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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
344/462

やっと

2027年(令和9年)3月28日18時【火星衛星軌道 第1衛星フォボス 英国連邦極東軍・ユーロピア共和国軍『ダンケルク共同宇宙基地』内宇宙ドック”ディアナ号”】


 ディアナ号の操舵室で大月家一行が東京湾周辺の作戦地図を見ながら状況分析を行っていた。


「お父さん。これ以上ワーム弾が首都圏に落ちると巨大ワーム群を防衛ラインで撃破しても首都圏の混乱は酷くなるわ」

美衣子が満に指摘する。


「うーん。分かっているよ……」


 頷く満だが、これから自分達が起こす事を考えると頭の中が呆然としてしまうのだ。

 当所は木星へ行く前の軽いお手伝い気分でジャンヌ首相の要請に応えたのだが、火星日本列島に残る岩崎や春日達を助ける為に少しだけ腰を据えて巨大ワーム対策に取り組んだのだが、事態の深刻化に伴い話が大きくなってきた。


「……あなた。迷うくらいなら、関わらないという選択が出来るのですよ?」


 迷走しつつある満を見かねたひかりが首を軽く傾げながらアドバイスする。


「……そうなのだけど、それはない。一度関わった人達をみすみす不幸には出来ないよ」

言い切る満。


「しょうがないですねぇ。ではでは気持ちも新たにビシッ!と行かないとですよ」


 軽くため息をついた後、笑顔に切り替えて満の背中をポンと軽く叩いて励ますひかりだった。


「よし!」


 頬をパンと叩き軽く気合を入れた満は、岩崎に教えてもらった連絡先に電話する。


「—――—――お久しぶりです桑田さん。急なご相談で恐縮ですが」


 元防衛大臣だった桑田に対し、満はMCDA(火星通商防衛協定)連合軍による巨大ワーム群迎撃作戦について説明を行って桑田の意見と協力を求めたのだった。


          †          †          †


――――――同18時20分【神奈川県横須賀市 在日ユニオンシティ海軍横須賀基地(旧在日米海軍基地)】


 彼が乗艦する予定であるズムウォルト級レールガン搭載駆逐艦のタラップ付近で急な出撃準備で物資補給に追われる水兵達を見ながら桑田は満の巨大ワーム群迎撃作戦を聞いていた。


「そうですか。分かりました。微力ながらお手伝いしましょう。ただ、今の私は引退した一般人ですから自衛隊に直接指揮命令出来る立場ではないのです。私の知り合いに現役の自衛官がいますので、彼から大月さんへ連絡を取るように仕向けましょう」


 満から説明を聴いた桑田が答える。


「やっと彼が動き始めた、というのだろうか」


 独り言を呟きながら駆逐艦に乗り込む桑田だった。



 駆逐艦のCIC(戦闘管制所)に到着した桑田は、待ち構えていたユニオンシティ海軍沿岸駆逐艦隊の司令に一礼すると状況の説明に入る。


「先程、大月満氏からMCDA加盟国と貴艦隊との間で”時間単位契約”を結ぶ事について月面行政府ソーンダイク代表の承認が下りたと連絡が有りました」


 桑田が海軍将校達のタブレット端末に電子認証された時間単位契約書を送信する。


「確かに、契約内容を確認した。本艦隊はミスター桑田をMCDA代理人として指揮下に入る。月面行政府から事前に補給指示が出ていたから、艦隊の出撃準備は直ぐに完了する。我々もあのミミズ共を殲滅する作戦に参加出来るのかね?」 

駆逐艦隊司令が訊く。


「イエスです司令。貴艦隊もヒーローの一員としてこれから観音崎沖のポイントに向かい、ミミズ共を駆逐するのです」

ニヤリと笑って答える桑田。


 桑田の答えを聞いた海軍将兵達はささやかな歓声を上げると配置に付いていく。


 20分後、ステルス性を重視した特徴的な艦体をした5隻のズムウォルト級レールガン搭載駆逐艦は、最大戦速で東京湾の最狭部にあたる観音崎沖へと向かうのだった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同18時15分【神奈川県横浜市中区山下町 関帝廟内 台湾国警備軍臨時司令部】


「……ここもかよ」


 神奈川県知事の勧めで野戦司令部に連絡将校として到着した陸上自衛隊第1空挺団の黄泉星少佐は、今まで見たことのない光景に驚きの目を瞠るがどことなく既視感を覚え、疲れた表情になっていくのだった。


