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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
348/462

決戦 東京湾【後編】

2027年(令和9年)3月29日午前6時55分【神奈川県横浜市中区南本牧 貨物ターミナル 台湾警備軍自走レールガン部隊】


 数時間前に突然部隊のコントロールを離れて落下してくるワーム弾を迎撃した203mm自走レールガンの砲口は、先程から江戸時代の海防拠点だった第二堡塁の在る南の海上に向きを変えつつあった。


 南の海上からは雷鳴の様な轟音が断続的に聞こえており、長距離目標捕捉システムのカメラで視ると、流星雨の如く曳光弾やミサイルが第二堡塁の在る海上一帯に降り注いでいるのが確認出来た。


 いよいよMCDA(火星通商防衛協定)連合軍と自衛隊との協働による巨大ワーム群迎撃作戦が始まったと中佐は悟る。


「中佐!中隊各車輌のレールガンエネルギー充填速度が急上昇しています!」

指揮車両のオペレーターが報告する。


「おそらく、これは大月家の美衣子客人に違いない」

呟く中佐。


『中佐ノカンガエデ間違イマリマセン。美衣子マスターガ、巨大ワーム群ノホソクヲ開始シテイマス』


 オブザーバーとして派遣されているツルハシ15050号が中佐に告げる。


「台湾自治区時代から多大な貢献をしてきた大月家一行は台湾国の救世主だ。我々はそれに報いる為に出来ることをせねばならん。砲身とバッテリーの冷却剤を絶やすな!」


 中隊各車に呼び掛ける中佐。


『ダンケルク宇宙基地ノ美衣子マスターカラ最優先通信デス』


 ツルハシ15050号が告げた直後、通信機器の上にホログラム映像の美衣子が出現する。


『今から横須賀沖の最終防衛線を突破しようとする巨大ワーム群をレールガンで狙い撃ちよ。照準は此方でやるから、貴方達は引き金を引くだけの簡単なお仕事よ』


 なぜか自慢げに白衣を着て薄い胸を張る爬虫類少女の美衣子。


『……ちなみに、万が一ここで撃ち漏らしたら巨大ワーム群は間違いなく横浜に喰らいつくわよ』


 無表情で告げるとホログラム映像は消え、通信が終了する。


「やれやれ。完璧なお膳立てだから外すなと来たか……。ここで美衣子客人の期待に応えなければ台湾警備軍の名折れだな。よし!やるぞ!各員対ショック、対閃光防御!外に出るなよ、感電するぞ!」


 中隊全員を激励する中佐。


 5分後、最初に突破を試みた一体の巨大ワームに美衣子が照準を合わせた刹那、貨物ターミナルから幾筋もの青白い雷光が放たれると、瞬時に音速を超えた弾頭が海面をジャンプする巨大ワームを盛大に貫いて破壊するのだった。


 海中だけでなく海上に出ても瞬殺する威力の攻撃を受けた巨大ワーム群は、繁殖と獲物の動揺を誘うべくワーム弾を吐き出そうとしたが、無造作に落下してくる大量の砲弾とミサイルの直撃を受けて数体が爆発四散すると、堪らずに前進を諦めて第二堡塁手前で西側海域の観音崎沖へ退避を図るのだった。



【神奈川県横須賀市 観音崎沖 ユニオンシティ海軍駆逐艦隊 旗艦『ズムウォルト』CIC(戦闘管制室)】


 横須賀海軍基地から最大戦速で到着したステルス性能を最大限に考慮した特殊な艦型をしたハイテク駆逐艦に衛星通信が入電する。


「ミスター桑田。ダンケルク宇宙基地から暗号通信『ネタガムカッタ。トロトロトロ』。続いて台湾警備軍司令部から指揮通信データリンク要請が来ています」


 CIC(戦闘管制室)の薄暗い照明の中で生真面目に読み上げた通信士だが、肩が僅かに震えている。笑いを堪えているのかも知れない。


「……この暗号電文はおそらくマスター美衣子だな。もう勝った気でいやがる」


 美衣子はおそらく、巨大ワーム群討伐祝勝会で中トロを沢山頬張る想像で一杯になりながら暗号通信を組んだに違いない。容易にその光景が想像できてしまい思わず苦笑する桑田だった。


「艦隊司令。巨大ワーム群が此方へ向かってきます。台湾警備軍とデータリンクして直ちに迎撃態勢を」


 桑田が傍らの艦長席に告げる。


「ミスター桑田。本艦隊は既に戦闘態勢だ。いつでもミミズ共を血祭りに上げましょう。データリンク許可」


 自信たっぷりに応える艦隊司令。


 艦隊司令官の許可が下りた途端、CICの薄暗い室内に場違いなゲーム音楽のファンファーレが響き渡り、桑田の肩にデフォルメされた美衣子が現れる。


 デフォルメ美衣子はCICに並ぶ精密機器に白衣の裾から除いた尻尾をかざすと、尻尾の先から放たれた緑色の光線に反応して機器が淡く光り輝いていく。


 マルス・アカデミーの美衣子が監修した膨大なシステムとのデータリンクが完了し、次々と情報が更新され、レーダー探知画面には詳細な巨大ワーム探知情報が表示されていくと、フンスと胸を張ったデフォルメ美衣子の満足気な姿が桑田の肩から掻き消える。


