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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
337/462

東京湾攻防戦【金谷港襲撃】

2027年(令和9年)3月28日午後4時30分頃【千葉県富津市 金谷港】


 JR浜金谷駅から徒歩6分に位置する金谷港フェリー乗り場は、対岸の神奈川県久里浜市へ渡る自衛隊補給部隊の車両と隊員達で混雑していた。


 フェリー乗り場で搭乗の順番を待つ隊員達は巨大ワームの襲撃はここまで及ぶことは無いと考えていた。


 沖合では第三次世界大戦前の地球で世界最強の対潜水艦能力を誇る海自護衛艦隊が掃海活動中であり、対岸の久里浜駐屯地周辺には陸自特科大隊が各種砲弾を巨大ワームに叩き込まんと手ぐすねを引いて配置に付いている。


 兵員輸送トラックごとフェリーに搭乗していく隊員達は、自らの安全を確信していた。隊員達はフェリーに乗って40分程で対岸の久里浜港に到着するまでの間、大分日の傾いた海を眺めながらクルーズ観光気分で息抜きが出来る筈だった。 


「……どうして空挺団がフェリーを使うはめになったのかね」


 憮然と連絡用ジープの助手席に座ってフェリー搭乗口で順番を待つ第1空挺団の黄泉星少佐。


 利根川を遡上する巨大ワームを討伐する霞ヶ浦臨時指揮所から木更津駐屯地に帰還して報告をする直前、久里浜野戦司令部への派遣命令を受けていた。


 第1空挺団に所属する輸送ヘリコプターは本来は木更津駐屯地から速やかに部隊を輸送する筈だったのだが、市ヶ谷防衛省本省の政治隊員が介入した結果、別任務で要人輸送任務に使用する為に利用できず、空挺団の各部隊は輸送トラックや連絡用ジープを使用せざるを得なくなったのだった。


「……ったく。政治隊員とはことごとく軍隊の指揮系統には馴染まんな」


 愚痴を零す黄泉星少佐。


 黄泉星が愚痴を零すフェリー乗り場から少し離れた恋愛スポット”幸せの鐘”付近で海岸を警戒していた警備分隊の隊員達は、10m程の海面に一瞬だけ姿を現した鈍色の鱗に包まれた体が太陽に反射した光を発見した。


「なんだアレは!?」


 警備分隊長がクジラやイルカの可能性もあると考え、本部へ報告しようとした通信士を制止、双眼鏡で更に海面を観察しようと岸壁に身を乗り出した瞬間、大口を開けて鎌首の様に20m程体を直立させた巨大ワーム群が目の前に出現、分隊は銃を構える間も無く全員が下敷きとなって絶命した。


 ズザザザザと引きずる音を立てながら十数体の巨大ワームが海面からフェリー乗り場横の駐車場に雪崩れ込み、輸送トラックや兵員輸送車、ジープを200m近い巨体を鋭くくねらせて次々と撥ね飛ばしフェリー乗り場を北上していく。


 遅れて上陸した数体が駐車場で100ⅿ程体を直立させると、立て続けにブベッ!とワーム弾を次々と空高く吐き出す。


「久里浜司令部!こちら第1空挺団黄泉星少佐。巨大ワーム群が金谷港を襲撃中!一部は空中にワーム弾を投射!繰り返す!空中にワーム弾を投射した!」


 懸命に久里浜司令部へ報告する黄泉星少佐の頭上を巨大ワームに撥ね飛ばされたジープがブォンと唸りをあげて飛び去ると、フェリーターミナル横のレストランの外壁にガシャンと衝突して壁にめり込む。


「敵襲!全員降車せよ!」「01(マルヒト=対戦車携帯ミサイルの呼称)準備急げ!」「衛生兵!負傷者を浜金谷駅前まで運べ!」


 巨大ワーム群の奇襲に茫然としていた空挺隊員に向けて黄泉星少佐が叫ぶ様に命令していく。


 黄泉星の命令に漸く反応し始めた空挺隊員達は、横転したトラックや高機動車から負傷した隊員を救助しつつ、荷台から武器弾薬を運びだして戦闘準備を整えていくのだった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同時刻【火星衛星軌道 第1衛星フォボス 英国連邦極東軍・ユーロピア共和国軍 ダンケルク宇宙基地内宇宙ドック 多目的船『ディアナ号』食堂】


「………ありゃりゃりゃ」「無様ね」「不味いわね」


 日本列島上空の静止衛星軌道に位置するミラーボール型太陽光発電システムが捉えた映像を視ながら感想を口にするマルス人三姉妹の瑠奈、結、美衣子。


 長丁場に備えて少し早めの夕食で麻婆豆腐を食べていた大月夫妻と美衣子達だったが、金谷港の惨状を目にするなり麻婆豆腐をすくっていたレンゲを止めて映像に見入っていた。


『自衛隊の防衛ラインが突破されたと判断すべきでしょう』


 長崎佐世保のダウニングタウンから英国連邦極東軍グリナート提督がオンライン会議参加者に説明する。


MCDAこちらの防衛線も海上からの侵入に対応したものです。迎撃態勢を変更する必要があるのでは?』


 ユーロピア共和国ジャンヌ首相が指摘する。


「アッテンボロー博士。二つの巨大ワーム群が一つに纏まる可能性はありますか?」

満が質問する。


『地球生物であれば、群れのメリットを生かす為にも合流するだろうね。けれども、火星原住生物の行動原理は未だ不明だ。群れるよりも分散して各々が生き延びるという選択をするかも知れない』


