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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
323/462

関東近海攻防戦 ③

2027年(令和9年)3月27日午前8時57分【東京都新宿区市ヶ谷 防衛省総合指令センター】


 地下50mに在る薄暗い地下指令センターに突如警報ブザーが鳴り響き、警告灯が赤く明滅する。


 Jアラート発令を受け、各地への連絡や連携を取るべく慌ただしく行き交っていた将兵が足を止め、メインスクリーンを注視する。


『—――—――府中航空総隊より緊急。

 千葉44番、福島27番の早期警戒レーダーが飛翔体1基を探知。

 発射地点、茨城県鹿嶋市沖!探知高度3000!間も無く飛翔限界点に到達、落下コースに入ります!

 推定落下予測地点は、茨城県水戸市を中心とした半径30Km圏内!着弾まで400(秒)!』


 府中市に在る航空・宇宙自衛隊司令部からの探知情報が指令センター内に流れる。


 メインスクリーンに関東北部の拡大地図と茨城県南部の太平洋から放物線を描く軌道、予測落下コース、着弾までのカウントダウンが表示される。


「市ヶ谷から府中へ。直ちに迎撃せよ!」


 150基の核ミサイルが日本列島を襲った四年前の第三次世界大戦以来となるミサイル警報に、当直司令が乾いた声で迎撃命令を出す。


 当直司令席の横に控えていた政務隊員は、ミサイル警報に顔面蒼白となって携帯電話片手に慌てて指令センターから飛び出していく。


「……この非常時に持ち場を無断で離れるとは。

 警備部に連絡、政務隊員の行為は敵前逃亡にあたる。以後彼の入室を禁じ、拘束せよ」


 政務隊員が出ていった入り口を横目で見ながら、軽く溜め息を吐いて情報将校に指示する当直司令。


 立憲地球党代々木党本部から派遣されてきた政務隊員は、臨時自衛官としての服務規定があり、守るべき国民を見捨てて戦場から逃亡するのは重罪とされている。


「—――—――まったく。火事場から逃げ出す阿呆め!

 飛翔体はMCDA(火星通商防衛協定)所属潜水艦から発射されたのか!?」


「いいえ司令。飛翔体は米英中露のポラリス、ポセイドン、東風、ブラバいずれにも該当ありません。

 警戒飛行中の早期警戒管制機(E3A)からも、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)ブースター等付属物の落下は確認していません」


 データリンクされたタブレット端末を操作しながら報告する情報将校。


「新型か?」


 眉を顰めて考え込む当直司令。


 指令センターに府中から新たな情報が入電する。


『飛翔体は飛翔限界点到達。

 ――――――ダイモス宇宙基地が探知引き継ぎました。

 ――――――落下コースに入りました!速度マッハ17!

 入間のPAC3(パトリオット対空ミサイルシステム)と日本海展開中のイージス艦で迎撃します』


 飛翔体の探知が空中から衛星軌道上に引き継がれ、迎撃準備が進んでいく。


『海上保安庁から緊急!鹿嶋沖を航行していたフェリーが巨大ワームらしきモノの襲撃を受け沈没!沈没直前に巨大ワームが空に何かを発射したとの通報あり』


 府中司令部の報告に割り込む形で別の通信が指令センター内に流れ、騒めく指令センター内。


「まさか!あれはワーム弾なのか!?」


 驚く当直司令。


「ワーム弾の可能性もあると思われます。

 アルテミュア大陸上陸作戦で同様の事例が有りました。

 巨大ワームと沖合いの艦隊で砲撃戦となり、空母や輸送艦が被弾したものの、沈没は免れています」


 過去の事例を挙げる作戦将校。


「……大したダメージは無しか」


 艦船が沈没しないのであれば大した事はないと判断した当直司令が少しだけ安堵して肩の力を抜く。


「そうとも言えません。

 厄介な事に、巨大ワームが吐き出した岩石には小型ワームが多数詰め込まれています。

 小型ワームは被弾した艦船の搭乗員を襲撃し、火炎放射器や重火器で排除するまでかなりの時間を要しています。

 万一、これが地上に着弾した場合は掃討に手古摺るでしょう」


 安堵したばかりの当直司令に注意を促す作戦将校。


「……いやらしい相手だな。早めに叩き落とすに限る」


 作戦将校の話を聴いて迅速な処理を決意する当直司令。


 迎撃態勢を整えている最中の指令センターに、府中司令部から緊迫した声が流れる。


『ダイモスより緊急!落下中の飛翔体が3つに分離!

 落下軌道再計算――――――推定着弾地点は水戸、大宮、横浜!

 自由落下の為、誤差あり。推定カウントダウン300から350!』


 慌てて修正報告するダイモス宇宙基地の情報将校。


「……なんということだ」


 当直司令が顔を歪める。


「第1高射隊に迎撃命令。

 東部管区に展開中の全アイアンドーム(近接対空防衛システム)を稼働させろ!

 首相公邸に緊急連絡!」


「巨大ワームは一匹だけではない。複数だ!後続のワーム弾が来るぞ!

 首都圏全域にJアラート発令!

 東部方面の全自衛隊は対空戦闘と白兵戦用意!

 警察・消防にはワーム弾に詰め込まれた小型ワームへの注意喚起だ!急げ!」


 矢継ぎ早に指示しつつ、総理大臣と防衛大臣に繋がる直通電話に手を伸ばす当直司令。


 防衛省総合指令センターは、非番の担当者も加わった全員で首都圏全域の防空態勢と小型ワームとの白兵戦に備えるべく奔走する事になるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m

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