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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
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関東近海攻防戦 ④

2027年(令和9年)3月27日午前9時4分頃【茨城県水戸市 水戸駅前】


「……ったく。清美のヤツ遅いし」


 水戸駅南改札口を出た正面にあるウッドデッキで、女子高校生が気だるげに手すりにもたれながら友人を待っていた。


 最近流行りのオンラインゲーム”スーパーポ◯モン対戦”にのめり込んだ為に寝坊した彼女は、水戸駅で友人の清美と待ち合わせしようとラインで伝えた直後にJアラートが発令された。


 ちなみに、Jアラート発令による一般向け通信制限でラインやその他のSNSも接続が出来なくなっている。


 SNSを弄る前に最寄りの核シェルターへ避難せよとの趣旨であるが、2027年現在、高校生まで理解されるには至っていないのが実情である。


 最近お気に入りの『やかまし、やかまし』と連呼する女子校生ボーカルの曲をイヤホンで聴きながら待ちぼうけている彼女の目の前を、防災ヘルメットをかぶって非常持ち出し袋を背負った多くの人がぞろぞろと通り過ぎて非常時の為出入り自由となった自動改札口を通り抜けて駅構内へ向かっていく。


 Jアラートは沿岸から内陸部への避難を呼び掛けた為、改札口から出る人はいない。


 水戸駅の構内放送は、Jアラート発令に伴い海岸沿いへ向かう列車は全て運休、緊急臨時ダイヤで全ての列車が上野、郡山方面行きに変更された事を繰り返し案内している。


「なんか大変そうだけど、大袈裟っしょ」


 彼女が呟いた直後、彼女の前を通り過ぎる人々が足を止めて空を見上げると、急かされる様に走り出す。


 改札口だけに向かうのではなく、隣の商業ビルやホテルへ駆け出す者もいる。


 イヤホンをしている彼女は気付いていないが、水戸駅構内や付近の商業ビルに備え付けられているスピーカーから、Jアラートの重厚な不協和音によるサイレンから、消防車が発する緊急性を知らせる甲高いサイレンに切り替わっている。


「……ダッサ。みんな、何してんの?」


 避難場所を探して走り回る人々を他人事の様に眺める少女が我関せずと呟く。


 目の前の改札口に立つ駅員が必死の形相で「ミサイル警報!急いで!」とハンドスピーカーで改札内の利用客にホーム下にあるコンクリート製資材置き場へ誘導している。


『そこの君!そんなところで何をボケっとしている!?早くこちらへ!避難しないと!』


 立ち尽くす女子高生に気付いた駅員がハンドマイク片手に避難を促そうと駆け寄ってくる。


 こちらへ向かって何かを叫びながら駆け寄ってくる駅員を見ながら、どうやってウザい駅員をやり過ごす事が出来るか言い訳を考える女子高生の前に、不意にドスン!と音を立てて赤茶けた岩が落下して付近に砂埃が立ち込める。


「……はぁっ!?」


 突然の状況に思考が止まる女子高生。


 砂埃の中心に見える赤茶けた岩をまじまじと見ながら無意識にイヤホンを外した彼女の耳に、赤茶けた岩の向こう側に居るであろう駅員の悲鳴が飛び込んでくる。


「うわぁぁぁ!ワームだ!」


 駅員の叫び声を聞いた女子高生が足元を見ると、いつの間にか三センチから五センチ程の小さなミミズに酷似したワームが何匹も蠢いていた。


 だが、この位のミミズならば自宅裏の畑で普通に見かけている。


「……ばっかじゃね?普通にミミズだし」


 呆れたように呟く女子高生。


 やっぱり世の中みんな大袈裟になりすぎだ。ポ◯モンGOのピカ虫みたいに無邪気に世の中を楽しめば良いのだ。


 少なくとも高校生にはその権利があるのだと心の中で再認識した彼女が、足元のミミズを踏みつけてようと足を上げる。


 次の瞬間、足元のワームがピョンと弾かれたように跳ね上がると、短いスカートからのぞく素足剥き出しな太腿にかぶりつく。


「ぎゃあぁぁぁ!痛いッ!」


 太腿にかぶりついたワームは、絶叫する女子高生に構わず皮膚を喰い破り、更なる温もりを求めて体内深く移動していく。


「ぬむがぁぉぉッ!!」


 手負いの獣のような唸り声を上げて地面に倒れて転げ回る女子高生の身体には、赤茶けた岩から次々と飛び出した無数の小型ワームが剥き出しの素肌にかぶりついては体内へと潜り込んでいく。


