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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
301/462

食事会再び

2026年(令和8年)12月10日【火星衛星軌道 第1衛星フォボス 英国連邦極東・ユーロピア共和国『ダンケルク宇宙基地』隊員食堂】


 突如出現した謎のトカゲ娘美衣子に連れて来られたユーロピア共和国首相官邸料理人ジョルジュと、メシマズ料理と批評されて奮起した英国連邦極東軍炊事係が両国軍人が利用する隊員食堂において”お国料理対決”を開催した事で食事メニューが飛躍的に改善され連日満員御礼となっていた。


 その隊員食堂片隅で、太陽光発電施設の設営を終えた大月家一行とソールズベリー商会一行は、地球に居るロイド提督やジョーンズ中将達と第2回オンライン食事会を開催していた。

 

「……むぐむぐ……クェェ。タルタルソース無しでもイケるわね」「……くぇっ。本能に負けた」「いくらでもイケるっス!」


 白身魚のフライを頬ばりながら本能的に無意識に鳴いて目をしばし瞑った後、画面に頷いてOKサインを出す美衣子、同じく本能に負けて鳴く結、すでに3回目のお代わりに突入する瑠奈達マルス・アカデミー三姉妹。


「こ、これはっ!?北海道沖や佐渡島沖のタラに優るとも劣らない白身のぷりっぷりした食感!まさに白身魚のクイーンや~!」「がつがつ……」


 感動のあまり、どこかの食通レポーターばりのエセ関西弁となるソールズベリー。

 隣ではマルス・アンドロイドのクリスが無心にフィッシュ&チップスを貪って居る。


『……よかった。皆さんのリアクションは、大変動で激減した北海タラの再生養殖に挑むニューグラスゴー基地隊員と住民への何よりの励ましになるでしょう』


 心底ホッとした表情のロイド提督。提督の背後から、将兵や地元住民の歓声と乾杯の声が聴こえてくる。


「油断は禁物よロイド。次は高級魚のカレイやヒラメよ。次のお題は舌平目のムニエルにしようかしら」


『……はぁ、まあ。……そうですな。更なる漁業資源復活に挑まねばなりませんな』


 にわかグルメの美衣子はロイドに次なる試練を提示し、「ワシ軍人なんだけど?」と言いたいのをグッと堪えてみせるロイド提督。


「あのさ美衣子。ロイド提督は別に養殖業者でも漁師でもないのだから、あんまりムリさせちゃダメだよ」


 ロイドの苦笑を見た満が美衣子を制止する。


「そうですよぉ美衣子ちゃん。ロイド提督はこれからヨーロッパやオーストラリア大陸とかの環境再生をお手伝いするのですから、程々にしないとですよ?」


 ひかりも美衣子の口元をナプキンで拭いながら諭す。


「むぅ。一つでも環境再生で有益な成果を挙げないと、イスラエル連邦が地球再生の主導権を握ってしまうかも知れないわ」


 不満気な美衣子。


「姉さま。ロイドはここまでよくやったわ。後は専門家に任せるべき。

 ロイドは地球環境再生もしないといけないし、シャドウ帝国残存勢力にも備えないといけない」


 結が美衣子の肩を叩いてなぐさめながら、自分のタラフライを美衣子に差し出す。


「……むぐ。ありがとう結。そうね。餅は餅屋と言うやつね、理解したわ」


 納得する美衣子。


『シャドウ帝国残存勢力ですが、我々が関知した限りでは『人類統合第11都市=成都』『人類統合第12都市=氷城ハルピン』ですな。

 『人類統合第3都市=バンデンバーグ』も行方をくらませております。おっと、この情報は公にはしていませんので他言無用にしていただきたい』


 話題の転換を図るべく、ジョーンズ中将が情報を提示する。


「……とても日本の一民間人が聞いて良い話ではありませんね」


「でもあなた、私達今はユーロピア共和国に亡命していますからねぇ……。だんまりしておけばいいんじゃないかしら?」


 肩を竦めて恐縮する満とシーっと人差し指を口に当てて首を傾げるひかり。


「英国連邦極東も国民待遇で是非招請したいとケビン首相もおっしゃっていましたよ?」


「……いやぁ。恥ずかしながら、私英語苦手で」


 少しだけ真面目な顔で満を勧誘するソールズベリーに、照れた振りで言葉を濁す満。


「じゃあ次は、ジョーンズがユニオンシティの特産物でサラダ、ロイドは舌平目のカルパッチョね」


「美衣子、全然わかってないじゃん……」


 ケロリとした顔で次回のオーダーをする美衣子に呆れる満。


『分かりましたぞ!次回は月面都市ユニオンシティ新名物”月面アボガド”でサラダを作りましょう!』


 快く応じるジョーンズ中将。


『むむむ。女王陛下に恥をかかせない為にも、大英帝国の総力を挙げて取り組んでみせましょう!』


 ジョーンズに対抗するロイド提督。


「……あはは。楽しみにしています」


 勇猛な軍人が料理に邁進する姿勢にちょっぴり引いてしまう満。


「さすがですぅ。プロの軍人は、料理の世界でもプロなんですねぇ~」


 素直に感心するひかり。


「ジョーンズ中将。月面都市でアボガドなんて不思議な組み合わせですね?」


 無心にフィッシュ&チップスを堪能していた岬渚紗が関心を示てジョーンズに尋ねる。


『今のユニオンシティは”密林都市”の別名を持っていましてな。樹木化人類の住民が栽培する農産物が好評なんですよ』


 自国に関心を持たれている事に上機嫌となり、饒舌となるジョーンズ中将。


 ユニオンシティ誕生から1年と経たずに勃発した真世界大戦でシャドウ帝国の福音システム攻撃――――――リリー波による特殊電磁波の大量照射で住民の大部分が樹木化されたこの都市は、真世界大戦終結後、政権交代や火星原住生物の襲撃で混乱する火星とは違い、特殊能力を持つに至った樹木化人類と地球型人類が共存する『密林都市』の別名を持ち、緩やかな発展を遂げていた。


「それは初耳です。月面アボガド、期待しちゃいますね」


 目を輝かせる岬。


「……そう言えば、我妻首相がユニオンシティに到着している頃ですね」


 不意に満が気付いて呟く。


「樹木化人類に我妻首相がどう反応するか、楽しみですねぇ」


 悪戯を思いついた子供の様ににやけるひかり。


 樹木化人類の詳しい生態はユーロピア共和国学術庁アッテンボロー博士主導で始まったばかりの為、双方の安全を保つべく、樹木化人類の月面都市外部への移動は認められていない。


「……うーん。私はとっても不安だなぁ」


 考え込む満。


「東山は優秀な外交官よ?彼なら少し胃を痛めながらでも上手くやるでしょ」


 事も無げに言うひかり。


「……だといいけれど。むーん」


 不安を隠せない満だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー日本列島生態環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス・アカデミー「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー地球観測天体「ルンナ」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・ソールズベリー=多国籍多目的企業「ソールズベリー・カンパニー」社長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・アンドロイド。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・サー・ロイド・ランカスター=英国連邦極東地球派遣軍欧州抵抗部隊司令官。中将。

・ジョーンズ=ユニオンシティ(旧アメリカ合衆国)防衛軍司令官。中将。元沖縄第3海兵師団司令官。

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