第11都市人民防衛部隊
※9/18 7:01 最後の部分追記しました。
2027年(令和9年)4月27日早朝【地球極東 旧中華人民共和国 吉林省東部地域】
人類統合第12都市『氷城』攻略を目指すイスラエル連邦軍が前進拠点を築いている松原市から、とある部隊が装甲車両に分乗して出発していた。
とある部隊とは、人類統合第11都市『成都』の実質的支配者であるマイケル・バーネット=イスラエル連邦軍陸軍中将の命令で攻略作戦に参加していた人類統合第11都市『成都』人民防衛部隊である。
巨大ワーム群の襲撃を受けて陥落寸前だった成都に駆け付けて防衛に成功したイスラエル連邦軍は、バーネット中将の陣頭指揮で大量の技術者をタカマガハラから連れてきて都市動力源だった原子炉を復旧させ、衰弱死寸前だった15万人の住民に応急処置の薬剤と食料を提供して成都は辛うじて都市機能を取り戻す事が出来た。
一方でバーネット中将は、都市復旧と同時に再度の巨大ワーム侵攻に備える名目で成人住民全員に軍人としての適性検査を行い、適合者を人民防衛部隊に組みこんで部隊を再編させ今回の”第12都市解放作戦”に参加させたのだ。
バーネット中将の命令を受けた第11都市人民防衛部隊は、標高2000m級の山々が連なる山岳地帯へ続く幹線道路を北上していた。
山岳地帯南部の北朝鮮国境付近に聳え立つ長白山の大噴火は沈静化しつつあったが、今も尚火口から噴き上がる火山灰が深緑に覆われていた山々を灰色の世界へ塗り変えてしまっている。
幹線道路沿いの村落や街は、鴨緑江やアムール川を遡ってきた巨大ワーム群の襲撃を幾度となく受けた4年間で住民が全滅して廃墟となっている。
「アシュリー中佐。この山の中に旧祖国の核ミサイル基地など在るのでしょうか?」
山間の幹線道路を走行する指揮通信車の中から外を眺めていた羅大佐が半信半疑な表情を浮かべて軍事顧問であるアシュリー中佐に尋ねる。
「在ります。貴方方の祖国が誇る”人民解放軍ロケット軍”の核ミサイル基地がこの辺りに在ると”かつての同盟国”が世界大戦前の衛星写真で確認しています」
断言するアシュリー中佐。
「そうですか。てっきり核ミサイル基地と言えばゴビ砂漠やシベリア凍土地帯の広い荒野にあるイメージでしたから……」
「大佐のイメージされるミサイル基地は固定発射装置を備えたタイプですね。
此処の山中に在るのは、発射装置と弾頭を山中に張り巡らせたトンネル型基地に保管して、発射時だけ車両や列車で外へ運搬するタイプでしょう。発射地点を敵から隠蔽する効果的な戦術です」
一般的な知識しか持たない羅大佐に説明するアシュリー中佐。
「……と説明している間に、ちょうどよいタイミングで手掛かりが見つかるかもしれません」
アシュリー中佐が覗いていたセンサーを羅大佐に視るように促す。
羅大佐がセンサーを覗き込むと、幹線道路に並行していた鉄道路線が急に急峻な山々が在る方角へカーブしている箇所を見つける。
カーブした先には鉄橋が架かっており、その先は小高い丘で見通せない。
「確かに鉄橋ですな。この辺りの地図には幹線道路しか表示されていない。軍事施設の可能性はありそうですな。線路の向かう先には集落や工場は無い……偵察部隊として歩兵1個小隊を先行させましょう」
羅大佐がロシア製歩兵戦闘車両(BMP-1)に分乗した歩兵小隊を線路の偵察に先行させる。
15分後、先行した歩兵小隊が目にしたのは、山間を流れる河川に架かる損壊した鉄橋だった。
鉄橋は中央部分が橋脚や枕木ごと土石流か白頭山からの火砕流の直撃で流失したと思われ、かろうじて残った線路と支柱に付属していた手すりだけが宙に浮く形となっている。
鉄橋の10m下は50m程の川幅で、茶色く濁った濁流が黒く太い流木を巻き込みながら早い速度で下流へと流れていく。
「ここから先は車両が通れないか……」
立ち往生した先行歩兵小隊を眺める羅大佐が呟く。
やがて鉄橋手前で停車していたBMP-1から歩兵が下車すると、辛うじて残った鉄橋中央部の手すりに掴まって慎重に進んでいく。
先頭を進む若手兵士の数名が鉄橋の向こう側へ辿りつくと、腰に結び付けていたワイヤーロープを支柱に巻き付けて後続兵士が手すりと共に掴みやすくする。
ワイヤーロープが通されてからは、後続兵士が危なげなく渡れるようになり、通信機やAK47カラシニコフ自動小銃は纏めてカゴに入れてロープで手繰り寄せて運んで行く。
