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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
369/462

夢物語【前編】

2027年(令和9年)4月21日【地球極東地区 ウラジオストク北方150Km ハンカ湖畔】


『高瀬中佐殿。湖北端に南下してくる巨大生体反応3。巨大ワームです』


 ハンカ湖上空を警戒飛行していたパワードスーツ”サキモリ”のソフィー大尉が荒野から水辺を求めて移動してきた巨大ワームを発見して後方を飛ぶ高瀬中佐に連絡する。


「了解。ミサイルで先制する。撃ち漏らしは50ミリで片付けろ。ケン、目標補足次第ミサイル発射だ」

『了解マスター』


 21型パワードスーツに乗る高瀬中佐はソフィー大尉に指示しつつ、AIケンにミサイル攻撃を命令する。


 数秒後、21型パワードスーツの背面に取り付けられた16連装ミサイルランチャーから多目的誘導弾が一斉に発射され、灰色の煙を曳いたミサイルが湖畔へ近づく巨大ワームに命中する。


 ハンカ湖手前でミサイル攻撃を受けた巨大ワームは2体が直撃で爆散し、残り1体は巨体をくねらせて湖の中へ逃げ込もうとしたが、水深1~2mと浅い湖では隠れようもなく、正確に狙いを定めたソフィー大尉操るサキモリの50mmガトリングガンで粉砕された。


『目標巨大ワーム殲滅』

「見事な射撃だソフィー大尉。引き続き警戒を怠るな」


 ソフィー大尉を労う高瀬中佐。


『中佐殿。例の人類統合都市間の話し合いは続いているのですか?』


「続いている。戦争中に孤立して8か月にもなるんだ。積もる話があるんだろう。大尉、巨大ワーム以外にもイスラエル連邦軍にも警戒を怠るな」


『ラジャ。早速イスラエル連邦軍機を補足。南西から接近中。E-6プラウラー電子戦闘機です』


「ホワイトピースへ。こちら高瀬。イスラエル連邦の電子戦闘機が接近中。下の連中に通信防護を連絡してくれ」


 ソフィー大尉と高瀬中佐が会話する間にもイスラエル連邦軍機との距離は縮まっていく。


「こちら日本国自衛隊。イスラエル連邦軍機に告ぐ。当戦域は自衛隊が掌握している。電子戦支援はここまでで結構」


『こちらイスラエル連邦大陸派遣軍。友軍に出会えて光栄だ。幸運(グッドラック)を』


 高瀬中佐の呼び掛けにあっさり応じるイスラエル連邦軍パイロット。


『やけに素直ですね』


 翼を翻して南西へ飛び去っていくイスラエル連邦軍電子戦闘機を見送りながらソフィー大尉が呟く。


「しっかりしろソフィー大尉。奴らは衛星軌道上から視ているだろうよ」


 パワードスーツの人差し指を起用に上へ向けて応える高瀬中佐。


『マスター。衛星軌道上にはユニオンシティ軍宇宙空母『サラトガ』が周回中ですの』

 

 AIのパナ子がソフィーに伝える。


「なんか味方で化かし合いなんて嫌ですね」


 呟きながらハンカ湖上空を旋回するソフィー大尉だった。


          ☨          ☨          ☨


 ハンカ湖畔で一時休止している第2都市『バンデンバーグ』中央広場で始まった第12都市との交信は2日目に入っていた。


「鷹匠准将。ホワイトピースから連絡です。イスラエル連邦軍電子戦闘機が接近中との事です」


「ありがとうございますソールズベリー卿。黄星輝美殿、こちらに電子戦闘機が飛来した。通信切り替えを頼みます」


 両都市の通信に立ち会っていたソールズベリーが陸上自衛隊の鷹匠准将に耳打ちして伝え、鷹匠は黄星輝美に通信手段の切り替えを依頼する。


 日本国陸上自衛隊第7師団がバンデンバーグをしっかりと防衛する中、鷹匠准将やソールズベリー商会に見守られながらバンデンバーグ代表の黄少佐が、第12都市代表周大佐へ情報提供を行っている。


