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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
332/462

決意を新たに

挿絵(By みてみん)

大月家のお正月。左頭上から美衣子、瑠奈、結、ひかりです。

*イラストは絵師 里音様です。

2027年(令和9年)3月28日午前5時 【千葉県館山市沖40Kmの太平洋】


 豊かな海を表す濃い蒼色の海面下数百メートルの海中を二十数匹の巨大ワームが鈍色の巨体をくねらせて房総半島沖を黒潮の流れに逆らって南下していた。


 太陽光発電システム”アマノハゴロモ”機能停止による日本列島電力不足で経済産業省に協力していたAI(人工知能)の沿岸警戒態勢が緩んでいた。


 緩んだAI警戒網をくぐり抜けて日本近海に侵入した巨大ワーム群は黒潮に乗って漂ってきた数多の生物由来有機物を嗅ぎ付けると、大口を開けてギシュギシュと金属が擦れる様な歓喜の咆哮を海中に放つ。


『……ウィ?』


 浦賀水道入り口で浮き輪につかまって暢気に波に揺られていたマルス・アンドロイドであるツルハシ10373号が、海中の異変に気付く。

 

 ツルハシ10373号は、深海底に響く異質な巨大ワームの咆哮をしっかり捉え、火星磁場によるPエネルギーセンサーで群れの情報を取得すると、直ちにマスターである美衣子にデーター送信を始めるのだった。


 背中に装備した衛星通信用中型パラボラアンテナが全開放された為、浮き輪ごとひっくり返って海面にうつ伏せとなった体勢でブクブク泡を吹くツルハシ10373号。


『……ゴボゴボ。息ガ、クルシイ』


 勿論、巨大ワーム群探知と位置情報送信は欠かさず行う真面目なマルス・アンドロイドである。


 海面で器用な小技を披露し続けるツルハシ10373号の海面下570mとなる深海底付近では、生物の匂いを嗅ぎつけた巨大ワーム群がご馳走を確信した狂喜の咆哮を上げながら、浦賀水道へと続く東京湾海底谷へと到達しようとしていた。


          ♰          ♰          ♰


2027年(令和9年)3月28日午前5時30分【神奈川県三浦市南下浦町 劒崎沖5Kmの海上】


 浦賀水道の入り口付近にあたる海域中央に展開する海上自衛隊第1護衛隊群は、最新鋭ミサイルシステムを搭載した護衛艦が『いずも』前方に横一列となって巨大ワーム群を漏らさず迎撃しようと展開していた。


 元防衛大臣桑田の個人的献策により、防衛省制服組が横須賀基地に招いた東南海大学を始めとする海洋生物専門家グループは、外海に比べて温かい東京湾海水が含む大量の生物由来有機物に誘われて巨大ワーム群が到来するのはほぼ確実との見解を下し、自衛艦隊は横須賀基地から満を持して出撃していた。


【海上自衛隊第1護衛隊群旗艦『いずも』CIC(戦闘指揮所)】


「館山基地のP1哨戒機が房総半島洲崎沖南側にかけてソノブイを順次投下中」

「第2潜水隊群は三浦半島南側から6隻が展開済。随時ソナー発信中」

「相模湾に展開中の空母『セオドア・ルーズベルト』機動部隊から対潜哨戒機が伊豆半島沖まで到達」

「福島沖の空母『ロナルド・レーガン』機動部隊は索敵中」


 薄暗い指揮所内は、展開している海上自衛隊やユニオンシティ海軍各部隊からの報告や指示を行う隊員の声が飛び交っていた。


「……万全の布陣だが」


 何故か浮かない顔で傍らに控える作戦将校達にぼそりと呟く海原少将。


「アメさん始め、横須賀基地で動かせる全ての艦を出しているのにもかかわらず、何故探知出来んのだ!」


苛立ち気味の海原少将。


「既に巨大ワーム群は作戦海域内に入っていてもおかしくありません。……これが不審船や潜水工作船の類で有れば確実に仕留められるでしょう」


 思案気に応える作戦将校。


「浦賀水道南方から東京湾中央にかけて、水深500m以上の深さがある東京湾海底谷があります。複雑な海底谷ではソナーが乱反射して探知が困難です。巨大ワーム群がソナー波を嫌って海底谷に潜り込まれると厄介です」


 苦い顔をした情報将校が答える。


「未だ未知の部分が多い火星原住生物が相手だ。急速浮上して突然ワーム弾を吐き出して再び首都圏を攪乱させるかもしれん」


「はい。市ヶ谷の総司令部は、首都圏駐留の空自と陸自の対空部隊に臨戦態勢を通達しています」


 海原少将の懸念に応える作戦将校。


「”もはや失敗は許されない”と首相官邸は言ってきた。最高司令官である後白河内閣副総理の指揮で前回の惨事を招いたにもかかわらず、だ。今度の新政権は責任回避だけは長けている。野党時代と何ら変わりない」


 毒づく海原少将。


「だが命令は絶対だ。陸自が関東各地で起こした失態を我々が挽回せねばならん!出来る限り早期に巨大ワーム群を見つけ出して殲滅する!」


 決意を新たにする海原少将だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m

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