東京湾攻防戦【空海の攻防③】
2027年(令和9年)3月28日午後4時52分【東京首都圏市街地】
首都圏全域に在る全ての通信機器から合成音声によるJアラートが流されていた。
『—――—――ワーム弾落下、避難。ワーム弾落下、避難。ワーム弾が発射されました。ワーム弾は首都圏着弾の可能性あり。直ちに最寄りの指定ミサイル防護施設等に避難してください』
普段の夕方時は、会社や学校帰りの会社員や春休み中の学生、買い物を終えた人々で街中は混雑しているのだが、Jアラートの重厚なサイレンが鳴り響く現在人影は殆ど無く、道路には自動車やバス、トラックがドアを開けたまま無造作に乗り捨てられている。
全ての人々はサイレンを聴くなり、最寄りのビルや地下街等に避難しているのだ。
サイレンが鳴り響いて間もなく、府中市と新宿御苑、神宮外苑から発射された多数の迎撃ミサイルが白煙を引いて上空へ飛翔していく。白煙を引いて上昇する迎撃ミサイルは、大気圏に再突入したワーム弾に命中するとパッと短く鮮やかな火花を散らしてワーム弾を破壊していく。
神奈川県東部の地上からも時折青白く輝く雷光が幾筋も上空へ伸び、落下するワーム弾を粉砕する。
また、東京西部横田基地から発射されたアイアンドームシステムによる20数発の短距離迎撃ミサイルは、不規則な速度で落下するワーム弾を幾通りもの複雑な機動で追尾、低空で破壊していった。
だが、主要政府施設や横浜市を外れて落下する幾つものワーム弾が自衛隊迎撃ミサイルを潜り抜けて地上に着弾すると、火花交じりの土煙を上げる。
そして主要政府施設やターミナル駅から外れた地域には、迎撃ミサイルやワーム弾による大小様々な破片が降り注ぎ、自動車や木造家屋の屋根を突き破って被害を及ぼしていくのだった。
♰ ♰ ♰
――――――同時刻【火星衛星軌道 第1衛星フォボス 英国連邦極東・ユーロピア共和国 ダンケルク共同宇宙基地内宇宙ドック『ディアナ号』】
「台湾国中華街の在る横浜市と東京都千代田区の英国連邦極東・ユーロピア共和国大使館に落下するワーム弾は全て撃破に成功……スコア的にはこんなものかしら」
干し杏子をもしゃもしゃ食べながら、操舵室モニター画面に表示されたワーム弾の迎撃状況を視て頷く美衣子。
モニター画面の迎撃状況は、マルス・アカデミーが技術協力したMCDA(火星経済防衛協定)加盟国共通ゲーム回線(スーパーポ〇モン対戦)で各国が視聴出来る。
「……やっぱり、全弾迎撃は間に合わなかったですねぇ」
残念そうなひかり。
「日本国とユニオンシティの防衛システムは政府の重要施設への直撃を避ける為に優先順位が定められているのだろうね。少なくともユニオンシティのアイアンドームシステムは、防衛目標以外に落下する物体の迎撃はあえて行わないらしい」
答える満。
「……シビアですねぇ」
「これが現実なんだね」
ひかりと満が嘆息する。
「ぬおっ!ぱぱっち!またワーム弾が上がったっス!数は8!今度は三浦海岸っス!」
ヘルメットを被って正座していた瑠奈が不意に反応する。
「今度も低い高度ね。衛星軌道での迎撃は無理ゲーよ」
隣に座る結がワーム弾の弾道予測をして満達に伝える。
操舵室モニター画面には、三浦海岸から新たに8基の上昇する軌跡が追加され、8基とも自衛隊宇宙基地の在る衛星ダイモスより遥か下の高度から落下する予想軌道が表示されていく。
「皆さん。限界高度に達する前の上昇段階で全弾迎撃します。自衛隊は上昇段階での迎撃能力は無い筈ですから」
即座に決断する満がMCDA各国に告げる。
『構わんよ。日本国に貸し一つだ』『ムッシュ大月に防衛態勢を任せているのだから、どうぞ』
英国連邦極東のケビン首相、ユーロピア共和国のジャンヌ首相が了承する。
『これ以上、MCDAの防衛線後方となる自衛隊が混乱するのは不味いですね。こちらが迎撃している間に自衛隊は態勢を立て直して落下したワーム弾への対処をすべきでしょう』
英国連邦極東軍のグリナート提督も了承する。
「そういうことだから、頑張って!結、瑠奈!」「フルーツたっぷり杏仁豆腐が待っていますよぉ」
二人の肩を叩いて激励する満とひかり。
「「ぬおぉぉぉ!たぎってきたぁぁ!」」
正座が続く足の痺れが限界に近づく結と瑠奈だったが、膝裏に座布団を挟みながら奮起するとコントローラーを握り直して迎撃に専念するのだった。
「瑠奈。貴女は衛星軌道の発電衛星『ミラーボール』に貯めて有る余剰電力を高周波レーザーに変換して”上から”撃ち落としなさい」
「了解っス!出力充填120%っス!」
結が瑠奈と連携して横浜南本牧のレールガンと太陽光発電衛星を利用したレーザー照射での迎撃を開始する。
「えっ!?120パーセントって『アマノハゴロモ』みたいな事にならないかな?」
「大丈夫ですよ。”ミラーボール”は瑠奈ちゃん自ら組み立てたのだから、多少の無茶振りは大丈夫ですよぉ」
不安そうな満を宥めるひかり。
満とひかりがモニター画面を見つめたしばらく後、上昇していた8基のワーム弾は限界高度に達する前に結と瑠奈が全て破壊したのだった。
「……三浦海岸と金谷港のワーム群はそろそろ陸上での活動に疲れて海に戻る筈。苦し紛れのワーム弾は無いと思う。最後の力を振り絞って東京湾の最奥を目指すわ」
引き続き干し杏子を頬張る美衣子がワームの活動を予測する。
「これで観音崎沖の防衛線に集中出来るね」「ここからが本番ですね」
モニター画面を観音崎沖で待機する『ババロア』『エクレア』に切り替えると、表情を引き締める満とひかりだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・大月満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。
・大月ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。
*イラストはイラストレーター 七七七 様です。
・大月 美衣子=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。
*イラストは絵師 里音様です。
・大月 結=マルス文明「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。
*イラストは絵師 里音様です。
・大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。
*イラストは絵師 里音様です。
・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。
*イラストは、イラストレーター七七七様です。
・ケビン=英国連邦極東首相。
・グリナート=英国連邦極東軍提督。