 5分とかからない内に事切れた女子高生だった人間は、血塗れの肉塊へと変わり果ててしまうのだった。


 女子高生の血肉を貪り尽くした小型ワーム群は、新たな生物の血肉を食らうべく、水戸駅構内や、ウッドデッキ下のバス停留所の逃げ遅れた乗客達に襲いかかっていく。


 ほぼ同じ時間帯、横浜市港北区の港北ニュータウン、さいたま市大宮区のJR大宮駅でも小型ワームが詰まったワーム弾が落着して水戸駅と同じ様な惨劇が発生、多くの人命が犠牲となるのだった。


          ♰          ♰          ♰


2027年(令和9年)3月27日午前9時15分【陸上自衛隊霞ヶ浦駐屯地 武器学校】


「黄泉星少佐。百里から上がったF4偵察機より、利根川を北上している巨大ワームの情報が来ました。指揮所のメインモニターへリアルタイム映像表示します」


 天野大尉がタブレット端末を操作して、メインスクリーンに利根川を遡る巨大ワームの映像を表示する。


利根川のゆったりとした川幅を左右にうねりながら進む一匹の巨大ワームは、時折堤防上の道路を使って内陸部へ避難する車両や住民を容赦なく吸い込みながら上流へ向かっている。


 堤防上のワゴン車を吸い込んだ巨大ワームが、中の運転手を溶かして吸収するとブベッ!とワゴン車を堤防脇の住宅に吐き出す。


 空中に放り投げられたワゴン車が住宅街に落下して土煙と住宅の破片が周辺に飛散する。


「今すぐ川から住民を離れさせろ!ヘリでもパトカーでも使え!今すぐ!

 31普通科連隊はまだ到着しないのか?地元警察を迎えに送り出してから一時間は経っているぞ!」


 住宅地の惨状を見て苛立つ黄泉星少佐。


「茨城県警が水戸署から先導パトカーを派遣しましたが、水戸駅に向かった模様です。

 水戸駅にワームが出現して住民を襲っていると通報があり、そちらへ急行したとの事。警察と消防がかなりの応援部隊を水戸駅へ送り込んでいるようです」


「水戸駅にワーム!?デマじゃないのか?!」


 怪訝な顔で反応する黄泉星少佐。

 状況を把握しようと戦域地図と睨めっこする黄泉星の傍からは、こちらへ向かっていた応援部隊から次々と連絡が入る。


『こちら第31普通科連隊。埼玉県知事から火星原住生物襲撃に伴う特殊災害派遣要請を受けた。

 先行部隊はこのまま其方へ向かわせるが、本隊はさいたま新都心にて防衛陣地を構築する。以上!』


『—――—――第1師団特科大隊から、霞ヶ浦指揮所へ。

 港北ニュータウンにワーム多数が出現。神奈川県知事の特殊災害派遣要請を受け、我が隊は新横浜地区で市街地防衛の為に陣地構築に入る。

 そちらへは203ミリ加農砲ないし長距離誘導弾での支援に切り替える。以上』


『—――—――市ヶ谷から全自衛隊部隊へ。

 銚子沖から侵入した巨大ワーム複数を迎撃すべく、間も無く副総理大臣の指示を受けた防衛大臣から防衛出動命令が発出される。

 だが、現時点で茨城県、埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県から火星原住生物による特殊災害派遣要請が来ており、防衛出動命令と国民保護法、緊急事態対処法、火星転移特別措置法との兼ね合いについて、内閣法制局が鋭意検討中。

 防衛出動命令発出されているが、各都道府県知事の要請を考慮して行動せよ。以上』


 まるで整理されていない情報を伝える総合指令センター。

 こんなモノを聞かせてどうしろと言うのか?頭を抱える黄泉星少佐。


「以上じゃねえだろ!バカ野郎!」


 やり場の無い憤りで机に拳を叩きつける黄泉星少佐だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

黄泉星よみぼし=陸上自衛隊第1空挺団少佐。先遣隊指揮官。

・天野=航空・宇宙自衛隊東部方面航空隊大尉。百里基地から戦域航空管制官として霞ヶ浦に派遣された。

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