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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
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新たな任務

2027年(令和9年)3月末日【火星衛星軌道 第一衛星フォボス 英国連邦極東・ユーロピア共和国共同『ダンケルク宇宙基地』内宇宙ドック】


 大月家一行が乗る『ディアナ号』が停泊する宇宙ドックの片隅で、長崎沖で巨大ワームに呑み込まれて爆散した『大黒屋丸Ⅱ』が出航準備を整えていた。


「Pエネルギー転換動力炉正常に作動中。ソーラーセイル展開準備完了」

『地球マデノ食糧、シェファーズパイ、物資ノ搬入完了イタシマシタ』


 操舵室で岬渚紗とマルス・メイド・アンドロイドのクリスが出航前の最終点検を行っている後姿を見て船長席に座るソールズベリーはため息をつく。


「……はぁぁ。長崎沖で救助されて3日も経っていないのに、もう次の任務か」

『マスター。タメ息ヲツクト幸セガニゲルト言イマスヨ』


 ソールズベリー商会長の嘆きを諌めるマルス・メイド・アンドロイドのクリス。


 九州長崎沖で乗船していた『大黒屋丸』ごと巨大ワームに呑み込まれることでMCDA(火星通商防衛協定)連合軍の攻撃を誘導して巨大ワーム撃破に貢献したものの、米俵式救命艇で漂流していた所を救助されて何故かダンケルク宇宙基地まで移送されて現在に至る。


 そして宇宙ドックには『大黒屋丸Ⅱ』が先代と全く同じ船形で停泊していた。

 基地司令曰く「気がついたらいつの間にか完成していた(棒読み)」らしい。ディアナ号の隣に停泊しているあたり、大月家一行の仕業だろうと確信を深めるソールズベリー。


 先程は基地司令官に呼び出され、ケビン首相から新たな任務を受けたばかりである。


 新たな任務とは、地球極東方面における救出任務である。


「なんで今更地球かなぁ。……さてはケビンの奴、火星で新たな儲け話を独り占めする気じゃないだろうな。その為に私を遠ざけようと……」


 疑心暗鬼なソールズベリー。


「商会長。ケビン首相はそんなせこい方じゃないくらい、元部下だった商会長が一番ご存知でしょうに」

窘める岬。


「確かにそうなんだけど、見つかりっこないと思わないかね?レディ」

「見つかる可能性があり、見付ける事で事態打開の糸口が掴めるとケビン首相は考えているのではないでしょうか?」


 ソールズベリーの疑問に応える岬。


「……しかしなぁ。こんな代物、本当に見つかるのかねぇ?人類統合第2都市『バンデンバーグ』が何で都市ごと移動するのかね」


 手元のタブレット端末に再生された動画を視るソールズベリーは自然と”アンビリバボー”と呟いて首を横に振る。


 彼の視る動画は、月面都市ユニオンシティの地球観測システムがアリューシャン列島近海を偶然撮影したもので、火山灰が色濃く残る雪雲の合間に、中心部にピラミッドを擁した奇妙な都市が丸ごと流氷の上を東へ移動する姿だった。


 地球連合防衛軍総司令部の公式発表によると人類統合第2都市バンデンバーグは、ロイド提督率いる地球連合防衛軍西太平洋別動隊と人類統合都市防衛軍の激戦に巻き込まれて都市ごと消滅した事になっている。


 巨大ワーム群殲滅後の大祝勝会で酔いつぶれ食い倒れた大月家一行がぐっすりと寝ている間に、ひっそりと『大黒屋丸Ⅱ』はダンケルク宇宙基地を出航した。


 長崎沖で漂流している間、岬やクリスと共に釣りに勤しんだ成果をダンケルク宇宙基地に出店していた火星マクドナルドに依頼してイワシパイバーガーに加工して『大黒屋丸Ⅱ』製作のお礼に大月家一行に献上する事も忘れていない。

 出来る英国紳士はひと味違うのだ。

 

 ソーラーセイルを展開し、火星のPエネルギーと地球から放たれるPエネルギーを動力炉で反発動力として転換させ亜光速まで加速した『大黒屋丸Ⅱ』は、一気に地球へ向かうのだった。


ソールズベリー「—――—――加速がむがぁぁぁ――――――(白目)!!」

クリス「出来る英国紳士は弱音を吐かないのでは(ケロリ)?」

岬「……(自室でコールドスリープ中)」


 大黒屋丸Ⅱの地球衛星軌道到着は3日後だった。


          ♰          ♰          ♰


――――――ソールズベリー商会が出港した数時間後【『同宇宙基地』内食堂】


「……むう」


 朝から美衣子は不機嫌だった。昨晩の祝勝会で騒ぎ疲れた結と瑠奈はディアナ号の自室で夢の世界を続けている。


 巨大ワーム群討伐祝勝会をダンケルク宇宙基地の食堂で盛大に開催したのだが、美衣子が目玉食材として期待していた三浦沖のマグロから取れる中トロが、首都圏海上・航空封鎖の影響で取り寄せる事が出来ず、泣く泣くニューガリア産の養殖マグロに切り替えられたためだった。


 まあ、それでも美味な事に変わりはなく、美衣子本人も含め皆に大好評だったのではあるが。


「美衣子。そんなに落ち込まないで。ほら、ソールズベリー商会が差しいれてくれた長崎産のイワシパイバーガーも美味しかったじゃないか!」


 不機嫌な美衣子のフォローを試みる満。美衣子にソールズベリー商会が差し入れたイワシパイバーガーを朝御飯のおかずにしたが、それだけでは不足らしい。


「んん?お父さん。じゃあ例えば、お父さんは夜中にひかりが居なくて寂しいからと言って、偶然傍に居たジャンヌと夜のお勉強会を開催するの?」


 悲し気な瞳で満を見上げる美衣子。


「ええっ!?」


 いろいろと想像を超えた例えに驚愕する満。


「……と言う事で、ちょっと岩崎の所へ行ってくる」


 とてとてと食堂の片隅に出現させた”どこへもドア”に向かって駆け出していく美衣子。


「ちょっ!待って美衣子!」


 慌てて美衣子を追いかけようとした満の肩を背後から何者かが強力に押さえつける。


「……ねぇ。私というものが有りながら、ジャンヌさんと夜の何ですってぇぇぇ!!」


 瞳から光の消えたひかりが夜叉と化して満をロックオンしていた。


「……俺は無実だ―っ!!」


 ダンケルク宇宙基地に満の慟哭が虚しく響くのだった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

・ソールズベリー=英国連邦極東企業「ソールズベリー・カンパニー」会長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・アンドロイド。

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