『大佐殿。鉄橋の先も線路は分岐せずに真っ直ぐ手前の山へと続いています』
小隊の半数が渡り終えた段階で、先に渡り終えた若手兵士が線路先の捜索を続けており、経過報告が羅大佐にもたらされる。
「よし。小隊は先行捜索を続行。本体後方の工兵から架橋資材を――――――」
羅大佐が指示を出していた途中、今まで濁流に巻き込まれて流されていた幅4m程の流木数本が突然流れに逆らってその場で留まったかと思うと川の中から空中高く跳ね上がると、鉄橋を渡っていた歩兵小隊の列に突っ込んでズズズーッ!と歩兵を吸いこんで巨体を翻すと濁流の中へ戻っていく。
「襲撃!応戦せよ!」
羅大佐が応戦指示を出すが、鉄橋を渡る兵士の武装はカゴに入れていた為、兵士達は手ぶらだった。
「BMPに戻れ!車内から応戦せよ!」
手ぶらで狼狽える兵士に羅大佐が命令し、鉄橋上の兵士達は濁流から飛び出す様にして襲い掛かる巨大ワームから逃れようと足場の悪い鉄橋を這うように退避していく。
鉄橋手前で停車していたBMP-1歩兵戦闘車が、歩兵が鉄橋から退避するのを待ちきれずに73mm滑空砲や7.62mm機関銃を鉄橋に襲い掛かる巨大ワームへ向けて撃ち込むが、巨体の割に機敏な動きで銃砲弾を躱していく巨大ワーム。
「……ちょこまかと。戦車で始末しろ!」
業を煮やした羅大佐がT72戦車部隊を鉄橋手前まで進出させて125mm滑空砲の射撃を命じたが、巨大ワームは接近する戦車部隊のエンジン音やキャタピラの振動から反撃の気配を察すると、濁流へ飛び込んで姿をくらませてしまうのだった。
『こちら先行歩兵小隊。今の襲撃で小隊の半数がやられた。任務続行か否か指示を乞う』
先行小隊長が通信で指示を求めてくる。
「アシュリー中佐。架橋資材で鉄橋を修復させたとしても、巨大ワームが潜んでいる河川を渡河する事は自殺行為に等しい」
羅大佐が鉄橋周辺を双眼鏡でつぶさに観察し続けていたアシュリー中佐に告げる。
「羅大佐。軍事顧問として申し上げます。我々の目的は、核ミサイル基地を見つけ出し、核弾頭を確保する事です。
エリア51の統制を失って狂乱している第12都市指導部が此処の核兵器を使用する事が無いように先んじて安全な場所へ移送しなければならないのです」
任務の目的と意義を羅大佐に説くアシュリー中佐。
「だが、このまま先行小隊だけで捜索を続けさせてもいずれ、川上や川下から押し寄せる巨大ワームに喰われてしまう……」
苦悩する羅大佐。
第11都市成都は都市動力源の維持管理や食料支援をイスラエル連邦の全面的な支援に依存しており、軍事顧問として同行しているアシュリー中佐は羅大佐よりも階級が下となるが、彼の言動や意向は最大限尊重しなくてはならない。
そうしないと、成都住民15万人の生体細胞維持薬剤やその日の食事にも事欠いてしまうのだ。
「……分かった、アシュリー中佐。今はまず、核ミサイル基地の発見に手を尽くそう」
しぶしぶ任務続行を決める羅大佐。
「先行歩兵小隊へ。こちらは羅大佐である。このまま進んで核ミサイル基地を捜索せよ。巨大ワームが川に潜んでいる以上、増援は派遣出来ない。貴官らの英雄的奮闘に期待する!」
『……了解しました。第11都市万歳!』
険しい顔で命令を下す羅大佐に短く応える歩兵小隊長。最後に万歳と唱えるあたり、死を覚悟しているのだろう。
鉄橋の向こう側で待機していた生き残りの歩兵20数名が、前方の山間部へと進んで行く。
「アシュリー中佐。松原市前線基地で待機している我が方の水陸両用機動戦闘艇に空中支援を要請します。この要請が受け入れられない場合、先行部隊の全滅は確実となって任務遂行は不可能となるでしょう」
「……やむを得ません。承りました」
毅然とした態度で要請する羅大佐に向け、降参したと言わんばかりに両手を挙げて了承するアシュリー中佐。
「本隊の諸君に告ぐ。全部隊でもってこの河川敷に展開し、川を流れる流木全てを撃滅せよ。殆どの流木は巨大ワームが偽装したものと思われる。
我々が派手に攻撃する事で、付近に潜む巨大ワームを此方へ引き付け、歩兵部隊の捜索を助けるのだ!第11都市万歳!」
不退転の決意で命令する羅大佐。
20分後、羅大佐からの脅迫に近い要請を受けて飛来した水陸両用機動戦闘艇は、先行する歩兵小隊上空を旋回しながら、山中や廃墟の中から接近を試みる巨大ワームへロケット弾や30mm機関砲を撃ち込んでいく。
