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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
329/462

五島列島沖海戦【前編】

――――――【英国連邦極東放送協会(極東BBC)】


『視聴者の皆様こんにちは。極東BBCニュースです。佐世保ダウニングタウンのメインスタジオは避難命令により閉鎖されました。この放送は、佐世保市ダウニングタウン北部山中に在る軍の施設からお送りしています。

 英国連邦極東国民の皆様は警報レベル3=指定防護施設への避難命令が発令されています。まだ避難されていない方は直ちに行動してください』


『国防省によりますと”勇敢な民間船舶”の英雄的行動によって侵入した巨大ワームの群れが五島列島沖で発見、群れを引きつけながら五島列島沖を南下しています。

 現地では海軍空母『クイーン・エリザベス』機動部隊とユーロピア共和国空軍が迎撃態勢を整えています――――――全ての勇敢な人々に神のご加護を』


          ♰          ♰          ♰


2027年(令和9年)3月27日午前11時50分【長崎県五島列島 福江島北西沖150Km 】


 21世紀の日本近海にはひどく不釣合いな千石船がモーターボートの様にしぶきを上げながら海上を全力疾走していた。


 ”勇敢な民間船舶”であるソールズベリー商会保有の千石船『大黒屋丸』である。


「ミス・ミサキ。折角ワームの襲撃を躱したのにどうしてわざわざワームの鼻先に着水しているのかね!?」


 懸命に操舵輪を操るソールズベリーが、右隣でレーダー画面に集中している岬渚紗に問いかける。


「そんなの決まっているじゃないですか!我が商会の任務は巨大ワームの探知と、あわよくば迎撃ラインまで誘導する事にありますよね?」


「いつの間にか任務が増えている!?」


 当たり前のことを何で訊いているの?とばかりに首を傾げた岬の答えに初耳と言わんばかりに驚くソールズベリー。


「ソールズベリー卿。日本では顧客へのカスタマーサービスがとても重視されているのですよ。

 オーダーされた事をこなすだけでは2流であり、顧客が真に何を望んでいるのかキャッチして叶える事が1流であって、それこそが商売で成功する秘訣ですよ?」


 ふふん、とどや顔で諭す岬。


「レディ。いくらなんでも無茶すぎる!

 この船だけで巨大ワームを一網打尽に出来る訳ないじゃないか!

 このままワームに喰われる未来しか想像出来ないんだけどね!」


 半ばキレ気味に泣き言で応えるソールズベリー。


「はいはい。無駄口叩いていないで操舵に集中してください。ほら、ワームがこんなに近くまで」


「緊急上昇!」


 巨大ワームが海面から飛び上がって千石船を真上から呑み込もうとする直前、大黒屋丸船尾に積まれた米俵の一部がロケット噴射すると、水柱を空高く上げ大黒屋丸が斜め前方の上空へ飛び立つ。とちょっとしたヤ○ト発進!である。


「……ふぅ。危なかった」


 冷や汗を拭ってホッとするソールズベリー。


「ちょっと会長!一息つくのは早いですよ。巨大ワームが獲物を見失って福江島の方へ戻っていくじゃないですか!さっさと着水して巨大ワームとの鬼ごっこ再開です!」


 一息ついているソールズベリーを叱咤する岬。


『……ナンカ、助っ人ノカタガマスターをマスターシテイル?』


 首を傾げてソールズベリーと岬のやり取りを興味深げに観察する、相棒のクリス。


「クリスさん。そこは”フォローアップ”と言うべきとところです。それと、18番から20番までの米俵を前方の巨大ワーム群の針路前方へと投擲して下さい!」


『イエスマム』


 クリスの冷静な状況分析に意見すると、米俵装備の使用を指示する岬。


「……クリス。ご主人様のフォローはどうしたんだい?」

操舵しつつ、ぼそりと呟くソールズベリー。


 大黒屋丸の後甲板に積み上げられていた米俵がごろりと艦尾に設置されている投擲器に収まると、ビヨンとばね仕掛けで空中へ飛ばされていく。


 空中へ飛ばされた3つの米俵は、見事に福江島へ向かっていた巨大ワームの口先に落下すると、俵に仕込まれていたオイスターソースや鰹節が海水と混じって濃厚な即席スープを完成させてプランクトン豊富な周囲の海水よりも魅力的な甘露で巨大ワームの関心を一気に引き寄せる。


 同時に遠隔操作された米俵は、即席スープをウォータージェットの様にブシュッと噴出させながら

大黒屋丸へと戻っていく。


 福江島へ向かっていた巨大ワーム群は、濃厚な甘露に魅入られた様に米俵を追いかけるべく方向転換していく。


「よしよし。このまま此方へ誘導させて……あと2Km頑張ってくれれば」


 呟きながら米俵を遠隔操作する岬。


「……いつの間にそんなモノを」

「こんな事もあろうかと、ダンケルク宇宙基地で積み込んでおいて正解でした!」


 呆れたようなソールズベリーに応える岬。


「……で?鬼ごっこ再開を再開するとして、プランは?」

 

 再び背後から迫りくる巨大ワームをモニターで確認しながらソールズベリーが尋ねるが、操舵の手は忙しなく動いている。


「このまま2Km南下、此方に設定したキルゾーンまで巨大ワームを誘導すれば――――――今度こそ任務完遂ですねっ!」


 ソールズベリーの正面に現在位置とキルゾーンを表示したホログラム映像を投影する岬。ホログラム投影を操作しながらも、左手では米俵の遠隔操作レバーを握りしめて大黒屋丸と並走させる操作に余念がない。


「わかった。レディのエスコートに従うとしよう。……キルゾーンに新たなレディがお待ちかねの様だ」


 岬に応えながら、前方上空に目を凝らすソールズベリー。


 絶妙な感覚で巨大ワームをおびき寄せ続ける大黒屋丸の前方上空から、ゴマ粒の様な黒点がみるみる接近してユーロピア共和国空軍のラファール戦闘機編隊が大黒屋丸上空に到達する。


『コードネーム”ラ・セーヌ戦隊”ジャンヌ少佐よ。

 あら、何時も澄まし顔のソールズベリー卿ともあろうお方が必死にミミズと戯れるなんて』


 ラファール戦闘機編隊を率いるユーロピア共和国首相のジャンヌが、巨大ワームと鬼ごっこに勤しむソールズベリー卿に嫌味を込めた表現で到着を告げる。


「これはこれは。ごきげんよう”姫首相閣下”。我が商会は常に顧客第一主義を実戦していましてね。上空からの温かい声援とは、私は果報者だと喜べばよろしいので?」


 鋭い眼以外は、満面の笑みと皮肉気な口調で返すソールズベリー。


『……これだからジョンブルは――――――ええそうよ。涙を流して喜ぶといいわ。このままの針路と速度であと3分、耐えなさい。其処から先は、私の戦争よ。ニューガリアの借りを此処で返してやるわ!』


 嘆息しつつ、作戦を指示するジャンヌ。

 

「仰せのままに」


 苦笑して肩を竦めながら応えるソールズベリーだった。


 上空にラファール戦闘機編隊の援護を受け、濃厚スープを噴出する米俵を伴った大黒屋丸は、キルゾーンに指定された海域まで見事に巨大ワーム群を引き連れるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

・ソールズベリー=英国連邦極東企業「ソールズベリー・カンパニー」会長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・アンドロイド。

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