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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
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東京湾攻防戦【空海の攻防②】

2027年(令和9年)3月28日【火星衛星軌道 第1衛星フォボス ダンケルク共同宇宙基地内宇宙ドック『ディアナ号』】


「頑張り過ぎないでね。特に瑠奈さんはパワー溜めすぎますからぁ……」


 正座姿勢を保ちつつ、新しい任務に元気を出す結と瑠奈を見て、何故か瑠奈にだけは釘を刺して応援するひかり。


「なっ!心外っス!120パーセントなんてケチなこと言わないっス!150パーセントで我慢するっス!」


「それがおイタの元でしょう……ねぇ瑠奈さん?」


 ヘルメットを被ったままの瑠奈が頭を振って強がるものの、ひかりに痺れた足をグイッと揉まれてしまう。


「ひゃあだだだだだ!わ、わかったっス!—――—――っ!今っス!命中っス!うし、痺れるううう」


 痺れた足をひかりに揉まれて床の上で悶絶しながらもコントローラーを肌身離さず、ワーム弾を迎撃する瑠奈だった。


          ♰          ♰          ♰


――――――【東京都新宿区市ヶ谷 防衛省総合司令センター】


「司令!台湾警備軍司令部からホットラインです!」

「オープン回線で回せ」


 血の気の失せた顔で無数の落下コースを描くモニター画面を凝視する当直司令に通信オペレーターが声を上げる。直ぐに点滅する赤い受話器を取る当直司令。


「総合司令センター東郷です」


『台湾警備軍司令の蒋中将です。端的に申し上げる。現時刻をもってMCDA(火星通商防衛協定)加盟国は、首都圏侵攻中の巨大ワーム群迎撃に介入します。

 横浜上空と千代田区上空のワーム弾迎撃及び観音崎沖の海上防衛線で巨大ワーム群を殲滅する。

 此方の部隊配備と作戦計画は横田のユニオンシティ軍とリンクさせた。貴国と連携はしないが、此方も貴国迎撃態勢に干渉しないように鋭意努力する。幸運を祈る――――――以上』


 台湾警備軍の一方的な通告で通信が終了する。

 唖然とする当直司令達に府中の防空管制官から緊急連絡が入る。


『こちら府中!神奈川方面へ落下中のワーム28基中15基が消滅!何が起きた!?』


「東京上空のワーム弾複数が消滅!」


 レーダー担当が報告する。


MCDAやつらは迎撃ミサイルを使わないのか!?」

作戦将校が驚く。


「厚木、座間両基地から『横浜方面からビームらしき光線が上空へ発射されている』との報告あり。横浜港の海上保安庁からは、船籍登録の無い不審船2隻が猛スピードで観音崎沖へ向かったとの通報あり」


 情報将校がタブレット端末に次々と入る情報を報告する。


「レールガンで迎撃しているのか。……筑波の技研(防衛技術研究所)が聞いたら発狂するかも知れんな。対空戦闘用の実用化も出来ていないというのに」

呟く東郷当直司令。


「……だが、ささやかな助太刀と思いたいものだ。横浜の不審船はMCDA防衛作戦関連だろう。手出しするな。……気を抜くな!我々の防空能力も侮れん事をMCDAに見せつけてやるのだ!」


 幾分血の気の戻った顔で将兵に指示を出す東郷当直司令だった。


          ♰           ♰          ♰


2027年(令和9年)3月28日午後4時45分 【神奈川県三浦市南下浦町 菊名海水浴場】


「あれは!?」


 万一に備えて野戦司令部から海岸沿いに警戒配置されていた予備自衛官が、日が傾きつつある海面に鈍色に光る鱗に覆われた背中に気付くと同時に、季節外れのサーフィンやボディボードを楽しんでいた若者たちを体内に吸い込みながら砂浜に上陸して北上を始める。


「—――—――し、司令部!三浦半島警戒部隊から至急!菊名海岸に巨大ワーム十数体が襲来!」


 極度の緊張により引き攣った声で無線機に呼び掛ける予備自衛官。


 逃げ惑う若者たちを吸い込みながら砂浜を北上する巨大ワーム群が不意に鎌首の様に体の一部を直立させると、空へ向けブべベッ!と一斉にワーム弾を吐き出すのだった。


「司令部!菊名海岸のワーム群が多数のワーム弾を発射した!菊名海岸のワーム群が多数のワーム弾を発射!」

 

 悲鳴のような声で司令部に報告する予備自衛官だった。


          

――――――同時刻【神奈川県久里浜市 陸上自衛隊久里浜駐屯地内 野戦司令部】


『巨大ワーム群、二手に分かれ千葉県金谷港、神奈川県三浦海岸に上陸!防衛ライン突破されました!』


 海上自衛隊が見失った巨大ワーム群が金谷港、三浦海岸と両岸に出現した事で野戦司令部は恐慌状態に陥っていた。詰めかけていた司令部要員のうち、立憲地球党党員で構成される政治隊員達が携帯電話を片手に一斉に天幕の外へ駆け出すと、選挙区の労働支部や党の地方事務所へ声高に連絡を取り出す。


