天麩羅阿修羅と美味しい話

ＭＣＤＡ（火星経済・防衛協定）公認 オンライン・ロール・プレイング・ゲーム『スーパーポ〇モン対戦』

　シナリオＮ０．９９９のエリア・ボス''天麩羅阿修羅''を討伐し、ようやくクエストを達成したテンプレ騎士団は、オンラインゲーム内サロン''ＮＥＷイワフネハウス''でいつもの如く反省会を開催していた。

『……全く。とんでもない条約を結んでくれたものだ』

　先程まで胃袋を占領していたかき揚げや茄子の天麩羅を洗い流す様にバドワイザーをぐびぐび飲み干すと、ダン！とジョッキをテーブルに叩きつけて嘆息する騎士アバターのケビン英国連邦極東首相。

　そんな依頼主の苦境にそっと一錠のキャベジンをテーブルに置くマルス・アンドロイドのクリス。

　向かい側に突っ伏す、顔面蒼白な主のソールズベリーが親指を立てて相棒クリスのナイスな心遣いを称賛する。

「……で？何で私のキャベジンが無いの？」

　恨めしげにクリスを見上げるソールズベリー。

『至高の主におかれましては天麩羅で胸焼けなど、赤字続きの商会会計簿に比べれば取るに足らないものかと……』

　こてんと首を傾げるクリス。

「……最近、至高の主と言いつつも相棒の皮肉が効きすぎて辛い」

　ガックリと項垂れてしまうソールズベリー。

『……日本国民１０００人。その中でも高スキルを持つ技術者ばかりを引き取ると嘯（うそぶ）き、陸上自衛隊戦力の半分を手に入れたイスラエル連邦は損がまるで無い。

　外交素人である我妻のお人よしに付け込んで悪魔的な条約を結ぶなんて、最早搾取としか言いようがないわ。

　さぞかしニタニエフ首相は笑いが止まらないでしょうね！』

　隣のテーブルに突っ伏す腐れ紳士(ジョンブル)二人に背を向け、浮遊クラゲの傘の上でふて寝を決め込む踊り子ジャンヌ。

　我妻新政権の無防備な政治的立ち居振る舞いに怒り心頭のふて寝に見えて、実は今にも海老天麩羅が逆流しそうな食道を根性でグッと抑え込んでいたりするユーロピア共和国ジャンヌ首相。

　そんなジャンヌにはお構い無く、浮遊クラゲは何に使うのか分からない編み物に勤しんでいる。

「まさに海老で鯛を釣る、っス！」

　今日はゲームに参加して天麩羅阿修羅討伐に重要な役割を果たした瑠奈が、ガツガツとかき揚げ丼をかき込みながら自賛する。

「……もぐもぐ。さすが自慢の妹ね。今日の瑠奈は鬼がかっているわ」

　ジェンガの様に不恰好に積み重ねた茄子と獅子唐の天麩羅を、丼に入れたご飯と絶妙な割合で口に運ぶ結。

「……はむっ。……でも、さすがに天麩羅ばかりだと胸焼けが酷くなるから、別のモノでお口直しをしないといけないわ」

　瑠奈と結へ諭すように言いながら、北海タラのフィッシュ＆チップスをパクパク食べる美衣子。

「……うぇっ。余計胃もたれするんじゃない？」

　お口直しの抹茶アイスを食べているにもかかわらず、美衣子達を見て呻き声を上げる満。

「三人とも、あんな胃にもたれるボス戦直後によく食べれますねぇ……」

　感心半分、呆れ半分のひかり。

　今回のエリア・ボス''天麩羅阿修羅''は揚げ玉と、マグマの如く煮えたぎる菜種油を噴射する強敵だった。

　剣や魔法が効かない強敵を倒すべく、テンプレ騎士団は天麩羅阿修羅のエネルギー切れを狙って厨房に積み上げられた天丼や天ざるを食べ続けた。

　天麩羅を食べ尽くす事で、揚げ玉や菜種油を噴射して攻撃してくる天麩羅阿修羅のＨＰをじりじりと削って自滅させる戦法を取るしかなかったのである。

　最初こそ「ジャパニーズ天麩羅！」と喜び勇んで天丼と天ざるに挑んだジャンヌとクロエ姉妹、ケビン、ソールズベリー達欧州勢だったが、お代わりを２回程した段階で真っ青な顔を俯かせて箸を置くと、お冷や緑茶アイスへ逃避してしまうのだった。

