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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
316/462

後白河アウト!

2027年(令和9年)3月26日午後6時【大阪都都島区 『中華大飯店グラン・シャトー京橋店』】


「……うむ。端的に言おう。我々にマルス・アカデミーの研究施設を使用させて欲しい。今も続く大停電を一刻も早く解消したいのだ!」


 満とひかりに訴える後白河副総理。


「ええ~」「今さらまともな事言われましても……」


 機を逸した独白に白ける満とひかり。


「そもそも、ウラニクス市攻撃の責任はどうお取りになるのでしょうか?」


 追及する満。


「アマノハゴロモシステムをウラニクスに照射した当直司令は、責任を感じてダイモスで自殺した。残念な事だが真相は分からんよ」


 どこか他人事な後白河。


「そんなあやふやな結末でいいのですか!?」


 疑問を持つ満だった。


「もともとあそこは、日本国に害を及ぼす可能性が高い者ばかりが集まった非合法都市と言えるでしょう?彼らが焼かれたのはある意味、天罰だと思いませんか?」


 5万人の住民が無差別に焼かれたことについて天罰と表現する言い方に満とひかりは「この人ダメじゃん」と思い始めていたので特に反論する気にはならなかった。

 その代わりに二人はこう答えるしかなかった。


「”人の命は地球より重い”と大昔に超法規的措置を正当化した首相が言った様に綺麗事を言うつもりはありません。

 だからと言って、ウラニクス住民が無差別に焼き殺されて良いとは思わないですよ。貴方にマルス・アカデミー施設を委ねるのは危険です」


 明確に答える満。


「なんだと!君が背負った罪を全て帳消しにしても良いんだぞ!?」


 超法規的に司法取引を持ちかける後白河。


「罪?マルス・アカデミー施設を利用した利益なんて、あなた方が勝手にでっち上げました罪でしょう?そもそもマルス・アカデミーの施設は誰の物か?美衣子達の前で聞きますか?」


 呆れ顔の満。背後に居る美衣子達三姉妹は、ひたすら小籠包をお代わりし続けており、怒りモード寸前だ。


「施設を貸して欲しいのなら、直接私達に聞けば良いのよ」


 お腹を擦りゲップをしながら、美衣子が後白河の前に歩み出る。


「そうなのか!?是非ともマルス・アカデミー施設を貸して頂きたい」


 頭を下げる後白河。


「対価は何?」


 美衣子が訊く。


「今日みたいなご馳走を毎日用意しよう!」


 勝機ありと感じて自信満々に提案する後白河。


「……後白河アウト!」


 美衣子が突然叫ぶ。


『ウキキーッ!』


 美衣子の叫びに応じ、厨房から黒い覆面と黒ジャージを着込んだ結とマルス・アカデミーアンドロイドの一団が駆け足で現れて後白河に近づくと、立ち塞がる警護官を潜り抜ける様にすれ違いざま、段ボール製バットで後白河の尻にバシッと喝を入れ颯爽と厨房へ戻っていく。


「はううっ!」


 ヒリヒリする尻を抑えてのけ反る後白河。


「後白河は私達が本当に欲しいモノを対価として差し出す覚悟が出来ていない。だからアウトよ」


 それだけ言うと思わぬ展開に唖然としている大月夫妻の手を引いて、結と瑠奈、マルス・アカデミー・アンドロイドを引き連れて悠然と屋上のアダムスキー型連絡挺へ向かう美衣子。


 後白河副総理や側近達は、理解し難い存在の振る舞いに呆然となって大月家一行を見送るのだった。


         

 グランシャトービル屋上から垂直にひたすら上昇するアダムスキー型連絡挺に、大阪都上空で待機していた完全武装のF2支援戦闘機が急降下しながら射撃管制レーダーを照射してきたが、美衣子は全く意に介さず、垂直上昇速度を加速してF2戦闘機を振り切っていく。


『こちら日本国航空・宇宙自衛隊伊丹コントロール。

 上昇中のアダムスキー型連絡艇に告ぐ。貴機は現在日本国領空を侵犯している。直ちに上昇を止め、F2戦闘機の着陸誘導に従われたし。誘導に従わない場合、実力行使も我々は厭わない』


 負けじと追い縋るF2支援戦闘機に、北西から急接近してきたユーロピア共和国空軍のラファール戦闘機編隊が、アダムスキー型連絡艇とF2戦闘機の間に割り込む。


「伊丹コントロールへ。此方ユーロピア共和国首相ジャンヌ・シモンよ。

 MCDA加盟”台湾国”からの要請に基づき、防空任務中。マルス・アカデミー連絡艇は此方で識別済。

 大阪都上空は台湾国領空と近接している為、接続空域としているはずだけど?

 ADIZ(防空識別圏)内だけど、此処は日本自衛隊以外の軍用機も活動可能だという特例を忘れたのかしら?」


『……』


 伊丹コントロールはジャンヌの問いに答えられず、渋々と戦闘機を撤収させるしかなかった。


 アダムスキー型連絡艇は無事に大気圏を離脱してダンケルク宇宙基地へ帰還するのだった。


          ♰          ♰          ♰


【火星衛星軌道上 第1衛星フォボス 英国連邦極東軍・ユーロピア共和国軍『ダンケルク宇宙基地』隊員食堂】


 無事に帰還できた大月家一行が、隊員食堂の片隅で大阪シャトー飯店での反省会を行っていた。


 テーブル上には、東京永田町に居る岩崎自由維新党総裁と春日洋一自由維新党参議院議員がホログラム映像でオンライン反省会に参加している。


「あらあら。それじゃあ、後白河副総理へのお仕置き――――――じゃなかった、後白河副総理が行った私達との交渉は無意味だったのですかねぇ」


 春日から報告を受けたひかりが、あらあらまあまあと頬に手を添えて困った顔をする。


『そんなことはないと言いたい所だけど、実際に各省庁の管轄施設を総動員すればアマノハゴロモ復旧までの期間、電力不足は解決する訳ですから何とも……』


 先程のシャトー飯店で行われたやり取りの一部始終を東京永田町で見ていた春日が、笑いを堪えながら応える。


 隣には岩崎自由維新党総裁が居る筈だが、声も上げられない程、腹を抱えて笑っていたのだった。


「うーん。これが政治主導ってやつなの?」と、素で首を傾げて尋ねる満に、春日までもが腹を抱えて笑い出すのだった。


 翌日、左派系メディアはツイッターで『マルス・アカデミー・アンドロイドが後白河副総理に暴行』とセンセーショナルな見出しで美衣子達三姉妹の行いを非難するツイートを拡散させたが、すかさず英国連邦極東・ユーロピア共和国・台湾国系メディアが『後白河副総理がマルス・アカデミー幹部に会食接待か!?』と同じくツイッターでやり返し、その日の午前中には左派系メディアはこの件に関するツイートを全て削除するのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月 ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生態環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・春日 洋一=自由維新党参議院議員。元ミツル商事社員。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・岩崎 正宗=自由維新党総裁。元内閣官房長官。

・後白河 政徳=日本国内閣副総理兼外務大臣。元自由維新党党員。岩崎に反旗を翻して離党した。

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