USO(水中未確認移動物体)
2027年(令和9年)3月27日午前7時30分【千葉県銚子市沖の太平洋上空 海上自衛隊哨戒機P-1】
「戦術航空士!ソノブイ全基投下。残りはありません」「機長!燃料、あと30分で無くなります!」
ソナー担当オペレーターと航空機関士が相次いで戦術航空士でもある機長に報告する。
「これ以上、この場で留まっても出来ることはない。補給の為、館山基地へ向かう。館山に着陸及び補給要請だ」
機長が決断して通信士に指示する。
「横須賀司令部へ。USO(未確認海中移動物体)は銚子沖20kmから西へ侵行中。本機は補給の為、館山へ向かう。直ちに警戒監視を引き継がれたし!以上」
『こちら横須賀自衛艦隊司令部。厚木と木更津から哨戒機(P1)がそちらへ向かっている。到着は15分後』
機長の報告に横須賀司令部が返答する。
引き継がれるまでに15分の空白が生じる事に機長は僅かに懸念したが、燃料が残り少ない事を考えると、館山基地へ向かわざるを得なかった。
「最後に探知ポイントにスモークを投下して後続の哨戒機が分かる様にマーキングだ。その後、館山へ向かう。タコは最後まで探知続行だ」
「「「了解!」」」
ソノブイを投下した海面上空を緩やかに旋回するP-1哨戒機。
操縦桿を右へ傾けながら、海面を凝視する機長の背後でタクティカルコーディネーターが一瞬、息を呑んだ後に声を上げる。
「新たな反応!最初に探知した物体東側の海底付近から急速上昇中の物体2個を探知!西へ侵行中!」
「……なん、だと」
新たな探知に絶句する機長。
「横須賀へ緊急連絡!最初に探知した物体が進路変更。北西へ向かっています!」
「横須賀司令部!応答せよ!新手のUSOを複数探知!北西と西へ侵行中!」
苛立った機長が直接、横須賀自衛艦隊司令部へ通信する。
『こちら横須賀自衛艦隊司令部付きの政務隊員である。貴官からUSOへの直接攻撃は可能か?』
「は?」
こちらからの報告に応える事無く、唐突に頓珍漢な照会をする司令部に、唖然とする機長。
「……本機の武装はハープーン対艦ミサイルと小型爆雷だ。海中を移動する複数物体への攻撃は困難と思われる」
司令部なら把握している筈の事をあえて回答する機長。
『了解した。代々木党本部を通じて海洋生物に詳しい学術会議メンバーに照会中だ。現場でしばし待機せよ、それから――――――』
「おそれながら、本機の燃料は後15分しか残っていません。あー、—――—――通信状態不良。これより館山基地へ移動します。以上」
横須賀司令部の政務隊員がいよいよおかしな事を言い出したので、通信不良を理由に交信を打ち切る機長。
通信機からは、金切り声で哨戒機を呼び出す政務隊員の声が聞こえていたが、誰一人応答する者はいなかった。
「……館山に着いたら営倉行きだな」
基本中の基本である命令を無視した事で自衛官としてのキャリアを失う事を覚悟しポツリと呟く機長。
民間組織と違い命令系統の無視は軍組織にとって反逆行為であり、厳しい処罰の対象となる。
故に命令を出す上官側も正しい状況判断を行う事が求められる筈だが、政務隊員の行為は異常であると機長は判断した。
「我々もお供します!」
副操縦士や通信士、機関士が意を決した顔で機長に頷く。
「……心意気だけ頂いておこう。罰を受けるのは私だけで十分だ。貴官らは私の分までUSOの討伐を頼む!」
そう搭乗員達に言うと、館山基地へP-1哨戒機の機首を向ける機長だった。
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