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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
307/462

新たな約束の地

2026年(令和8年)12月24日午後4時【地球極東地区『タカマガハラ』エリア・リュウキュウ南方20Km 上空1万メートル】


『ソフィー。もうすぐ火山灰が晴れるですの』


 サキモリAIのパナ子が知らせる。


「ソフィーからフラッグ1へ。現在進路を維持せよ。間も無く火山灰を抜けるわ」


 ソフィー大尉が、背後を飛ぶ首相専用機のJAXAシャトルに連絡する。


『現在、台湾本島上空だよ。生体反応なしだよ』


 高瀬中佐の操るパワードスーツAIのケンが高瀬に報告する。


「台湾本島の状況は?」


 視線を下方に落とすことなく、周囲を警戒する高瀬が訊く。


『沿岸部は何度か大津波を受けた跡が有るよ。内陸部の山脈は大地震で崩れてグシャグシャだよ。地上気温は氷点下5度』


 既に各種センサーで調べ終えていたケンが答える。


「フラッグ1に聞かれない限り、この情報を伝える必要はないだろう」


 呟く高瀬。


『台湾ってパイナップルとマンゴーの産地でしょ?知ってるわよ』


 ソフィーが声をかける。


「今となっては見る影もないか……」


 応える高瀬。


『マスター。前方に巨大電磁シールド。タカマガハラだよ』


 ケンが高瀬に知らせる。


「ソフィー大尉。あと少しでエスコートは終了だ。最後まで気を抜くなよ?」

『ラジャー』


 自分にも言い聞かせる様に注意する高瀬だった。



 日本国航空・宇宙自衛隊のパワードスーツ2機に護衛された日本国内閣総理大臣我妻の乗るJAXAシャトルは、東シナ海を通過して火山灰混じりの雪雲が霧消して視界が明瞭となった空域に到達した。


 眼下には見慣れた日本列島の姿が見える。


 もっとも、その『人工日本列島』は地球に降着して3か月程の為、大部分は未だ焦げ茶色の大地が剥き出しとなっているが。


 それでも見慣れた地形に心を落ち着かせたのか、生まれて初めて直接見る核爆発に冷や汗だらけだった我妻総理大臣と秘書官達は気持ちを切り換えると、到着後のスケジュールについて打ち合わせを始めるのだった。


『こちらフラッグ1。”赤い竜星”と”ホワイトスワン”へ。我妻総理から直接メッセージだ。有り難く拝聴するように』


 首相専用機から不意に通信が入る。


「なっ!?何でその名前なんだ!」『そんな恥ずかしい名前の人なんて知らないっ!』


 動揺する高瀬とソフィー。


『------我妻です。エスコートありがとう。貴官らの幸運を祈る。後で寿司を贈る。オーバー』


 我妻のメッセージが高瀬とソフィーのコックピット内に流れる。


『総理のメッセージは以上だ。貴官らはエスコートをここで終了、エリア・千歳の陸上自衛隊第7師団に合流せよ。以上』


 それだけ伝えると、首相専用機のJAXAシャトルは翼を降って東へ進路を変更して離れて行く。


『スシですって!隊長!最後に太っ腹な所を見せましたね!』


 思わぬご褒美に声が弾むソフィー大尉。


「……命令に従うぞ。エリア・エゾまでフルスピードだ」


 高瀬中佐はソフィーの問い掛けに関心を示さず言葉少なげに応えると、パワードスーツ背面の水素エンジンを最大噴射して北上するのだった。


『ちょっ!待って下さい隊長!』


 慌てて高瀬の後を追うソフィー大尉だった。


 人工日本列島各所に設置されたマルス・アカデミー技術による電磁シールドで火山灰が弾かれた空域に到達したJAXAシャトルは15分後、人工富士山の麓に広がる軍事都市『エリア・フジ』飛行場にようやく着陸した。


 着陸したJAXAシャトルから降りた我妻首相は『私は戻って来た!』と一人感傷的に呟きながら、行進曲並みのアップテンポで演奏される『君が代』に眉を顰めることなく、出迎えの基地司令官へにこやかに歩み寄るのだった。


 首相に随行する秘書官達は、聞き慣れないテンポの『君が代』と、ニタニエフ内閣の閣僚が誰一人として出迎えに来ない状況に眉を顰めながら、上気した顔の我妻首相の後ろに黙って続くのだった。


