お尋ね者
ウラニクス市上空に接近する自衛隊戦闘機に動揺するジャンヌ首相と満。
『大月!どうするの?』
「とりあえず、目的を確認しない事には……」
『分かった。聞いてくる!』
「お願いします」
満の考えを聞いたジャンヌ首相が自ら動く。
ウラニクス上空を旋回していたラファール戦闘機編隊からジャンヌの乗る機体が編隊から離れて翼を傾けると南から接近する自衛隊機へ向かう。
やがて垂れ込めた雲海の彼方から2機のF35戦闘機が姿を現し、ジャンヌ首相が操るラファール戦闘機がF35の針路を遮る様に掠めると反転してF35戦闘機に並行する。
『ボンジュール!こんなところで日本の戦闘機に出会うなんて。
此方はユーロピア共和国空軍第501戦闘団所属、ジャンヌ・シモンよ』
自衛隊機に気さくに声をかけるジャンヌ。
『お会いできて光栄であります。ジャンヌ首相閣下。
こちら日本国自衛隊。統合幕僚会議直属、第3特殊機動団です。
アルテミュア大陸中央部で発生した異常事態の現地調査の先導隊です』
直ぐにジャンヌの名前を聞いて首相と認識した自衛隊パイロットが所属と目的を明らかにする。
『先導隊?本隊があなた達の後に来るの?』
『間も無く本隊が降下して現地調査に入る予定であります』
『私達よりも随分と手際が良いわね。こうなることを知っていたのかしら?……ニューガリアの時もそうやって巨大ワニを迎撃して欲しかったわ』
皮肉を込めるジャンヌ。
『申し訳ございません。自分はその問いには答える権限が有りません。
――――――所で、あそこに見える珍妙な物体は船ですか?』
皮肉を受け流してディアナ号に関心を示すF35パイロット。
『そうよ!私達ユーロピア共和国の大切なお客様よ』
『……データ照合。非合法登録船ディアナ号と確認。所有者は大月満ですね?』
『だったら何よ?』
『大月満夫妻には、当局に認可されていない移動機械を使い、無許可で海外へ渡航した出入国管理法違反と、ミツル商事時代に起こした背任、脱税容疑で指名手配されております。発見次第、拘束するよう司令部から通達が出ております』
『はぁ?貴方何を言っているの?彼はユーロピア共和国の友人であり命の恩人なのよ!?』
『申し訳ありません首相閣下。我々は任務に戻らねばなりません』
一方的に会話を打ち切ると、ウラニクス上空を旋回して南へ戻って行くF35戦闘機。
「……すっかりお尋ね者になってしまいましたねぇ」
「ごめん、ひかりさん」
遠ざかっていく戦闘機を見ながら、しゅんとしてため息をつくひかりと満。
「どうします?ここから離れますか?」
岬が尋ねる。
「いや、それはない。予定通り、ウラニクス救助はやるよ」
言い切る満。
「そういう事なら、ディアナ号の全力でお父さんとひかりを守るのみよ」「こてんぱにするわ」「ギタギタにするっス!」
美衣子、結、瑠奈が鼻息荒く宣言する。
「それにしても、何故日本政府は自衛隊を海外派遣させてまでウラニクスに来させるのでしょうか?彼らは海外派兵に慎重な筈では?」
巨大ワニ討伐後、チューブワームの長から名残惜しく戻ってきたアッテンボロー博士が首を傾げる。
「ウラニクスには日本国政府が関心を払う何かが有るのでしょう。いえ、有ったのでしょうね」
岬がアッテンボローに応える。
「長崎沖の『マリネ』事件の時は、場所が海上だからアマノハゴロモの威力を調べられなかったけれど、今回はしっかり跡も残っているから検証しやすいのかもですねぇ……」
ひかりが推測する。
『私は、外部に知られたくない何かが抹消されたか確認の為に来た気がしますけどね……』
カルデラ湖へ向かう木星原住生物を指揮する琴乃羽も推測に加わる。
「本隊のお出ましよ。そこそこの規模ね」
美衣子が皆に自衛隊本隊の接近を告げる。
操舵室のメインモニターに、先程F35戦闘機が去っていった南から、日の丸を胴体に記した自衛隊のC2ジェット輸送機十数機が4機のF35戦闘機を伴って雲海から出現し、高度を落としながらこちらへ接近してくる。
やがて、水素クジラから投下されたウォーター・ボールでもうもうと水蒸気を上げるウラニクス市街跡の手前で停止するディアナ号の頭上を通過したC2輸送機から次々と人型の機動兵器が投下されると、装着された迷彩色のパラシュートが次々と開く。
機動兵器の他にも、明らかに人と認識出来る白いパラシュートも多数降下していた。
「あれは空挺部隊とパワードスーツ部隊か?」
「かなり本格的ですねぇ」
操舵室の外に出て、手をかざして降下する部隊に目を凝らす満とひかり。
「お父さん、ひかり。中に入ってちょうだい。戦闘準備完了よ」「レールガンいつでも撃てるわ」「ミサイル発射準備完了っス!」
美衣子達三姉妹が満とひかりに声をかける。
「いやいや、戦わないから!ちょっと待って」「ハイハイ。ステイですぅ~」
慌てて美衣子達に駆け寄る満とひかりだった。
ディアナ号上空で投下された機動兵器と空挺隊員は、今なお水蒸気を上げ続けるウラニクス市街跡を挟んでディアナ号の反対側に降下し、迅速に兵器と隊員を集結させて戦闘態勢を整えていくのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・大月満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。
・大月ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。
*イラストはイラストレーター 七七七 様です。
・大月 美衣子=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。
*イラストは絵師 里音様です。
・大月 結=マルス文明「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。
*イラストは絵師 里音様です。
・大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。
*イラストは絵師 里音様です。
・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。
*イラストはイラストレーター倖様です。
・琴乃羽 美鶴=言語学研究博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事サブカルチャー部門担当者。少し腐っているかも知れない。
*イラストはイラストレーター 倖 様です。
・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る行動派。
*イラストは、イラストレーター七七七様です。
・ロンバルト・アッテンボロー=生物学者。ユーロピア共和国学術庁火星生物対策班長。




