テンプレ騎士団

ＭＣＤＡ（火星経済防衛協定）公認 オンライン・ロール・プレイング・ゲーム『スーパーポ〇モン対戦』

――――――宇宙を渡り歩いて様々なポ〇モンを集めて対戦せよ！熱い想いは岩をも砕く！

　ネーミングセンスはともかく、著作権的にイエロー的なネーミングと謳い文句で８００万（やおよろず）通りのオリジナル・ストーリーが楽しめるＲＰＧ界のサグラダ・ファミリア（全シナリオをクリアには８００万年かかると言われている為付けられた）と呼ばれるオンラインＲＰＧが火星日本列島で発売されて２週間が経っていた。

　テストプレイヤーとして登録した日本国自由維新党党員や英国連邦極東、ユーロピア共和国、台湾自治区に住む者がゲームプレイで稼いだ”エネルギーコイン”を現実世界で電力として換金して家庭に送電する斬新な報酬システムが火星経済界で話題となていた。

　また、ゲットしたポ〇モンに岩をひたすら砕かせ続ける特異なプレイ内容がヨーチューブやミコ巫女動画で紹介されると、深刻な電力不足に悩む東京・大阪・名古屋の住民に注目されてＭＣＤＡ各国での公式発売から僅か１週間で５００万人が登録する爆発的人気を獲得していた。

　

――――――【ゲーム内 シナリオ６６６ 地下ダンジョン】

　５００万人登録プレーヤーの中でも強豪パーティー『テンプレ騎士団』が、岩だらけの敵と岩にまつわるクエストがてんこ盛りのシナリオＮ０．６６６をクリアしようとしていた。

　地下ダンジョン最下層のボス部屋に居た”岩スライム”と言う、もはやスライムじゃなくね？と突っ込みたくなるようなラスボスを、手持ちの全ポ〇モンを使い尽くして倒したテンプレ騎士団メンバーの前に、朱塗りの高床式倉庫が派手なファンファーレと共に現れる。

「あれが宝物庫でしょうかぁ？」「ボス戦後のドロップアイテムだから、たぶん……」

　ナースと熊のペーさん（以下熊ペー）が倉庫から距離をとりつつ、慎重に高床式倉庫の様子を観察する。

『ひたすら岩を砕き続けるクエストをこなした甲斐はあったわね！』

『……ほほほ。金の斧か銀の斧か？宝箱の中身が気になりますね』

　踊り子と蟹が倉庫を期待の眼で見ながら近づく。

「……でも、あからさま過ぎませんか？」

　踊り子と蟹の後ろからついて行く援護役だった料理人が罠を警戒する。

『私、金のドリル獲ってくる！』

『私も、金のスコップ獲りに行くわっ！』

　物欲と功名心に負けたのか、浮遊クラゲに飛び乗った踊り子がナースや熊ペー、蟹、料理人の頭上を越えて高床式倉庫に突進していく。

「ちょっ、ダメよ美鶴！それトラップ！」「やめろ！罠かもしれんぞ！」

　賢者と騎士が危険を察知して制止する。

『ソールズベリー、鑑定スキルだ！』

　騎士が遊び人に指示する。

『姉さん軽率よ！』『ワクワクしますね。ほほほ』

　踊り子に注意する聖女と、あくまでも宝箱が気になる蟹。

「アバババ」『うぎゃあああ！目が！目がぁーっ！』

　案の定、高床式倉庫の扉に手が振れた瞬間、倉庫が激しくスパークすると幾筋もの電撃がクラゲと踊り子を襲い、ボス部屋の床でのたうち廻るクラゲと踊り子。

「……リアルでも電撃を受けているみたいですね」

「……触らぬ神に祟りなし、ですぅ」

　思わぬペナルティを目撃して慄く熊ペー➡満とナース➡ひかり。

『クリス、ヒールだ』『……マスター、ビールドウゾ』

　遊び人➡ソールズベリーがマルス・アンドロイドのクリスに回復魔法を命じ、クリスが掌からヒール＝ビール状の癒しパワーをジョッキに注ぐとクラゲ➡琴乃羽と踊り子➡ジャンヌの口元へ持っていく。