　攻めあぐねる(食べあぐねるとも言う)テンプレ騎士団の前に助っ人として現れた美衣子達マルス・アカデミー三姉妹は、颯爽と厨房に踏み入ると天ざるを飲み物の様に啜り尽くし、スプーン片手に天丼をざくざくぺろりと平らげて天麩羅阿修羅を衰弱に追いこんでいく。

　最後には美衣子達三姉妹が業務用炊飯器からご飯をよそって天麩羅阿修羅をおむすびの具に見立ててご飯で包み込むと、ご飯に包まれた天麩羅阿修羅は窒息して討伐されてしまうのだった。

　こうしてテンプレ騎士団は、クエスト対象であるアイスの女王を見事救いだす事に成功したのだ。

　クエスト達成特別報酬としてチューバーイーツから、天婦羅ソフトクリームと月夜大福がパーティーメンバー各自の自宅へ配達（大月家は春日洋一参議院議員の議員宿舎）される予定である。

「これから日本国民がイスラエル連邦との条約で理不尽さを体験していく訳だが、ハッキリ言って我妻政権の命運は尽きたのではないかね？」

　久し振りに参加している大賢者アバターの岩崎自由維新党総裁に訊くケビン首相。

「火星日本列島(こちら)にはまだ副総理の後白河が居ます。彼は我妻と政治的心中を望まないでしょう。

　保身を図る為にも打開策を探るべく、此方へ接触してくると思いますね」

　淡々と答える岩崎総裁。

　岩崎は先程の闘いでは、マイペースで天麩羅を味わっていた為、食後に蕎麦湯を所望するほど余裕だったりする。

「このままでは我々（ＭＣＤＡ）までイスラエル連邦のいいように使われかねんぞ！

　……今しかない。今が好機だ。我々は例の映像を公表して我妻政権の非道ぶりを人類社会に告発すべきだ」

　机に突っ伏していた騎士アバターのケビン首相がむくりと身体を起こして大賢者アバターの岩崎に向き直って告げる。

「私もケビンに賛成するわ。……まさか学術庁のアッテンボローが貴方と通じていたなんて寝耳に水だったけどね！」

　ケビンに賛成しつつ、どこか不満気な踊り子アバタージャンヌ首相。

　「彼を木星大使に任命したのは不味かったかしら」と、ソファーで横になっていた聖女アバターの姉クロエ・シモン首相補佐官に小声で相談していたりする。

「ソールズベリー卿は知っていたのでしょう？」

　岩崎がケビンの向かいで突っ伏したふりをしている遊び人アバターのソールズベリー商会長に尋ねる。

「……いや、まあ。ハハハ。同業者を売るような事は言えませんよ？」

　苦笑して頭を掻くソールズベリーに「いやいや、認めてるじゃない！同業者売ってるよ！？」と驚いた顔で突っ込むジャンヌ首相。

「あの映像だけでは、インパクトが薄いのでは？」

　首をかしげる満。

「どうして木星の皆さんを紹介しないのですか？新しい人類のお友達を日本政府が隠ぺいしたと言えませんかね？」

　別の視点でパーティーメンバーに尋ねるひかり。

「……うーん、それもアリなんですが火星に転移してから巨大ワーム、マルス人、シャドウ帝国のクローン人間、巨大ワニと続いているでしょう？

　今さら木星原住生物（ジュピトゥリアン）を紹介したところで、日本国民にインパクト無いかなぁなんて思いませんかね？」

　浮遊クラゲアバターの琴乃羽美鶴が編み物をしながら答える。

「美衣子達はどう思う？」

　第三者視点から意見が欲しくなった満が訊く。

「んん？木星の珍味諸君の事っスか？」「……別に無理に紹介しなくても」「秘密の友達なんて魅惑的な言葉ね。ジューシーな肉まんみたいにいいかも」

　まるで他人事として適当に答える美衣子達三姉妹。

「なんか話の流れとは違う答えが返ってきた……」

　三姉妹の答えを聞いて脱力する満。

　今後の大月家活動方針を決めようと考えて居た満だったが、美衣子達マルス・アカデミー三姉妹は日本政府の対応や外交問題の話をしても「何それ？美味しいの？」とまるで関心を示さずにむしゃむしゃと肉まんを頬張るだけだった。

　そんな美衣子達を見て苦笑するテンプレ騎士団メンバーだった。

「そう言えば、大月家の皆さんに美味しい話があるんですよ。ほほほ」

　にこやかな商人アバターの台湾自治区 王代表が揉み手をしながら満とひかりに近づくと耳元で何やらごにょごにょと囁く。

「ええっ！？」「……そんな事、出来るのですかぁ？」

　驚く満とひかり。

「ほほほ。美衣子さん達には既に根回し済ですよ。ほほほ」

　にこやかな王代表だった。