球ユーラシア大陸東北部(旧中華人民共和国 遼寧省)瀋陽市郊外】


 黄海沖から上陸したイスラエル連邦大陸攻略軍が前進拠点を設置した瀋陽市も、暴動と武力鎮圧で市街地の大半が破壊され、市街中心部を流れる河川畔に並ぶ数十の高層アパート群は骨組みだけを残した廃墟となり、ここで暮らしていた825万人の墓標と化している。


 数百万人単位の市民を犠牲にした北部戦区人民解放軍の苛烈な鎮圧は数か月後、北京や沿岸部からの輸送手段が途絶え物資が尽きた事で市民、人民解放軍共に餓えと寒さで大半の住民が死亡して都市が崩壊した結末となっている。



 崩壊した瀋陽市東部市街地に在る国際空港跡地の滑走路はイスラエル連邦陸軍工兵部隊が整備してマンスフィールド級空中戦艦やシェフィールド級空中輸送艦が発着出来るようになっていた。

 火山灰と積雪を除去して修復した滑走路脇に設置したプレハブ造りの巨大格納庫には瀋陽市内に放置された人民解放軍の戦車や自走砲が回収されて並べられている。


 薄曇りの空を西から飛行してきた十数隻のシェフィールド級空中輸送艦が縦列陣形で滑走路上空を旋回すると、水素エンジンを逆噴射させて高度を落とし火山灰混じりの砂埃を巻き上げながら滑走路脇の駐機場に次々と着陸していく。

 

「アシュリー中佐殿。第11都市から人民防衛部隊補充兵員1500名只今到着いたしました!」


 着陸した空中輸送艦から降りてきた第11都市『成都』暫定代表の羅大佐がイスラエル連邦軍特殊部隊のアシュリー中佐に敬礼して報告する。


「ご苦労様です。部隊再編成を直ちに行った後、格納庫に集めた瀋陽市内から回収した戦車・自走砲を改修・整備して部隊装備としてください。

 それと身体がお疲れでしょうから、”ビタミン剤とエナジードリンク”を必ず摂取してください」


 部隊再編成を指示するアシュリー中佐。

 ビタミン剤とエナジードリンクは、第11都市住民の身体を維持する必須薬剤である。


「……かしこまりました」


「再編成と武器の整備が完了次第、第12都市攻略作戦が開始されます。

 この攻略作戦が成功すればイスラエル連邦のユーラシア大陸攻略は完了し、ユダヤ民族の復興と繁栄が約束されるでしょう。

 大変名誉な事に第11都市の皆さんはこの攻略作戦では先鋒としてご活躍して頂く予定です。

 これが最後の戦いになるでしょう。終われば故郷へ帰れますよ」


 羅大佐に告げると司令部へ戻っていくアシュリー中佐。

 

「……何が名誉だ。同族と戦わされるなんて悪夢以外の何者でもない」


 去っていくアシュリー中佐の背中に無表情を装いながらぼそりと呟くと空中輸送艦から降り立ったばかりの将兵に指示を出す羅大佐だった。


 格納庫へ移動する羅大佐率いる第11都市人民防衛部隊の頭上には、同部隊が甚大な犠牲を払って吉林省の旧中国軍戦略ミサイル基地から回収した核弾頭とイスラエル連邦軍特殊部隊を載せたマンスフィールド級空中戦艦が到着しようとしていた。


          ☨          ☨          ☨


2027年(令和9年)4月29日午前9時【地球ユーラシア大陸東北部(旧中華人民共和国 黒竜江省)牡丹江郊外】


 偏西風で温められた空気が入り雪解けでぬかるみ始めた地面からフワリと離陸する航空・宇宙自衛隊 強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』は、イスラエル連邦軍との共同作戦として牡丹江に留まる陸上自衛隊第7師団と同時に北西と西側から人類統合第12都市『氷城ハルピン』攻略の為に北上していく。


「いよいよ始まってしまいますね」


 頭上から北上して遠ざかるホワイトピースを見送るソールズベリー商会長のソールズベリーが、隣に立つ第7師団長の鷹匠准将に話しかける。


「このまま木星への大量輸送手段が見つからなければ、自衛隊は強大な戦力を誇るイスラエル連邦軍の前に立ち塞がって、第12都市住民が避難するまでの時間稼ぎをしなければなりません。

 イスラエル連邦にどの様な口実を考え付いたとしても、武力衝突は避けられそうもありません」


 険しい顔で頷いて答える鷹匠准将。


 オーバーテクノロジーとも言えるマルス・アカデミー謹製ホワイトピースと2機のパワードスーツを保有しているが、イスラエル連邦軍は強力な電磁砲を備えたホバークラフト型陸上戦艦や無人戦闘機、メルカバ戦車を主力とする強力な陸上戦力が有る。