 あっという間の出来事だった。


「台湾警備軍とデータリンク。

 索敵システム探知、巨大ワーム5体、前方11時方向!こちらに急速接近中!」


「こちらブリッジ。目視確認!奴ら海面を飛び跳ねてやがる!来るぞ!」


 ほとんど間を置かずに、ソナー担当とブリッジの警戒監視員が報告する。


「微速前進。本艦を中心として『マイケル・モンスーア』『リンドン・B.ジョンソン』は10時方向に展開、『ラーク』『ドレイク』は2時方向に展開。V字陣形で巨大ワーム群を迎撃、袋叩きにする!全武器使用自由オールウェポン・フリー!」

艦隊司令が命令する。


 V字陣形となった駆逐艦隊は、迫りくる巨大ワーム群に向けて前方甲板に格納していた15.5インチレールガンを斉射し、左右舷側からは短距離魚雷を連続発射する。


 砲弾や魚雷を躱して至近距離に近づいた巨大ワームには、近接支援火器である20mmバルカン砲がブーンと唸りを上げて容赦ない鋼鉄の弾幕を浴びせかけ鱗に覆われた巨体を貫き切り裂いていく。


 先程の死の嵐から逃げ切ったと思っていた巨大ワーム群は、ひと息つく間も無く前方から迫りくる新たな死の脅威と向き合わねばならなかった。


 火星原住生物なりの本能に従って危機回避を重ねてきた巨大ワーム群だったが、絶え間ないレールガンと魚雷、バルカン砲の弾幕の前に1体また1体と巨体を貫かれておびただしい肉片を観音崎岬周辺海域に撒き散らしながら殲滅されていくのだった。


 ユニオンシティ海軍駆逐艦隊が戦闘を開始して1時間後、首都圏をパニックに陥れた巨大ワーム群は殲滅されるのだった。


          ♰          ♰         ♰


【神奈川県平塚市北金目2丁目 東南海大学湘南キャンパス】


 広大な大学敷地の一角に落下したワーム弾から広がった小型ワームを駆除すべく、陸自封鎖部隊が大学構内へ進入して2時間が経過していた。


 時折最前列で火炎放射器を装備した隊員が、Pエネルギーの屈折異常箇所に火炎を放射して地表や浅い地中に潜む小型ワームを焼き尽くしていく。


 周囲に展開している他の封鎖部隊からも随伴したマルス・アカデミー・アンドロイドの索敵によって発見された小型ワームを討伐する火炎放射器やサブマシンガンの発射音が聞こえてくる。


 小型ワームを殲滅していく陸自隊員の後に続いていた自由維新党総裁の岩崎は、イヤホンに入ってきた最優先通信を聴くと思わず足を止める。


「岩崎さん。どうかなされたのですか?」


 すぐ横に居た陸自指揮官が尋ねる。


 岩崎が背負うバックパックには小型ワームが嫌う電波を放つバッテリーがゲーム端末と共に格納されている。岩崎が部隊の小型ワーム避けの要である。


 SPや側近達が泣いて止めたが、東京を捨てて退避しようとした多数の与党政治家と違う所を示さねば政治家の存在意義が無いと危機感を感じた岩崎が決意した事だった。


「失礼しました。ダンケルク宇宙基地から連絡がありましてね。東京湾入口で巨大ワーム群の阻止と殲滅に成功したようです。中野と海老名の殲滅がほぼ確定した現在、私達がここのワームを殲滅すれば、この戦いは我々の勝ちですよ指揮官殿」


 岩崎が答えながら歩みを再開する。


「そうですな。各員に告ぐ。海戦は我が方の完全勝利だ!我々もここで勝って緒戦の惨敗を挽回するぞ!一匹たりとも見逃がすな!」


 頷いた指揮官が気を引き締めて隊員達を激励する。


 指揮官の激励を受けてにわかに周囲の部隊が放つ火炎放射器やサブマシンガンの音が増していく。


 此処の小型ワームはもうすぐ殲滅されるだろう。活発に行動する陸自隊員の背中を見つめながら岩崎は確信する。


「……後は我々がしっかり立て直さないといけませんね」


 呟いた岩崎の視線は、遥か東京の国会議事堂を向いていた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

・岩崎 正宗=自由維新党総裁。元内閣官房長官。

・桑田=自由維新党衆議院議員。元防衛大臣。MCDA軍事部門相談役。

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