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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
376/462

黄将効果【後編】

2027年(令和9年)4月23日【東京都千代田区永田町 首相官邸応接室】


「岩崎総理大臣。ご就任おめでとうございます」「ご無沙汰しております」


 ミツル商事社長、副社長としての復帰挨拶も兼ねてとの名目で面会に訪れた満とひかり。実際には”木星の件”で至急報告したいと春日に事前連絡した上での訪問である。


「お久しぶりです。MCDA(火星通商防衛協定)の件も含めて、いろいろとありがとうございました」


 にこやかに応える岩崎正宗内閣総理大臣。


「……こちらですが、よろしければ皆様で召し上がってください」


 黄将の手提げビニール袋に入った商品カタログメニューを、同席していた春日洋一内閣官房長官に手渡すひかり。


「……ほう。久し振りにジャンクな中華もいいですね」

「ご注文がお決まりになりましたら、”お近くの惑星から配達”させていただきます」


 総合商社角紅時代の後輩である春日官房長官の伺う様な視線に応えるひかり。


「デリバリーは時間指定出来ますか?」

「出来ますが、品目によってはご希望に添いかねる場合もございます」


 岩崎総理の質問に微笑んで答えるひかり。


「……ふふふ。久し振りの”相談”ですね。込み入った話になりそうですから場所を変えましょう。

 春日君は甘木経産大臣に連絡を。出来れば今から官邸に来て欲しいと」


 大月夫妻が美衣子達三姉妹のやらかしで訪問した時の様なデジャブを感じながら、満とひかりを首相執務室へ案内する岩崎だった。


          ♰          ♰          ♰


【首相官邸内 首相執務室】


 満が、琴乃羽美鶴と木星原住生物の長であるチューブワームが黄将のメニューを惑星間通信販売契約を締結したと報告する。


「彼女は今回が初めての契約獲得で何分不慣れなものでして、内容からして関係者の皆様にご迷惑をおかけしてしまうかも知れません」


 ヒタイに汗を滲ませた満が平身低頭で琴乃羽美鶴とジュピタリアンとの契約条件について説明する。


「……(やっぱりか)」「……(また、やっちゃいましたね琴乃羽さん)」


 微笑んで無言で頷く岩崎総理大臣と春日官房長官の心中では頭を抱えている。


 辛うじて微笑みが保たれていたのは、大月夫妻との面会直前に国立天文台と文部科学大臣から不審な電波バースト通信について緊急報告があったので心構えが出来ていたからである。


「餃子定食で貴重な液体水素やヘリウム3が惑星間輸送で入手可能となるならば、国家を挙げて支援いたします。

 この話を知ったら人類国家の殆どが取引に名乗りを挙げるでしょう。調整は困難を極めるでしょうね」


 昆布茶の入った湯呑みに手を伸ばしながら大月夫妻に申し出る岩崎総理大臣。


「顧客保護に関する契約の不備については、相手方が地球人類ではないので対応すべき前例が見当たりません。

 地球人類の観点で考えるならば、定食の提供と木星資源の支払いで売買の基本合意はなされています。契約解除条項を盛り込んだ契約書と差し替える事で不備に伴うリスクは軽減されるでしょう。

 今後、MCDA加盟国が取引に参加する可能性を考えるならば、ミツル商事が先行して取引実績を上げる事でミツル商事の契約書がベースとなり、我が国の木星外交は大きなアドバンテージを得るでしょう」