 台湾警備軍野戦司令部に設置されたメインモニターは、近代戦に相応しい各種情報や地形図、部隊の配置状況がシステマティックに表示されている筈だが、黄泉星の期待を裏切る様に野戦司令部内にはレトロな哀愁漂うゲーム音楽が流れ、表示される部隊配置記号や地形図はドット画面だった。


 そして司令部の将兵達が携帯しているのは部隊から支給されたタブレット端末ではなく、将兵私物のスマホである。


「黄泉星少佐。貴官が使うPCには既にアプリを一時的にインストールしています。野戦司令部の情報共有はこのアプリから行えます」


 入り口から黄泉星少佐を案内してきた将校は、自分の携帯アプリのQRコードを黄泉星のスマホに読み取らせた後、指定された席まで黄泉星を案内すると敬礼して配置に戻っていく。


「お、おう(アプリとはあのゲームみたいなやつか?)」


 席に戻る台湾警備軍将校の背中を横目に司令部内のメインモニターを再度見る黄泉星少佐は、諦めた様にため息をつくと、指定された席につく。


「なんだこりゃ?」


 黄泉星の机上におかれたPC画面にはオンラインゲーム『ポケ〇ンGO』のトップ画面が表示されていた。

 困惑しながらトップ画面から”ようこそ黄泉星少佐”と点滅表示されている箇所をクリックすると別の案内画面が表示され黄泉星の困惑が深まっていく。


「……アバターを選択しろだと?」


 しばしの間固まっていた黄泉星少佐だったが、自らの任務を思い出す事で気を取り直すと、僧侶、飛脚、花魁、鎧武者、悪代官等といったアバター候補から連絡将校らしいアバター選択をするのだった。


 アバター選択をした直後、桑田の知り合いである久里浜野戦司令部の陸上自衛隊幕僚から新たな任務を指示された黄泉星少佐は、真剣な表情でトップ画面からゲームサロンへと入っていくのだった。


「詳しい説明はゲームサロンでとか、なんだかなぁ……」


 真剣な表情をしつつも、ついぼやいてしまう黄泉星少佐だった。


 そして20分後、黄泉星はゲームサロンへと招待されるのだった。


          †          †          †


――――――同19時【火星衛星軌道 第1衛星フォボス 英国連邦極東軍・ユーロピア共和国軍『ダンケルク共同宇宙基地』内宇宙ドック”ディアナ号”】


 オンラインゲーム『ポケ〇ンGO』のゲームサロンでMCDA加盟国首脳と大月家一行の作戦会議が開催される。


 ディアナ号の操舵室内中央床にホログラフィックモニターが点灯するとアバター姿の各国首脳が勢揃いしていく。


 いつもの見慣れたアバター姿の他に、江戸時代の飛脚姿をした自衛隊将校や全身甲冑姿の英国連邦極東軍提督に対し突っ込みたくなるのを理性で全力動員して抑え込むと満は会議を開始する。


「巨大ワーム群迎撃作戦に機動戦力を追加しましょう」

満が提案する。


『作戦変更かね?』

ピクリと肩眉を上げて反応する英国連邦極東軍グリナート提督。


「いいえ。変更というほどでは。巨大ワーム群が吐き出すワーム弾が防衛線後方を脅かす状況を改善します。詳しい説明は美衣子から」

簡潔に満が答えて美衣子に続きを促す。


「迎撃海域に大量の砲弾やミサイルを自衛隊が海空から集中投射する事で巨大ワーム群が海面に浮上するのは難しくなるわ」


 ドヤ顔でムフーと得意げに鼻息を荒げて薄い胸を張る美衣子。ひかりが美衣子の頭を撫でてご褒美の抹茶月餅の乗った皿を差し出す。


『なるほど。では効果を高める為に、三浦半島南側に展開する海自潜水艦隊を前進させ、巨大ワーム群背後からソナーと非誘導魚雷の弾幕を展開して追い立てましょう』

グリナート提督が追加要素を提案する。


『……自衛隊もMCDAの作戦に従います。自衛艦隊司令部から潜水艦隊に命令させましょう。陸自砲兵部隊も砲撃準備に入っています』


 飛脚姿アバターの黄泉星少佐が会議参加者に報告する。


「自衛隊の協力に感謝を。それでは迎撃作戦を開始します」


 嬉々として月餅に齧り付く美衣子を横目に作戦決行を宣言する満だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス文明「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・ケビン=英国連邦極東首相。

・グリナート=英国連邦極東軍提督。

・桑田=自由維新党衆議院議員。元防衛大臣。MCDA軍事部門相談役。

・黄泉星=陸上自衛隊第1空挺団少佐。連絡将校として台湾警備軍司令部に派遣された。

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