『『――――――っ！ゴクゴク。ぷはぁーっ！やっぱりこれじゃないと、って！違うっ！』』

　ごくごくとしっかりジョッキの中身を飲みほした上で、ジョッキを握りしめたままクラゲ触手と踊り子のピタリと息の合ったジョッキチョップが、アバターでも変わらないクリスの頭にゴツンと炸裂する。

『—――—――っ！地味に痛い……』

　頭を抑えて涙目でしゃがむクリス。

『今日の姉さんノリ突っ込みにキレが有るわ。マドモアゼル琴乃羽もあのノリ突っ込みに付いていけるとは、出来るっ！』

　聖女➡クロエ・シモンがクラゲに尊敬の眼差しを向ける。

『やはり、イケメンが居ると張り切るのでしょうか』「……へぇ。ジャンヌさんでも異性にときめくのですね」

　

　料理人➡春日と賢者➡岬渚紗が、ジャンヌの思わぬ一面を目撃してほっこりする。

『式は神田明神で盛大に行いましょう』『本格的なシントウですか。良いですね』

　真に受けた満と悪乗りする蟹➡王代表。

『披露宴は是非とも、中華街で。同盟国として精一杯おもてなしさせていただきますよ。ほほほ』

『いやいや、佐世保極東ウエストミンスター大聖堂の方が厳かでいいかもしれんぞ？』

　最近ゲーム収入とＭＣＤＡ貿易が好調で笑いの止まらない蟹の王代表上機嫌にハサミを振り回し、騎士➡ケビン首相も負けじとアピールする。

　台湾自治区と英国連邦極東は火星日本列島国民の中で、新幹線で行ける”海外”としてディズニーランドと共に人気観光先となっていた。

『ちょっと！勝手に盛り上がらないでよ！キーッ！それよりも、目がっ！プリーズ、ヒール』

　リアル電撃から立ち直ったものの、身体がふらつく踊り子＝ジャンヌ。

『……お酒は適量を』

　そっとヒールパワーを注いだジョッキを差し出すクリス。

『ゴクゴク。……だから違うって！マジで視力が落ちていくからっ！』

　律儀にジョッキを飲み干してから、やはり突っ込む踊り子ジャンヌ。

『……めんどくさい。……ヒール』

　踊り子ジャンヌが振り下ろすジョッキを避けつつ、手のひらからヒールを放射して踊り子を癒していくクリス。

「ソールズベリーさん。クリスって結構鬼畜キャラ？」「しーっ！言っちゃダメですよぅ」

　思わず呟く熊ぺー満に、しーっと制止するナースひかり。

『聞こえている。ミスター大月もヒール逝っとく？』

　瞳を昏くしたクリスが大ジョッキを凶器の様に振り上げて熊ペーの満に迫る。

「いえ、結構です！ダメージ有りませんから」

　お腹を突き出しながら、ぶんぶんと首を振って断る熊ぺーの満。

『チッ！』

「今凄い残念そうに舌打ちしていたよね！？」

　マルス・アンドロイド＝クリスの悪態に引いてしまう熊ぺー満。

『それにしても物凄い豪華メンバーですね……』

　パーティーメンバーを見渡した満が感心して呟く。

『生き残った人類国家の首脳が三人も参加してパーティーを組むなんて、聞いた事がありませんよ』

　苦笑する料理人春日。

『ムッフッフ。もっと褒めて良いのよ？』

　踊り子衣装が気に入ったのか、ジャンヌが得意げに胸を張る。

『……直ぐにトラップにかかるキャラはお荷物かしら』

『—――—――クリス！それ言っちゃダメななやつだから！お仕事貰えなくなるから！』

　思ったことを口にしてしまうクリスを必死に抑えるソールズベリー。

『別に気にしてないわ。……ところで、ダンケルク宇宙基地のソーラーシステムのメンテナンスは『ＭＥＣ(美衣子電子株式会社)に変更しようかしら』

　受注業者変更をさらりと口にしてみる踊り子ジャンヌ。

『やっぱパワハラキターっ！』

　嘆く遊び人ソールズベリー。

「はいはい。そこまでですよー！これからオンライン反省会しますよー！」

　テンプレ騎士団メンバーは、今日も全員平常運転だった。