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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
336/462

東京湾攻防戦【浦賀水道迎撃戦】

2027年(令和9年)3月28日午後0時40分【東京都大田区羽田 羽田国際・宇宙空港】


 巨大ワーム群襲来前は北半球アルテミュア大陸に建国されたユーロピア共和国や南半球ヘラス大陸に"州都"を置くイスラエル連邦、ユニオンシティ(旧極東アメリカ合衆国、旧極東ロシア連邦)属領の沖縄・択捉からの国際便や国内便でターミナルビルや滑走路は混雑を極めていたが、現在は動きが途絶え、旅客機は大半が駐機場で待機している。


 沖合に設置されたマルス・アカデミー・シャトルが発着する専用特別ゲートからの送迎バスとコンテナを運搬するカーゴトラックが稼働しているのみである。


 だが今日に限ってはターミナルビルを人々が行き交い、滑走路の半分は迷彩色の自衛隊大型輸送ヘリコプターが待機しており、多数の貨物を運ぶカーゴトラックとシャトルバスが頻繁にヘリコプターとターミナルを行き来していた。


「どうやら1回で運べそうだな」


 ターミナルビルの海外賓客が使用する応接間から滑走路を見ていた後白河副総理兼外務・財務大臣が防衛省本省の政治隊員に訊く。


「はい。後30分で積み込みが完了します。想定外の人員追加となりましたが、陸自に派遣した同志政治隊員が木更津のヘリコプター団を丸ごと使用する事に成功しました」


 政治隊員が誇らしげに答える。


「直前になって代々木の党指導部と国会議員の皆さんも副総理と運命を共にする覚悟を決められたようです」


 胸を張って答える政治隊員。


 代々木に党本部を置く立憲地球党指導部と所属する国会議員達は、身の回りの物を纏めて人目を避けるようにそそくさと輸送ヘリコプターへ乗り込んでいく。


 (この議員達の中には自衛隊違憲論者も沢山居たが……現金な事だ。まさか首都圏の市民を見捨てる口実に使われるとはな。口惜しい限りだ)


 立憲地球党の目論んだ政権交代に協力した事を後悔し始めたのは巨大ワーム群襲来からだったか。

 議員数を頼りに政権交代した為、危機管理経験の無い素人振りを晒した立憲地球党と手を組んだ自分の不甲斐なさにため息をつく後白河。これでは第一次野党連合政権時代の繰り返しである。


「……やむを得ん。代々木の同志諸君と輸送ヘリはこのまま出発させてくれ。私はこれから水戸や埼玉、横浜の被災地域を視察した後に向かう」


 応接間を出た後白河副総理が政治隊員を伴ってSPに守られながら自衛隊の大型ヘリコプターへ向かう。


「私が生き延びないと日本が崩壊してしまう。新潟への首都機能移転は、その為のやむを得ない選択だ。決して亡国ではない!」


 ヘリコプター搭乗後、自らに言い聞かせる様に政治隊員に語ると水戸市の被害状況をタブレット端末で確認する後白河副総理だった。


 後白河副総理のヘリコプターが離陸したのを合図に、立憲地球党議員が乗り込んだ自衛隊ヘリコプターが次々と離陸して新潟方面に向かっていく。


 多数の自衛隊ヘリコプターが羽田国際・宇宙空港を飛び立つ光景は日頃から空港付近で航空機撮影を日課とする航空ファンの注目を集め、航空ファンのツイッターで日本国内へ急速に拡散されていった。


          ♰          ♰          ♰


2027年(令和9年)3月28日午後1時30分【神奈川県三浦市南下浦町劒崎 東5Kmの海上 第1護衛隊群 旗艦『いずも』】


「巨大ワーム群捕捉!大房岬(千葉県南房総市)西6Km、水深550ⅿ!20ノット(時速38Km)で北上中!」


 立山航空基地から出撃したP1哨戒機からの緊急電を受信した通信担当隊員が報告する。


「全艦隊カウント5で対潜ミサイル投射せよ!」


 既に自衛艦隊は臨戦態勢に入っており、作戦将校が直ぐに無線で指示する。


 5秒後、横一列に並んだ護衛艦隊から一斉に白煙が上がると対潜水艦ミサイルがバシュッと白煙を引きながら前方へ飛んでいく。


 10秒後、目標上空で開いたパラシュートで減速して海面に着水した対潜水艦ミサイルは、パラシュートとロケット推進部を切り離すとスクリューを作動させ、深海谷を北上する巨大ワーム群に殺到していく。


 ――――――暫く後、艦内の乗組員にもわかる鈍い轟音と共に、海底から舞い上がったヘドロや土砂の混じった黒く巨大な水柱が幾つも護衛艦隊前方に立ち昇る。


「魚雷着弾!」


 数十本の魚雷が爆発した轟音に、ソナー担当が顔を顰めて思わずヘッドホンを外す。


「やったか!」


 声を弾ませる海原少将と将校達。


「音響分析AIの測定結果を表示します」


 情報担当がタブレット端末を操作すると、CIC前方壁面のメインモニターに海底地形図と音響探知情報が表示されていく。


「攻撃目標の海底谷周辺は、未だ爆発の影響で海底谷の一部が崩落中。加えて谷間にソナー電波が乱反射しています。衝撃波が収まるまでもうしばらくお待ちください」


 ヘッドフォンを押し当ててながらも、地鳴りの様な海底谷の状況に困惑するソナー担当隊員。


「……これ以上待っていても始まらん。艦隊微速前進!爆雷投下用意!やつらの頭上で止めを刺す!伊豆半島沖に展開させていた潜水艦隊もこちらへ合流させるんだ!」


 海原少将が勢い込んで命令する。


 海原の命令でゆっくりと自衛艦隊は前進していく。


 自衛艦隊はその後も合流した潜水艦隊やユニオンシティ海軍空母機動部隊と共に現場付近を幾度も探索したが、肉片等から推定で6体の巨大ワームを撃破した以外は巨大ワーム群の生き残りを発見することは出来ず、海原少将以下将校達は困惑するのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・後白河 政徳=日本国副総理兼外務・財務大臣。元自由維新党党員。澁澤総理大臣暗殺未遂事件の後、離党して立憲地球党代表の我妻に協力し政権交代を成し遂げた。

・海原=海上自衛隊少将。第1護衛隊群司令。

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