『分かったのだぞっ。通信回線そのままでいいのだぞっ。電波から惑星磁力線に切り替えるのだぞっ!』


 黄星輝美の瞳が黄色く輝くと、雑音が入り始めた通信機の音声が再び明瞭に聞き取りやすくなり、第12都市周代表の顔もしっかりとホログラフィックモニターに映っている。


「黄星様ありがとうございます。通信問題ありません」


 黄星輝美に感謝する第2都市代表の黄少佐。


「……この通信システムだけは地球人類の模倣が追い付かないんですよねぇ」


 ソールズベリーが僅かに呟く。

 隣に控えているマルス・アンドロイドのクリスも頷いている。


「この状況が落ち着いたら、ミス岬に是非とも理論の習得をして頂きたいところです」

『ヘクション!』


 ソールズベリーの呟きが通じたのか、大黒屋丸Ⅱで待機している岬渚沙が不意にくしゃみをする。

 乙女のくしゃみはマルス・アンドロイドクリスの機転でソールズベリー以外の通信回線には聞こえない様に封鎖された。


「……レディ。ちゃんとハンカチを使ってください」

『クリス!商会長に聞こえているじゃない!』


 嘆息するソールズベリーに赤面する岬渚沙がクリスに抗議する。


「ご主人様には隠し事は出来ませんから……」


 しれっと答えるクリスだった。


          ☨          ☨          ☨


 バンデンバーグを守護している黄星輝美の能力により、イスラエル連邦軍の妨害電波の影響を受ける事無く通信状態は改善され、無線音声以外にホログラフィックモニターでお互いの顔を見て相互通信が可能となっている。


