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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 火星新大陸
288/462

怪獣決戦【前編】

2026年(令和8年)12月1日午前5時【アルテミュア大陸中央部 『裏人類都市ウラニクス』郊外 外輪山北部一帯】


『オ客様ゴ来場~』『来タ来タ』


 夜明け前の暗闇に包まれた荒野の彼方から伝わって来る、僅かな振動に気付いた木星原住生物達がざわめくと一斉に北へ目を凝らしていく。


「んん?来たよー!!目視で北から接近する巨大ワニ群を確認!」


 ディアナ号脇の空中に浮かぶ水素クジラの上で天体観測用望遠鏡を水平に構え、周囲を見回していた名取優美子が声を上げる。


「ええと。偵察ドローン『ツルハシ10375』号とデータリンク……大きいですわねぇ。

 巨大ワニ個体の全長は20m以上、総数は450頭にもなりますわ。時速30Kmに加速して接近中」


 名取優美子の隣で携帯タブレット端末を忙しなく操作しつつ、驚きのため息を漏らす天草華子が報告する。


「遂に来たか。琴乃羽さん、包囲網準備よろしく!

 岬さん、ジャンヌ隊の戦闘機を出撃させてください!ディアナ号浮上します」


 満がピンマイクと一体になった通信機で合図する。


 通信オペレーター席の岬はウラニクス市ターミナルで待機していたジャンヌ首相率いるラファール戦闘機部隊に出撃指示を出していく。


 戦闘態勢に移ったディアナ号は外輪山から20m程浮上すると、舷側のレールガン砲台が北へ砲口を向けていく。


「承りっ!野郎共!準備は良いな?……かかれー!」


 水素クラゲ上に立つ琴乃羽が前方へ勢いよく右手を振り下ろし号令する。


『ウラー!』『ヒャッハー!』


 歓声を上げ、素早く横歩きで左右に別れる水素カニ群。


「おいおい!?前進だよ!先ずは足止めしないとダメって言ったのにっ!」


 慌てる琴乃羽。


「……はあ。あのね美鶴、カニは横歩きしかできないのよ?」


 ため息をついて突っ込む岬渚沙。


「マジですかっ!?」


 素できょとんとする琴乃羽。


「琴乃羽さん、しっかり!

 水素クラゲで前面を食い止め、左右に移動した水素カニで包囲ですょ!」


 ひかりが冷静にアドバイスする。


「はっ!そうだった!

 水素クラゲ『珍味13』から『珍味71』までは地上スレスレで壁になって!

 『前菜8』から『前菜66』までは地上壁組の上で浮遊エネルギー展開してクッションよ!」


気を取り直し、てきぱきと指示を与えていく琴乃羽。


「左右に展開した水素カニ『カニミソ5』から『カニミソ190』は、巨大ワニの気を引くためにモンスターボールをぶちこんで!」


「『カニミソ191』から『カニミソ250』迄は巨大ワニ群背後に回り込んで、後ろからモンスターボールをお見舞い、よろしこっ!」


 先程までの動揺っぷりとは打って変って、的確な指示を下していく琴乃羽美鶴。


「……うん。見事な采配なんだけど。あのネーミングの意味、木星の皆さん分かっているのかしら?」


 凛々しい琴乃羽を見直したと言わんばかりに目を見張る岬だが、残念なネーミングセンスに首を捻りながら呟く。


「なかなかにアメージングなコードネームだと思いますけどね?」


 岬の呟きを聞き付けたアッテンボロー博士が琴乃羽のセンスを褒める。


「……まあ、アッテンボロー博士も、置かれた状況は美鶴と同じ訳ですからねぇ」


 ディアナ号脇の空中に浮かぶチューブワームの長が収まった巨大浮遊煙突(チムニー)に跨がって双眼鏡で戦場を見るアッテンボローをジト目で見ながら応える岬だった。


 大月家一行が見守る中、加速する巨大ワニ群の先頭が行く手に立ち塞がる水素クラゲに衝突すると、その場に押し留められる。


 傍から見ていると突進した勢いで水素クラゲに衝突したので衝撃音と地響きが生じておかしくない筈だが、実際は水素クラゲが発生した重力緩和シールドにより「ふんわりと受け止められている」状態だった。


 巨大ワニは唸り声を上げながら四肢に力を入れて全力で前進を試みるが、水素クラゲのシールドで一歩たりとも進むことが出来ない。


「今だ!瑠奈、名取さん、アッテンボロー博士は動きを止めた巨大ワニにレーザーポインターをどんどん当ててっ!」


 足止めを食らった巨大ワニが出て来たのを確認した満が瑠奈達観測組に次の指示を出す。


「これって射的?みたいな?」


 水素クジラ上で観測を続けていた名取優美子は天体観測用望遠鏡を足元に置くと、傍らに立て架けていたライフル形状のレーザースコープを構えて足止めされている巨大ワニ顔面にレーザーを照射する。


