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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
311/462

台湾国独立

*この小説はフィクションです。実在する国家、団体、法人、個人、法律、地名、学術用語、その他固有名称等とは一切関係ありません

2027年(令和9年)元旦から、火星日本列島日本海側では船舶の遭難事故が相次いでいた。


 その多くは、大停電で行き詰まる日本列島に見切りをつけ、火星新大陸で一旗挙げようと思い立った立憲地球党支持者だった。


 にわかに開拓者を志そうと決意した者達は、地球タカマガハラで行われた日本国・イスラエル連邦共和国首脳会談で政治的失敗を犯した我妻政権と立憲地球党が遠くない将来に下野し、政権を奪還するであろう自由維新党支持者や我妻政権で苦汁を飲んだ人々の報復を恐れていたのだった。


 長年立憲地球党を支持していた者は、彼らの若年時代1972年に起きた連合赤軍が起こした”あさま山荘事件”当時から受け継がれていた『総括』で失敗を犯した仲間を内ゲバ=集団リンチで制裁する気質があり、制裁を予知して日本列島を離れた理由もある。


 もっとも、地球と違い火星日本列島外に総括を指示する共産主義国家がある筈もなく、彼らの懸念は杞憂とも言える。


 それでも杞憂に気付かない立憲地球党支持者達は、日本海側で中国や北朝鮮に協力的だった船主や漁師の伝手で小型船舶をチャーターしてアルテミュア大陸を目指した。


 だが、現在の火星日本列島の日本海側海域は北西へ大きく広がっており、地球ロシア沿海州や北朝鮮北部までの距離に比べ、対岸のアルテミュア大陸まで直線距離にして1.5倍となっている。


 この為、そこまで想定していなかった船舶が日本海のど真ん中で燃料切れで漂流する事例が続出し、時折出没する海洋巨大ワームに襲撃されたり、長期間の漂流で全員が餓死した状態で北陸や山陰地方の海岸に漂着する者が相次いだ。


 飢えと船酔いに苦しんだ末、巨大ワームに呑み込まれて胃液で緩やかに身体を溶かされ死にゆく結末よりも、パトロール中の海上保安庁巡視船に密出国で検挙され、地方新聞の紙面を飾って恥を晒す方が幸運と言えるかも知れない。


           ♰          ♰          ♰


2027年(令和9年)1月4日【神奈川県横浜市中区中華街 台湾自治区行政庁舎】


「あなた方は自治区という立場を忘れていると言わざるを得ない」


 東京霞が関の外務省から来た外務事務次官が、向かい側に座る台湾自治区の王代表に、最近のMCDA(火星通商防衛協定)加盟やマルス・アカデミーとの安全保障契約について、外交・防衛は日本国政府が所管するという火星転移直後に交わされた自治区設立覚書に反する行為だと指摘していた。


「私達台湾自治区は同じ自治区として設立されたユーロピアが国家に昇格して貴国から独り立ちしたのと同様、自らの足で立ち、歩んで行きたいのですよ。

 いつまでも貴国におんぶに抱っこでは、心苦しいですし自治の意味がありません」


 渋面の外務次官の指摘に王代表がにこやかに応える。


「どうして我々の独立に反対するのです?

 日本の官僚と政治家を長年ハニートラップで脅かし続けた北京の共産主義政府は、遥か彼方の地球で壊滅しているのですよ?

 歴史問題による謝罪や賠償で外交政策を悩ませる事もありません。何を恐れているのでしょうか?」


 首を傾げて指摘する王代表。


「日本国は、民族自決の大原則を否定するつもりはありません。

 ですが、台湾自治区の動きは自治区創設覚書の改訂交渉から始めるべきだったのではありませんか?独立とは些か早急過ぎるのではありませんか?」


 王代表の主張を理解しつつ、拙速な行動を控えるように促す外務事務次官。


「ユーロピア共和国もアルテミュア大陸上陸作戦が成功して間も無く、貴国からの独立を果たしました。我々とユーロピアの何処が違うと言うのですか?」


 反論する王代表。


「それでも、我が国はあなた方の行動に異を唱えざるを得ない。外交的にまずは交渉から始めるべきでしょう」


 原則論を唱えて反対する外務次官。


「事務次官殿。台湾国は臨機応変と言う格言を実行するまでですよ」


 独立を主張する立場を譲らな王代表。 


「王代表閣下。外交・防衛の経済的価値は普段は分からないものです。

 これから貴方達はその価値がどれ程高いものか身をもって知る事になるでしょう……」


 王との応酬を繰り広げても尚、態度を変えなかった外務事務次官は業を煮やして捨て台詞を残すとソファーから立ち上がり、足早に行政庁舎から立ち去っていくのだった。


「代表。これで良かったのですか?」


 王の側近が問いかける。


「渋澤政権であればこの決断をしなかったでしょうね。

 ……そういう意味では、背中を押してくれた我妻政権に感謝すべきでしょうかね?」


 肩を竦めて応える王代表はモニター電源を入れると、先程の外務事務次官とのやり取りを”音声のみで聴いていた”英国連邦極東ケビン首相、ユーロピア共和国ジャンヌ首相とのテレビ会議を再開させるのだった。


「……そういう事で、台湾は独立すると同時にMCDAに独立国家として再度加盟申請します。

 ちなみにマルス・アカデミーとの安全保障契約はこのままで問題無いと、大月美衣子氏から回答を得ています。

 台湾国はこの安全保障契約の恩恵を独り占めするつもりはありません。英国連邦極東、ユーロピア共和国とも此れを分かち合いたいと考えています」


 英国連邦極東ケビン首相とユーロピア共和国ジャンヌ・シモン首相に呼び掛ける台湾国代表となる王。


「英国連邦極東は、台湾独立を心から祝福します。

 MCDAにようこそ。我が国は相互安全保障条約締結についても話し合いたいと考えています」


 英国連邦極東ケビン首相が王の呼び掛けに応える。


「ユーロピア共和国も台湾国の独立を心の底から歓迎します。

 同時にMCDAや相互安全保障条約を通じてより一層の友好を深めたいと思っていますよ」


 ユーロピア共和国ジャンヌ・シモン首相も王に好意的に応えるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・ケビン=英国連邦極東首相。

・王=台湾国代表。

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