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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
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宝石箱

2027年(令和9年)4月22日【太陽系第5惑星『木星』大赤斑地上 チューブワームの住処】


 太陽系で最も重力が集中する木星大赤斑の地上部分は、1000Kmに及ぶ大気層の重圧で金属水素が凝固して出来た岩石と、木星最深部から高温金属水素を噴出させるチムニー(煙突)が摩天楼の如く林立する巨大な島で形成されている。


 地球ならば"大陸"と呼ばれてもおかしくはない"巨大な島"以外の木星表面は、水と氷と無数の金属水素由来の岩石が氷山の如く漂う冷たい液体に覆われている。


 故に高温金属水素が噴出するこの島は周囲の液体よりも気温が高く、地球3個程がすっぽりと入る規模の高気圧を形成、『大赤斑』と呼ばれる景観となっている。


 その島中央に在る噴出活動を停止したチムニー(煙突)はチューブワームの住み処となっており、そこで琴乃羽美鶴がチューブワームの長に”黄将の餃子”を振る舞っていた。


「—――—――ふぁっ!?」


 綺麗に手羽まで出来た熱々の餃子一皿を紙皿ごと一口で平らげた直後、素っ頓狂な声を上げて全長200mある身体の甲殻をギシギシと感動に震わせるチューブワームの長。


「どうよ!火星黄将の餃子は?」


 してやっとりとばかりにどや顔で胸を張る琴乃羽美鶴は、中華シェフの服装に身を包んでいる。勿論、自室で昔の番組”料理の鉄神”を見ながら自作したコスプレ衣装である。


 本来であれば、地球の320倍という木星重力が身体に加わって瞬時に潰れてしまう筈だが、琴乃羽達JAXA木星探査隊が大赤斑を訪問する際は、必ず連絡艇に水素クラゲか水素クジラが付き添って惑星磁力線を応用した反発力場を探査隊周辺に形成して地球並重力に調整されている。


「アンモニアや金属水素の香りとは全く異なる”ニンニク””ショウユ”なる物の香りが口の中で荷電粒子が弾ける様に暴れ回っておる!こ、これは銀河の宝石箱やぁ~!」


 何処かの食通リポーターの様な食レポコメントを発しながら、金属水素の水溜りをバシャバシャと転げまわって感動を全身で表現するチューブワームの長。


 チューブワームの長の背後を羨ましそうに見つめながら漂う琴乃羽の相棒である水素クラゲ"珍味君"。


「ふっふっふー。黄将餃子の安いけどチープな美味しさに身悶えたでしょう?

 ちなみに東神奈川店だけの”裏メニュー”焼き豚チャーハンは至高の逸品。反論は認めません!」


「なん、だと。……宝石箱以上のメニューが存在するだと……。日本列島に住みたいのぉ」


 個人的嗜好による熱弁を奮う琴乃羽美鶴に感化されていく木星原住生物ジュピタリアンチューブワームの長。


「……美鶴姉様のお話に喰いつく人を初めて見ました」「……いやいや人じゃないよ!?チューブワームだから!華子しっかりして!」


 単独で飛び出した琴乃羽を心配して追いかけてきた天草華子と名取優美子は中華チェーンの味を熱弁布教する彼女に驚き、正気を失いつつあった。


「……今の餃子を超える至高の逸品があるだと!?」


「……あるわ!恐れ入りなさい。今まで試食したのは手始めに過ぎない事を思い知らせてあげるわ!」


 悠久の時を木星最深部で過ごして万物を見守ってきたチューブワームの長は、未知の味覚の存在に驚愕し、琴乃羽はそこに商機を見出さんとす。


「そこで今日はなんとっ!木星に居るそこの貴方チューブワームにも味わえるカタログギフトをご紹介!

 今なら送料手数料無料(別途サービス料かかります)!冷凍液体水素10Kmサイズの毎月50回払いでお取り寄せ可能!」


 木星原住生物代表であるチューブワームの長に黄将メニュー表をビシッと手渡すと、通信販売の勧誘を開始する琴乃羽。


「……なんか、壮大なお話が急に微妙な展開に」「……うん。なんでここでテレビショッピング?胡散臭いっしょ」


 琴乃羽の背後でますます呆れ脱力していく華子と優美子。


「……むむむ。琴乃羽よ。この餃子やチャーハンは同胞達も味わえるのだろうか?」


 ギチギチと小刻みに殻を軋ませて苦悩するチューブワームの長が訊く。自分だけ楽しむことに後ろめたさを感じているのかもしれない。


「いやぁ~。長にオススメしている品は”長オンリーの””限定商品”です。

 決断はこっそりお早めに!」


 小声で質問する長に消費者心理をくすぐる用語を用いて答える琴乃羽。


 周囲でチューブワームの長を興味深そうに見入る水素クラゲや水素カニの群れが蠢いているのだが、琴乃羽は全力でスルーしている。


 今この瞬間は琴乃羽美鶴一世一代の勝負時なのだ。


「我が友よ。対価は冷凍液体水素でないとダメなのか?他のモノではダメなのか?」


 支払条件を確認するチューブワームの長。


「ん~。火星や地球で採れるものと同じ種類だと大量のお支払いを受け付けた場合、値崩れを起こしてご希望の料理を提供出来ない可能性があるのです。ですから、なるべく”木星ならでは”の品目を希望いたします。

 液体水素の需要が高いのですが、例えば、ヘリウム3は地球に極めて限られた量しか存在しないので良いですねぇ」


 しっかりと要望を口にする琴乃羽。


「おっと、言い忘れましたがこのお手頃価格はあと3分で終了です!

 お申し込みは今すぐ私まで!」


 時間制限を持ち出してチューブワームの長を煽る琴乃羽だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・琴乃羽 美鶴 =ミツル商事サブカルチャー部門責任者。元JAXA種子島宇宙センター宇宙文字解析室長。木星原住生物と親しい為、木星探査隊に出向扱い。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・天草 華子=木星探査船『おとひめ』船長。神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。木星探査船は大月家結婚披露宴のビンゴ大会で1位となった景品で取得していた。仮想世界大戦時に負った心的外傷療養目的で木星探査に同行中。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。仮想世界大戦時に負った心的外傷療養目的で木星探査に同行中。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・チューブワームの長=木星大赤斑最深部に住む木星原住生物の長。体長は200m。日本文化に強い興味を持っている。

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