表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
372/462

異相空間

2027年(令和9年)4月22日【太陽系第5惑星『木星』大赤斑地上 チューブワームの住処】


 琴乃羽美鶴による黃将メニューのゴリ押しセールスに晒された木星原住生物(ジュピタリアン)の長はいつの間にか"買わなければならない"様な気分に追い込まれていた。


「さあさあ!締め切り時間まであと僅か。黃将グルメはもう貴方の目の前まで来ていますよ~。後はちょっと契約するだけ!どうするどうする?」


 ゆらゆらと長の前で手羽餃子の皿を掲げて迫る琴乃羽。


 消費者庁の訪問販売ガイドラインに抵触しかねない行為だが、琴乃羽美鶴も大月夫妻を使い走りにした負い目もあって業績アップで汚名返上すべく形振り構わない精神状態であった。


「……ググググ」


 チューブワームの長の悩みが限界に近づく。

 

 周囲で蠢く水素クラゲや水素カニの群れも長の葛藤が伝播したのか、何やらムズムズと盛り上がっているのだが琴乃羽はスルーし続ける。


「残り時間あと僅か!さあさあさあ!」


 激しく煽り立てる琴乃羽。

 高速道路で実行すると即座に通報・逮捕コースまっしぐらである。


「……決めた。友よ。我は買う」


 ぷるぷると小刻みな震えが止み、グッと頭を上げるチューブワームの長。


「お買い上げありがとうございます!お支払いは現金ですか?液体水素ですか?」


 揉み手で作り笑いの琴乃羽。


 大月社長夫妻を黄将へ”パシリ”に行かせた事は不問にされたものの、ひかり副社長からは”わかっていますよねぇ?”と言わんばかりの暗黒笑顔ブラックスマイルを向けられ木星へ送り返された琴乃羽は必死である。


「支払いは……”常設異相空間”1カ所で手を打とう。出入り口の設定は友が希望する場所で構わない」


 おもむろに支払い条件を提示するチューブワームの長。


「常設異相空間!?」


 なにそれ美味しいの?とばかりにキョトンと首を傾げる琴乃羽。


「どれ、実演して見せようぞ」


 チューブワームの長が巨体をギチギチと小刻みに震わせながら200mある身体の半分を持ち上げると、上空で渦巻く液体水素の雲とアンモニア氷の雲に向けて2対ある触覚から紫電を放つ。


 長から放たれた紫電は、上空を猛烈なスピードで流れていく液体水素、アンモニア氷の雲に当たると激しい化学反応による巨大な紫電が発生、対流する双方の雲が接触する場所で放たれると、地球の1000倍と言われるエネルギーで出来たオーロラが発生する。


 オーロラがチューブワームの長が居る地上に届くまで拡がると、その中心部に2メートル程紫色をした球体が現れ、次に球体中心部が陥没する様に黒い穴が染みの様に球体全部へ広がっていく。


「今はお試しだから常設ではないが、此れが”異相空間”だ。今は2番目(金星)の地上に繋がっているぞ」


 オーロラ中心部に空いた陥没した球体を示すチューブワームの長。


 陥没した球体からは轟音と共に勢いよく溶岩がピュッと噴き出してくる。


「アチッ!熱い熱い熱い!」「ひゃああああ」「なんで私達まで!ヤバいっしょ!」


 足元の金属水素の水溜りに溶岩がぴちゃんと跳ね落ちて激しく化学反応が起きて火花が飛び散り、逃げ惑う琴乃羽と華子、優美子、水素クラゲや水素カニ。


「……と言う事で、異相空間で取り引きはどうだろう友よ」


 首を傾げて尋ねるチューブワームの長の態度はちょっとドヤ顔が混じっている。


「……そう来ましたか。お買い上げありがとうございました。商品発送までしばらくお待ち下さい」


 木星原住生物代表を顧客として開拓した大成果にも関わらず、白く燃え尽きた表情で礼儀正しくお辞儀をする琴乃羽。


「異相空間とは”金星”へのゲートだったのかもしれないですわ!お父様にお知らせしないと!」


 琴乃羽の背後で天文学的一大事に興奮する華子。


「異相空間という未知のモノを獲得した黄将の餃子が凄いのか、チューブワーム長の認識が”ゆるふわ”なのか悩むっしょ。

 ……にしても、これからどうするっしょ美鶴姉様?」


 事の重大さを感じて引き気味の優美子。


「……ヤバい。ここまで大事になるとは。社長とひかりさんになんて報告すれば。

ちょっと水素水の海で頭冷やしてくるぅ」


想定を超える対価を得た琴乃羽は、やらかしたかも知れないという確信に現実逃避しつつあった。


 ”次は我々と交渉しろ”と言わんばかりに迫りくる水素クラゲや水素カニを全力でスルーしながらアダムスキー型連絡艇に飛び込んで大赤斑から急速離脱した琴乃羽は頭を抱えてしまうのだった。


――――――琴乃羽が大赤斑地上から脱出した後。


「えええっ!?ちょっと私に申しつけられてもお答えいたしかねます……」「責任者不在の為お答え出来ないっしょ!」


 取り残された華子と優美子は押し寄せるクレーマーと化した水素クラゲや水素カニの応対に追われるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・琴乃羽 美鶴 =ミツル商事サブカルチャー部門責任者。元JAXA種子島宇宙センター宇宙文字解析室長。木星原住生物と親しい為、木星探査隊に出向扱い。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・天草 華子=木星探査船『おとひめ』船長。神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。木星探査船は大月家結婚披露宴のビンゴ大会で1位となった景品で取得していた。仮想世界大戦時に負った心的外傷療養目的で木星探査に同行中。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。仮想世界大戦時に負った心的外傷療養目的で木星探査に同行中。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・チューブワームの長=木星大赤斑最深部に住む木星原住生物の長。体長は200m。日本文化に強い興味を持っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