「……なん、だと」


 本来は目前で情報管理が疎かな部下を拘束すべく野戦憲兵に指示を下すところだが、予想外の襲来に絶句して固まる陸上幕僚長。


『こちら第1護衛隊群『いずも』海原少将だ!沿岸部への艦砲射撃の許可を求める』


「だめだっ!沿岸部住民は避難していない!沿岸部の砲撃を開始するとどれほどの人命が喪われるかわかっているのか!?」


 海原の要求を撥ね退ける陸上幕僚長。


『ではどうするのです!?このままでは、本当に巨大ワーム群は東京湾から都心に上陸して日本が崩壊しますよ!?ワーム弾をこれ以上発射させない為にも、直ちに艦隊の砲撃許可を!』


「……直ちに検討する、暫し待たれたし」


 押し殺したような声音で返答すると頭を抱える陸上幕僚長。


「何故だ!何故上陸を許したのだ!」


 陸上幕僚長の隣では、特科大隊を指揮する第1師団長が顔を真っ赤にして激怒する。


「海底谷で発生した大規模爆発によって先頭のワーム数体の撃破に成功しましたが、残りは爆発で舞い上がった泥や砂に紛れて分散、爆発地点を迂回した結果、上陸したものと思われます」

情報将校が答える。


「特科で直ちに迎撃だ!機動装甲車は三浦海岸まで前進、120mm砲で迎撃しつつ横須賀火力発電まで巨大ワーム群を引きつけるのだ!レールガンで止めを刺す!海自艦隊は金谷港の巨大ワーム群を艦砲射撃で殲滅だ!」


 部隊配置図を睨みながら防戦指示を出す第1師団長。


「金谷港は第1空挺が居たな。彼らも手持ちの武器で遅滞行動をとってもらい、海自の艦砲射撃と木更津のコブラで殲滅だ。火力が足りなければユニオンシティ空母機動部隊の攻撃機で制圧しろ!」


 幕僚長は怒りを鎮めながら、パネルに表示された地形図を睨みながら次々と命令を下していく。


          ♰          ♰          ♰


――――――【東京都世田谷区八幡山 銘治大学 八幡山グラウンド付近】


 市ヶ谷防衛省から緊急着陸指示を受けた第1ヘリコプター団の自衛隊大型輸送ヘリコプターが次々と着陸すると、着陸を目撃した住民から連絡を受けた世田谷区長がワゴン車に乗って駆け付ける。


「……これは!どうして書記長閣下や指導部の皆様がこちらへ?」


 エンジントラブルの自衛隊機ならここぞとばかりに激怒してリベラルメディアの前で非難するつもりが、ヘリコプターから降り立ったのが立憲地球党指導部だったので想定と違う展開に困惑する区長。


 学生時代から労働運動に没頭し、安田講堂に立て籠った経験を持つ区長は、立憲地球党の全面支援を受けて区長選挙で当選しており、世田谷区内の自衛隊動向については党本部へ欠かさずに報告をしていた。


「……うむ。我々指導部は新たな地で日本と地球の市民世界実現へ向けた革命闘争を続ける事になったのだ」


 勿体ぶった調子で口調に答える書記長。


「素晴らしく崇高な使命です!是非とも私をその闘争に加わりたく存じます!」


 書記長の言葉を絶賛する区長。


「……そうだな。此処で立ち話もなんだ。Jアラートが解除されるまでお茶でも飲みながら地球帰還後の世界市民革命について語り合おうじゃないか!」


口調の肩を抱きよせてワゴン車を指さす書記長。


「書記長閣下!ヘリから離れるのでありますか?現在東京上空はワーム弾空襲の危機にあります。迎撃ミサイルの破片も落下する可能性もあるので危険です!」

ヘリコプター部隊の指揮官が注意する。


「ワーム弾ごときは子供手当を潰して建造したイージス艦が撃ち落とすだろう?何の為に高い金を費やしているのかね?」


 左派お決まりの文句を持ち出してヘリコプター部隊指揮官を睨む書記長。


「さぁ!区長行きましょう。此処で無為に過ごすのは明日の世界市民革命闘争にとって損失だとは思わんかね?」


「ごもっともです。近くに蘆花恒春園(ろかこうしゅんえん)という緑豊かで静かな公園がございます。無粋な警報サイレンに気分を害する事もないかと思われます。ささ、どうぞこちらへ」


 書記長に促された区長が職員に合図すると、区民避難用として使う筈だった都営バスを呼び寄せて書記長を始め立憲地球党議員団を乗せてグランドを離れていく。


 走り去るバスを呆れた顔で見送るヘリコプター部隊指揮官だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・海原=海上自衛隊少将。第1護衛隊群司令。

・東郷=防衛省総合司令センター当直司令。陸上自衛隊准将。

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