「レーザー照準来ました!」


 ディアナ号で待機していた岬が素早く反応する。


「レーザー誘導ミサイル1番から5番まで斉射っ!」


 間髪入れずに満が指示する。


 ディアナ号甲板に格納されているVLS(垂直発射筒)からバシュッ!と鋭い噴射音と共に勢いよく飛び出した5発のミサイルは、ディアナ号上空で姿勢制御ノズルを作動させて鋭く進路をほぼ直角に変更させると、水素クラゲの壁で立ち往生していた巨大ワニの顔面にずぶりと勢い良く突き刺さる。


 顔面に突き刺さったミサイルは、強化タングステン弾頭によって巨大ワニの顔面を貫通して頭蓋骨内部にまで達すると雷管が作動して炸裂する。


 ミサイルが着弾した衝撃で後ろへ仰け反った巨大ワニの頭部が頭蓋内部のミサイル炸裂で粉々にはじけ飛ぶ、頭部を失った巨体は後ろから殺到する別の巨大ワニに踏み潰されていく。


「やった!」


 ガッツポーズする名取優美子。


「よし、どんどん照射して!」


 満が指示する。


「瑠奈も負けていられないっス!」


 武勲一番乗りを逃した瑠奈が、巨大ワニ群上空のマルス・アンドロイド・ドローンに指示してレーザー照準をビシバシと当てていく。


「レーザー照準5、当てたっス!」


 瑠奈が報告する。


「偉いよ瑠奈!レールガン砲台自動追尾出来る?」


 瑠奈を褒めつつ、火器管制システム担当の結に訊く満。


「チョチョイのチョイよ」


 満の声を聞くなり、間髪入れずにレールガン発射スイッチを押す結。


 ディアナ号舷脇で砲口を北へ向けていたレールガン砲台は、素早くレーザー照準を探知するとビシッと短い音と共に超音速に加速された砲弾を撃ち出し、光の矢の如く飛び出した砲弾は立ち往生していた別の巨大ワニの顔面に突き刺さり、内部の脳組織をズタズタに破壊しながら頭蓋骨を貫通していく。


 頭蓋内部を破壊されて息絶えた巨大ワニはその場で蹲る様に倒れ、その上を後ろから来た別の巨大ワニが乗り上げ、押しつぶして行く。


『顔面は有効ね……それはそれとして私達の出番は?』


 ラファール戦闘機のコックピットにディアナ号から転送されたモニターを視るジャンヌ首相が呟く。


『ちょっと、ロンバルト!このままじゃ私達の出番がなくなるわよ!?』


 大月家一同に先を越されて焦るジャンヌ首相。


「ウイ、お嬢。……このままお嬢の面目を潰したらニューガリアに戻った後で解任必至ですね。ターゲットロックオン!今ですお嬢!」


 密かに出遅れたと焦るアッテンボロー博士が、チューブワーム長の巨大チムニー上に据え付けた固定砲台型レーザー照準器を巨大ワニ群に照射して合図する。


『ブラボーよロンバルト。サーチOK、全機私とデータリンク切らないでね。ファイヤ!』


 ディアナ号上空で旋回待機していたユーロピア共和国ジャンヌ首相率いるラファール戦闘機編隊12機は、前方翼カナードを下へ傾け急降下すると、水素クラゲの壁で立ち往生していた巨大ワニの背中へレーザー誘導爆弾を投下していく。


 アッテンボロー博士が誘導レーザーを照射する巨大ワニの堅固な背中に突き刺さった誘導爆弾は、僅かに突き刺さった弾頭部分が爆発して僅かな切り口を拡大させると、2段目の弾頭が軌道して加速、鋭い槍となって巨大ワニの背中を貫通して体内深く食い込むと高性能炸薬が爆発して巨大ワニの内臓を破壊していく。

 

 背中を貫通された巨大ワニは、口と背中から大量の体液と内臓を噴出させると、ドウと地面に倒れ込む。


『ブラボー!会心の一撃ね!ロンバルト、次いくわよっ!』


「ラジャ、お嬢」


 にんまりと満足げなジャンヌ首相がアッテンボロー博士に次の得物を催促し、催促を予測していたアッテンボローは流れ作業のようにレーザー照準を当てていく。


「ロックオン1、2」『マージ1、2私に続けっ!』


 2頭の巨大ワニの背中目がけ、次々と地下壕破壊用の誘導爆弾を投下していくラファール戦闘機編隊。


 ラファール戦闘機が飛び去った後の地面に蹲る様に息絶えた巨大ワニ2頭。


「さすが、戦闘のプロですねぇ」


 鮮やかな手並みに感心するひかり。


「このまま気を抜かずに連携して!戦いはまだ始まったばかりだよっ!」


 皆に呼び掛ける満だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス・アカデミー・「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・琴乃羽 美鶴=言語学研究博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事サブカルチャー部門担当者。少し腐っているかも知れない。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・天草 華子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る行動派。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・サー・ロンバルト・アッテンボロー=生物学者。ユーロピア共和国学術庁火星生物対策班長。

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