救国暫定臨時政権

　２０２７年（令和９年）４月１日【東京都千代田区 国会議事堂】

　３分の１以上の国会議員が所属している自由維新党の要請を受けて緊急臨時国会が召集され、自由維新党総裁 岩崎正宗以下自由維新党全国会議員と生き残った十数名の立憲地球党国会議員、その他野党等全ての衆参両院国会議員が国会議事堂に集まった。

　冒頭に立憲地球党 大塚蓮司内閣府副大臣が、

『後白河内閣副総理大臣を含む殆どの内閣閣僚が死亡又は行方不明となり、首班たる内閣総理大臣我妻も未だ遠地から戻らない為、国務大臣として執務を遂行する事が困難になったと判断した』

　として我妻内閣の総辞職を発表した。

　直ちに首班指名選挙が行われ、首相に選出された岩崎正宗は自由維新党を中心としながら立憲地球党含む各党から閣僚を募り、超党派からなる救国暫定臨時政権を同日中に樹立させるのだった。

　岩崎正宗総理大臣は国土交通大臣となった大塚蓮司と共に首都圏の混乱を治める為、全ての交通・通信封鎖を解除するとともに、ＭＣＤＡ（火星通商防衛協定）加盟国首脳を直接訪問して関係改善を図りつつマルス・アカデミーへ特使として春日洋一内閣官房長官を派遣、一時的な電力融通要請を行った。

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【火星衛星軌道 第１衛星フォボス 英国連邦極東軍・ユーロピア共和国軍共同『ダンケルク宇宙基地』宇宙ドック内 『ディアナ号』】

「分かったわ。だけど日本国に電力を融通するにはさらなる発電施設が必要。それはケビンやジャンヌにも相談しないとダメよ」

　ディアナ号を表敬訪問した春日官房長官から手渡されたマグロジャーキーの詰め合わせをためつすがめつしながら告げる美衣子。

「アルテミュア大陸を開拓しているユーロピア共和国の発電施設と英国連邦極東が再建を目指している人類都市ボレアリフからの電力融通ですか」

　美衣子から送信されてきたＭＣＤＡのエネルギー供給システムを自らのタブレット端末で見た春日が確認する。

「そうよ。日本国は火星新大陸との関係を強化するしかないと思うわ。いずれ近い将来、地球圏を掌握したイスラエル連邦が火星の本格開拓に来るのは必定」

　美衣子が近い将来に起こるであろう事態について予想する。

「……とは言うものの、直ぐにジャンヌやケビンの施設が使える訳ではないから、シドニア地区研究室(ラボ)で収集するＰエネルギーを電力に変換して火星日本列島(そっち)に送るわ」

　春日の端末にエネルギー供給プランを送信すると、てきぱきと説明する美衣子。

「ありがとうございます。電気代が恐ろしい事になりそうですが」

　感謝しつつも顔をひきつらせる春日。

「そこはそれ”現物取引”としたい所ね」

　縦長の瞳孔を細めてニヤリとほくそ笑む美衣子。

　マグロジャーキーだけでは物足りない様だ。

「我が国にマルス・アカデミーが喜ぶ物なんて、まだ有りましたっけ？」

　意味が分からずに首を傾げる春日が素の口調で美衣子に訊く。

　口調もミツル商事時代に戻っている。

「株式よ。財務省が取得したミツル商事と日本マルス交通の持ち株を大月家に返してちょうだい。

　イスラエル連邦に唆されて譲渡した分まで返せとは言わないから」

　美衣子がさらりとミツル商事の経営権を要求する。

「国民の税金からなる予算で取得したものですから、おいそれといくかなぁ……」

　うーむと思案する春日。

「”親方日の丸”経営のミツル商事が出す利益など微々たるものじゃないかしら？

　大月家が経営陣に復帰した暁には、毎年運用成果で一喜一憂する年金基金が驚くくらいにウハウハな成果を出すかも知れない……とひかりが言っていたかも」

「なんだ、ひかりさんのふわっとしたアドバイスですか。……ですが流石ですね、一理あるかも知れません。それを形にするのが政治でしょう」

　どや顔の美衣子が語った最後の残念な一言に、尊敬の念を持って前のめりになっていた体をガクッとコケさせた春日だったが、何とか立ち直る。

「……早速岩崎さんに相談してきますね」

　検討を約束すると、直ぐにシャトルに飛び乗って東京へ戻っていく春日官房長官だった。

　救国暫定臨時政権の官房長官はフットワークが軽いのだ。