 もしかしたら戦術核兵器を持ってきているかも知れない。

 

 正面衝突となれば都市住民退避の時間稼ぎは出来るだろうが、自衛隊が甚大な損害を受けるのも確実であろう。出来れば正面衝突は避けたい鷹匠准将だった。


「微力ながらソールズベリー商会もサポートさせていただきます。こちらも第2都市『バンデンバーグ』住民の退避もありますので。

 正直、木星以外の何処へ避難させるか見当もつきません」


 肩を竦めるソールズベリー。


『弱気な事を言わないで頑張ってくださいマスター。生きて帰らなければケビン首相からのボーナスが貰えませんよ!』


 ソールズベリーの斜め後ろにいたマルス・アンドロイドのクリスがソールズベリーを励ます。


「……ああ、レディ。ありがとう。ちゃんと毒舌以外にもまともな事を言えるのだな」


 思わぬ励ましに目を潤ませて感動したついでにちょっと酷いことを言うソールズベリー。


「……マスターが生き残ってくださいませんと商会が潰れて私や岬、琴乃羽が路頭に迷います。

 今のままでは退職金さえも払えないのですよ。

 マルス・アンドロイドには失業保険が支給されませんし、銭じゃぶなスローライフの夢が遠のきますし……」


 噓泣きで潤んだ瞳をソールズベリーに向けるクリス。


「……お前という奴は。

 はぁ。こう言う事を言うのは正直英国人としてプライドが傷つくのですが、大月家に期待せざるを得ません」


「……同感です」


 ソールズベリーの呟きに同情する鷹匠准将だった。


 ホワイトピースが北上した30分後、牡丹江に駐留していた陸上自衛隊第7師団を載せた空中艦隊はソールズベリー商会の千石船『大黒屋丸Ⅱ』が進路前方を警戒監視しながら先導する中、幹線道路上空を人類統合第12都市『氷城ハルピン』目指して西方へ前進するのだった。


          ☨          ☨          ☨


2027年(令和9年)4月28日午前11時30分【木星大赤斑最深部】


「さあ!次はこの麻婆丼はどうよ?」

『ムグムグ。カラ—――—――ッ!漲ッテキタ―。今ナラ行ケルカモ!』


 琴乃羽美鶴が差し出した大相撲の横綱優勝時に力士が飲み干す大杯の様などんぶりにこんもりと盛りつけられた麻婆丼をぺろりと平らげたチューブワームの長がプルプルと震え出す。


「おっ!異相空間キター!

 社長!ただいま異相空間発生しました」


『OK。ウラニクス湖底のセンサーが反応し始めた。カウントするよ』


 ぷるぷる震えるチューブワームの長の頭上に紫色に光るリング状の空間が現れる。

 琴乃羽が惑星間携帯電話で火星ウラニクス湖畔で待機している満に連絡する。


 1分程でチューブワームの長頭上に出来た紫色の空間は姿を消す。


「異相空間消えました!」

『こちらも反応消失。美衣子?』

『異相空間は1分2秒持続したわ』


 琴乃羽の報告に満と美衣子が結果を伝えて分析に入る。


『琴乃羽さーん。もしかしたらお料理の内容で持続時間が変わるかも?』


 ひかりが琴乃羽に呼び掛ける。


「分かりました。長、次はレバニラ炒め定食だけどイケる?」

『ドントコイ』


 ひかりの呼び掛けに頷くと傍らのコンテナから次のメニューをカートで取り出してチューブワームの長に差し出す琴乃羽。


 カートで運ばれた浴槽サイズの器に盛られたレバニラ炒めと冷蔵庫サイズの大きさに握られたおにぎりをモシャモシャと堪能するチューブワームの長。


 堪能しているのか胸やけしているのか、先程よりも食べるスピードは落ちている。


『グワァァァ……コ、コレハ。レバーノ舌触リトモヤシノ食感ガ半端ナイ!』


 巨大な頭を左右にブンブン振ると食レポを始めるチューブワームの長。

 頭上には先程よりも大きな紫色の光がリング状となって現れる。


「社長!今度は大きいのキター!」

『こちらも観測している。麻婆丼の時よりも大きいよ!』


 興奮気味の琴乃羽と満。


 今度の異相空間は7分程続いた。


『レバニラ炒め定食の持続時間は7分25秒よ』

『やっぱりメニューの影響が大きいですねぇ。もっと試しましょう!』


 美衣子の分析に上機嫌なひかり。


「よっこらしょい……。長、まだ行けますよね?」

『……チョットマッテ。……ココラデデザートトカ、サッパリ系ハドウダロウ?』


 コンテナからロッカー程の大きさになる揚げ春巻きを出そうと格闘する琴乃羽に待ったをかけるチューブワームの長。


 麻婆丼の時の様な漲った動きは見られずどことなく弱った様子のチューブワームの長。


 早朝から休みなく中華料理の実食と異相空間形成のエネルギー行使で胃袋と頭が一杯一杯になっていたチューブワームの長。


 木星原住生物ジュピタリアン頂点である長として無限の時を漫然と生きてきたチューブワームは、初めて自らの能力で新しい環境を切り開いたこのチャンスを名誉に思い始めていた。