人工富士から吹き下ろす木枯らしが滑走炉からターミナルへ歩いて向かう我妻総理大臣一行に容赦なく吹き付ける。


「きゃっ!」


 剥き出しの地面から吹き上げられた砂塵がコンタクトをしていた女性秘書官や通訳の瞳を襲い、彼女達は目頭を押さえて思わず立ち止まる。


 そんな秘書官達に目もくれず、英語で案内を続ける基地司令官に笑顔で相槌を打ちながら歩み続ける我妻総理大臣。


「おい!あの作り笑いの下手な日本の首相は、英語が通じるのか!?」


 礼儀正しく直立不動で整列しながらも、隣の同僚に小声で訊くイスラエル連邦軍将校。


「まさか。ミスター我妻は中国語やロシア語は得意だが英語はからきしだと、モサドの友人が言っていたぞ」


 肩を僅かに竦めて答える同僚将校。


 エリア・フジの軍用飛行場から12.7ミリ重機関銃を装備した日の丸と六芒星旗を掲げたジープに先導された迷彩色のトヨタ製のワゴン車に乗った我妻総理大臣は人工富士山の五合目に建つ首相官邸へ向かうのだった。


 人工富士に在るイスラエル連邦首相官邸へ向かう途中、真新しいアウトバーンを時速100キロを超える速度で走るワゴンの車窓から見える風景は、遠くに見える人工南アルプスまで焦げ茶色の地肌が剥き出しになった土地が多かった。


 東名高速道路から見える青木ヶ原樹海の様な鬱蒼とした雑木林は全く見当たらず、茶色の荒野の所々に点在するキブツ(集団農場)でトラクターの上からイスラエル国民が褐色の肌をしたアラブ人農夫に何やら指示している箇所にレタスやシソの畑を時折見掛けるだけだった。


「緑化に苦労している様ですね」


 車窓から荒野を見て呟く我妻。


「2年前まで中東に在ったイスラエル領土の6割は砂漠地帯でした。

 我々はその環境下で周囲を敵に囲まれ、自給自足をしていかなければならなかったのです。

 先ほどご覧になられたキブツ(集団農場)で栽培されている作物の根元には、一株ごとにホースで水と化学肥料が点滴の様に与えられています」


「建国の父にして初代大統領になられたベングリオン閣下は『砂漠に全てが有る』と国民に訴えてこられました。

 長年にわたり砂漠での農業を研究してきた我が国は、科学技術を活用したシステムを構築しているのです。我々の技術力を以てすれば、土壌が砂漠だろうと粘土質であろうと、肥沃な黒土であろうと関係なく500種類にも上る農作物を豊かに実らせることが可能です。

 カネとモノさえ沢山あれば、ユダヤ民族にとって新たな約束の地であるタカマガハラが緑に覆われる日も、そう遠くない内に来る事でしょう」


 案内役を務めていたイスラエル連邦軍技術将校が、熱く説明する。


「……貴官のお話に感動しました。私は貴国の発展を手助けする為に、今日此処に来たのです。ニタニエフ首相閣下には最大限の支援をお約束する事になるでしょう」


 技術将校の話に感化され、自信満々に言ってみせる我妻総理大臣だった。


 1時間後、人工富士五合目にあるイスラエル連邦首相官邸に我妻総理大臣一行は到着するのだった。


 到着までの間、我妻は高価な惑星間通信可能なファーウエィ製衛星携帯電話を使って火星日本列島の農林水産省から最新水耕栽培や緑地化について情報を収集するのだった。


 エリア・フジのイスラエル連邦軍指揮通信センターオペレーター達が月面を経由して火星へ向けて放たれる珍しい信号をキャッチして解析するまで10分もかからなかった。


 信号解析後、この通話内容は即座にイスラエル連邦首相官邸に察知される事となった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ソフィー・マクドネル=自衛隊特殊機動団パワードスーツ『サキモリ』パイロット。大尉、ユニオンシティ義勇軍から在籍出向中。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・パナ子=機動兵器サキモリの機体制御システムを担当している人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。


・高瀬 翼=自衛隊特殊機動団PS部隊隊長。中佐。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・ケン=高瀬中佐の乗るパワードスーツに装備された機体制御AI。

 公益財団法人 理化学研究所(理研)が開発した人工知能で、美衣子達三姉妹がセッティングしたお見合いでパナ子とゴールインした。天体観測を生かした遠距離射撃が得意。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・我妻=日本国内閣総理大臣。立憲地球党党首。政権交代で首相に選出された。

・ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦共和国首相。ユダヤ教原理派、現実主義者。

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