表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 アナザーワールド
368/462

黙禱

2027年(令和9年)4月20日午前7時【地球極東地区 ウラジオストク北方50Km ハンカ湖畔】


 ハンカ湖畔で一時休止中の人類統合第2都市『バンデンバーグ』は、鷹匠准将が指揮する陸上自衛隊第7師団と合流し情報交換を終えた後、物質補給を受けていた。


 MCDA(火星通商防衛協定)加盟国が人道支援目的で保護を決定したバンデンバーグを中心に第7師団が展開し、円陣を形成して防衛体制を整えている。


 円陣外側に配置された90式戦車部隊の小隊長が後ろを振り返って、立ち枯れた森の中に佇むバンデンバーグ都市の灰色コンクリート摩天楼と言える高層アパートが林立する不思議な光景にしばし見入っている。


「……こんな存在が地球に居たんだな」


 小隊長の隣で戦車エンジンの点検をしていた操縦士がしみじみと呟く。


「それを言うなら、あの都市をここまでリヤカーで曳いてきた存在の方がよっぽど不思議だ」


 操縦士の呟きに答えると、配食された豚汁を啜りながら円陣上空を浮遊する黄星三姉妹を見る。


 北米大陸エリア51攻略作戦では第7師団の戦闘に立ってシャドウ・マルス帝国軍のレールガンから戦車部隊をシールド展開で防護したり、陸上戦艦に大穴を空けて戦闘能力を喪失させたりしていた姿を思い起こす小隊長。


「頼もしい戦女神の筈なんだが……アレは触らぬ神になんとやらだ」


 視線を円陣外側へ戻すと警戒監視を続ける小隊長だった。


 円陣内側で第7師団から人道支援物資の補給を受けて一息ついた人類統合第2都市『バンデンバーグ』は、合流した陸上自衛隊第7師団から提供された資材と黄星三姉妹が持ち帰った機材を基に通信機を作り上げて第12都市『氷城ハルピン』との交信を試みていた。


          ♰          ♰          ♰


 自衛隊は半日程無線周波数の調整と無線中継ポイントを開設し、第12都市と交信が可能となった。


 ようやく黄少佐の呼び掛けに応えた第12都市暫定代表の声は明らかに憔悴していた。


『こちら第12都市暫定代表周平だ。バンデンバーグは北米大陸西海岸の所在だと認識しているが、通信状況が改善されたのか?』


「残念ながら我々が今まで各都市との交信を試みているが、成功したのは第11都市が初めてだ」


 黄少佐が答える。


『では何故貴官は離れた此方側と通信出来るのだ?』


 周代表が尋ねる。


「それは一度此方へお越し頂ければ分かりやすいのですが……」


どうしたものか思案する黄少佐。


「なんだなんだ?こうすれば良いのだぞっ!」


 輝美が叫ぶなりその場から姿を消す。


『うわっ!誰だお前は!』

「じゃーん!第2都市バンデンバーグの守護神が一人、輝美だぞっ!」


 第12都市の通信機から驚いた周代表の叫び声と、聞きなれた輝美の元気な声が聴こえてくる。


「輝美様。無事ですか?」

『無事だぞっ!だけどこっちの人達はちょっと危ないかも』


 黄少佐に応える輝美。


「やはり生体維持薬品の欠乏ですか」

『そうだぞっ!あと少しは持つと思うけど』


 黄少佐に答える輝美。


「そちらで使用している特殊薬剤につきましては、私達で分析を進めているのですが、未だ解明が出来ておらずお役に立てそうもありません……」


 申し訳ない顔で話す鷹匠准将。


 人類統合都市住民であるクローン人間については、最初に接触したロイド提督の報告を受けた英国連邦極東から情報提供を受け、厚生労働省傘下の国立感染症研究所とミツル商事が共同研究を進めていたが、クローン人間の存在からして地球人類技術では実現困難なレベルの為、共同研究は遅々として進んでいなかった。


 我妻政権退陣後、満が社長に復帰すると同時に、ミツル商事生物科学部門が美衣子達マルス・アカデミーの協力を得て解析に着手したばかりだった。


「……わかりました。貴国の薬剤開発に期待します。私達は生存を諦めません。先ずは第12都市との合流を目指します。もしかしたら、第12都市のサーバーに薬剤解析のヒントがあるかもしれません」