 アッテンボロー博士が答える。


「アッテンボローの話は当たっている。付け加えるならば、巨大ワーム群はじきに海へ戻るわ」


 美衣子がアッテンボローの説明に追加する。


「何故でしょう?」


 台湾国の王国家代表が尋ねる。


「巨大ワームの口周辺に在る感覚器官は水中を伝わる振動、水の匂いを敏感に嗅ぎ取るものよ。陸上では恐らく目隠しに近い状態。砂漠地帯の巨大ワームとはそこが違う」


 各国首脳のタブレット端末に巨大ワーム解剖図を送信して説明する美衣子。


「なるほどです。じゃあ、陸地に現れたのは自衛隊の攻撃と言う想定外のアクシデントが有ったという事?だとしたら、自衛隊の火力に恐れをなして他へ向かう選択肢はあるのでしょうかねぇ?」


 ひかりも質問する。


『いやいや、それはないでしょう。東京首都圏という未曾有の食料庫を前にしているのです。巨大ワームの本能からすれば、弾幕を潜り抜けてでも1体は辿りつかせて子孫を増やしたいと願う可能性の方が高いでしょう』


 首を横に振って答えるアッテンボロー博士。


「……そこは有史以来しぶとく生き残ってきた地球人類にも当てはまる事よ」


 よく冷えたおしぼりを口元へ上品に当てながらクールな美衣子が指摘する。


”おやつ”と称した辛めのマーボ丼を一気にかき込んだせいか、口の周りが豆板醤で赤く腫れているがホログラム映像の会議参加者達はそっと見ない振りをする。


『とりあえず、MCDA領有エリアに飛来するワーム弾は落下コースに入ったところを南本牧貨物ターミナルのレールガンで迎撃しましょう。

 迎撃ミサイルと違ってレールガンは弾数制限がないからワーム弾が分離しても連続狙撃で対応可能です』


 グリナート提督が提案し皆が頷く。


「……では、作戦に変更はありません。山下公園を出発した『ババロア』『エクレア』の2隻は観音崎沖の防衛ライン海底で待機してください。当初の防衛ラインで巨大ワーム群を各個に捕捉、殲滅します」

決断する満。


「大月さん。申し訳ないが、この事を桑田君に伝えても構わないかね?彼は自衛隊の後輩から作戦連携を打診されている様だ」

岩崎が満に訊く。


「……政治隊員が介在した指揮系統は信頼性が皆無ですから作戦連携は出来ません。

 ただし、情報共有をゲームサロンで行いましょう。桑田さんには”ゲームサロンでクエスト打ち合わせ”と伝言お願します」

満が応える。


『……厳しいな。だが分かった。こちらで手配しましょう。一足先にゲームサロンへ行くので失礼します』


 口許を緩ませてオンライン会議から退出する岩崎。


「会議は終了ですが、状況が変わる可能性もあるので回線は常に繋いでおいてください。それでは」


 満が参加者に散会を告げるのだった。


「ぶはっ!美衣子姉さま口が腫れてるっス!マーボ丼ガッツき過ぎっス!ぷぷっ!」「ダメよ瑠奈。ここはレディとして――――――ぷぷっ」


 会議終了直後に瑠奈が美衣子の口元を指差して噴き出す。結がそれを窘めようとするが堪え切れずに噴きだしてしまう。


「……ブチころす」

「「ごめんなさい」」


 唸るように呟く美衣子に、瑠奈、結が直ぐに正座して謝る。


「素直な妹を持って姉として鼻が高いわ。では、結と瑠奈は『ババロア』『エクレア』の操作をお願い。マーボ丼を食べる暇なんて無いから覚悟しなさい」


「「ははぁ!イエス、マイロード!」」


美衣子のお願いに平伏して応える結、瑠奈。


「わが家は今日も平常運転だね」

「素敵ですぅ」


 少しだけ肩の力を抜いて微笑む満とひかりだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月 ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。マルス三姉妹の自称長女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス・アカデミー・「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・ロンバルト・アッテンボロー=元ユーロピア共和国学芸庁火星原住生物対策班顧問。生物学博士でサーの称号を持つ。

・岩崎 正宗=自由維新党総裁。元内閣官房長官。

・グリナート=英国連邦極東軍提督。

・王=台湾国国家代表。

・黄泉星=陸上自衛隊第1空挺団少佐。

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