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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
373/462

こんな感じ

2027年(令和9年)4月22日【木星衛星軌道 木星探査船『おとひめ』艦橋】


「華子。本当に”異相空間=ゲート”が開いたのかね?」


 父親である天草士郎JAXA理事長が、船長でもある娘の華子に琴乃羽とチューブワームの長が交わしたやり取りの詳細について質問していた。


 ちなみに名取優美子は、殺到する水素クラゲや水素カニから逃げ出した琴乃羽の代わりに注文を受け付けていた為、艦橋の通信区画で火星日本列島に惑星間通信を使った注文に忙しかったりする。


 そして、この場で一番報告をしなければならない責任者の琴乃羽美鶴は、アダムスキー型連絡挺で帰還(逃走?)途中に水素水海で待ち伏せていた水素クジラに捕獲され隣の氷塊付近で何やら話し合いの為、不在である。


話し合いの最中に時折水素クジラから紫電が放たれて叫び声が上がっているのだが、巻き込まれたくない天草士郎は全力でスルーする。


「はい。お父様。美鶴姉さまは、異相空間を発見した天文学史に残る偉業を成し遂げたのです!」


「餃子を使ってだがな……」


 興奮する華子にため息をついて応える天草士郎。

中華料理で未解明の宇宙現象を目の当たりにしたなんて報告書は文部科学大臣に提出出来ないだろう。


「……しかし、我が国が巨額の予算を使って木星探査をしている一方で木星原住生物(ジュピタリアン)と中華料理のデリバリー契約とは……状況を分かっているのかミツル商事は!?」


 複雑な表情で船長代理のイワフネに詰め寄る天草士郎。


「正気でしょう。ミツル商事ではいつも”こんな感じ”で事業が起こっているのです。

……理事長もすぐ傍に浮かぶ液体水素氷塊をご覧になったじゃないですか」


 平然と答えるイワフネ船長代理が、艦橋の窓から見える氷塊を指し示す。


 総合商社角紅時代は商談の途中で養殖筏や屋形船から水中へダイブしてしまう本能を持つマルス人イワフネは、取引先から"変な奴だが面白いトカゲの兄ちゃん"として認知されていた。


 イワフネが商談途中でダイブした案件の成約率は100%と言われ、木星探査隊に招集される直前まで火星日本列島各地の取引先に呼ばれる角紅が誇る人気商社マンだった。


 静止衛星軌道上に停泊中の木星探査船『おとひめ』近隣には、中華料理配達の実証実験で得た現物払いの液体水素やヘリウム3が氷塊に詰まった状態で結集していた。


 大月夫妻への報告内容(いいわけ)を考え中の琴乃羽美鶴指示のもと、木星最深部から水素クジラに付き添われて衛星軌道上まで浮上してきた液体水素氷塊は、水素クラゲによって数珠繋ぎにされて『おとひめ』近隣衛星軌道上に設置され続けている。


 数珠繋ぎの氷塊群の全長は、全長2Kmある『おとひめ』を超える規模にまで増加している。


「……こんなの文科省にどう報告すればいいのだろう」


 広大な艦橋窓から見える景色の半分近くを占めつつある巨大な氷塊群を眺めると、頭を抱えて唸る天草士郎JAXA理事長だった。


          ☨          ☨          ☨


【火星アルテミュア大陸西海岸 ユーロピア共和国首都『ニューガリア』首相府】


 執務室でジャンヌ・シモン首相は、ウラニクス郊外に駐屯している外人特殊部隊の隊長から報告を受けていた。


「ふむふむ。……なるほど。ウラニクス湖に現れた水素クラゲがいきなり”黄将知っているか”と質問ねぇ~」


 ジャンヌの経験則によれば、大月家が絡むと大抵は有り得ない事態が発生するのが常であるが、今回も”そうだった”らしい。


「ご苦労さま。引き続きウラニクス湖の監視をお願い。何か有ればすぐにクロエ補佐官までよろしくね」


『かしこまりました』


 通信を終えたジャンヌ首相はクロエ・シモン首相補佐官に対応を相談していた。


「……さて。状況を整理しましょう。

 飛来した大月家の船がウラニクス湖から現れた木星原住生物(ジュピタリアン)の水素クラゲに中華料理チェーン店の料理を手渡して日本列島へ戻っていったという事ね――――――って、わかるかいっ!」


 ふむふむと頷きながら整理しかけたジャンヌだったが、一人ボケ突っ込みを演じてしまう。


「……気持ちは大いに理解するわ。でもねジャンヌ。首相たるもの冷静にしないとダメよ」


 補佐官であり姉でもあるクロエが、ジャンヌ首相を抱きしめ頭を撫でて落ち着かせようと試みる。


「状況証拠から考えて、大月家は何らかの方法で木星原住生物ジュピタリアンとコンタクトする術を確立したのみならず、料理を木星まで輸送する事にも成功した。

 見方を変えれば、木星原住生物ジュピタリアンと提携して惑星間移動方法を確立したという事かしら」


 クロエ補佐官が状況を分析する。


「我が国はアルテミュア大陸西海岸の開発を進めているけれど、イスラエル連邦が南半球ヘラス大陸の開拓主導権を握った現在、今以上の火星開拓は直ぐに限界が来るわ。

 一方で木星には火星には無い資源が莫大にある。イスラエル連邦の影響も無いし、またとない開拓先よ!

 ジョルジュに指令よ。”大月家の動向に注目し、あわよくば木星ビジネスのきっかけを掴みなさい!”」


 冷静さを取り戻したジャンヌ首相がクロエ首相補佐官に大月家に出入りするようになったフランス料理人ジョルジュを通じた情報収集を命じるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・天草 華子=大月瑠奈のクラスメイト。神聖女子学院小等部6年生。木星探査船『おとひめ』船長。心的外傷療養目的で木星探査参加した。父親はJAXA理事長の天草士郎。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・天草士郎=JAXA(宇宙開発機構)理事長。華子の父親。

・イワフネ=マルス人。ミツル商事にサラリーマン研究の為派遣されていたが、仮想世界大戦後、天草華子、名取優美子の心的外傷療養を見守る為、木星探査船『おとひめ』船長代理として木星探査隊に同行している。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・クロエ・シモン=ユーロピア共和国首相補佐官。妹のジャンヌ・シモンはユーロピア共和国首相。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。

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