表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
312/462

卒業

*この小説はフィクションです。実在する国家、団体、法人、個人、法律、地名、学術用語、その他固有名称等とは一切関係ありません

2027年(令和9年)3月4日【神奈川県横浜市中原区木月三丁目 神奈川県警臨時特別警察学校】


 敷地外縁に植えられた桜が満開となったその日、住宅街の一角に在る閉鎖された筈の広大な学校敷地で、少し変わった"卒業式"が行われていた。


「それでは、これから臨時特別警察学校卒業証書を授与します。名前を呼ばれた者は壇上へ上がるように」


 サングラスをした校長の視線を意識しているからなのか、上擦った声で司会進行をする強面の教官。


 前例のない異星文明から前例の無い要請に基づき、移転した警察学校跡地を再利用した前例のない生徒達と前例の無い異星人校長を受け入れ、3か月に及ぶ前例のないカリキュラムを終え、前例のない卒業証書授与式を迎えた本日、司会を務める教官も含めた教職員一同は緊張していた。


 全てが前例の無い事づくめだった。


「……ツルハシ25号」

『オスッ!』


「ツルハシ10373号」『ウィ』

「ツルハシ444号」『オイッス!』


 担当教官から名前を呼ばれたプラチナ色に輝くマルス・アカデミー・アンドロイドが返事と共に次々と壇上へ上がって行くと、サングラスをした爬虫類少女の校長から卒業証書を礼儀正しく受け取り、キビキビした動きで席へ戻っていく。


「おい、この後あいつらと俺達教官でクラス別の記念写真を撮るらしいが、あの生徒達の見分け、お前分かるか?」


 一人の教官が隣の同僚に囁く。


「美衣子校長じゃあるまいし、見た目だけで分かるものか。実際に行動したときのリアクションでやっと見分けがつく程度だよ」


 首を横に振って遠い目をした年配の教官が答える。


「……そうだよな。ああ見えて個性豊かなんだよなぁ」


「消灯時間後に校舎裏でパイナップルやマンゴーを隠れて食べて叱られてたよな?」

「シガレット・チョコレートも食べてたよな。喫煙かと思って焦ったわ。紛らわしい!」

「ロボットなのに何食ってんだよ、と突っ込むのを躊躇うほど旨そうに食べるんだよなぁ」


「告白とかも見たことあるぞ」

「ええっ!?どっちが男で女なんだよ!?」


「警棒を無くしたからって、月例点検の時に金のツルハシや銀のツルハシを警棒代わりにしていた奴も居たな」

「ああ。ホイッスル無くしてリコーダーや尺八で代用していた奴も居たな」

「明らかにホイッスルと違う形状や音なのに、上手く誤魔化せたと思ってどや顔だったよなぁ」


 プラチナ色に輝くマルス・アンドロイド生徒達が引き起こした、破天荒な振る舞いを思い出して苦笑する教官達。


「……ところで、台湾自治区が独立したのは本当らしいな」


 先程よりも声を潜めて囁く教官。


「日本側の公式発表はまだだけどな。独立直後に我妻の手下に付け入る隙を与えない為にコイツらいるんだし、定年退職後の俺達にこっそりとお呼びがかかったんだからな」


 応える年配教官。


「ま、おかげ様でこの後も治安部隊顧問として中華街のポストが約束されているしな。……これで孫にプレゼントを弾む事が出来る」


「そうだな。あいつらとの腐れ縁も、しばらく続くなぁ。……悠々自適な老後はもう少し先になりそうだ」


 卒業式に臨む教職員達は感慨深げに、卒業証書を授与されていくマルス・アカデミー・アンドロイドを見つめるのだった。


「これで仕込みはバッチリね」


 卒業証書授与が終わり、仰げば尊しを卒業生が斉唱する中、サングラスをした校長姿の美衣子が背後に控える結に呟く。


「ちょうきょ――――――もとい、仕込んだ甲斐がありましたわ姉さま」


 万感の思い故か、言葉遣いの改まらない結が美衣子に応える。


「……パトカーの準備も間に合って良かったっス!」


 直前まで整備に追われていた瑠奈が額に滲む汗を拭いながら、斉唱する卒業生の胸元にコサージュ型GPS警察無線機を着けていく。


「皆さんのご尽力、私共は忘れませんよ。ほほほ」


 卒業生徒首席のツルハシ2号が感謝の言葉を「春はあけぼの~」と読み上げ始めた為、教職員、来賓、同期生の総突っ込みを受けるなか、神奈川県知事の隣に座る台湾国代表となった王代表が美衣子達三姉妹に感謝する。