機動戦闘艇の飛来と同時に、河川敷に展開したT72戦車部隊とBMP-1歩兵戦闘車両から主砲が発射され、次々と流木に命中すると擬態していた巨大ワームが川面から飛び上がって河川敷に突っ込んで戦車部隊に襲いかかる。
河川敷に展開した戦車と歩兵戦闘車は、至近距離まで迫った巨大ワームの体当たりで横転したり巨体に押し潰されて内部の弾薬が誘爆して巨大ワームごと爆発する車両が相次いだ。
それでも、二重三重の車列で待ち構えていた戦車と歩兵戦闘車は、前列の戦車が横転して乗員が閉じ込められても構うことなく直ちに発砲して巨大ワームの突破を阻止し続けた。
河川上流や下流に潜む巨大ワームは、河川敷で攻撃を仕掛ける数百人規模の本隊を”獲物”と認識すると、銃砲弾で仲間が噴き飛ばされても意に介することなく河川敷に巨体を乗り上げさせて戦車部隊や歩兵戦闘車と死闘を繰り広げる。
河川敷での死闘が始まった3時間後、先行歩兵小隊は線路の終着点と思われる山間部のトンネル陣地を発見すると、赤色の発煙筒で合図する。
一連の捜索と戦闘で第11都市人民防衛部隊は戦力の50%を喪失、中継基地が置かれた瀋陽市まで後退、核弾頭回収任務を後続のイスラエル連邦軍空中輸送部隊に引き継ぐ事になるのだった。
☨ ☨ ☨
【旧中華人民共和国 瀋陽市 イスラエル連邦軍中継基地】
「羅大佐殿。失った同志人民に哀悼を奉げます。再編するにあたり、成都住民から500名を招集してください。人事は一任します。目安としては、適合者にあと少しで満たなかった者でしょう。演習は此処で行うので安全です」
「……わかりました」
戦力が半減して後退した人民防衛部隊の補給を終えた段階で、アシュリー中佐は再編成を羅大佐に一任し自らは指揮通信車へ戻って人払いをした後、松原市前進拠点に居るバーネット中将に連絡を入れるのだった。
「中国人民解放軍ロケット軍の基地を確認しました。核弾頭は後続のシェフィールド級輸送艦に搭乗させた特殊部隊が運搬します。全て”予定通り”です」
『ご苦労。核弾頭の起爆装置と目標選定プログラミングを改修した後、第12都市氷城に総攻撃を仕掛ける。先鋒は貴官の部隊となる』
「栄誉ある先鋒を命じて頂き、感謝します」
『第12都市を落とせれば、貴官の2階級特進を申請するとしよう』
「ありがとうございます閣下」
『ところでクローン人間部隊だが、どの程度戦闘に耐えられたのだ?培養槽にしがみ付いているアナハイム社の科学者=マッドサイエンティスト共がうるさくて叶わん』
「わが軍の新兵程度には武器は扱えますし、相応に警戒心もあります。扱える武器が旧ロシア製や中国製に限りますが」
『……そうか。今後、クローン人間共を第12都市のクローン人間と対決させるが、同胞ということで寝返る可能性はあるか?』
「第11都市の防衛軍司令部コンピューターサーバーに電磁波兵器の使用方法について極めて興味深いデータを発見しています。アナハイム社に解読させていますがおそらく”福音システム”の稼働コードでしょう」
『なるほど。いざという時はリリー波を使うのだな。貴官はそのうち人権団体から告発されるかもしれん』
「ハハハ。アムネスティインターナショナルはシャドウ帝国の中性子爆弾で壊滅したロンドンに本部を置いていたのです。フェミニスト共は死に絶えております。ご懸念はナンセンスでしょう」
『分かった。今後も第11人民防衛部隊は全て君に任せるとしよう』
バーネット中将との通信を終えたアシュリー中佐は、瀋陽市へ後退する指揮を取っていた羅大佐の反応を思い返していた。”助言”するアシュリーを視る目が無機質なモノに変貌していたようにも見えたのだ。
「……使える駒だとは思うのですが、いざとなれば」
アシュリー中佐は電磁波兵器システムで成都住民を意のままに操り、場合によってはリリー波で”リセット”して培養槽から”やり直す”事も視野に今後の戦術構想を練っていくのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・羅=人類統合第11都市『成都』暫定代表。大佐。
・アシュリー=イスラエル連邦軍中尉。
・マイケル・バーネット=イスラエル連邦軍陸軍中将。ユーラシア大陸派遣軍司令官。




