発見
2027年(令和9年)4月18日午後3時30分【旧ロシア沿海州 ウラジオストク北方150Km ハンカ湖上空】
巨大ワーム群の殲滅を確認した2機のパワードスーツに続いてハンカ湖上空へ到達する大黒屋丸Ⅱ。
『こちら大黒屋丸Ⅱ。ハンカ湖北東に惑星磁力線異常反応』
岬渚沙が報告する。
『了解。確認する』
岬の連絡を受けたパワードスーツ2機が北東へ向かう。
暫く湖上空を北東へ飛行すると、サキモリの地上索敵センサーが反応する。
「この真下に救助対象が居る?ただの森じゃないわね」
モニター画面を通して地上を観察するが特に変化もないので首を傾げるソフィー。
『違うですのマイマスター。よく視るですの』
サキモリAIのパナ子がセンサーが反応した方向へ望遠モードでモニターを拡大していく。
ソフィーがただの立ち枯れた森だと見過ごしていた”森”だけがじわじわと南下していた。
「ええ~っ!?森が動いている!?」
動く森に驚くソフィー。
「どういう事だ?ケン?」
高瀬中佐がパワードスーツのAIケンに訊く。
『あの森はフェイクだよ。本体はその下に在るよ』
AIケンが応える。
高瀬とソフィーが見守る中"動く森"はついに湖上に進出すると、筏のようにゆっくりと北西へ進んでいく。
「中佐。ジャパニーズオタクは”突っ込んだら負け”と言うけれどいいかしら?」
ソフィーが高瀬に尋ねる。
「どうぞ」
短く応える高瀬の視線は湖上の移動都市へ向けられている。
「私の見間違いでなければ、あの小さい子供が”曳いている”のが人類統合第2都市『バンデンバーグ』かしら?」
淡々とソフィーが訊く。
「安心しろ大尉。私も同じモノを見ている。ケン?説明を」
高瀬がソフィーに答えつつAIケンに尋ねる。
『曳いている少女は火星日本列島長崎沖で確認された”介入者”黄星輝美だよ。マルス・アカデミーの美衣子は知っているようだけど詳細は不明』
端的に答えるケン。
「介入者と言えば、北米大陸攻略作戦で西海岸の別動隊が接触した報告の奴らか」
理解した高瀬中佐。
「何者かは分かったわ……じゃなくて!どうしてリヤカーで都市を曳いているの!?」
次の疑問に突っ込むソフィー大尉。
『愚問ですのマスター。”介入者”の特殊能力としか説明できないですの』
サキモリAIのパナ子が今更という口調で答える。
「ソフィー大尉。直接訊くのが一番早いと思うのだが?」
「ラジャ。『こちら地球連合防衛軍所属日本国自衛隊のソフィー大尉よ。貴方達は何をしているの?』」
高瀬の忠告に従い、通信回線を全周波数帯にして呼び掛けるソフィー大尉。
『人助けだぞっ!』『エンストなんですぅ~』『ひっそりと進んでいるので心配ご無用、なのだぞっと』
介入者三姉妹が一斉に答える。
「……あのねぇ。そんなリヤカーで都市を運んでいるのにひっそりは無理があるんじゃないかしら?」
介入者にも臆さず突っ込むソフィー大尉。
『『『ガーン!!!』』』
ソフィーの突っ込みを受けた黄星三姉妹が凍った湖上にORZと崩れ落ちる。
「いやいや、突っ込み耐性弱くね?