 角紅商社マン時代を彷彿とさせる商売っ気を出して応える春日官房長官。


「ありがとうございます。やらかしてしまいましたが、挽回の仕様はありそうで少し安心いたしました」


 岩崎総理と春日官房長官の好意的な反応を得たことで、肩を強張らせていた満の緊張が適度にほぐれていく。


 隣に座るひかりが頷いて岩崎総理と春日官房長官に持参したタブレット端末を渡すと、満が取引に関連する説明を始める。


「現時点では横浜の黄将東神奈川店から”木星大赤斑最深部顧客”への配達について実証実験中です。

 黄将看板メニューの餃子定食のほか、エビチリ、回鍋肉、麻婆豆腐、炒飯については時差が殆ど無く、出来立てほやほやでした。

 内密に協力をお願いした黄将の社長も満足されていました」


 タブレット端末に映し出された配達直後の料理画像を見せながら、岩崎達へ真面目に報告する満。


 満の隣ではひかりが笑いを堪え、真剣に聴いている筈の岩崎や春日もタブレット端末で顔を隠して笑いを堪えている様だった。


「ぷぷっ……失礼しました。大月社長はフードデリバリー事業を切っ掛けとして惑星間輸送を実現した様ですが、どの様な仕組みか教えて頂けますか?」


 堪え切れずに噴き出した後、真面目な表情に戻った春日官房長官が尋ねる。


「超電圧と超重力によって”異相空間”という場所を形成してデリバリーに用いています。

 ジュピタリアン代表であるチューブワームの長が直径2m程の異相空間を作り出し、その空間を通じて料理の受け渡しを行います。

 異相空間の持続時間は最大で30分です。異相空間内部の時間経過は殆どありません」


 満が説明する。


「……なるほど。検証は我が国も含めた各国研究者の立会いが必要ですね」


「異相空間を作り出すのは我々地球人類にも可能でしょうか?」


 満の説明に頷く岩崎。春日は更に質問を続ける。


「残念ながら、この”技術”が使えるのは今のところジュピタリアンの長であるチューブワームとその配下だけです」


 首を横に振って答える満。


「分かりました。……にわかに信じがたい話ですが。この手の話しは空想世界だけだと思っていました」


 ため息をついて天井を見上げる岩崎総理大臣。


「私達も総理と同じ思いです。……ただ、5か月前の裏人類都市『ウラニクス』での巨大ワニ討伐時に近くの湖から木星原住生物が大量に出現して戻っていった実例を考えると、既に現実世界の出来事と受け止めざるを得ません」


 冷静に指摘するひかり。


「わかりました。技術面の検証は内外の専門家に任せましょう。

 リアルタイム惑星間輸送が選択肢となれば、控えめに言って歴史上最も劇的な流通革命になるでしょう」


 岩崎総理大臣が評価する。


「……そう言えば。ウラニクス市攻防戦の記録映像では木星探査隊の天草華子さんと名取優美子さんが写っていましたね。

 既に実証済と考えて良いのかも知れませんよ」


 春日官房長官が指摘し、一同が頷く。


「総理。もう一つご報告です。

 支払いについては現物払いとしていますが、頭金として一部資源が既に弊社に支払われており、木星探査船『おとひめ』近隣の衛星軌道修正に液体水素とヘリウム3を氷塊状にして多数貯蔵しています……」


「惑星間タンカーか、それとも異相空間とやらにパイプラインを設置する方が良いか……経産大臣の甘木さんが間もなく到着するので検討しましょう。頼みましたよ春日さん」


 満の報告を受けた岩崎が春日に指示する。黙って頷く春日官房長官。


「大月社長。今日はご報告頂きありがとうございます。この件は直ちに政府で支援方法について具体的な検討をさせていただきます。

 異相空間流通システムは地球極東で活動中の自衛隊への補給手段として利用出来ればいいですね。

 その時に備え、琴乃羽さんにはチューブワームの長と地球―火星―木星での異相空間輸送が可能か打診して頂けると助かります。

本件は春日官房長官に担当させます」


 大月夫妻に方針を説明する岩崎総理大臣。


「……もちろん、打診した事が実現した暁には黄将の”木星1号店”出店が叶うよう政府も"お手伝い"をさせていただきます。1店舗だけで済むとは思えませんがね」


ニヤリと笑う岩崎総理大臣。


「「……かしこまりました」」


 深々と頭を下げて了承する大月夫妻だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ミツル商事社長。

・大月ひかり=満の妻。ミツル商事副社長。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・岩崎 正宗=日本国内閣総理大臣。

・春日 洋一=日本国内閣官房長官。元ミツル商事社員で大月の部下だった。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。

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