 疲労を滲ませながらも、明日を見据えて都市内部へ戻っていく黄少佐の後姿を見送る鷹匠准将だった。


          ♰          ♰          ♰


――――――その頃【旧中華人民共和国黒竜江省 牡丹江上空】


 黄少佐と第2都市バンデンバーグ住民がこれからの行動についてソールズベリーや黄星三姉妹と話し合う間、鷹匠准将は高瀬中佐とソフィー大尉にイスラエル連邦軍から報告のあった人影の捜索を命じるのだった。


 ハンカ湖畔南側に着陸していた強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』から発進した高瀬とソフィーの乗るパワードスーツ『サキモリ』は、第12都市へ向かう途中の中間地点にあたる交通要衝だった牡丹江市を目指していた。


 ハンカ湖畔上空の『ホワイトピース』から発進して30分後、サキモリAIのパナ子がソフィーに告げる。


『マスター。もうすぐ牡丹江市上空に到着するですの』


 やがて眼下に二本の河川が市街地を南北に通る牡丹江市が見えてくる。第三次世界大戦前の中華人民共和国時代の都市人口は66万人だが地上に動くものは発見できない。


『牡丹江市街地に生命反応は無いよ』


21型パワードスーツAIのケンが高瀬中佐に告げる。


「イスラエル連邦軍の情報はフェイクだったのか?」

呟く高瀬。


「パナ子の方はどうかしら?反応有る?」

ソフィー大尉が訊く。


『微弱な信号が牡丹江駅構内から出ているですの』

答えるパナ子。


「一応確認しなければならない。ソフィー大尉はそのまま降下して駅構内を捜索、私は上空で警戒にあたる」


高瀬がソフィーに指示する。


 パナ子が示した場所は火山灰混じりの灰色の積雪に覆われており、元々は半円形の屋根に雪が降り積もってかまぼこ状のモノが2か所並んでいた。線路は積雪に覆われて判別できないが、所々から顔を出している機関車や客車の残骸がその場所が鉄道駅で有った事を示していた。


「あらら。雪に埋もれているじゃない。生命反応は?」

『ネガティブ(無し)ですの』


 ソフィーに短く答えるパナ子。


「そっかー。雪に埋もれて凍死したのかな。確認しないと」


 少しだけため息をついて列車残骸を見やるソフィー。


『マスター。対人レーザー出力を抑えて雪を溶かしてみるですの』


 パナ子がソフィーに提案すると、サキモリ胸部装甲下に装着されていた6連装小型レーザーを埋もれている列車周囲に照射していく。


 10分後、信号を発信していた車両に積もった雪を溶かし終えた事を確認したソフィーは、ヘルメットに装着したライトを頼りに車内捜索に入った。


 やがて車輌中央部まで進んだソフィーは、座席に作動中の携帯端末や成人女性と子供用と思われる衣服を発見したが遺体は無く、何らかの液体に塗れた痕跡を見付けただけだった。


「高瀬中佐。こちらの映像はご覧になっていますか?」

『……見ている。おそらく衣服の持ち主はその場で溶解したのだろう。"ごく最近に"』


ソフィーに応える高瀬。


『大尉。ホワイトピースに帰還するぞ。誰が仕掛けたのか分からないが、これは罠だ。我々をこの地へ呼び寄せる為のな』


何かを確信する高瀬。


「ラジャ。……やっぱり。最初から信じちゃダメだったのですよ」


 高瀬に返答した後、小さく呟いたソフィーは衣服の持ち主に黙とうを奉げるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ソフィー・マクドネル=パワードスーツ『サキモリ』パイロット。ユニオンシティ防衛軍大尉。日本国自衛隊 第零特殊機動団に出向中。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・パナ子=パワードスーツ『サキモリ』機体制御システム担当人工知能(AI)。民間企業PNA総合研究所の人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。


・高瀬 翼=日本国自衛隊 統合幕僚監部所属 第零特殊機動団長。階級は中佐。乗機は菱友重工が開発した21型パワードスーツ(H21-PS)。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・ケン=21型パワードスーツに装備された機体制御AI。

 公益財団法人 理化学研究所(理研)が開発した人工知能で、美衣子達三姉妹がセッティングしたお見合いでパナ子とゴールインした。天体観測を生かした遠距離射撃が得意。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・鷹匠=陸上自衛隊第7師団師団長。准将。一時的に強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』艦長を兼務。

コウ 浩宇ハオユー=人類統合第2都市『バンデンバーグ』住民代表。北米大陸西海岸の戦いで地球連合防衛軍ロイド提督と停戦を結んだ後、黄星三姉妹と行動を共にしている。第12都市出身。少佐。

・周平=人類統合第12都市『氷城ハルピン』暫定代表。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