こちらは『日本国自衛隊の高瀬中佐です。今から其方へ降下するのでお話を聴かせてください』
呆れた高瀬中佐が呼び掛ける。
『わかったのだぞっ!でも、ちょこっと補給が欲しいのだぞっ!』
黄星輝美が答える。
「了解しました。では、湖南側の岸辺まで移動できますか?東のナホトカから本隊が来ますから、補給が受けやすいかも知れません」
高瀬が提案する。
『助かるのだぞっと!ライちん、モリみん。ちょっと南へ転進するのだぞっと!』
三人の中で一番姉の黄星舞が感謝の言葉と共に応じる。
♰ ♰ ♰
30分後、介入者三姉妹が曳く第2都市『バンデンバーグ』は、ハンカ湖畔南側に到着した。
鷹匠准将率いる陸上自衛隊第7師団本隊が到着するまでの間、黄星三姉妹から事情を聴く為、高瀬中佐とソフィー大尉のパワードスーツはバンデンバーグ中心部の破壊されたピラミッド跡地に降り立つ。
念のため、都市上空にはソールズベリー商会の大黒屋丸Ⅱが警戒監視しながら旋回航行している。
高瀬達を警戒しているのか、ピラミッド跡地付近の建物や町並みにバンデンバーグ住民の人影は感じられなかった。
ソフィー大尉と高瀬中佐のパワードスーツが降り立つと同時に、ピラミッド残骸傍の地面が開いて1台のホバークラフト装甲車が現れてソフィー達パワードスーツの目の前に停止する。
ホバークラフト装甲車のフォルムは武骨な角張った箱型だが、前方寄りに配置された砲塔は第7師団最精鋭電磁砲搭載90式戦車に酷似している。
都市住民と会うためにパワードスーツから降りた二人が重囲を見回す。
「……大尉。やはりこの都市はおかしい」
「……子供が曳いている段階で既におかしいです」
高瀬中佐を呟きに応えるソフィー大尉。
「私が言いたいのはそこではない。私達は”ガスマスクも化学防護衣も着ていない”のだぞ」
「—――—――あっ!そうでした!」
高瀬の指摘にようやく気付くソフィー。
やがて停車した装甲車から黄土色の迷彩戦闘服に身を包んだ青年が降りると高瀬とソフィーの前で敬礼する。
「初めましてであります!自分は人類統合政府第2都市『バンデンバーグ』暫定住民代表を務める黄浩宇少佐であります!」
黄少佐はガスマスクも化学防護服も着ていない。
「地球連合防衛軍所属日本国自衛隊の高瀬中佐です」
高瀬も敬礼すると右手を差し出す。
高瀬と黄が手を握り合う。
「この都市の空気は綺麗ですね」
「はい。この都市をお導きくださっている守護神様のおかげです」
高瀬の問いに答える黄少佐。
”守護神様”という存在を初対面で問い詰めるのは失礼にあたると考えた高瀬は当初の質問をすることにした。
「なるほど。それで、貴官達は何処へ向かっているのですか?」
高瀬が尋ねる。
「我々は”守護者黄星三姉妹”のお導きで第12都市の同胞を救援する為に北米大陸からやって参りました!」
黄少佐が明確に答える。
「救援?」
高瀬が訊き返す。
シャドウ帝国各都市間で通信が交わされているとの報告を高瀬は耳にしていない。
「そうです。大地にはびこる邪悪な巨大ワームと”五芒の民”から同胞達を救援しなければならないのであります!」
決然と答える黄少佐の目に迷いはなかった。
「ええ~」「……五芒の民?」
黄少佐の答えに困惑して思わず顔を見合わせる高瀬とソフィーだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・ソフィー・マクドネル=パワードスーツ『サキモリ』パイロット。ユニオンシティ防衛軍大尉。日本国自衛隊 第零特殊機動団に出向中。
*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。
・パナ子=パワードスーツ『サキモリ』制御システム人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。
*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。
・高瀬 翼=日本国自衛隊 統合幕僚監部所属 第零特殊機動団長。階級は中佐。乗機は菱友重工が開発した21型パワードスーツ(H21-PS)。
*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。
・ケン=21型パワードスーツに装備された制御システムAI。
公益財団法人 理化学研究所(理研)が開発した人工知能で、美衣子達三姉妹がセッティングしたお見合いでパナ子とゴールインした。天体観測を生かした遠距離射撃が得意。
*イラストは、しっぽ様です。
・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。
*イラストはイラストレーター倖様です。
・黄星 舞=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。元神聖女子学院小等部新任教師。守美の姉的ポジション。
*イラストは、しっぽ様です。
・黄星 守美=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。元神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。
*イラストは、しっぽ様です。
・黄星 輝美=真世界大戦時、突如火星日本列島に出現した”介入者”。美衣子達マルス・アカデミー三姉妹と何らかの関連が有ると思われるが詳細は不明。美衣子に諭され罪滅ぼし中。神聖女子学院小等部6年生に転入していた。舞と守美の妹的存在。
*イラストは、しっぽ様です。
・黄 浩宇=人類統合第2都市『バンデンバーグ』住民代表。少佐。北米大陸西海岸の戦いで地球連合防衛軍ロイド提督と停戦を結んだ後、黄星三姉妹と行動を共にしている。第12都市出身。




