動き出すテンプレ騎士団
2027年(令和9年)1月1日午前7時【火星日本列島 東京都内各所】
大停電による暗い年越しを過ごした人々が、明るい未来を求めて初詣へ向かうべく混雑する渋谷駅前、新宿駅前、原宿駅、お茶の水駅前の商業ビルに設置された大画面スクリーンに、極東BBC放送のニュース映像が流れていた。
『日本政府の準軍事衛星『アマノハゴロモ』がアルテミュア大陸中央部に在った人類都市を光学兵器で壊滅させた事について、MCDA加盟国であるユーロピア共和国と英国連邦極東、台湾自治区は”人道に対する罪”として我妻政権を厳しく非難しています。
一方、日本政府当局者は事実確認について固く口を閉ざしています』
『私達極東BBC放送取材班は独占取材により、日本の光学兵器が人類都市を攻撃する一部始終を収めた映像を入手しました。
ロンバルト・アッテンボロー特派員が、ダンケルク宇宙基地からお伝えします』
宇宙ドックに停泊しているディアナ号を背景にしたアッテンボロー博士に画面が切り替わってレポートを始めていく。
『私達極東BBC放送取材班は、ニューガリアを襲撃した火星巨大ワニを捜索する大月満氏が率いる探索隊に同行。
砂嵐の中、未確認の人類都市を発見、都市住民への接触に成功したのです……』
未確認人類都市郊外のターミナルで劉市長と大月家一行が握手を交わし、トマトやナスがディアナ号へ運び込まれていく場面が映像に収められていた。
『捜索隊がウラニクス山地に築かれた未確認人類都市=ウラニクス市を拠点として調査を開始した数日後、南北からウラニクス市目指して進撃する火星巨大ワニ群が探知されました。
しかし、ウラニクス市には火星巨大ワニ群を迎え撃つ戦力が足りません。大月満氏率いる捜索隊が急遽、ウラニクス市を防衛すべく市の郊外で巨大ワニ群を迎え撃つ事になったのです』
ウラニクス市郊外の外輪山へ向かうディアナ号。
『捜索隊は火星巨大ワニに遭遇しても生き残れるように最新の武装が装備されていましたが、未知の巨大ワニを相手に途中苦戦を強いられましたが、ジャンヌ首相率いるユーロピア空軍の支援により押し寄せる巨大ワニ群からウラニクス市を防衛する事に成功したのです』
ユーロピア共和国空軍が撮影したと思われる、画面左上にEAF(ユーロピア空軍)提供と表示されたガンカメラ映像は、電撃で痺れて動けない火星巨大ワニ目掛けて命中する多数のロケット弾やミサイルを映し出す。
『この戦闘が終わればユーロピア共和国と未確認人類都市ウラニクスは友好的関係を結ぶ事ができるでしょう』
ヘルメットを小脇に抱えながらラファール戦闘機に搭乗する直前、インタビューに答えるジャンヌ首相。
『我々は周金平同志総書記が唱えた中華民族の夢を叶えるべく自給自足で生きてきましたが、この様な事態を経験した事で外部との友好的連携を模索しなければならないと確信しました』
補給を終えて出撃するジャンヌ首相に向かい、手を振って見送るウラニクス市の劉市長が撮影クルーの質問に答えている。
画面は再び巨大ワニ群とディアナ号、ユーロピア空軍、木星原住生物との決戦に戻っている。
ディアナ号から青白い閃光を放つレールガンが最後の巨大ワニに止めを刺し、歓喜の舞を披露する水素クラゲや水素カニ達。
ラファール戦闘機から撮影した映像は、勝利に沸く戦場を眼下に納めながら、荒野の中にポツンと存在を示す都市目指して近づいていくが、不意に視界が左右に激しくブレた後、薄い茜色の青空を映し出す。
暫くして茜色の青空から視点が下がるように再び視点を戻した映像に映る都市は、天空から地上へ突き刺すように照らす幾つもの紫色の光柱に包まれていた。
カメラが都市にズームインしていくと、高熱で変形していくレーダーアンテナや通信アンテナの鉄塔がアメ細工の様にグニャリと曲がって倒壊していく。
住居の屋上にある貯水タンクは、ブシャッと爆発したかの如く水蒸気を吹き上げて破裂して破片が住居に溶け落ちる。
大通りのバイクや自動車らしき溶けた残骸は沸騰して地面で泡立っていた。
全てが燃えて溶けだす光景の中で、人影の痕跡は映像では判別出来なかった。
『映像を視た専門家によると、鋼鉄が溶ける程の高熱に晒された人体は瞬時に蒸発又は破裂して飛散する為、原形を留めないとの事でした……』
衝撃的な映像の数々をMCDA加盟国と親しい外資系メディアが東京都内各所の大画面スクリーンで流したところ、初詣へ向かう途中だった人々は足を止めて映像に見入っていく。
『大変動で地球人類が激減し、未だ過酷な火星大地で生き延びていた5万人の住民ごと都市を焼き払った虐殺ついて、日本新政権に説明責任が求められます。ダンケルク宇宙基地からロンバルト・アッテンボローがお伝えしました』
日本国民に問いかける様にレポートを締めくくるアッテンボロー博士だった。
衝撃的な映像は瞬く間にツイッターや動画投稿サイトを通じて日本国民の間に拡散していくのだった。
我妻新政権発足後、列島大停電、イスラエル連邦との不平等条約、光学大量破壊兵器による大虐殺と立て続けに表面化する政治的失策に国民の不信感はピークに達しようとしていた。
衝撃的な映像が瞬く間に日本国民の間に拡散した日の夕方、今度はユーロピア共和国国営放送が三大都市圏駅前の大画面スクリーンを通じて臨時ニュースを伝えるのだった。
『MCDA加盟国政府筋によりますと、台湾自治区とマルス・アカデミー シドニア研究地区が”安全保障契約”で合意したとの事です。
マルス・アカデミー・シドニア研究地区は”台湾自治区船舶や航空機が属する集団の安全”を保障する代わり、台湾自治区が大月美衣子氏、大月結氏、大月瑠奈氏の3名に対し無料で中華料理を半永久的に提供する条件で原則合意に至りました』
『武力を持たない台湾自治区がマルス・アカデミーという、人類より遥かに進んだテクノロジーを持つ文明と安全保障契約を結んだ影響はMCDA加盟国のみならず、火星日本列島を含めた人類生存圏の今後に大きな影響を与えるだろうと政府筋はコメントしています』
テンプレ騎士団の面々が局面を打開しようと現実世界でも動き始めるのだった。