 長として芽生えたプライドにかけて、中華料理を食べ尽くす所存だ。

 だが、ちょっと食休みが欲しいなぁと内心思うチューブワームの長。


「デザートですか?華子さん、デザートのコンテナはありましたっけ?」


 琴乃羽の背後に着陸待機していたシャトルに待機する天草華子に尋ねる琴乃羽。


『ありますわ。杏仁豆腐ならコンテナサイズで切り分け前の物がありますわ!』


 貨物室で確認した華子から返事が来る。


「よし!長、それじゃあ杏仁豆腐いってみよう!」


 元気いっぱいな琴乃羽が麻婆丼やレバニラ炒め定食の容器を片付けていく。


『……ウップ。チョット待ッタ!タイム……』


 チューブワームの長はとうとう堪え切れずに液体金属の地面にだらしなくゴロリと寝転がって暫しの休憩に入る。


「ええ~?ちょっとガッツが無さ過ぎでしょう~?」


 液体金属の地面に伸びるチューブワームの長を呆れた様子で見る琴乃羽。


『琴乃羽さん容赦ないな~。朝からずっとじゃん……』


 華子から託された杏仁豆腐を満載したコンテナを作業車で牽引する名取優美子は、呆れた表情で地面でのたうつチューブワームの長を横目にしながら呟くのだった。



『……イイナァ』『麻婆丼オ腹イッパイ食べタイナ』『長ダケ狡イノダ』


 朝から続くエンドレスな中華料理実食研究に辟易するチューブワームの長だったが、周囲に蠢く無数の水素クラゲや水素カニ、水素クジラ達が羨ましそうに長と琴乃羽達を熱い視線で見守っている事に当事者達は気が付いていないのだった。


 大赤斑最深部に集結した木星原住生物の頭上には水素とアンモニアからなる雲とは違う、薄紫色に光り輝く粒子がリング状に形成されようとしていた。



――――――【木星衛星軌道上 木星探査船『おとひめ』】


「大赤斑最深部で断続的な重力変動と気圧の変化が発生しています」


 広大なブリッジに在る管制エリアで惑星地表センサーを担当するオペレーターがイワフネ船長代理に報告する。


「了解。その現象はミツル商事が木星原住生物の長と実証実験しているからですね」


 イワフネが想定済みとオペレーターに応える。


「……はい、それは聞いています。大赤斑最深部のかなり広い範囲で異常数値が観測されていますがそれも実験で想定されているのでしょうか?」


 首を捻るオペレーターがイワフネに尋ねる。


「広い範囲とは?」


 縦長の瞳を細めたイワフネが訊く。


「ちょうど探査シャトルが着陸した地点を中心に直径5Kmです」

「5Km!?5mの間違いではないか?」


「いいえ船長代理。5Kmです。現時点でも異常検出範囲が拡大中です」

「シャトルからの連絡は?」


「ありません。気付いていないのでは?」

「マズイな。想定外の数値は予測不可能な現象発生に繋がるぞ。

 大月家に緊急連絡だ!」


 にわかに慌ただしくなる管制エリアから大月家に直接繋がる惑星間携帯電話に手を伸ばすイワフネ船長代理だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 満=ミツル商事社長。

・大月 ひかり=満の妻。ミツル商事副社長。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・琴乃羽 美鶴 =ソールズベリー商会員。元JAXA種子島宇宙センター宇宙文字解析室長。木星原住生物と親しい為、木星探査隊に出向扱い。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・イワフネ=マルス人。ミツル商事にサラリーマン研究の為派遣されていたが、仮想世界大戦後、天草華子、名取優美子の心的外傷療養を見守る為、外宇宙探査船『おとひめ』船長代理として木星探査隊に同行している。


・ソールズベリー=英国連邦極東企業『ソールズベリー・カンパニー』商会長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・アンドロイド。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・天草 華子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。シャドウ帝国との仮想世界大戦で心的外傷を受けて木星へは療養目的で探査隊に同行している。

 大月夫妻の結婚披露宴でビンゴ当選によりマルス・アカデミーシャトル『おとひめ』を取得、船長となっている。父親はJAXA理事長の天草士郎。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。シャドウ帝国との仮想世界大戦で心的外傷を受けて木星へは療養目的で探査隊に同行している。

 父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・鷹匠=日本国陸上自衛隊第7師団師団長。准将。

・羅=人類統合第11都市『成都』暫定代表。大佐。

・アシュリー=イスラエル連邦軍特殊部隊中尉。

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