「別に盛大に感謝される程の事でも、有るかも」


 パイプ椅子に座りつつも、器用に胸を張ってみせる美衣子。


「だけど、私達だけでは日本人の仕来たりは分からないわ。そういった面で言えば、黒磯知事のおかげでもあるわ。お礼にアダムスキー型連絡艇を20機程使っても良いかも」


 太っ腹な美衣子。


 NEWイワフネハウスの在る地元自治体である神奈川県は、美衣子達マルス・アカデミー三姉妹が大月夫妻と定住するようになって以来、マルス・アカデミー大使館兼研究施設も兼ねた共同住宅建築を認可したり、二俣川自動車教習所の利用やアダムスキー型連絡艇を自家用車として認めるなど特段の便宜を図ってきた。


 日本国内雄一のマルス人定住施設”NEWイワフネハウス”や美衣子達三姉妹が手掛けたアミューズメント施設の様な自動車教習所の在る横浜市に、県外から観光客や商談・相談を求める人々が殺到し、知名度や経済効果もじわじわと火星転移前を上回っていた。


 また、停電に見舞われた火星日本列島の中にあっても大月家一行の好意で神奈川県は、横浜市内の台湾自治区と共に安定した電力供給をMCDA加盟国同様に受けていた。


 神奈川県のマルス・アカデミーに協力的な姿勢は、我妻政権誕生後に立憲地球党の意を受けた霞が関官僚が政権幹部への優遇要求をしても黒磯知事自らが要求を拒否していた。


 大月満に伴って火星日本列島から脱出した美衣子達だが、留守番役のツルハシ2号から定期的に国の方針変更に抵抗し続ける神奈川県や横浜市の協力姿勢について報告は受けていた。


 台湾自治区の独立を見据えたマルス・アカデミー・アンドロイド警察官育成を支援してくれた事に大月家は感謝しているのだ。


「ええっ!?良いのですか?」


 突然の申し出に驚く黒磯知事。


「……貴方とはこれからもお世話になるかも知れないし。この学校、来年もウチの生徒を入学させても良いかしら?」


「も、勿論です!立派な警察官に成れるよう、微力を尽くしましょう!」


「微力なんかじゃ物足りないわ。死ぬ気で挑みなさい」


 喜びつつ、謙虚に応えてみせる黒磯知事を煽る美衣子。


「じゃあ、訓練車輌が必要っスね!研究中のパワードスーツ型警察車輌を用意するっス!」


 元気よく提案する瑠奈。


「……ハハハ。まんまパ◯レイバーですね……」


 ひきつり気味の笑顔で応える黒磯知事。


 この日卒業したマルス・アカデミー初のアンドロイド警察官550名は、各分野の教官達と記念写真を撮り終えると、中華街のフカヒレで有名な老舗飯店を一日限定で貸し切って謝恩会を開き、神奈川県知事始め横浜中華街に於ける政財界の有力者も交えてこれからの事について熱く語り合うのだった。


「あの、配備予定のパワードスーツ型警察車輌については、どれくらいのサイズですか?」


「山下公園の実物大バンダムくらいっス!」


「……もう少し小さく出来ませんかねぇ」


 調子に乗っておねだりし過ぎたなと後悔しきりな黒磯知事だった。


          ♰          ♰          ♰


「……そう言えば卒業旅行だけど、明日決行よ」


 謝恩会を終え、会場の床に布団を敷いて雑魚寝の準備にいそしむ卒業生に告げる美衣子。


 何故か結や瑠奈も彼らに混ざって布団に潜りこもうとしていたが、そこはスルーする美衣子。


『ヒャッホー!』『ワクワク』『ドキドキ』「妹探しの旅が始まるわ」「イェーイっス!」


 歓声を上げるマルス・アカデミー・アンドロイド達と結、瑠奈。


「二泊三日でアステロイド・ベルトまで弾丸旅行よ。労働の尊さを知る事がご褒美よ」


『……』「岩の妹は、私にはまだ早いと思うの」「お堅い旅行っス!」


 音もなく、スイッチが切れたかの如くバタバタと床へ倒れ伏していくマルス・アカデミー・アンドロイド達と結、瑠奈だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生態環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス・アカデミー・「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「ルンナ」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・王=台湾自治区代表。

・黒磯=神奈川県知事。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