テンプレ騎士団の反省会

２０２６年（令和８年）１２月２４日【火星衛星軌道 第１衛星フォボス　英国連邦極東・ユーロピア共和国ダンケルク宇宙基地 宇宙ドック内 多目的船『ディアナ号』】

　最難関シナリオＮ０．６６６をクリアしてひと息ついた満とひかり、岬渚紗の三人がディアナ号内の食堂でコントローラー片手に”テンプレ騎士団”メンバーとオンライン反省会を行っていた。

「琴乃羽さんも木星で無事みたいで、なによりでした」

　ホッとする満。

『どうも。ご心配をおかけしました。

　木星(むこう)は、何か凄くデカい場所ですね。普段からガスに包まれて惑星全体がよく見えないのですよ』

　あっけらかんとＪＡＸＡ木星探査船『おとひめ』艦内個室から応える琴乃羽美鶴。

『マドモアゼル琴乃羽！貴女と可愛らしいお嬢さん達にはウラニクスでお世話になったわ！』

　ユーロピア共和国首都ニューガリアの首相官邸に居るジャンヌ首相が声をかける。

『ありがとうございます。いやー照れるなぁ可愛らしい美少女なんて……』

　照れて触手で頭をさするクラゲの琴乃羽。

「美鶴じゃなくて、優美子さんと華子さんの事を言っているのだけど？」

　突っ込む岬渚沙。

「えっ？」『ええっ！？』

　きょとんとするクラゲ琴乃羽と踊り子ジャンヌ首相。

「……二人してボケないでくださいよ」

苦笑する熊ペー満。

「でもでも、こうして離れた者同士で会えるなんて、ネットゲームならではですねぇ」

　ナースひかりがサラダ煎餅をパリパリ食べながらのほほんと呟く。

　ゲーム画面でも、ナースアバターがアイテムボックスから取り出した煎餅をバリバリ食べている。

「……食後はイワフネハウスの食堂にみんなが集まっていましたからねぇ。同窓会みたいなノリで微笑ましいのですが、今日は何かイベントでもありましたっけ？」

　熊ぺーの満がテンプレ騎士団のメンバーに尋ねる。

『おいおい、ミスター大月。お国の総理大臣がもうすぐニタニエフ首相と会談だぞ？きっと問題が起きるに違いない』

　佐世保市ダウニングタウンの首相官邸から、騎士のケビン首相が満に集まった理由を説明する。

「それでゲームを口実に招集ですか。……それにしても、問題が起きると断言してしまうのですね」

「でも納得？ですぅ」

　苦笑する満と、ケビンに同意せざるを得ないひかり。

『日本がイスラエル連邦に譲歩しすぎた場合、そのしわ寄せが列島各国に来るのは確定よ！迷惑しちゃうわねっ！』

　踊り子のジャンヌ首相が腰に手を当ててぷりぷり怒る。

「譲歩ですか。日本は既にかなりの規模の経済支援をしていますよね？」

　怪訝な顔をする満。

『大月さん。問題を整理しましょう。

　今、地球復興にあたり、どの様な問題があると思いますか？』

　中華街の自治政府行政庁舎から蟹の王代表がハサミを振り回しながら、満に質問する。

「問題ですか？

　……まずは、地球全域に広がった火山灰の除去と酸性化した土壌や水の改善ですね。そして地球規模にまで拡がった放射能汚染の除去。ですかね？

　この２つが片付かない事には、地球人類は自力で復興する事が叶出来ないでしょう」

　お腹を擦りながら熊ペー満が答える。

『さすが大月さんですね。マルス・アカデミーの皆さんと一緒に動かれているから、問題意識が明確で分かりやすい』

　ハサミを振り回しながら王代表が褒める。

「……確かに満さんの言う通りなのですが、まだ地球には危険な火星由来生物の生き残りがいますし、シャドウ帝国生き残りの皆さんもいらっしゃいますよね？そちらもこれから問題になってくるのですよね？」

　おずおずと手を上げて質問するナースひかり。

『ほほほ。細かい所にも目端が利くのはさすが仁志野社長のお孫さんといったところでしょうか。

　火星由来生物生き残りやシャドウ帝国生き残りといった問題をイスラエル連邦は力で一気に解決しようとしています。

　直近３か月の火星から地球極東タカマガハラに輸送された品目の実に５割が武器弾薬の類でした。今までは食料や医薬品、住宅資材が大半だったのですがね。

　地球圏最大の勢力となったイスラエル連邦が次に何をするのか、これでわかると思いませんか？』

　腕を組む様に蟹ばさみを交差させ、ひかりや満達他のパーティーメンバーにもイスラエル連邦の動向を説明する王代表。

『……イスラエル連邦は地球復興の主導権を握りたいのだろう。

　火星由来生物とシャドウ帝国残党を始末した後は、全力でタカマガハラを富ませた上で世界各地をユダヤ民族安住の地として復興させていくのだろう。

　ユダヤ民族を全てにおいて優先するイスラエルの国是は、今も昔も変わらないのだ』

　聖剣を床に突き刺して断言する騎士＝ケビン首相。

『そんな事、ニタニエフの好きにやらせればいいじゃない！火星新大陸を新たな祖国とする私達には関係ないわ！』

　クラゲ＝琴乃羽に乗っかって寛ぎながら、そっぽを向く踊り子＝ジャンヌ首相。

『こちらもニタニエフの考えにとやかく言うつもりはないのだ。

　我が祖国はかつて三枚舌外交を使い過ぎてイスラエル建国時に過ちを犯しているからな。

　だが、ニタニエフが武力行使をするにあたって、地球にある全てを彼は使う気なのだ。全てとは何か分かるかね諸君？』

　テンプレ騎士団メンバーに尋ねるケビン首相。

「地球に派遣した列島各国部隊の事ですね？」

　答える満。

『そうだ。ニタニエフが北米大陸攻略作戦を終えた後も列島各国部隊を火星に戻す事に反対していたのは、我々の軍を火星由来生物討伐やシャドウ帝国残等掃討に使い潰す為なのだ！』

　ニタニエフの構想を分析してみせるケビン首相。

「イスラエル連邦軍は規模も練度も高いですよ？単独でも任務完遂が可能では？」

　疑問に思った岬がケビンに尋ねる。

『ミス・岬のおっしゃる通り、確かにイスラエル連邦軍単独でも可能だろう。

　だが、地球は火星よりも広大で時間がかかる。そして何よりもイスラエル連邦にとって問題なのは、イスラエル国民＝ユダヤ民族の犠牲が発生するという事なのだ』

「……ええっ！？日本人ならいいのですか！？」

　岬に応えるケビンの説明に唖然として尋ねる満。

『先ほども説明した様にイスラエルの国是は”世界中のユダヤ民族保護”に尽きる。

　これは”全世界を敵に回してでも”優先される事を諸君は忘れないで欲しい。

　イスラエルの中では、ユダヤ民族にどれだけ貢献したかで他民族の位置付けが決まってしまうのだ。……それが今地球人類が抱える本当の問題なのだ』

　ケビン首相の考察にテンプレ騎士団メンバーは皆、沈黙してしまうのだった。