 黄星輝美の能力は、惑星磁力線を利用するマルス・アカデミー技術に極めて似ていると両都市の通信を見守っているソールズベリー商会長は分析している。


『ええっ!?既に第1都市は消滅!?それでは……』

「残念ながら。昨年8月に我々は敗北しました」


 黄少佐から戦争の結末を知らされて衝撃を受ける周代表。


『昨年8月から敵襲警報が無くなったので勝利したかと思ったのですが、第1都市からの連絡が途絶えてしまいました。

 おかしいとは思っていたのですが、敗北したのですね。我々は間もなく処刑される運命という事ですね……』


「周代表、全く違います。我々第2都市は地球連合防衛軍と"独自"に停戦を結びました。

 人類統合政府情報宣伝部が言っていた"投降した都市は奴隷のようにこき使われて処分されてしまう"という事はありません。

私達は”自らの責任”で生き方を決め、自由に生きていけるのです」


 諦念も露な周代表に新たな処遇を説明する黄少佐。


「こうして今現在も周代表閣下とお話出来ているのも、独自停戦のおかげです。鷹匠准将、どうぞこちらへ」


 黄少佐が通信機の傍へ鷹匠准将を招く。


「周暫定代表閣下。初めまして。日本国陸上自衛隊第7師団師団長の鷹匠准将です。お目にかかる事ができ、大変光栄です」


 鷹匠が周に挨拶する。


「我々第2都市バンデンバーグは英国連邦極東軍と停戦で独自合意した後、日本国自衛隊護衛のもと、貴都市との合流を果たさんと移動しているのです」


 黄少佐が自衛隊との関係について説明していく。


「馬鹿な!西側の軍隊が護衛だと?その様な夢物語は有るものか!あった所で我々には時間が……」


 言葉を詰まらせる周暫定代表。


「周代表からすればにわかには信じがたいでしょう。ですが、先程そちらに現れた守護神黄星輝美様の存在を見ればお分かり頂けるかと」


 静かに説得する黄少佐。


『私は嘘つかないのだぞっ!』

「……お、おう」


 通信機の向こう側から元気一杯な輝美の声と、それに気圧された周の引き気味の声が聞こえてくる。


「周代表。あらためてになりますが、今日まで貴都市が生き延びる事が出来た経緯について今一度お話を伺いたいのです」


 黄少佐としては、今後の行動を考えるにあたり、周の話を整理して聴く必要があった。


「分かりました。お話しましょう」


 頷いた周が話を始めるのだった。


『我々が人類統合第12都市が他の人類統合都市との通信が出来なくなったのは昨年8月からです』


 暫定代表周平の説明によると第12都市では昨年8月以来、エリア51からの希少薬品補給が途絶え、他都市との連絡も途絶した為、孤立無援の都市運営を迫られていた。


『都市機能を維持するエネルギー源は原子力発電で賄う事が出来ますし、食糧プラントで基礎的な自給自足は可能です』


「それだけを聞けば、実に持続可能な都市生活環境と思えますね」


 周の説明を聴きながら感心する鷹匠准将。


『しかし、私達住民の健康維持に必要とされる幾つかの希少薬品だけは第1都市『エリア51』だけしか調達出来ないのです。

 代替となりうる薬品を探して研究しましたが、せいぜいが老化の進行を若干遅める程度のモノでした……』


 困り顔の周暫定代表。


 希少薬品の不足でじり貧状態に陥った第12都市司令部は、少数の斥候部隊を7度に渡って都市外へ送り出したが、帰還した部隊はなかった。


「通信途絶は、イスラエル連邦軍電子戦闘機が常時妨害電波を発しながら周辺を飛行している為でしょう」


 苦り切った顔で告げる鷹匠准将。


 シャドウ・マルス本拠地であるエリア51攻略の為、北米大陸での軍事作戦に集中していた地球連合防衛軍司令部は極東の片隅で起きている事に注意を払っていなかった。


 故に、イスラエル連邦が北米大陸以外の人類統合都市を攻略していた情報も重視されていなかったのである。


「それでは、どうして他の都市は自給自足で生き延びる事が出来なかったのでしょうか……」


 黄少佐を見守る鷹匠准将の背後を警備するソフィー大尉が呟く。


「それも未だ解明されていない。第1都市であるエリア51が壊滅した直後、ヨーロッパや南米の人類統合都市の電磁シールド反応が消失し、派遣した偵察部隊が捉えたのは全てが死に絶えた都市だった……」


 ソフィーの問いに振り返らずに答える鷹匠准将。


「その問題はいずれ解明すべきでしょうが、これから直面する問題として、第2都市が如何にして第12都市と合流を果たすかという事になります」


 鷹匠が指摘する。


「このまま西へ進むと間違いなく第12都市攻略を進めるイスラエル連邦軍と遭遇、戦闘になる事は必至でしょう。

 ……小官はMCDA(火星通商防衛協定)加盟国として、日本国政府の命令には従います。個人的には、同じ地球人類として戦闘は避けたいのですが正直なところ、生き残った人類同士が戦争しなければならない程の事態なのか、疑問が残ります。

 イスラエル連邦は人類統合都市の住民を使ってユダヤ人が安全に暮らせる地球復興を作ろうとしている、というのが首相官邸の分析です」


 鷹匠が率直な意見と胸の内を告げる。


「必ずしも地球人類の破滅を望んでいないという所がかえってやりにくい……いえ、これは失言でした」


 苦笑するソールズベリーだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ソフィー・マクドネル=パワードスーツ『サキモリ』パイロット。ユニオンシティ防衛軍大尉。日本国自衛隊 第零特殊機動団に出向中。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・高瀬 翼=日本国自衛隊 統合幕僚監部所属 第零特殊機動団長。階級は中佐。乗機は菱友重工が開発した21型パワードスーツ(H21-PS)。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・黄星 舞=真世界大戦時、ホウライ世界から突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。神聖女子学院小等部新任教師。黄星姉妹の姉的ポジション。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・黄星 守美=真世界大戦時、ホウライ世界から突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・黄星 輝美=真世界大戦時、ホウライ世界から突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・ソールズベリー=英国連邦極東企業『ソールズベリー・カンパニー』会長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・アンドロイド。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・鷹匠=日本国陸上自衛隊第7師団師団長。准将。一時的に強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』艦長を兼務。

コウ 浩宇ハオユー=人類統合第2都市『バンデンバーグ』住民代表。少佐。北米大陸西海岸の戦いで地球連合防衛軍ロイド提督と停戦を結んだ後、黄星三姉妹と行動を共にしている。第12都市出身。

・周平=人類統合第12都市『氷城ハルピン』暫定代表。

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