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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
331/462

五島列島沖海戦【後編】

2027年(令和9年)3月27日午後12時15分【長崎県五島列島 福江島北西沖150Km 】


『大黒屋丸シーカーと巨大ワーム探知情報がオーバーラップ!体内への侵入を確認』


 英国連邦極東海軍空母『クイーン・エリザベス(QE)』アイランド直下に在るCIC(戦闘指揮所)管制員がラファール戦闘機編隊を率いるジャンヌ少佐に状況報告をすると、すぐさま彼女は航空爆弾の投下を決断した。


『全機、ペイブウェイⅡ(航空爆弾)投下!』


 ジャンヌ少佐以下12機のラファール戦闘機から投下された航空爆弾は、自由落下しながら弾頭先端のレーザー照準システムが起動、弾体尾翼がカチャカチャと上下動を繰り返して落下コースを調整すると、真っすぐ海面近くで甘露を味わう巨大ワーム集団にずぶりと突き刺さるように着弾する。


 鱗を突き破ってしっかり体内に食い込んだ550ポンド(227Kg)の高性能炸薬は計算通りに爆発すると、鉄分を多く含む大地で育まれた巨大ワームの強固な筋肉と鱗を内側から噴き飛ばしていく。


『バンデッド(賊)1から4を撃破、沈降していきます。残り2体は急速沈降』


 CICのソナー担当が慎重にヘッドホンからのエコーを聴き取って報告する。


『1匹たりとも逃がすな!右舷3時にアスロック全弾発射!』


 CICの戦術管制官が対潜水艦魚雷の発射を指示する。

        

 20秒後、英国連邦極東・ユーロピア共和国海軍連合艦隊右舷500mの海面から巨大な水柱が立て続けに立ち昇ると、周囲の海面が激しく泡立つ。


『シーカー及びソナー反応無し。バンデッド掃討成功』


 どこかホッとしたような口調でCIC戦術管制官が報告する。


『ブラボー!攻撃成功ね』


 艦隊上空を旋回しながら、海中から湧き上がる灰色の泥や泡と海面に漂う巨大ワームだった残骸を確認したジャンヌ少佐が思わず歓声を上げる。


『お疲れさまでした。ディアナ号の惑星磁力線センサーが九州地区に侵入した巨大ワームの殲滅を確認しました』


 ダンケルク宇宙基地のディアナ号で待機していた満が、マルス・アカデミーの美衣子が設定していた日本列島生態環境保護育成システムからの広域探知情報を作戦参加者に伝える。


『そう。それじゃあ、後は東京湾を目指す群れだけね。ムッシュ大月、策は有るのかしら?』


 ジャンヌ首相が満に訊く。


『ありきたりの作戦ですが、横浜沖で迎撃します。これ以上、関東に被害は出させません」


 冷静に、しっかりとした口調で答える満だった。



――――――その頃、五島列島沖の海中。


「……その、あれだな。なんかここで自己主張するのもなぁ」

「そうですか?」『空気嫁?』


 伸縮自在且つ対衝撃・撥水機能に優れた緊急脱出用米俵に保護されているソールズベリー、岬渚紗、マルスアンドロイドのクリス達三人は、迎撃成功に沸くMCDA艦隊の空気を読み過ぎて救出要請を躊躇いしばらくの間、海中を漂うのだった。


          ♰          ♰          ♰


2027年(令和9年)3月27日午後1時30分【茨城県土浦市 自衛隊武器学校】


 利根川河口堰から侵攻した巨大ワームを討伐する為に、土浦駐屯地内に設置された臨時指揮所は、航空機と多連装ロケット弾の攻撃で巨大ワームの殲滅に成功した為、木更津駐屯地へ帰還すべく撤収作業に入っていた。


 指揮所としていた武器学校講堂内で通信機器や発電設備の梱包に勤しむ指揮所要員が慌ただしく駆け回る講堂裏では、パイプ椅子に座った一人の士官が缶コーヒー片手にタブレット端末に表示される各地の巨大ワーム迎撃作戦を確認していた。


「水戸・大宮・新横浜は市街地と非戦闘員に大きな犠牲を払いつつ作戦成功か。……いや、これは成功と言えるのか!?」


 タブレット端末に表示された各地の状況を視る黄泉星少佐が思わず呟く。


 首相官邸が混乱した為に明確で一貫した作戦指示がない状況下で、行き当たりばったりな部隊配置ながら辛うじて各地の迎撃を成功させた自衛隊だったが、日本国内に侵入した巨大ワームは未だ残っており、今後も同じ状況下で巨大ワームの襲撃を迎え撃つ事を想像すると強烈な不安に襲われる黄泉星少佐だった。


 1時間後、全ての資材と黄泉星少佐以下指揮所要員を乗せた輸送トラックは木更津駐屯地への帰路についたのだった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同時刻 【神奈川県三浦市 三浦半島沖20Kmの海上】


 横浜市中区山下町の台湾国から飛び立ったヒト型のマルス・アカデミー謹製アンドロイド・ドローンは、海面に着水すると腰部に装着した浮き輪に炭酸ガスが注入されてプカリと浮き上がり、海中に微弱なPエネルギー波を照射しながら黒潮の潮流に乗ってゆらゆらと北上を始めた。


 一見すると、非常に場違いな光景である。浮き輪につかまったマネキン人形がゆらゆらと海面を漂っているのだから。


『—――—――ツルハシ10373号ヨリ美衣子マスターへ。Pエネルギーセンサーガ現在地点カラ北東50Kmノ海中ヲ南下スル巨大生物探知。データベースニ登録サレタ生物ニ該当ナシ。寿司ネタニモ該当ナシ』


 ツルハシ10373号から発信された情報は、瞬時にダンケルク宇宙基地で待機していた大月家一行や台湾国を含むMCDA(火星経済防衛協定)加盟国に伝えられるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・ソールズベリー=英国連邦極東企業「ソールズベリー・カンパニー」会長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・アンドロイド。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


黄泉星よみぼし=陸上自衛隊第1空挺団少佐。霞ヶ浦指揮所先任指揮官。

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